第五話 三馬鹿の安定感 2
「いやああああああああああああああぁっ!!!」
「まてえええええええええええええぇぇっ!!!」
その場に居合わせていた野生ポケモンも思わず道を開けたくなるほど凄まじい叫び声と共にリオルとドラピオンが猪突猛進の勢いで突っ走っていった。といっても伊達や酔狂で走っているわけでなくドラピオンがリオルを追いかけているのだが。
「おい!!チビ!!待つっすよ!!」
「待てといって待つ奴がいるかああああああぁ!!」
いつもの口癖の”やんす”が消えた口調でリオル、リオは猛ダッシュで逃げドラピオンのラオンから逃げ切った。
「ぜぇぜぇ……聞いてないよっ!!あんなおっかないポケモンと戦うなんて……!!」
木陰で肩で息をしながら先ほどまで自分が逃げていた道筋(ルート)を凝視してあのドラピオンの姿を確認する。
「はぁ……」
あのドラピオンはいない……。そう確認したリオはふっと木に腰かけため息をついた。彼の表情はどうにもおもわしくなかった。--オイラ、さっきまで依頼って意気込んでた癖にいざって時は逃げだしてしまった--
彼の脳裏にパートナーを置いて逃げ出した自分に対しての自責の念にかられていた。臆病な自分に嫌気がさしていたのだ。そんな彼の背後に--
ポンッ
「いぎゃああああああああああああああああああああぁっ!!!」
彼の肩に何かが置かれた感触がした。大声をあげて思わず振り返る。
「あああああ……あれ?お嬢様……?」
幸いにも彼の肩をたたいたのはドラピオンではなく自分達に協力してくれたあの銀色のキュウコンであり一瞬は安堵の様子を見せる。
「どうしたのですか、こんなところで」
「あ……いやっ!!」
キュウコンに問い詰められ(といっても本人にはそのつもりはない)しどろもどろな解答を見せる。分かりやすい様子を見せるリオに対して--
「確かあなたは一対一で対抗した方がいいと思ってわざとあの場を離れたんじゃないですか?」
「えっ……ほえぇっ?」
あからさまに怖気づいて逃げ出したのではなく作戦でその場を去ったと目の前のキュウコンは言いだしたのだ。一瞬は気を抜いて間の抜けた声を出すも。
「……っと……ははははははっ!!そうそう!!キャリアではこっちの方が少ないから徒党を組んで来られるよりは単体で処理したほうがねっ!!ははははははは!!」
あからさまに無理な笑みを浮かべて高笑い。無論これを嘘とみるのは火を見るよりも明らかである。だがキュウコンはというとそれを嘘としてとる様子はない。否、それを見越しての反応がありクスリと小さく笑みをこぼした。
「見つけたぜぇリオルのおぼっちゃま〜」
「うひゃあああああぁっ!!で、でたああああああああああぁっ!!」
唐突に木陰からラオンが現れリオはまたも大声を張り上げ、反射的にその場から飛び退いた。そしてラオンに悟られないようにこっそりとカバンに手をやる。
「おい!!ドラピオン!!よ〜く聞け!!オイラはこう見えてもポケモンリーグでチャンピオンに勝ったことがあるんだ!!怪我しないうちに帰るんだったら許してやってもいいぞ!!」
「…………(子供みたいな嘘)」
声高らかに宣言するリオにキュウコンはジト目に近い目つきで彼を見ていた。
「それ嘘じゃないの?」
「げっ!!なんでばれた!!」
「ばれたって言ったから」
意外にもというべきかやはりというべきかは分からないがラオンには既にお見通しであった。リオは口を開けて”ポカーン”という擬音を醸し出す(本当に出しているわけではないが)
「リーグだろうとリングだろうと関係ないっすね!!行くっすよ!!」
「のわあああぁっ!!」
辻斬りをしかけてくるラオンに対してリオは怖気づいたのか頭を抱えてしまった。無理だと悟ったキュウコンは助太刀の準備をとる。
「えぇっ!!?ど、どうして?」
いつもは冷静なキュウコンも驚きの顔を隠せない。彼女が目撃したもの、それはいつの間にか消えたドラピオンの姿だったのだ。そしてその状況を見てほくそ笑んでいるメガネをかけたリオルの姿が。
「はっはっはっは〜!!こ〜んなこともあろうかとトラップを用意していたのだった〜!!」
「ぬっ!!小癪な真似を!」
ほくそ笑みから高笑いにチェンジ。寸前までなかった穴の中に勢いよく突っ込んでいったドラピオンが埋まっていたのだった。穴のサイズがジャストフィットしラオンはまともに体を動かすこともままならない。
「動けなくったって口さえ動けりゃあんたみたいな新米には負けやしないんっすよ!!」
「ふ〜ん、それじゃその新米に負けたら……どうするつもりですの?」
「ほぇっ?」
上からのぞきこんできたキュウコンに素っ頓狂な声をあげる。しかしそんな彼の余裕も風前の灯火のごとく消えさることに……。
--ビリリリィッ!!
