第七十一話 やみのどうくつへ
--あの時にかかった祟りだが……いい加減解いてくれないか?」
”ひょうせつのれいほう”へと足を運んだベガは主のキュウコンに会いに行き、そう頼み込んだ。しかしその態度とは裏腹に彼の態度はまだ敵意を込めたものだった。そんな彼の真意を知ってから知らずか相手のキュウコンは特別リアクションをとることもなく落ち着いた態度で接する。
「--残念だが祟りを解くことはできない」
『--!!?』
祟りを解くことができない--そう告げられたベガは祟りをかけた張本人であるキュウコンに向かって飛び掛った。彼女をそのまま馬乗り状態に押し倒して僅かながらにうなり声を上げるそのベガの姿は誰の目に見ても怒りを浮かべていたことは見えていた。
「どういうことだ!?貴様の祟りだろう!?なぜ解くことができぬのだ!?」
「我々キュウコンという一族は非常に執念深い……それ故祟りも強力なものとなり、自分でも解くことができなくなるのだ」
「そ……そんな……」
猛り狂うベガとは対照的に淡々と事情を説明し続ける。そんな無情な事実を耳にしてベガはあの形相から一変--絶望さえも醸し出した表情で落胆。
落胆により拘束の力が緩まったことでキュウコンは立ち上がり体についた雪を振り払う。そして”話を最後まで聞け”と続け、ふところから自身の体毛と同じ金色をした欠片をベガの傍らに置いたがベガの落胆はまだ続いている。
「これを”やみのどうくつ”へと持っていくのだ」
「やみの……どうくつ……?」
「これをそこのダンジョンの奥地へと持っていくのだ。これなら祟りが解けるかもしれぬ」
祟りが解ける--そう耳にしたベガは今度は安堵のあまりため息を吐いた。こうしてはいられないとベガはすぐさま踵を返そうと背を向けた。リンやシリウスに急いで帰るぞと彼女等を急かした。
ベガに急かされるがままにシリウスはリンとベガを背に乗せてその場を去っていった。
「--本当にこれでよかったのだな?」
「--はい……」
去っていったベガ達を眺めるのはキュウコンともう一人--物陰に今まで隠れていたポケモンが声を出した。
~~ ブラザーズきち ~~
金色の欠片を手にして帰ったベガ達は再び基地へと戻っていった。行きと同様にシリウスの背に乗って帰ったからかさしたる疲弊もなかったからかベガは焦りのあまりすぐさま”やみのどうくつ”へと向かおうとする。
--がすぐさまリンに止められた。話によるとこのダンジョンは”ひょうせつのれいほう”と比較しても格段の厳しいダンジョンと聞く。準備不足を理由にすぐにダンジョンへ突入するのを静止したのだった。
リンたちはベガが素直にその申し出を受け入れるはずがないと説得が長丁場になることを覚悟していたが意外のもベガはあっさりとそれを受け入れる。彼の脳裏には”ひょうせつのれいほう”程度のレベルでボロボロにされたことが堪えていたのだろう。
「では明日の昼前に出ましょうか。わたしもその位の時間に向かえに行くわ」
「ちょっと待て。お前もついて来るつもりなのか?」
ふっとシリウスが引き続いてついて来ることを宣言。しかしベガにとってはシリウスは信用に値しない他人と認識しているからか、やや不信を込めるようにはき捨てる--がシリウスは特段気にすることもなくまず”えぇ”と返した。
「乗りかかった船って奴よ。ここまで来たら最後までつきあうわ」
「--そうか……」
とは言えシリウスがいなければここまですんなりとコトが進まなかったと考え直したベガは考え直した末に彼女の助けをかりることを許可した。そのままシリウスは帰路につき、ベガとリンは基地へと戻り休養及び準備を始めた。
--翌日
指定された時間にて三人は合流、ダンジョン”やみのどうくつ”へと向かっていった。名が体をあらわすようにダンジョン内は視界が狭く、さらにゴーストタイプのポケモンが壁から襲ってくることもあり難航。シリウスもリンも壁内のポケモンに攻撃する術がなく力を失ったベガの”チャームボイス”以外の有効打をチーム全体で有していなかった。
「えぇい鬱陶しい!!」
壁から襲ってきたカゲボウズに辟易としながら”チャームボイス”を放つベガだが、カゲボウズはうたれ強いからかまるできいていない様子でベガに向かって”したでなめる”で反撃しようと近寄ってくるところをかばおうとシリウスがベガをどかす。無論壁の相手への攻撃手段を持ち合わせていないシリウスだが直後に自分もその場から飛びのくように引いた。
それを追いかけるようにカゲボウズが壁から飛び出してきた。そこを待っていたといわんばかりにシリウスが頭から緑色の刀状の角を生成させ、一瞬でカゲボウズへと詰め寄り”リーフブレード”で切り刻む。カゲボウズは力なくそのまま倒れた。
(そうか…わざわざ壁際に付き合わう必要もない…一度こちらから引けば向こうにも攻撃手段はなくなる…。近寄ってくれればまともな攻撃も通るからな…)
シリウスの行動の意味を把握したベガは改めて彼女の実力を認識し、評価する。この腕をもってすればグラスが師を謳うのも合点がいった。
-- やみのどうくつ 奥地 --
「フン…やっとこれたか…」
「結構キツかったわね…」
すでに疲弊しきっていたベガとリンとは対照的にまだまだ余裕の様子のシリウス。漸く三人は目的地である洞窟の奥地へとたどり着いた。早速といわんばかりにベガは懐からあの金色の欠片を取り出した。
いかにもしるしをはめ込めといわんばかりの窪みに近寄るベガ。
「--これで……祟りが解ける……」
思わず焦りを見せるも必死に落ち着こうと息を整えようとベガは深呼吸。一息を置いてから窪みにしるしをはめ込もうとしたときだった。
「待ちなさい!!」
『--!?』
静止の声がかかる、それはベガ達にとっては予想だにしなかった声だった。聞き覚えのある声のした方角へと振り向くとベガの表情が一変--憎悪に満ちた顔つきへと豹変していった。