第六十四話 ファイナルバトル! 2
~~ てんくうの とう 頂上 ~~
常にグラス達を見下すような態度をとり続けていたベガは信じられない様子でラックのメガシンカを見届けていた。自分でさえもあれだけメガシンカを操ることに苦労したにも関わらずこの短時間で力引き出さしたことに彼は劣等感さえも抱き始める。
「いや、ありえん。所詮は付け焼刃だ。私があんな奴らに負けるはずがない」
しかし自分の感情を否定したベガは首を横に振り、ブラザーズの面々を睨む。そんな彼とメガレックウザと対峙するラックに--
(--聞こえるかラック?グラスだ。)
脳内に響いたグラスの声。所謂テレパシーというものだがエスパータイプでない彼がどうしてこんな芸当ができるのかとラックは疑問を抱く。そんな彼に答えるかのごとく再びグラスの声が直接脳内に響き渡る。
(おそらくだが”メガバングル”の力を解して指示を送れるようになったんだと思う。聞いてくれラック)
グラスは続けた。メガシンカの力を制御している間は自身も戦闘に加わることはできない。そしてそれ故にベガのほうも先刻まで一切戦闘に関与しなかったのだろうという考察をラックに打ち明けた。そう、ベガは決して油断や慢心で戦闘を傍観したわけではなかったのだ。
それを耳にしたラックは少しばかし安堵した。彼らはレックウザの攻撃と来るはずのないベガの攻撃両方に神経を尖らせていた。故に全力を出し切ることができずに一方的に叩きのめされていたのだった。
(だからラック、私が指示を出すからお前はリンやバカトノを率いてレックウザを止めることに専念してくれ。できるか?)
(--できるかどーかはわからねぇが……やってみるさ)
そう伝えられたラックはレックウザに飛び込んでいった。ベガの指示を受けたレックウザは”りゅうのはどう”を打とうと大口を開けた。
しかしそれより早くラックが懐にもぐりこみ攻撃を放とうとせんばかりに開いている大あごに向かって冷気を帯びた拳を振り上げる。
「”れいとうパンチ”!!」
”れいとうパンチ”がレックウザに直撃。緩和されたとはいえ弱点攻撃をもらったレックウザの体は浮き上がった後に地面にたたきつけられる。トノが放った技と同じ技でこれだけのダメージが入るとは思わず、乱気流の力を過信していたベガは思わず目を見開いた。メガラグラージの攻撃力はニョロトノの比ではなかったのだ。
「レックウザ!!”りゅうのまい”!!」
起き上がったレックウザは力強くそれでいて神秘的な舞を踊り始めた。赤黒い稲妻をまといながらの踊りに一瞬ではあるが見とれてしまったところをベガは見逃さなかった。トノに”アンコール”を打つように伝えたときには”りゅうのまい”はすでに終えてしまっていた。
強化された”しんそく”でラックたちに襲い掛かるレックウザ。その動きについていけないトノとリンはなすすべもなく攻撃を食らうがラックはその動きを見切りそのまま攻撃を受け止めた。そのまま思い切り地面にたたき付ける。
思わぬ劣勢を強いられたベガは一層強い焦操感を覚えた--が、すぐにその焦りも消える。彼は思い出したのだ、このメガレックウザのメガシンカのキーとなる、そしてそれを象徴する大技の存在を。ふっと勝利を確信した笑みを浮かべてベガはその技名を唱える。
「”ガリョウテンセイ”!!」
聞き覚えのない技名と共にレックウザは上空のかなたへと一瞬のうちに消えていった。大空から 物凄い勢いで急速降下してきた。その勢いは”ドラゴンダイブ”と酷似していたが、レックウザが放った技はドラゴンダイブの攻撃速度とはかけ離れたものだった。
攻撃を唱えたベガでさえ耳を摘みたくなるような爆音が辺りに響いた。ただでさえ強い乱気流が吹き荒れているにも関わらずその攻撃の勢いには、直接攻撃を食らってはいないにも関わらずトノやリンを軽く吹き飛ばす程の攻撃力を見せ付けていた。特に体重の軽いリンは頂上かららたたきおとされそうになったが、間一髪のところでグラスが”引き寄せの珠”を使って自身の足元へと引き寄せる。
「ふっふっふ、どうだ?余りの力量の差に諦めたくなったんじゃないのか?」
辛うじてラックだけは立っているにも関わらず大技を身に受けた体はすでにボロボロ。ベガは勝利を確信していた。どんな風に捻りつぶしてやろうか。そう思考したベガが見たのは自分と同じように勝利を確信していたラックとグラスの様子だった。
「余裕を見せるのはいいけど……ちっとは周りの状況を確認したらどうだい?」
言われるままにベガはふっと戦場を見回した。
「な、なに!?」
あれほど吹き荒れていた乱気流がピタリとおさまっていた。その間もなく大雨が辺りに降り始めたのだ。”一体どうしてだ”といわんばかりにうろたえるベガ。
~~ ~~
(ラック、隙を見てリンに”胃液”を出させてくれないか?)
(胃液?どういうことだ?)
(あのレックウザの乱気流が特性によるものなら、もしかしたら止められるかもしれん。というかむしろそれしか方法はないだろう)
(ふっ……なるほどねぇ)
(そして”あめふらし”で天候を雨に上書きする。ラック、これでお前の力は最大限に発揮できる。今お前の特性は”すいすい”だ。だから天候を上書きできればたとえ超古代ポケモン相手でも勝機はある!!)
~~ ~~
ラックの脳内にグラスから伝えられた作戦が反芻された。”ガリョウテンセイ”を食らう寸前にリンの”胃液”がレックウザにかかっていた。だから強い乱気流がおさまり大雨が降り始めたのだ。
大雨の恩恵を受けたラックは何もしていないにも関わらず今までに感じたことのない体の軽さを覚えていた。
「レックウザ!もう一度”ガリョウテンセイ”だ!!」
再び空のかなたへとすがたを消すレックウザ。しかし今度はどんな攻撃かを知っているラックは迎撃の”れいとうパンチ”の構えをとる。一閃の光と共に降下してくるレックウザに向けて--
「”れいとうパンチ”!!」
全身全霊の氷の拳を振り上げた。竜の舞ですばやさをあげたレックウザと”すいすい”の恩恵を受けたラックのすばやさはほぼ均衡していた。互いの攻撃が触れ合った瞬間--目を覆いたくなるような光の後に爆発が生じた。
爆発で立ち込めた煙にむせ込むグラスとベガ。煙が晴れて二人が見た光景はすでに”メガシンカ”が解けた状態で倒れていたレックウザとラグラージの姿だった。
すでに戦闘不能となったレックウザの姿はベガに強烈なショックを与え、そして憤りを感じていた。歯軋りと共に額にしわを寄せるベガの姿は誰の目に見ても猛り狂っていることは見えていた。
「おのれ下等生物が……!わが僕メガレックウザを倒してしまうとは……!!」
隠そうともしない殺気を込めたまなざしでグラスを睨んだ。グラスも怯むことなく剣を手に取った。レックウザと同じく戦闘不能になって倒れている仲間達を介抱した一心を堪えてベガだけを見据える。
「かくなる上は私の力を持って貴様を貴様の仲間諸共葬ってくれるわ!!」
激昂したベガと仲間達を守るように対峙するグラス。すでに彼ら以外に立っているポケモンは一体たりともいなかった。