第五十四話 カイオーガ
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ベガの指示を(嫌々)受けたトノはカイオーガがいるといわれている”あらしの
かいいき”と呼ばれるダンジョンへと足を踏み入れていた。ラックが離脱してい
る今、水ポケモンが彼しかおらず仕方なしの役割であっただけに--
「うわあああああああああああああああああああああああああああああぁぁっ!?
」
当然このダンジョンに住んでいるポケモンは水ポケモンばかり。そして中には
特性”すいすい”をあわせもつポケモンも少なくなく、トノの特性”あめふらし
”を受けて速度を上げて襲い掛かってきた。
ただでさえ集団戦になれていないトノが”すいすい”の真っ只中にいる敵の対
処などできるわけもなくただただ逃げ惑っていた。
勿論逃げ切れる筈もなく幾度となく攻撃を被弾したトノだが、どうにかこうに
かダンジョンの最深部へとたどりつくことができた。
「……ほぅ、まさかこんなところに思わぬスペシャルゲストが来るとはねぇ……
」
周りの水とは違いひときわ目立ったるり色の海で眠っているカイオーガ。そん
なカイオーガを目覚めさせようとせんばかりに”あいいろのたま”を手にとって
いるのはトノの知ったポケモン--フシギバナだった。
しかしフシギバナの面影こそは残してはいるものの彼のよくしったバナとは明
らかに違っていた。
「よぉバカトノ!!久しぶりじゃねぇか!!」
「バナ、お前……変わったな……」
「ハッハッハ!お前の間抜け面はかわらねぇなぁ!!」
どこか嬉しげに歓迎するバナとは対照的にトノは唖然とした様子で口にする。
バナを指差した彼の指は変わり果てた友の姿に小刻みに震えているのだろうか。
「バナ……ケツに花をくっつけとる……」
「そこかよ!!」
バナの背後--尻についていた花に驚いていたトノにバナも思わず突っ込まずに
はいられなかった。一瞬ではあるがいつものような雰囲気に戻りつつはあったが
すぐに元のような緊張感溢れるぴりぴりとした空気に戻る。
「バナ、どうしてお前がカイオーガを……」
「ああ、アルタイル様の命令でねぇ……」
「--!!?」
薄々は感づいてはいたもののやはりハッキリと口に出されただけにトノにはシ
ョックだった。バナが言うにはトノが屋敷を去ってからバナは病におかされてそ
の時アルタイルに助けられた。
そして彼はそんな恩義を感じてアルタイルのもとに仕えることにしたとのこと
だが--
(あいつ……バナにまで洗脳を……!!)
わかっていた。本当はアルタイルは友にまで洗脳をかけていた。あのサザンド
ラにトノは怒りを再燃させた。しかし今は当の本人はいない。今自分がやれるこ
とはバナをとめることただそれだけ。ぐっと拳に力を込める。
「カイオーガを目覚めさせるの止めたいんだろバカトノ?だったら力ずくで僕を止
めてみなよ」
挑発的な態度と言葉を投げかける。意図があってかどうかは知らないが彼の挑
発はトノの戦闘意欲を煽っていた。そんな彼に呼応するように天候は大雨が降り
始める。
雨下でトノは”ハイドロポンプ”をバナに向けて発した。さすがに相性を無視
した威力を誇っているからかバナは受け止めることがなくかわした。その背後に
は眠っているカイオーガがそのまま水流を受け止めた。
「--ありがとよ。バカトノよぉ……」
「--!?」
「お前のおかげで手っ取り早くカイオーガを目覚めさせれたよ」
不適にバナが笑みを浮かべると、水流を受けたカイオーガが動き始めた。水流
と大雨が引き金となり今まで微動だにしなかったカイオーガがうそのように生き
生きと動き始めたからかに吠え出す。
カイオーガが目覚めだすと大雨が一層激しく降り始めた。その勢いはトノが起
こしたそれとは比較にならないほどでありトノもバナもその勢いに驚きを浮かべ
ていた。
カイオーガはそのままダンジョンから飛び出した。図らずもカイオーガを目覚
めさせるきっかけを生み出してしまいトノは悔しさで苦々しい表情を浮かべる。
~~ マグマのちてい さいかそう ~~
「グッ!!」
アドンと交戦していたリンは予想していなかったあのリザードンの変化に苦戦
していた。青白い炎をまとった黒龍は力強い打撃攻撃でリンを追い詰める。今ま
でリンが知っていたリザードンは物理攻撃よりも特殊攻撃を得意としていたが、
このアドンは物理攻撃を遺憾なく振るっている。
「貴様は知らぬようだな。なぜ我々リザードンが至高の種族だということを……
」
荒い息遣いで攻撃を避けるリンとは対照的にアドンは得意げに説明を始めた。
決して彼は伊達や酔狂で至高の種族を名乗っているわけではなかった。
「”メガシンカ”は選ばれたポケモンのみが許された特権。中でも我々リザード
ンは二種の”メガシンカ”を扱うことができるのだ」
以前自分を拉致したときに見せた姿と今”マグマの地底”で見せたアドンの姿
。これが彼の言う二種のメガシンカなのだろう。同じリザードンでありながら全
く別のポケモンに変化することができると知らされてリンは必死に打開策を練っ
ていた。
「いくら頭を働かせたところで……絶望的な違い--種族の違いを埋めることはで
きん!!」
拳に力を込め”炎のパンチ”でリンに襲い掛かった。一発でも食らってられな
いとリンはあわてて飛びのいた。 その拳を受け、ひび割れた地面は炎の拳の威
力を物語っていた。しかしリンはその威力にも臆する気配がない。
「二種類のメガシンカね……でも--」
「--?何?」
リザードンながら今まで地面に足をつけて戦っていたアドン。何か気がついた
のかリンはむしろ笑みさえも浮かべていた。その様子が気に食わないのかアドン
は額にしわを寄せる。
「あなた、地面を蹴って移動するのは慣れてないんじゃ……ないかしらッ!!」
「グゥッ……!!」
アドンの懐にもぐりこみ、彼の左足に思い切り”リーフブレード”を打ち込ん
だ。炎タイプであるはずだがその割にダメージが入ったのかアドンは片膝を地に
つけてしまう。
「き、貴様……!!」
「多分その形態は地上戦に特化した型……。でもあなたは今まで翼で飛んでばか
りでそれを十分に生かすための足腰が作られていなかった……」
今のアドンが従来のりザードンより翼が小さくなっていたこと、そして地面を
蹴って戦っていたことがリンには気になっていた。
全力とはいえ技を数発出しただけで足がわずかに震えた彼の様子を見てリンは
足腰に隙があると推察していた。
「”至高の種族”なんて言う割にはちょっと修行がお粗末だったんじゃないかし
ら?」
「お……おのれ……」
あざけるようなリンの態度に初めてアドンの顔から余裕が消えた。しかし強が
ってみたところで体は嘘がつけず足は言うことを聞かない。仕方ないと思いつつ
彼の体は光り輝き始めた。
光が収まるといつぞやにリンを拉致したときのあの姿に戻っていた。それと同
時にフィールドが強い日差しを覆い始めた。