第十七話 誤認
--トレジャータウン--
「……ったく……。まだ解決しやがらねぇのか……」
苛立った様子で呟いたのはカメールのウォーター。弟の仇、バクフーンの討伐に向かいたかった彼だが自らの力量不足を宣告され留守番を言い渡されたことに不快感を示している。
弟のために何も出来ない自分に不甲斐なさを感じていた--
「……!!きましたよ!!」
同じく留守番を言い渡されたルッグが自分の仲間の姿を確認して声をあげる。その声は歓喜に包まれていた筈だが、その声は次第に別のものへと変わる。
「どうしたんですか!?」
「話は後よ!!早くお医者さんを!!」
深く傷ついたりーフ見て懸念するルッグだが彼女の切羽詰まった様子からそれを察した。彼女の背中にのせられているカイを確認したからだ。
「わかりました!!すぐにでも探してきます!!」
「あれ?そう言えばくそったれのジェットの野郎は?」
また別の異変に気がついたウォーターが気がついた。一緒に行動した筈のジェットがいないのだ。なぜ彼がここまでジェットを罵倒するかはメンバーも察したのか誰も突っ込まない。
「嗚呼、あいつならな……」
バツが悪そうにこたえるスパーク。
〜〜〜〜〜
「まずいな……。一刻も早く戻るぞ!!ジェットも手伝ってくれ!!」
「ケッ、やだね」
バクフーンを討伐したすぐに倒れたカイ。しかしジェットは彼の救援を拒否する。
「ど、どうして!?」
「俺はお前らと慣れ合う為に同行したんじゃねぇ。この裏切り者を捕まえるためにお前達と組んだんだ。てことはもうお前達と協力する必要は……わかるだろ?」
「そ、それは……」
ジェットと同盟を結ぶ瞬間を知っているリーフはその瞬間を反芻。そして言葉が詰まる。
「そのガキはお前達でなんとかしな。じゃあな」
そう言い残しジェットは姿を消した。
〜〜〜〜〜
「っていうわけなんだ」
「ハッ!!あんなサメ公なんざ、敵になってせいせいするぜ!!」
「じゃあ……ジェットとはもう……」
ウォーターとファイア。兄弟で対照的な言葉を口にした。
「そういや、バクフーンもあいつが連れていったのか?」
「嗚呼、あいつが捕まえたら”こんな裏切り者なんざギタギタのずたずたにして細切れの野菜ジュースにしてそれから……”」
「いや、……もういいよ……」
とりあえずわかったこと。ジェットはバクフーンを骨の髄まで恨んでいること。というかそれしかわからなかった。
「じゃあもしかして……!!」
「間違いなくジェットにフルボッコくらってると思うぞ」
「ちょっと行ってくる!!」
「あっ!!待ってよファイア!!」
「待ちなさいって!!」
あわててその場を離れるファイア。そしてそんな彼を追ったリーフとルッグであった。
〜〜〜〜
「だーはっはっはっは!!!とうとう我が組織の裏切り者を捕まえたぞ!!」
バクフーン騒動を解決し、幸せ岬からトレジャータウンに戻ってきたジェット。裏切り者ことバクフーンを捕まえ、彼は意気揚々と部下達の前に立っていた。
部下達もバクフーンが相当嫌いだったからか"ジェットさま〜!!"だとか"イエ―!!"など歓喜の声があふれていた。組織内の憎悪の根源であるバクフーンはジェットにボコボコにされた挙句に晒しあげられている状態だ。
「さぁこの祭りのめでたい時だ!!お前ら間抜けな部下どももこの裏切り者の恨みやうっ憤を思う存分発揮するがよい!!」
ジェットがそう言い切った直後、大歓声と呼べるほどの盛り上がりが見せられた……。かと思われたが。
「…………zzz」
「おいこらキサマ!!この一大事に何のーてんきに眠ってやがるんだ!!オォ!?」
一人だけ、爆睡。それも立ったまま眠っている者がいた。先ほどジェットに怒鳴られたドラピオン、ラオンだ。彼はジェットにどなり散らされてはっと目を覚ます。
「あっ、おはよーござまーす」
「"おはよーござまーす"じゃねぇこのドグサレフナムシ!!キサマこのジェット様の演説中に眠っているとはどーゆー了見だ!!
「なんです?また新人が入るんで、面接官が必要なんすか?」
「面接官……?