--!!?突如ラオンの体に麻痺に近い症状が現れた。威圧感?いやそれにしては単にあのキュウコンにチラ見されたようなもんだし……。
(!!なんだか知らないけどチャンス!!)
そんな無駄に近い思索がむなしく自らが動けないことをリオによって悟られてしまう。彼は既に技を出す構えに入り、またキュウコンもそれを悟って穴から離れて様子を傍観していた。
「せりゃああああああああああああああぁっ!!!
ブレイズキック!!ブレイズキック!!めざめるパワー!!めざめるパワー!!いやな音!!めざめるパワー!!めざめるパワー!!めざめるパワー!!めざめるパワー!!めざめるパw……」
合計十ヒット……。
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「ぜぇぜぇ……!!お、オイラが本気だせばこんなもんよ……っ!!」
技の出しすぎにつかれたのかリオはまた肩で息をしていた。しかしその減らず口をみてキュウコンはクスリとあえてリオに見つかるように笑っていたのだが。種明かしをすればキュウコンがチラ見した際に”かなしばり”をかけていただけだったのだ。決して臆したからというわけではない。
「それはそうとあの穴の中で埋まっている方(ラオン)はどうするんですか?」
キュウコンの目線には穴の中で十連続攻撃を食らいズタボロになってしまったみじめな姿のラオンの姿が。彼の姿を形容するなら”フルボッコ”と呼ぶのが最も妥当であろう。
「あぁ……ちょっとやりすぎたけど……。でも探検家ってこんなもんでやんすかね?」
「わたくしは探検家じゃありませんわ」
「…………」
これ以上は何も言う気力はなくなった。仕方なしにルッグ達と合流することに。ちなみにスパークは相変わらず酔っている。
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「ど〜こへほっつき歩いてたんですかあなたはああああぁっ!!!」
合流して真っ先に飛びだしたのがこのルッグの怒声。無論キュウコンも伊達や酔狂で飛び出したのではない。逃げ出したリオをいろいろとフォローしにいったのであった。しかし元々は根は温和な質のルッグはそれ以上怒る気にもならずにこの件については言及しないことに。
「まぁいいです。それじゃ僕は戻らなきゃいけないんで……」
「あっ!!待ってください!!」
穴抜けの玉を使おうとした寸前に呼び止められ、手に持っていた不思議玉を反射的に下げる。
「どうしたんですか?」
「あのっ!!実はわたし達リーフさん達にお会いしたいんで……」
「オイラ達を連れていってほしいのでやんす」
再びのパワフルズの頼み。少しずうずうしい気もしたが彼の心情断ることはできなかった。
「はぁ……わかりました」
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〜〜リーファイ基地〜〜
「はぁ〜やっと着いた〜」
「ここがリーファイさんの基地か〜」
「やっぱりいっぱしの探検家になるとこれくらいの基地は構えないといけないんでやんすね〜」
リツキとリオのパワフルズコンビはリーファイ基地をこれまたキラキラと目を輝かせながら凝視していた。尤もそんな2人をルッグが軽く諌めるのだが。ちなみにスパークは酔いのためふらふらで口もきけない状態だ。
どんがらがっしゃ〜ん!!
