ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜 - 第一章 英雄祭編
第九話 ほんの余興
「し あ わ せ〜♪」

現在祭りを、正確には祭りの屋台の食べ物をこれでもかというくらい堪能しているメガニウム、リーフ。既に彼女の周りにはその凄まじい食べっぷりにただでさえ多いヒトざかりが一層すさまじいものとなっている。

「ったく、なんで食べてない僕達より食が進んでいるんだよリーフは……」

なんらかの串を片手にファイアがボソリと悪態を吐くも周りの観衆の大声ですぐさまかき消されていった。少し前まではなんとワックスを口にし食欲を大幅に減衰させていた----筈であった。

しかしリーフはそんなことはなかったといわんばかりに両手には唐揚げの串が六本ほど、そしてテーブルの上には紙皿が大量に積み上げられていたのだった。



--おい、そろそろバトル大会の始まりだな--
--あぁ、お前出るのか?--
--勘弁してくれよ。俺なんか出たところですぐにボコボコにされるのがオチさ--
--でもアレだろ。優勝した奴にはなんか出るって噂できいたぞ。



ピクピク!!

先ほどまで食べ物を堪能していたリーフだがテッカニンも真っ青なスピードでバトル大会について話していたポケモン達に近づく。話をしていたポケモン達は”うわぁ!”と叫び声をあげたのだがリーフは構わずに口を開ける。

「ねぇねぇ!!そのバトル大会ってのはどこでやってるの!!」
「な、なんだあんたは……。バトル大会は確かあのフラッグが立っているところだったが」
「何?”俺この○○が終わったら○○するんだ”……っていうアレ?」
「なんで死亡フラグたててるんだよ!!旗だよ旗!!旗が立ってるところでバトル大会がやってるの……ってあれ?」

ボケるリーフに全力で突っ込みをいれながら場所を教えるも既に彼女の姿はなかった。ファイアが”もう行っちゃいました”と付け加えた後で彼とルッグもリーフの後を追っていった。

--なんだったんだあいつは……--
--さぁ?でもあいつさっき滅茶苦茶食ったばっかだろ?大丈夫なのか?--
--あんだけ食って動けるんだから大丈夫だろ--




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「さってと、そろそろ締め切りだな……」

旗の真下の二つのバトルフィールドの近くにたっているテントで役員らしきポケモンが机の上の書類をトントンと音を立ててならべていた。その書類の数から相当な参加者がうかがえる。だがそこへケンタロスの如く突進し向かっているポケモンがいた。

「いっ……!!」

黙っていたら自分も跳ね飛ばされるのではないかと身の危険を察した役員のポケモンは反射的に身構えた。だがその心配も杞憂に終わり、そのポケモンは目の前で足を止める。

「ふいはへ〜ん!!はほうはいはいひはんはひひひはんへすは!!(すいませ〜ん!!バトル大会に参加したいんですが!!)」

突進の如く突っ込んできたポケモン、リーフはまたも口からあふれるほどの食べ物を口にしながら意味の伝わらない言語をはっする。無論その意味が役員のポケモンに分かる訳がなかった。

「と……とりあえずなんであんたはトーストをくわえてんだ……。何言っているかわからんから飲み込んでから言ってくれ」

なんでだか口にはトーストをくわえているリーフに突っ込みを入れる。後で”遅刻寸前の女子高生かよ”とボソリと聞こえないように突っ込んでいたのは後の話。指摘されたリーフはとてもメガニウムには似つかわしくない飲み込みの音を立ててトーストを飲み込んだ。

「すいません!!バトル大会のエントリーを!!」
「あんたの様子を見て大体わかった。それでシングルに参加かダブルか?」
「ほぇっ?」

その台詞から察するにこのバトル大会はシングルバトルとダブルバトルがある。当然だがダブルバトルは2人いないと参加できないのでリーフはふっと後ろのファイアとルッグに顔を向けた。

「僕は参加しないからね」
「右に同じ」
「…………」

これ以上リーフに振り回されたくはない一心で2人して彼女と参加することを拒んだ。それほどバトルが嫌だというわけではない。振り回されることに嫌気がさしたのだろう。

「……じゃあシングルで……」
「あぁ……」

見事なまでに見放されたリーフを見て流石に察したのか目を合わせることなくスラスラとエントリーシートにリーフの名を書き連ねた。

-----------!!!

