第八話 さぁ!フェスティバルの始まりだ!
「んだとてめぇ!!それが人様に頼みこむ口調か!!」
「頼みこみじゃねぇ。これは命令だ」
「あぁん!?」
…………冒頭からこんなみっともない喧嘩でごめんなさい。ターマンホワイトです。えっ?お前ら今どこにいるかって?それは……。
「うるさい……。振り下ろすぞ」
「上等だ!!てめぇなんかに乗るくらいなら泳いでいったほうがましでぃ!」
海の上です……。簡単に言うとわたし達ターマンマンズはトレジャータウンに向かって泳いでるところ、といっても泳いでるのは波乗りを覚えるリーダーとマニューラのブラックだけだけどブラックに乗っているブルーがブラックと喧騒中というわけで……。
「リーダー。なんでオイラだけ海ん中なの〜」
一方でリーダーがのせてるのはわたしとグリーンだけど正確にはリーダーの体に蔓が巻きつけられてその先にはグリーンが浮き輪のように海に浮いているってこと。
「しょうがないだろうが!!お前が乗ると重すぎて沈むからだろう!!それとその2人!!いい加減しょうもない喧嘩すんな!!」
『てめぇ(キサマ)が俺達を一緒にするからだろうが!!』
ごもっとも。何でだかリーダーは仲が悪いのをわかっていて一緒にのせあうことにしたの。ほんとになんのつもりかしらね。
「それといい加減に降りろ。俺の背中がキサマのこ汚い尻に汚されるのは癪でならん」
「上等じゃねぇかこらあああああああああああぁっ!!」
ドポーン!!!
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「はぁ……やっとついたぞぉ!!」
ようやくトレジャータウンの幸せ岬と呼ばれるところに到着した。他のヒトを背負って泳いでいたリーダーとブラックがものすごく辛そうにぜぇぜぇと荒い呼吸を続けている。……だから泳いで行くなんてしなきゃいいのにねぇ?
でもリーダーは疲れを押し切って見栄を張って大声を出す。でもブラックは無言で肩で息を続けてるけどね。
「--!!なんだこの歓声は!?」
リーダーの大声がかき消される程のクラッカーの音と歓声が一帯に響いた。音の正体が何かしばらくつかめなかったけどブラックが”祭りが始まったんだろ”とボソリと呟いたからみんな祭りのある方へ振り向いた。
「いかん!!こうしちゃおれんぞ!!みんな!!盛大に祭りを楽しもうじゃねぇか!!」
『おぉおおおおおおおおおおぉうっ!!』
…………。ドドドドドと足音を残してリーダー、ブルー、グリーンは祭りのしているところへ一直線へ走っていった。残されたわたしとブラックは……。
「……大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えるのか?」
……そうね、大丈夫じゃないわよね。ブラックはわたし肩をかり、よっこらしょと言いながら立ち上がる。
「おいホワイト……」
「えっ……?何?」
珍しいわね。彼の方から話しかけてくるなんて。耳元から声をかけられてわたしはちょっとびっくりしながら返事をした。……でも心なしかブラックの顔が怒っているようにも見えるのは気のせいかな?
「お前のいたずら得意だよな。今度あのバカリーダーが泳いで遠出なんてくだらねぇこと思いついたらあいつが気絶するくらいキツイ奴(イタズラ)をお見舞いしてやれ……」
「あっ……うん」
相当根にもってる……。ブラックの顔、ちょっと殺気立ってたみたい……。その殺気に押されて思わず了承してしまった。
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「あぁ〜っ!!もう始まっている〜っ!!」
既に私達がついた頃にはとっくに祭りが始まっていたのか大勢のポケモンの群衆が目の前で流れるように行き来していた。そしてその横でリーフが悔しそうな声をあげている。大方ちょっとでも長く祭りを楽しみたいってところだろう。
「こうしちゃいられない!!一刻も早く行かないと食べ物達がっ!!」
目にメガニウムには草タイプには似つかわしくない炎を宿しながら群衆の中に飛び込むように入っていった。そしてそのあとを急いでファイアとルッグが追っていく。っておい!!勝手に飛びだすな!!
私が呼びかけてもあいつ等は足を止めることなく群衆へと姿を消していった。次第にあのリーフの大きめの体も見えなくなっていった。ったくあいつときたら……。
「はぁ……しょうがないな」
ため息を着きながら私は近くにあった自販機にポケを入れてビールを買って一缶片手にごきゅごきゅと音を立てて飲み始めた。えっ?禁酒令?そんな小さいこと祭りに持ち込むのはタブーだろ。祭りは楽しむもんだろ。何だ?理由がおかしい?
「はぁ〜あ……」
でもいくら探すったってこのヒト盛りの中探すのは無理があるってもんだ。二缶目になるビールを片手に眺めるポケモンの数は止むことを知らない。そんなにこれって大規模な祭りなのかねぇ……。
しかしヒト盛りを眺めてもあいつらが見つかるわけでもないし、どうすりゃいいのか……。
--ん?待てよ?