「ひぃっ!!」
「ひやあぁっ!」
「……チッ!!」
驚く2人をしり目に舌打ちをするルッグ。その音は喧騒によって生じているのは誰の目にも見て取れた(本当は見ていないのだが)。矢のように飛び出したルッグとそんな彼を
〜〜基地内〜〜
「てめぇがごちゃごちゃやかましいのが悪いに決まってんだろうが!!」
「んだとぉ!?弟の癖に口答えすんな!!」
「関係ないだろうが!!」
マグマラシとカメールがそこで罵声と共に大喧嘩を始めていた。その影響もあって部屋のなかの家具なども散乱していた。更に彼らの足元ではなぜかガブリアスが目を回して倒れている姿が。
「やんのかぁ!?」
「上等だ!!」
『勝負だ!!』
カメールはハイドロポンプ、マグマラシは火炎放射を打つ構えにパワフルズは恐がって目を伏せたりなどのあり様である。そして--
ゴツン!!
「やめんかあああああああああああああああああぁっ!!」
ルッグの怒りが爆発したのかカメールとマグマラシにそれはそれは痛いげんこつがとんだ。げんこつを食らった2人は頭に大きなたんこぶを残して頭を抱える。
『す……すごい……』
自分達では到底止められそうにないケンカを速攻で止めたこのズルズキン。ちなみにスパークは酔いのあまり躍り始めている。
「いてててて……何するんですかルッグさん!!」
「そうだ!!そうだ……あいてええぇっ!!」
口答えする2人は今度は棒で思い切りド突かれる始末。頭のたんこぶが増えた。
「何があったかちゃんと説明しなさい」
『は……はいっ……』
ルッグのドスの聞いた声とないはずの黒いオーラを感知し震え上がるマグマラシことファイアとカメールことウォーター。ちなみにスパークは……これ以上はくどいかもしれないので控えておく。
--回想--
「はぁ〜疲れた。リーフ達が戻ってくるまでヒト眠りするか……」
リーフを置いて先にガブちゃん……ではなくマッハを連れて基地に帰宅したファイアはそのまま寝室のベッドにダイブしそのまま仮眠をとろうとした。それなりにつかれているからかすぐにでも眠れると思っていた。しかし--
--……でさ〜、その時俺の前に現れた敵がな……!!--
--そしたら俺の渾身の右ストレートが相手の顔面にあたってだな……!!--
--マジか!!ちょっとガブちゃんの話詳しく聞かせてくれよ!!--
ピクピクピク……
「…………だああああああああああああああああぁぁっ!!うるせええええええええええぇっ!!」
隣からの雑談で全く眠れずファイアはとうとうキレてしまった。急いで話し声が聞こえる部屋へ。既にこの時の彼はいつもの人格ではなかったのだ。
「おい!!兄さん!!うるさいんだよ!!眠れねぇだろ!!」
「あ〜、はいはい。すいませんでした爆発頭」
「ばっ……!!」
文句を言うも反省するどころか悪口まで言われる始末。これにはファイアも我慢ならない。
「なんだと、み ず が め(・ ・ ・ ・)ゴラアァッ!!」
「み、……!!」
マッハと雑談していたウォーターだが彼にとって最も言われたくないワード上位にランクインすることを言われ彼の額にも血管が浮き出る。
「何度言ってやるよ!!水亀!!水タイプの亀だから水亀でな〜にが悪い!?水亀」
普段の口調から族に言う二重人格へと豹変したファイア。兄に対しても容赦なく毒を吐きまくる。
「カッチーン!!もうキレたぞ糞弟が!!今日こそボコボコにしてやっからな!!」
「上等じゃねぇか!!おめぇみてぇなバカアニキなんか糞食らえだ!!」
「おい2人共よすんだ……ふげぇっ!!」
仲裁に入ったマッハだったが運悪く2人の攻撃を食らい一瞬でノックアウト。彼の意識が戻る前に兄弟げんかが勃発。そして現在に至る訳だ。
--回想終了--
「はぁ……ど〜して2人共そうやってケンカばかりするんですか……」
「だって兄さんがうるさいから文句いったら悪口言うし……」
「こいつがいきなり殴ってくるからわりぃんだ!!」
「お黙り!!」
さながら母親に怒られている幼い兄弟を彷彿させる情景。叱られて2人はシュンとなり顔を伏せた。
「……2人共あとで説教なんですが、」
「なんですが……?」
ルッグの口から飛び出た反語。2人はこの説教地獄から逃れられるのかとわずかな希望を持つ。
「リーフさんはどこへいったんですか?」
「リーフ?確か近くのラーメン屋……だったかな?まぁご飯食べに行きましたよ?」
