最終話 再び
--ここは……?
そうか……私はラックたちと別れて……
それにしても随分時間たったような気がするが……きのせいか?
……?なんだこの声は……?
「……り……いか?」
--よく聞こえない……。一体誰だ?」
「あいつらのもとに戻りたいか?」
--どこかで聞いたような声だな……だが思い出せない。
「グラスよ、お前が望むのなら、私の残った力であいつらのもとへ戻してやることもできる」
--戻す?あいつら?まさかラック達のもとへ戻してくれるのか?しかし一体だれがそんなことを……?
しばし迷っていると謎の声の主は苛立った様子で
「何をちんたらしてる!?戻りたいのか!?戻りたくないのか!?」
怒号にすらも近い声質に思わずひるんだが、その答えは決まり切っていた。やっぱり私は戻りたい。ラックやリン、彼らとまた救助隊を組みたい。
--のぞむなら、また彼らとともに暮らしたい。これが私の答えだ。
「わかった」
--声の主のその言葉の後に、消えかかって空へと昇っていくグラスの魂と思われる球体を包み込んだ。
「サーナイトや……リンを頼んだとぞ……」
なぜこいつはリンのことを知ってるのか。そんな疑惑は意識とともに消えてから次に私の意識が戻った際にはすでに消えていた……。
「--!?」
一人旅を続けていたラックは妙な感覚に見舞われた。山頂で休息をとっていた彼は辺りを見回すも誰もいないことを確認する。
「グラス……まさかな……」
パートナーの名を口にしたグラスはけたたましく先ほどまで登っていた山を下山し始めた。その表情は確信に満ちており、一切方角も迷うことのない足取りであった。
「サ、サーナイト!?」
一瞬眩い光が発せられた直後、うずくまって倒れたベガがいたところに入れ替わるように抱擁ポケモン--サーナイトが倒れていた。
これで彼女を助けるという目的は成就された。ただしそれを依頼した張本人の姿は見えなくなっていたが。
「ベガ……本気で自分が祟りを受ける覚悟があったようですね……」
苦悶の表情を浮かべつつアルタイルが俯いた。そう口にしていたアルタイル自身も本気でベガの身を案じた上で彼らを止めにかかったのだろうと推察できた。
「彼を助ける術は他にないの?」
平静を保ちながら同行していたシリウスがアルタイルに尋ねる。しかしアルタイルは振り返ることなく首を横に振った。
「そ、それじゃあベガは……」
リンからすれば複雑な感情であった。確かにベガはトノや自分たちを裏切り多くのポケモンを傷つけた。しかし傷ついた彼を介抱し、かつてのパートナーのために奔走する姿も知ったために幾分情が生まれてもいたのだった。
他に救う方法はなかったのか。
「--助からないでしょうね……」
おそらく事実であるが残酷な答えであった。もともと彼が受けるべくした祟りを今になって受けるのだ。ベガの悪行を知るものならまずはじめにこう答えるだろう。それは決して間違っていない。リンやアルタイルもそう思っていた。
「治療費も依頼のお礼も出さずに消えて……勝手すぎるんじゃないの……?」
「--?」
「そう簡単にあたしは逃がしはしないわよ。必ず呼び戻してみせるからね」
言葉こそ守銭奴のような口ぶりだが、その裏にはベガへの想いが宿っていた。それはアルタイルやシリウスにも伝わっていた。
「えぇ、私だけがこっちで罪滅ぼしをするのはかないませんからね。仲間がいなくちゃ心細いったらありゃしませんよ」
アルタイルが続けて軽口をたたく様を見てシリウスはふっと笑みを浮かべた。すっかり邪気もなくなったかつての仲間にはやはりうれしいものがあったのだろう。
「さってと‼あたしもそろそろ救助活動に戻りますか。お師匠さん、お世話になりました。また何かあったら宜しくお願い致しますわ」
一礼をしいて踵を返すリン。そんな彼女を呼び止める。
「”彼”、帰ってるかもしれないから、その時は思い切り歓迎してあげて」
一瞬誰のことを言ってるのかわからなかった。というかわかるはずがない。
そのはずだがなぜかリンにはそれが誰なのかわかっていた。彼女は笑みを浮かべてダンジョンを去っていった。
救助隊ブラザーズ。彼らが再起するのはもう少し後の話。