「どっかの屋台でいればそのうち捕まるんじゃないのか?」
そうだ。あいつは食べ物目当てに突っ走ったんだ。適当に屋台で待っていりゃそのうち見つかるだろう。でもなぁ……。
「やだな……あの中(ヒトざかり)に入るのは……」
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「さぁさぁ!!オクタン焼きはいかが〜!」
「セカイイチから作られたリンゴ飴はどうだ〜い!!」
しっかしこの祭り、相当気合はいってるな〜。こりゃあいつも気合が入るのも無理はなさそうだな。さてさてあいつが食いつきそうな屋台はどれだろうねぇ……。
「エルフーンの綿あめ!エルフーンの綿あめは上手いよぉ〜!!」
綿あめか……懐かしいなぁ。子供のころに食べて以来かもしれん。結構な行列もできてるから待つにはちょうどいいかもしれんな。ちょいと並んでみますか。ど〜せそのうち合流できそうだしな。
「よいっと」
変わる気配が微塵も感じられないヒト混みをかき分けながら私は行列の最後尾になんとか並ぶことができた。恐らくリーフはこんなこと容易くできるんだろうな。羨ましい……。
「は〜い次のヒト〜」
そろそろ私の番になりそうだな。しっかしリーフの奴はまだ来ないのか……。何をやっているんだろうか。あいつならすぐにでも両手に大量の食べ物抱えてくると思うんだがな……。
「ああああああああああああぁッ!!」
----!!?なんだなんだ!?心臓が止まるかと思ったわ!凄まじい叫び声に思わずびくっと飛び上がりそうになった。見てみると列の前にいたポケモンがその大声を出していたらしいな。しかし一体どうしたんだろうか?財布でも落としたのか?
「グスっ……わ、わたしの綿あめ……」
その大声を出したポケモン、偶然にも私と同種のピカチュウはがっくりと膝をついていた。そう言えば……
〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇおとうさ〜ん!お金忘れてきたんだ〜。綿あめ買ってよぉ〜」
「ったく……しょうがないな」
〜〜〜〜〜〜〜
数年前だったな。財布忘れたファイアが泣きながら私に綿あめ買ってと手を引っ張って駄々をこねたこともあったな。あの時は渋々買ってあげて後でウォーターに”不公平だ”って怒られたこともあったっけ……。懐かしいなぁ……。
「お……おい、大丈夫か?」
数秒ほど回想に浸っていた私はさっきまで膝をついたピカチュウに声をかけた。もう泣きそうなのか上目づかいに私を見ている瞳は若干濡れているようにも見受けたが。
「あっ……!ご、ごめんなさい!な、並んでいたんですよn……」
「ちょっと待ちなさい」
「えっ……?」
急に呼びとめられたピカチュウをよそに私は店主のエルフーンに綿あめを二つ注文した。そして頼んだ綿あめを両手にとりピカチュウのほうへ近寄り、片方の綿あめを手渡した。
当然かも知れないがピカチュウは驚いていた。そりゃそうだろうな。見ず知らずのこんなピカチュウの癖におっさんみたいに(と、いうか完全なおっさんなんだが)酒を片手に持っていたこんな奴に綿あめおごってもらうなんて、へたすりゃ不審者だと思われてもなんら不思議じゃない。
「お金落としたのか知らんが持ってないんだろ。ホレ」
グイッと綿あめを持つ手を差し出した。しかしピカチュウのほうはいまだにバツが悪そうな顔でこちらを見ていた。
「なに、私にも似たような年の子供がいてね、それで困っているところをほおっておけなかった訳さ。平たく言えば年よりのお節介だよ」
そう言ってまた綿あめを持つ手を押しだすように向けた。ピカチュウは恐る恐ると言った様子で綿あめを受け取りそれを口にする。
「あ、ありがとうございます……」
「あぁ、それとちょっといいか?」
「はい?」
「あっ、実はな私は連れと一緒にこの祭りへ来たんだ。連れを見なかったかな?」
「連れって……?」
あっ……。連れっていったって種族伝えないと分からないだろ……。しまったな。
「オーブをつけた大食いな♀のメガニウムと♂のバンダナをつけたマグマラシと♂のメガネをかけたズルズキンだ。見てないか?」
正直なところこんなこと聞いてもあの数だ。見たとは到底思えないし、仮に見たとしても既にその場所にはまずいないだろう。でも聞かずにはいられなかった。
「すいません、それは……」
「そうだよな……。ったくどこ行ったんだあの食いしんぼうは、ったく……」
「あの……!!」
なんだ?唐突にピカチュウが声をかけてきた。
「一緒にそのお仲間さん達を探しませんか?」
「ほぇっ?」
唐突な彼女の申し出、(そのピカチュウは尻尾が割れてるから♀だろう)に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「な〜に、お嬢さんの手を煩わせるようなことじゃないさ」
「実は私も仲間とはぐれてしまったんです。それにさっきの綿あめのお礼もしないと……」
「う〜ん……」
同じピカチュウに同じ境遇を持つ相手に遭遇するなんてなぁ……。彼女もあそこまで言ってるんだし断るのも気の毒だな。
「そこまで言うなら一緒に行こうか」
私がそう承諾するとピカチュウは嬉しそうに”ありがとうございます!”とお礼の言葉を言ってきた。その光景に私は自然と笑みをこぼした。
「私の名はスパークだ、よろしく。それで君は……?」
「はい!!私はスバルって言います!!」