唐突な大歓声に役員のポケモンやリーフもその歓声の、正確にはその歓声の根源

『――今回のエキシビジョンマッチは俺とシャナを相手にしたダブルバトルだっ!!』

バトルフィールドのど真ん中にマイクを所持したレントラーが大声で叫んでいた。その大声によって歓声が生じているのだろう。中には気絶するものまでいる始末だ。

「エキシビションマッチ?」
「あぁ、本戦前にあのレントラーと、客一人が飛び入り参加してバトルをするんだ。これが結構人気で、エキジビションマッチをしたくて祭りに来る者もいるぐらいなんだぜ」

たまたまリーフと同じくエントリーしにきたポケモンにエキシビションマッチの詳細を尋ねた。尋ねられたポケモンは後付けで”尤も大会にエントリーした奴は参加できねぇけどな”と付け加える。そのうかない表情から彼も参加したそうであったのだが。

「な、なにが起こってるんでしょうかねぇ……」

しかしステージ上で先ほどまでマイクを持っていたレントラーとバシャ―モが口論……とまではいかないが何やら言いあいをしている。ニヤニヤしているレントラーとは対照的にバシャ―モの表情はどこかやりにくそうな表情を浮かべている。

しばらくレントラーとバシャ―モとの言いあいが続き……






『よし決まりだ!!それじゃ対戦相手の選考に行くぜ!!』

言いあいを一通り終えたあとレントラーはバシャ―モを強引に引っ張った後に自身の相手を選ぶために一通り観客席を見回していった。手ごろな相手を探すのに時間はかからなかったのかレントラーは”おっ”と声をあげ--

『そこのマグマラシの坊主と眼鏡かけたズルズキンの兄ちゃん!フィールドに出てきてくれ!』
「…………へ?」
「はいぃ!!?」

マグマラシとメガネをかけたズルズキンとはまぎれもなく自分達(ファイアとルッグ)であった。唐突に指名されて当然だが2人共驚きを隠せない。

「あっ!!2人共!!実はエキシビションマッチの参加を狙ってたわね〜!!」
「んな訳あるか!!」

無論このメガニウムの言っていることは間違いであることはお分かりであろう。リーフは大声でステージへ向かうファイア達に呼びかけた。

『よっしゃ!!今回のマッチは、この四匹でダブルバトルだ!!』

ハイテンションなレントラーにため息を吐くバシャ―モ、そしてきょとんとするルッグとファイア。ステージ上ではしばし硬直が生じた。

「あ……あの〜」
「ん?どうしたんだ坊主?」

少々おどおどしながら左手をあげるファイアにレントラーはずいずいと彼に迫っていった。その勢いに臆したのかファイアはビクリと体を震わせる。

「なんで僕達を指名したんですか?」
「なんだ、そんなことかよ〜」

ファイアの質問にレントラーは大げさに悪態をつく。レントラー曰く”あんたらが仲よさそうだったから”だとのこと。ダブルバトルだから仲の善し悪しは大事なステータスかもしれないがファイア達には少しばかし呆れる材料となるだけであった。

「そういうことだ。俺はルテアだ」
「バシャ―モのシャナだ。よろしく」

レントラー--ルテアとバシャ―モ--シャナを簡単に自己紹介する。同じようにファイアとルッグも紹介した。

「ファイア〜!!ルッグさ〜ん!!がんばって〜!!」

大会にエントリーし、そのままエキシビションマッチを観戦しているリーフがファイア達に大して会場の大歓声すらかすむ程のボリュームで声援を送る。先ほどまではやし立てていた彼女だったが今では真面目に応援している。

「おぉ?坊主、彼女からの黄色い声援か?いいねぇ〜」

リーフからの声援を聞いたルテアは意地の悪そうな顔つきでファイアに詰め寄った。詰め寄られたファイアは”違いますよ!!”と顔を赤くして首をぶんぶんと振る。そんな彼の慌てっぷりを見てルテアは乾いた笑い声をあげる。

「悪かった悪かった、それじゃ始めようぜ--



審判!!」
「は、はぃ!!」

今か今かとバトルを待ち望んでいるルテアはエキシビションマッチ専属の審判に開始の合図を促した。いきなり声をかけられた審判役は先ほどのファイアのように少し慌てた様子である。

「そ、それではエキシビションマッチダブルバトル……開始!!」

審判の開始の宣言が会場一帯に響いた瞬間客席からこの祭り始まって一番の大歓声がわき上がった。普段バトル大会を仕切っているルテアとシャナは慣れているからそれほどでもないにしろファイアとルッグはこの歓声に戸惑いを見せていた。

「おうおう、2人して客席見渡すなんてずいぶん余裕じゃねぇか」

大歓声にうろたえる2人に対してのルテアからレントラーらしき鋭い眼光がファイアとルッグを戦慄させた。文字通り”いかく”して相手をビビらせるこの特性は彼にとっては似つかわしいものであった。しかしルッグも黙っていなかった。

