第五十六話 第三の超古代ポケモン
~~ いんせきのどうくつ ~~
グラスはベガに連れて行かれた先--いんせきのどうくつと呼ばれる洞窟へと足
を運んでいた。偶然にも”らいめいのやま”に近いこのどうくつは比較的グラス達の拠点に近く時間はさほどかからなかった。
「ベガよ。どうしてここの地に?」
「気になることがある。お前はレックウザというポケモンを知っているか?」
彼の問いかけにグラスは首を横に振る。その返答にベガははぁとため息をつき
つつも説明をおっぱじめた。
レックウザはその体内に”メガストーン”と同じ力を持つミカド器官と呼ばれ
る内蔵を持っており、”てんくうのとう”と言われるダンジョンに住むレックウ
ザは本能的に宇宙から飛来する隕石を壊し食べ続けるといわれてる。
体内にたまった隕石をレックウザのエネルギーと融合させて”メガストーン”
と同じ力を生み出す--それがミカド器官の役割と--
このミカド器官によって自らの力でメガシンカしたレックウザはグラードンとカ
イオーガを超越する力を持ち--この二体の争いを幾度となくおさめてきたと伝承
れていた。
「これほどの特徴を持ったレックウザはメガリング--もといキーストーンが反応
して新たな姿に変化するところを目の当たりにした者達はそれをポケモンの新た
な可能性--進化の形のひとつとして編み出されたのが今のメガシンカといわれて
るのだ」
ベガの口から出たのは”レックウザ”と呼ばれるポケモンの常軌を逸したほど
の力とそれを手にした経緯だった。
「アルタイルはその力に目をつけて伝承通りにグラードンとカイオーガを呼びお
こし、レックウザへのアプローチをかけているに違いないだろう」
「ではやつが”メガシンカ”について研究したのも超古代ポケモンの二体を呼び
起こそうとしたのも……」
グラスが言い切る前に”そういうことだ”と言い放った。グラスの脳裏には幾
度となくベガから放たれた”いんせき”というワードとこのダンジョンの地名が
リンクさせられる。
「もしや私をここに連れてきたのも--」
「嗚呼、レックウザをメガシンカさせることの隕石を奴等より先に奪い取り、あ
わよくば奴等の手下、ないしやつ自身をそのままひっとらえようという算段だ」
まさかアルタイル自身が乗り込んでくるとは考えにくいにしても、ベガの算段
を理解したグラスは彼よりも先に目的の隕石を探し始めた。その後を追うように
ベガも隕石を探り始めた。
「--っ……」
何か泥のついた石ころのようなものを手に取ったベガはしかめ面。グラスと目
を合わせることすらなくグラスへと投げかける。唐突に何かを投げつけられたグ
ラスは”なんだこれは”をベガへとたずねる。
「”ラグラージナイト”だ。ラグラージに持たせた上でキーストーンと併せれば
ラグラージをメガシンカさせることができるが……私には必要ないからお前達が
持っているなり捨てるなり好きにしろ」
さながら本当の石ころのようにずさんに扱ったベガとは対照的にグラスは”ラ
グラージナイト”をバッグへとしまった。当然だがラグラージもキーストーンも
持っていないグラスには今では必要のないものであるが。
「--!?伏せろ!!」
突発的に殺気を感じたグラスはベガを抱えて岩陰に飛び込んだ。その直後に先
ほどまで彼らが立っていた地面には無数のとがった岩が音をたてて突き刺さる。
「ダンジョンのポケモンか!?」
「違う、ここにすんでいるポケモンは居ないはずだ。となると……」
二人が睨んだ先には案の定、彼らを狙う敵が眼前に立っていた。その敵の姿に
グラスは見覚えがあった。
「--!!バースか……!?」
バース--バンギラスが攻撃の主だった。しかし彼もメガシンカをしているのか
バンギラス特有の背中のトゲが伸びており体も一回り大きくなっている。彼がメ
ガシンカしているということは--
「お前もアルタイルに仕えていたのか?バースよ?」
「…………」
バースは口を開けることはない。しかしメガシンカの力を有しているというこ
とはアルタイルに仕えているに違いないとグラスは考えた。バースは黙ってグラ
スを睨み、拳に冷気を込め--殴りかかる。
グラス達は攻撃をかわし、バースの”れいとうパンチ”は先刻まで彼らが立っ
ていた地面へと直撃。すると拳を受けた地面が瞬く間に凍結していった。凍結し
た地面から発せられた冷気を浴びたグラスは背筋が凍る感覚に見舞われた。
(メガバンギラスは特筆する特徴こそはないが能力が万遍なく伸びる。元々のポ
テンシャルが高いバンギラスのメガシンカだ。生半可な攻撃は通用しない、どうするグラスよ)
いち早く戦いの場から遠ざかったベガはメガシンカしたバース--メガバンギラ
スの姿を見て眉を顰める。相性さえも覆しかねない彼の攻撃力は直接戦わずとも
ベガは感じていた。
一方でバースと対峙したグラスは剣を抜き、”リーフブレード”でバースに切
りかかった。バースは微動だにせずに斬撃を真っ向から食らった。
「…………」
「なっ……!?」
ダメージに痛がるそぶりを全く見せない。仮にも岩タイプ相手が草タイプの攻
撃を食らった。だが目の前のバンギラスは目を見開いくグラスを見下すような目
つきで睨む。
次はシリウスから教わった”せいなるつるぎ”で切りかかる。格闘技に極端に
弱いバンギラスなら相当な痛手になるはずと踏んだ。攻撃は確かに直撃、グラス
は確かにその手ごたえを感じたがバースは同じように痛がるそぶりを見せない。
「……この程度か」
「--!!?」
バースが右腕を上げ、勢いよく振り下ろすと今まで無造作に待っていた砂嵐が
突然意思を持つように動きを変え、グラスに向かって襲い掛かってきた。さなが
ら砂でできた津波のごとく砂嵐はグラスを飲み込んだ。