第五十九話 手荒い歓迎
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「こ……これは……!?」
マグマのちていにリンを助けに向かったシリウスが道中で見つけたのはこの異常気象の原因である超古代ポケモン--グラードンの姿だった。しかしそのグラードンの姿は彼女が知っていたグラードンとはどこか様子がおかしかった。従来のグラードンより全身にみなぎるエネルギーがマグマと化してあふれ出し、超高温で放熱しているため、常にその身体の周囲には陽炎が揺らめいている。
マグマ状の肉体が常に流動し、その皮膚はルビーのような質感で輝いているおり 全身に浮き上がったマグマは眩い程の光を放っている。
あまりに強大なマグマ状のエネルギーは周囲に与える影響も異常だった。グラードンが通った周辺にはグラードンの皮膚からボトりと落ちたマグマがポケモン達や自然を暑さで苦しんでいる様子が見受けられる。
「急がないと……!!」
目の前の異常事態に危機感を煽られたシリウスは早足でリンが倒れているであろうマグマの地底へと向かっていった。ビリジオンが持つすばやさからか彼女が目的の地までたどり着くのにさほど時間はかからなかった。
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バースから手渡された転送装置を使いアルタイルのアジトへと踏み入れたが、アジト内は彼らの想像とはやや違っていた。コンクリートでできた無機質な壁や地面に囲まれていたりするところはいかにもな雰囲気を醸し出してはいるが、ところどころにマグマが噴出していたりするところを見てラックは思わず”うわぁ……”声を漏らしてしまう。
「おいグラスよ、お前こんなところよく踏破できたな」
「いや、以前来た時はこんなマグマなんてなかったはずだが……」
グラスもこの光景に焦りを隠せずには居られない。話を聞いたラックは以前グラスが飛ばされた地点と全く別の地点に自分達は飛ばされたのだろうと推察する。そのギミックを交えたアルタイルのアジトはさながら本物の不思議のダンジョンのようだ。
「おやおや……どうやら早速歓迎されたみたいだぜ?」
ラックが構えると上から大量の手下ポケモンが降ってきた。ドリュウズが三体、フーディンが二体、キノガッサが三体とタイプに偏りがないことを除けば本物のモンスターハウスのようだった。敵ポケモン達は一斉にグラス達に襲い掛かる。
フーディンが先手を取って”きあいだま”をグラスへ向けて打ち込んだ。剣を手に取ったグラスは”きあいだま”をドリュウズがいる方向へ向けてはじき返した。弱点攻撃を食らったドリュウズの一体はそのまま目を回して倒れる。
行き着くまもなくキノガッサが”マッハパンチ”で殴りかかった。グラスは身をかがめて攻撃を避ける。
「”けたぐり”!!」
身をかがめた状態でキノガッサの片足を蹴飛ばした。転ばされたキノガッサはそのまま腹にグラスの膝蹴りを浴びる。仲間を助けようともう一体のキノガッサを”いあいぎり”できりつける。
ドリュウズとフーディンをあいてしたラックは早速”どろばくだん”を生成。ドリュウズ二体は”ドリルライナー”で突っ込んできた。そこに併せて爆弾を投げつけた。ドリュウズはそのまま倒され、フーディンも泥に視界を奪われて思わず目を覆う。
その隙をついて”アクアテール”を放った。水流を纏った尾を力強く振るいフーディンを吹き飛ばした。
「よし、急ごう」
~~ マグマのちてい さいかそう ~~
マグマの地底の最下層へとたどり着いたシリウスが目にしたのはやはり敵にやられたのかボロボロになって倒れていたリンの姿があった。慌てて倒れているリンのもとへ駆け寄り懐からオボンの実を取り出した。
「ん……?お、おししょうさま……?」
「気がついた?」