「ふむ……それがそっちだけの専売特許と思わないでほしいですね……」

その言葉の通りルッグもその最悪な人相を遺憾なく発揮した”いかく”を見せた。ルテアのほうは獲物を狙う猛獣の目つきを、ルッグのほうはチンピラらしい目つきで互いに威嚇をしあった。その並大抵のポケモンでははだしで逃げ出す程の恐ろしい形相はファイアのみならずシャナも一歩後ずさりをする。

しばらく睨みあいが続いた後に--

「いっくぜぇ!!」

四人の中で最もバトルを楽しんでいるルテアが体中に電気を纏い、十万ボルトとして発した。対抗するようにルッグは手にして棒を横に差し出す。

「----!?」

そのまま手に取った棒を勢いよく回転させ十万ボルトを弾き回避させた。戦闘の経験が多いシャナもルテアも”ほぅ……”目を見開いた。

「面白い戦法だな。俺には真似できねぇ芸当だぜ」
「そりゃどうも」

ニヤリと笑みを浮かべながら賛辞の言葉を発するルテアに対してルッグはいささかそっけなく返した。だが----

「ヒトのこと褒めるほど余裕あるんですかねぇ……。そんな余裕も今のうちですよ」

ルッグのお得意の”挑発”が飛び出す。ファイアはわくわくとし、シャナはふっと口元と釣り上げた。--このヒト(ルテア)なら簡単に引っかかるだろう。ルッグもファイアもルテアの性格上挑発に引っかかると踏んでいたのだ。

「残念だったな兄ちゃん。俺はそんな挑発には引っかからないんでな。しかしあんたみてぇな輩が敬語なんて使ってくるたぁ思わなかったぜ」

言葉通り挑発に全く動じるどころか逆にルッグに挑発をし返した。(一応記述するがレントラーは技の挑発は覚えない)デスカーン(ミイラ)取りがデスカーン(ミイラ)になり逆にルッグが挑発に引っかかってしまう始末。

「なっ……!!見た目は関係ないでしょうが!!」

そのまま怒り任せに飛び込み棒を振るった。ルテアはそれを軽くあしらうようにひょいひょいとかわし続ける。

「おぅ兄ちゃん。俺の方ばかり見てていいのかい?」
「はっ?--





うわっ!!」

ルッグの背後からシャナのブレイズキックが飛んできたが寸前のところでかわした--というかすっ転んだことによって偶然ブレイズキックをすかしたと言い換えるべきかもしれない。

「忘れたのか?これはダブルバトルだぞ」

ルッグにはルテアしか目に見えてなくシャナのことは見えてなかった。ルテアしか(・・)見えていなかった。そう--

「ファイア君!!何をボケっとしているんですか!!」
「ひっ----!!」

今まで傍観していたファイアに対してルッグの怒声が飛んだ。事実ダブルバトルは形式が特殊であり経験の皆無なファイア達にはダブルバトルは不慣れであったために無意識に傍観していた。

「はぁ〜あ……」

怒鳴るルッグにビクリとするファイアの仲間割れに近い様子を見て観戦していたリーフも左手で頭を抱えてため息を吐いた。その状態に同じように対戦相手のシャナも苦笑いを浮かべる。

「かわらわり!!」

バシャ―モらしき強力な拳がルッグに向けて発せられた。防ぎきれないと判断したルッグは棒で流すように対抗した。

「ファイアボール!!」
「アイアンテール!!」

打ち合いを嫌ったルッグに指示されファイアが文字通りの炎の玉を発するもルテアの鋼鉄の尾によって叩き落とされた。尤も炎タイプの技を鋼タイプの技で打ち消し合ったので若干彼の尾は焦げていたのだが。

ファイアボールとアイアンテールが相殺された以上シャナのかわらわりとルッグの棒による打ち合いは続いた。しかし力の差でシャナのほうが上回っていたのか徐々にルッグが押され下がる形となっていっている。ルッグがステージの端に追い詰められたころ--

「うわっ!!」

こればかりは彼も予想だにしていなかった。ステージの端には段差があったのかルッグは思わず段差によってバランスを崩してしまった。バランスを崩し手をパタパタさせるも重力には勝てずにそのままひっくり返りそうになる。

「かわらわり!!」
「ぐっ!!」

転倒寸前のルッグにシャナの拳が容赦なく炸裂した。転倒しそうな体が拳によって地面にたたきつけられた。衝撃で地面が多少割れたところがその威力がうかがえる。

「火炎車!!」
「十万ボルト!!」

炎を纏った攻撃にルテアは電気技でも高威力な十万ボルトをファイアにぶつけた。電気と炎がぶつかり合い爆発を起こした。だがルテアの十万ボルトは遠距離なのに対して火炎車は近距離技。無論ファイアにダメージがいくのは目に見えていた。