--吾輩は"演説"と言ったんだこの馬鹿サソリめ!だれがこんな人ごみの最中"面接"をするんだ!」
「でも、悪人が人前で演説するのもおかしくないすか?」
「だまらっしゃい!まったくお前はとにかくジェット様に従っていればいいんだ!てめぇなんざほっとくと何しでかすかわからねぇからな」
(絶対昨日ボスに言われたセリフそっくりそのまま言ってるな……)
と、いつもの通りのやり取りが繰り広げられているさなかに--
「ちょっと待って!!」
「--!?」
ファイアだ。ジェットの(愉快な)部下達は元々の敵が出現したからか一気にジェットを守るように囲み、ファイアを睨めつけた。
「よぉよぉ坊主。もう俺たちの関係は敵どうしなんだぜ?」
「そうそう。僕たちはもう君らとなれ合うつもりはないからねー」
「最初から君たちには用事はないよ。ジェットに用があるの」
挑発的な言葉をかけられ彼を睨むジェットの部下のオノノクス、ノンドとクロバット、バット。だがジェットはそんな眉間にしわを寄せた彼らを制しファイアの目の前に立つ。
「よぉファイア。用事はなんだ?」
「一目だけでいいんだ。兄さんに合わせてほしい」
彼の後を追ったリーフにルッグも真面目な雰囲気にのまれてか、遠目で彼らを傍観していた。
「ケッ、なんでぇそんなことか。こんな無様な姿になった兄貴をみてぇとは変ってるな」
冷たく、それでいてどこか優しい口調でジェットは晒されているバクフーンを連行する。
「……ねぇジェット」
「なんだ?」
「このヒトがさっき捕まえたバクフーン……だよね?」
ファイアの口から発せられたのはとても意外なものだった。だがジェットはその真意に気がつかずに平然と応答する。
「あたりめぇだ!!まさかこのジェット様が人違いならぬポケ違いでもしているというつもり--」
「だってこのヒト、兄さんじゃないもん」
「えっ……」
思いがけない一言。これにはジェットのみならず遠くで聞いていたリーフまでも硬直した。ただ一人ルッグだけはやれやれといった表情で眺めていたのだったが。
「冗談だろ!!このジェット様が最大の仇を見間違いなんてそんな無様な真似……」
「だって僕たち兄弟には左腕に傷跡あるけど、このヒトそんな跡まったくないよ。ジェットは知らなかったの?」
「…………」
--ふっと思いつけば確かにあの裏切り者は腕に大層な傷があったな……。だが確かにこいつは……。うすうすであるが確かにこいつは……違うきが……。
「だがなぜ吾輩の名をやつは知っていたのだ!!」
「そりゃ有名だからじゃない?」
「そうか……」
ファイアの指摘に部下たちもぞくぞくと"ポケ違い"を信用する声があがって言った。そしてがっくりとうなだれるジェットに--
「じゃあまだ僕たちは"同盟"を続けているってことでいいよね!?」
なぜか目をキラキラと輝かせながら訴えるファイア。その様子はジェットと同盟をまた組めることをうれしく思っていることは目に見えていた。
「フン!!あの野郎をつかめるまでだぞ!!」
と、ジェットからも渋々であるがあっさりと承諾を得ることに。そこに--
スッ
「うんうん。やっぱりそうでなくっちゃジェットじゃないもんね」
遠巻きから聞いていたリーフが割り込み、彼らの肩にポンと手の代わりとなっている蔓をおく。その際にファイアもジェットも彼女をジト目で睨んでいたのだが。
「だってさっきのジェットはどうにもらしくなかったし。やっぱりグチばっかたれてておバカで、それでも協力してくれるツンデレなほうがジェットらしいもんね!!」
「オイコラ。おめぇは何を言っているんだ」
突っ込むジェットも無視してリーフは熱弁をはじめる。その背後には付き添ったルッグもいたが彼女は気が付いていない。彼女はあきれられていることも知らずに熱弁をふるう
「--だからやっぱりわたしたちは燃え尽きるほど熱い友情に……」
ドガガガガガッ!!
「あんたが熱く燃え尽きなさああああああああああぁい!!」
話を聞かないリーフにルッグからの炎のパンチという名の突っ込みがとんだ。癒しのオーブを身につけているはずのリーフは真っ黒に燃え尽きてしまった。
(なんか今日のリーフ、いろいろと忙しいな……)
焦げているリーフを見てぽりぽりと頭をかくファイア。
「……ったく。ファイア君も戻りますよ。それからジェットもちょっと来てください」
「はっ!!あのガキの世話ならお断りだぜ。吾輩たちにはあのバクフーンをなぁ」
「--どうするつもりなんです?」
裏切り者ではないと判明したはずなのにバクフーンを解放しない。ルッグは首をかしげる。
「いや、紛らわしいことしやがったこいつを一回地獄に落として……」
「その前にまたあんたを崖から突き落としてやりましょうか?」
「さぁ!!あいつのところに案内せんか!!」
もはや脅迫にも近いルッグの突っ込みに臆したジェットはカイのもとへ向かうように促した。