体を起こすリンにオボンの実を手渡す。オボンの実を口にしたリンは傷が少しばかし言えたのかゆっくりと立ち上がる。なんとか大事には至らなかったとシリウスもほっと安堵の表情を浮かべた。どうやら自分で傷を治癒できるほどには回復した様子。
「どうしたお師匠様がここに……」
「グラードンが目覚めたのを見てね、グラスが助けに行って欲しいと頼まれたの」
「そう……ですか……」
グラードンが目覚めたと聞かされてリンの表情が曇った。当然自分が止めるべき対象を止めることができなかった事実を突きつけられては仕方ない。
さほど時間もかからない間に治療はある程度は終えたのかリンの体はある程度は動けるようになっていた。
「とにかく今はアルタイルや超古代ポケモンをどう止めるか考えるしかないわ。あなたはトノさまの救援に向かってもらえるかしら?」
「え?じゃあお師匠様は?」
「わたしはアルタイルの元へ向かうわ。グラス達を助けにね」
グラスとラックはアルタイルの元へ向かったと聞かされてリンも居ても立っても居られなくなったがこの状態の自分が向かっても足を引っ張るしかないと判断しシリウスの案に応じた。
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アルタイルの部屋の前の扉へとたどり着いたグラス達。ボスの一室だけあって変わってはいないだろうとグラスもラックもドアに手をかける前に緊張が走る。
『--!!』
扉を開けた瞬間に轟音が真横で発せられた。目視できた限りでは自分達の真横に巨大な黄緑色の物体が猛スピードで壁に叩きつけられたようだ。驚きのままグラスもラックも隣へと視線を移す。
そこにはボロボロにされた状態のメガバンギラス--バースが横たわっていた。バースもグラス達に気がついたのか思わずしたうちをする。
「チッ!お前達が来るまでに奴とケリを付けたかったが……!」
あの聞き覚えのある声の主の方へグラス達が振り向くと、そこには討つべき敵--サザンドラのアルタイルが笑みを浮かべていた。
「クックック……。ようこそ我がアジトへ……」
反旗を翻したバースとは対照的にバースを返り討ちにしたであろうアルタイルはいつものようなニコニコとした笑顔を浮かべている。しかしその表情にはどこか背筋が凍るような冷たさを出し切っている。
「愚かな裏切り者--バースはこの通り始末しました……。しかしグラス、あなたと戦いたいがために私は邪魔だと歯向かっておきながらこの醜態を晒した男があなたのライバルだなんてねぇ……」
笑顔でバースを侮辱する言葉を吐き捨てるアルタイルを尻目にバースは表情を曇らせる。まさかバースがやられるとは思ってもいなかったグラスはいまだに平静を保つことができていない。
満身創痍という文字が相応しいほどの傷を負ったバースが息を切らせつつ口を開ける。
「グラス……、大口を叩いておきながらこのザマだ」
「バース……」
今までに三度戦って一度たりとも地を付けさせることができなかったあのバンギラスをこのサザンドラがここまで完膚なきまでに叩きのめしたことを信じられずにいるグラス。そんなグラスにバースが息を切らせながら続ける。
「やられるんじゃないぞグラス……。奴は想像以上に強い……!!」
「黙りなさい!!」
弱ってる体にアルタイルが怒声とともに”あくのはどう”を打ち込んだ。”あくのはどう”に呻き声とともに身を包まれたバースはとうとう完全に体力が尽きてしまった。攻撃がやんだときには既にバースの姿はなかった。
あまりに唐突な状況にラックでさえも目を見開くが、そんなことがアルタイルが気にかけるはずもなく二人を睨みながら口を開く。
「……私はこの日が来るのをひたすらに待ちわびました……。二体の超古代ポケモンの力を持って私の理想郷を築くというもの……。その目的を成就させるために邪魔をされては困りますからね……」
サザンドラ特有の三つの口がグラスへとむけて同時に向けられた。隠そうともしないアルタイルの殺意を向けられグラスもラックも表情を引きつらせる。
「あなた方には消えてもらいます」