「そうですか、まぁ帰ってくるのを待ちましょうか。パワフルズ、帰ってくるまで待ってもらえますか。それからスパークさん!!泥酔してるからっておどらない!!ったく……」
またルッグはため息をついた。しかしこんなことになってため息をつかない方が無理がある話なのだが。
さてさて、リーダーはいつになったらかえってくるのだろうか……。
「はぁ〜おなかが減ったな〜」
ファイアと別れ一人商品券を片手に嬉しそうにあるくメガニウムのリーフ。彼女はこの期限が今日限りの普通じゃない額の商品券をもらい、果てにはそれを使い切るつもりなのだ。と、しばらく歩いているうちに目的地へと到着
ガラガラと音を立てて店の中に入っていった。
「おぉっ!!リーフやんけ!!ひさしぶりやな!!」
店の中に入るや否や声をかけられた。ちらりとその正体を確認すると椅子に座っていたエアームドにバンギラスだった。両翼をあげている様子から声の主はエアームドのほうだろう。
「あっ!!ムドウさんにハガネさん!!久し振り〜」
リーフもムドウと呼ばれたエアームドにハガネと呼ばれたバンギラスに近づき、彼らと同じ席についた。
「ひっさしぶりやなリーフ!噂には聞いとったけどお前進化していたんやってな」
「あったりまえよ〜。これでもわたし、前より強くなったからね」
「そうか……。お前には本当に感謝しているぞ。俺の復讐の心を氷解させてくれただけでなく、この世界をも救った。俺はお前に二度も助けられたことになるんだからな……」
「も〜、そんな昔の話ど〜でもいいじゃないの」
「そやで!!ハガネは昔のこと引きずりすぎや!!」
「お前はもっと過去のことを考えるべきだがな」
久々に会えたからかテンションがあがるムドウに対して相変わらず落ち着いた態度を見せるハガネ。だがその表情はどこか喜々としていた。そして楽しく話をしているところ新たに来客としてリーフに店員のサワムラーが注文をとったのだが……。
「とりあえずこのメニューのを全部一つずつで」
「はいぃ!?」
今まで生きていて聞いたことのない注文方法に抜けた声をあげるサワムラー。だがリーフは商品券を取り出して自らは支払いは問題ないと示したのだった。
「か……かしこまりました……」
驚いたのはサワムラーだけではないムドウも普段は落ち着いているハガネもあっけにとられているのは誰の目にも見て取れた。
「お……おまえ……そない食えるんかいな?」
「もち」
--------
「いっただっきま〜す!!」
「いただきます」
「おかわり〜!!」
--!!?今明らかに食事前には似つかわしくない単語が飛び出したはきっと気のせいではないだろう。メガニウムの前の料理は全て空の皿へと化していた。よく見るとムドウやハガネの分も綺麗さっぱり消滅している。
「おまえ〜!!」
「ははははっ……めんごめんご〜。お詫びと言ってはなんだけど今日はわたしのおごりにするから〜」
「ホンマやな!!ハガネ!!今日は食いまくるで〜!!」
「おい、よせムドウ」
ハガネの制止もふりきりムドウは大食いに走った。その大食い本能としての闘争心の炎がついたのかリーフも負けじと食べまくる。
--数十分後--
「あ……あかん、もう食われへん……」
カビゴンのように腹を膨らませノックアウトしたムドウ。今の彼にエアームドのスタイリッシュな面影は微塵も感じられない。そして一方でいまだに幸せそうに食事するリーフの姿が。
「流石リーフだ……この食があいつの強さなのだろうか……」
そしてハガネは見当違いともとれる見解にただ一人頷いていた。
--更に十分後--
「えぇ〜!!もうないの〜!!」
不満そうなリーフの声。それもそのはずもう材料がどこにもないというから店側にしてみれば溜まったもんじゃない(しかしあれほど高額な商品券を作っておきながら用意できないのもそれはそれで問題ありなのだが)
「も、申し訳ありません!!」
そして頭を下げるオーナーサマヨール。心中ではこいつの胃袋はどうなっているんだと悪態をついているに違いない。
結局はハガネに抑えられてリーフは大人しくなった。全部食べつくすも商品券の額内でおさめたので結果としてサマヨールは大損を被っただけとなったのだった。
チャンチャン☆
お〜い……俺を忘れんといてくれ〜 by超絶的に満腹でハガネにも置いてかれたムドウより