第六十一話 第三の超古代ポケモン
~~ 海岸 ~~
「あ……あれが……!!」
一足先にグラス達がゲンシカイオーガ・ゲンシグラードンが暴れているとされている海岸へとたどりついた。そこには互いに行き場のない強大な力をぶつけ合っている二体の超古代ポケモンの姿--その二体を止めようとしているリンやトノの姿があった。助けられてすぐなのだろうか十分に傷が癒えていないにも関わらず戦っている彼女の姿見たグラスは矢のように彼女等の元へ向かう。
「リンか?無事そうでよかった……」
慌しいグラスの様子とは裏腹にリン(とトノ)の表情はどこか苛立ちを見せていた。まるでくだらないことで呼び止めるなといわんばかりに眉を顰める。
自分を無視するなと全く別のことで怒っているトノを抑えながらグラスに対して怒る。怒られても安否を気遣う様子を隠さないのはグラスのずれた性格から来るのだろうか。
「ったく……そんなかっこつけてる暇があったらこのデカブツをどう止めるか考えなさいよ!!」
リンが指差した先には依然としてゲンシグラードンとゲンシカイオーガが暴れている様子だった。並のポケモンでは一瞬でも二体に触れることすら許されないほどの激しさをこれでもかという程に見せ付けている。戦いが激しさを増すにつれて天候もそれに比例するように荒れ具合を増していく。
荒れ狂う天候を見ていてもたっても居られなくなったトノとグラスがグラードンとカイオーガを止めに入ろうと二体に飛び込んでいった--が、当然のごとくグラードンの一振りにトノもグラスも容易く吹き飛ばされていった。向こう見ずなこの二人の行動にリンもラックも呆れ顔。
しかし二人を諌めようにも自分達も明確な術を思いつくはずもなかった。それもそうだ、相手は本来の力を取り戻した伝説のポケモン。一介の救助隊の一員である自分達が到底適うはずもない。
強大な力にどうしようもなく立ちすくんでいたその時だった。荒れ狂う空模様に裂け目が入るように光が差し込んだ。その空の裂け目から緑色の東洋流のような風体のポケモンが姿を現す。
「あれは……レックウザ!?」
唯一緑色のポケモンに見覚えのあるシリウスがそのポケモンの名--レックウザの名を口にする。名前を前もって聞かされていたグラスもレックウザを目の前にして一層緊張を露にする。レックウザはグラス達やグラードンやカイオーガから一回り離れた切り立った岩場の前へと移動する。切り立った岩場には一体のポケモンが立っていた。
ブラザーズに加担していたニンフィアのベガの姿があった。何故彼がこんなところにいるのかなど誰も知る由もない。べガの前に立つレックウザはまるで彼が何かを差し出すことを待ち構えていたようだった。するとレックウザはベガから取り出した隕石をためらうことなくそれを食らった。
隕石を食らったことを確認したベガは片足に身に着けていたリングを天にかざす。するとレックウザの姿に変化が見られた。顎が刃状になり大きく前に突き出し、元のレックウザが有していた元の黄色い模様が抜けたような長い髭が顎から後ろに流れるように伸びている。 それに呼応するように今まで荒れ狂っていた天候が一変--強い乱気流が生じ始めた。
「レックウザ!”ハイパーボイス”!!」
ベガが指示するとレックウザから”ハイパーボイス”が発せられた。その威力は直接食らっていないにも関わらず重量が軽いグラスやリンを吹き飛ばしかねない程の勢いを発していた。
ハイパーボイスが発せられると今まで荒れ狂っていたゲンシカイオーガ、ゲンシグラードンが嘘のようにおとなしくなり元々眠っていたそれぞれのダンジョンへと帰っていった。ベガは超古代ポケモン二体がこの場から去ったことを確認し、レックウザを自身のもとへと呼び戻しその背に乗った。
ここでベガはグラス達の存在に気が付いたのかレックウザと共に彼らの眼前へと降り立った。
「久しぶりだなチームブラザーズ。お前達は私の予想以上に役に立ってくれたな」
高圧的な態度は相変わらず、その態度にトノはむっとするが当然ベガは相手にしない。トノ以外の面々はベガの異様な雰囲気に警戒している。
「おかげで失っていた力も取り戻すこともできた。感謝してやろう。アルタイルの奴もこの手で滅ぼすこともできたしな」
「なっ……!!」