「フラッシュ!!」
「----!!」

ルテアの体から眩いほどの光が発せられファイア達の視界を瞬く間に奪っていった。当事者のファイア達のみならず客席のポケモン達も反射的に目をふさぐ。

「み、見えない……」
「でもこれじゃ相手も見えないから攻撃は当てられない筈……」

通常のフラッシュとは違い光の量が桁違いであった。明らかに普通のポケモンでは目を開けることすらもままならないほどだ。下手に動くよりは待ちを決め込み防戦に臨んだ。

「--電磁砲!!!」

ルテアの叫び声と同時にフラッシュの光がおさまった。それと同時にルッグ達の眼前には電気による球体がすでに今にもぶつけられようとしていたのだった。打ち返そうにも距離が近すぎるために間に合わずにそのまま被弾する。

「俺達レントラーの目が光で見えないとでも思ってたのか?」

ルテアの言うとおりレントラーにはあらゆるものを見通せる能力を持ち合わせている。フラッシュを使ったのは命中率の悪い電磁砲を確実に当てるために用いたものだ。

そんな電磁砲を食らったルッグの視界には彼の目を見開くには十分な光景が広がっていた。相手のバシャ―モ、シャナの体中に火炎車とは次元の違う炎を纏っている様子だった。その前準備の正体にはルッグには容易に理解できた。

--フレアドライブ

炎タイプの物理技で最強のこの技。しかし自分達に向かって突進してくるシャナはそれだけにとどまらなかった。フレアドライブの炎とは別に見通しメガネがなくとも可視できるほどの衝撃波がかぶさり炎をさらに増やしていった。

「ま……まずいっ!!」

こんな大技をまともに食らってはまず戦闘不能になることは目に見えていた。それだけに回避に専念しようと必死に体を動かそうと試みるも体がいうことをきかない。--なぜか

「忘れたのか?さっき俺が放った技の効果を」

電磁砲。劣悪な命中率の代償としてあてた場合には対象者を確実に麻痺させる代物。電磁砲によって動きを制限されたファイア達に大規模な炎を纏ったシャナが迫る。

「----フレアインパクト!!」

ギガインパクトとフレアドライブの大技が合わさり麻痺状態のファイアとルッグは当然避けられる筈もなく軽く爆音と共に吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。







「うぅ……」

真っ黒に焦げたルッグに炎タイプ故か焦げることはなかったがズタボロのファイアが互いに目を回して倒れていた。そんな様を見たルテアも流石に彼らに同情の視線をなげかける。

「おいおい、ありゃやりすぎじゃねぇのか」

ルテアの指摘にシャナは手加減はしたと反論する……というよりも本当は手加減をせざるを得なかった。本来フレアドライブもギガインパクトも使った後の反動が重い大技。それらを重ねた技なのだから本気でだすとファイア達だけでなく使用者のシャナのほうまで危機が生じる。生死をかけたバトルならともかく祭りの一環なので相当に手加減はしておいた……とのことである

「ファイア!!ルッグさん!!」

湧き上がる歓声の中リーフはフレアインパクトを真っ向から食らい倒れたファイア達が心配になり群衆をかき分けながら駆け寄った。リーフは倒れている2人を優しく抱き抱える。2人共意識はあるようだった。

「リーフ……。見事にやられちゃったよ……」
「まっ、2人共ダブルバトルの経験ないから仕方ないわね」

ファイアもルッグも顔を伏せてゴニョニョ程度の小声を発する。みっともなく喧騒したり傍観したりと散々な自分達はリーフに叱責されるものだと思っていたが彼女のかけた言葉は想像以上に優しいものであった。

「とりあえず2人ともお疲れ様。まぁお茶でも飲んでいってよ」
「ありがと……ってなんでお茶なんだよ!!」

予想の斜め上を行くとはこのことを指すのだろうか。リーフは疲弊しきったファイア達になぜか文字通りの”熱湯”をそのまま用いた程の熱さを持つお茶を差し出してきた。反射的にダメージを一瞬とはいえ忘れたファイアは勢いよく立ちあがる。

「いや、ファイアもルッグさんも熱いお茶が好きだって言ってたから……」
「だからってバトル直後になんでお茶を……!!」
「はぁ〜」

必死に突っ込み(?)を入れるファイアとは対照的にルッグのほうは既に差し出されたお茶に手をかけてのほほんとした表情を浮かべていた。そしてファイアは突っ込むことをやめ

ノコタロウ ( 2012/10/03(水) 22:21 )