唐突にアルタイルを倒したと口にするベガにシリウスが反応、妙にアルタイルが来ることが遅くなったのはベガによって倒されたらしい。さらにベガはとんでもないことを口にする。
「間抜けな嘘をついてまでお前達に協力してきた甲斐があったというものだ。
尤もお前達が用済みになった以上お前達のような下等生物が存在すると思うだけで不愉快なことだ。
この世界諸共、消し飛ばしてやろう」
とんでもないことをとんでもない理由で口にしたベガ。散々今まで馬鹿にするような口ぶり加えてこの発言にトノは激昂。怒りにみを任せて飛び掛るがベガの指示を受けたレックウザに軽くいなされ、また吹き飛ばされる。
「フン、お前のような単細胞が視界に入るだけで虫唾が走る……!!」
本気でトノのみならずグラス達も見下すような目つきでベガが吐き捨てた。レックウザに空を飛ぶを指示した彼はこの場から離れようとする。
「--そうだな、今まで協力してくれたせめてもの礼だ。もし万一私と止める意思があるならば”てんくうのとう”まで来い。尤も、お前達なんぞに飛行手段があればの話だがな……。
ハハハハハハハハハハ!!!!」
高笑いと共にベガはレックウザと共に空へと消えていった。この面々の中に誰一人として飛行手段を持たないグラス達はその姿を黙って見ているしかなかった。
二度も吹き飛ばされてもなお黙っていられずにトノはグラスへと詰め寄る。
「えぇい!!どうするんじゃ!!アイツを追う術はないのか!!」
「無理を言うな。私達の知っているポケモンに空を飛べるポケモンなど……」
グラスもこればかりはどうしようもなく意気消沈する。いかに頭を捻っても自分達には空を飛ぶ術などない、増してや周りに空を飛べるポケモンも……。
「いたわ!!あたし達が知っている中で一人だけ空を飛べるポケモンが!!」
手を叩いてリンがそう発した。全員が興味深そうにリンの顔を覗き込むように見入る。
「あのフライゴンよ!!アイツだったら空飛べるかも!!」
期待を込めた眼差しが一転、瞬く間に隠そうともせずに落胆の様子を浮かべる。無理もない、そのフライゴンは幾度となく自分達の邪魔をしてきた相手。そんな奴がとても自分達の力になるとは到底考えにくい。
「でも、他にアテもなさそうじゃない?とりあえず言ってみる!!」
リンがそのまま海岸を後にした。その直後、今度はトノは何か言いたげにグラス達の前に立つ。そのトノの表情は先ほどまでの彼とは同じポケモンとは思えないほど真剣な表情だった。
「グラス、ラック、あとグラスの師匠。ちょっとでいいから聞いてくれぬか?」
”なんだ”とグラスに返されたトノはあの家宝の宝玉を取り出した。今更隠れ特性の話をするのかと呆れかえりそうになったグラス達が見たものは--
「--!!?」
その宝玉を叩き割ったトノの姿だった。あれほど大切にしていた宝玉を叩き割る彼の姿にはラックでさえも驚きを浮かべていた。叩き割られた宝玉の中からはベガが所持していたリングに酷似している腕輪があった。トノは腕輪を拾い上げ、グラスへと手渡す。
「これはキーストーンの”メガバングル”じゃ。本当はこのことは隠しておきたかったのじゃが……もはやそんなことも言っておれんじゃろ」
「……それを何故私に?」
「えぇい!!わからんのか!!ベガ(あいつ)は見たところキーストーンを持ってしてレックウザを操っておる!!だったらこっちもお前がこれを持たねば話にならんじゃろうが!!」
”メガバングル”をグラスへ押し付けるトノは大声を張り上げる。わかったと承諾したグラスはトノからメガバングルを受け取った。その一部始終を見ていたラックが前に出る。
「だったら次は俺の番かな」
一歩前に出たラックもトノと同じように石を取り出した。さらにまた同じように彼もその石を叩き壊し、そして二つのタネを口にした。
その瞬間、ラックの体が異変--もとい進化を始めた。小さいミズゴロウだったラックの体はたくましいラグラージへと進化していった。シリウスはラックが壊した石が”かわらずのいし”だと判断。
「悪いな。ちょいと訳あって進化できなかったんだがな。でもそうも言ってられねぇ状況になっちまったしよ」
どういう訳あってなのか言及したかったもののそんな猶予もない。ラグラージに進化したラックへグラスは”ラグラージナイト”を手渡した。