第五十三話 グラードン
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暗闇峠から宝玉を奪還したアルタイルは自身の基地へと戻り、自室に設置された椅子へと腰掛けている。そこへ彼に仕えているドンファン--グランガが彼の前へと姿を現す。
クラッシャと違って狡猾な彼はその後も彼のもとでひっそりと暗躍していた。
「ご報告いたしますアルタイル様。ヤマトとライト様が奴等にやられた模様です。おそらくはブラザーズのミズゴロウとあのビリジオンにやられたと思われます
」
「ふむ……」
ライトがシリウスにやられるのは彼にとっても想定内。しかしアルタイルも認めたポテンシャルを持っていたヤマトがあのミズゴロウにやられた。その知らせを耳にしたアルタイルは驚きで目を見開く。
--彼を向かわせたのはまだ早計だったか。アルタイルは少しばかり後悔していた。洗脳にまだなじんでいないヤマトでは暴走したところをつかれて敗北したのかと。アルタイルは自身の早計さを悔いた。
「それとクラッシャやヤマトのチームメイトがやられてブラザーズ手に落ちた模様です」
「そうですか。貴方はもう下がってもかまいませんよ」
「はっ」
グランガが退出してもアルタイルはまるで誰かを待っているかのようにじっと扉を見据えた。直に彼の眼前にはまた別のポケモンが姿を現す。
「アルタイル様ー?ヤマトがやられたって本当ですかー?」
様と敬称こそつけていれど、軽い声質と共に現れたのはフシギバナだ。彼も例外ではなく洗脳を受けているからか目つきが普通のフシギバナより生気を失ったものとなっている。
「おやおや、バナですか。お待ちしておりましたよ」
フシギバナ--バナが姿を現し、アルタイルは笑顔で彼を出迎える。やり取りこそは穏やかではあるが、普通のポケモンであれば一秒たりともこの場にはいられない恐ろしい雰囲気が部屋中に醸し出される。
また別のポケモンが姿を現す。リザードンのアドン。そしてバンギラスだ。この2体が姿をあらわしたことでアルタイルは”全員そろいましたね”とあたりを見回しつつそう口にする。
「フン、ヤマトのやつ。下等生物の癖に不相応な力を持とうとするから無様に敗北するのだ」
悪態を吐くのはアドンだ。自身以外のポケモンを常に下に見ている彼は単純に弱いヤマトのことが気に食わなかった。そんな彼をバナがまぁまぁとなだめるが当然効果などなさない。
そんなアドンの前に砂塵が舞う。
「今は一文にもならない罵倒をしている場合ではないだろう。我々は目的を遂行するのが先だ」
バンギラスが現れた。彼がそう口にすることでかアドンも口を閉じ、アルタイルのほうを見据える。おとなしくなったことでアルタイルは本題を切り出す。
「機は熟しました。メガリングもそれを操る相応の力も、そしてこの宝玉を得ることができました。アドンとバナ、あなた方にはこの宝玉を持ち”マグマの地底”とあらしのかいいき”へと向かってもらいます」
バナを”あらしのかいいき”へとアドンを”マグマのちてい”へと向かうように命じた。それぞれ超古代ポケモン--カイオーガとグラードンが眠っていると言われているダンジョン、すなわちアルタイルは彼らを目覚めさしてその力を制御しようと企てている。命令を受けたバナとアドンはそのままダンジョンへと向かっていった。
部屋にはアルタイルとバンギラスのみが残っている。
「しかしアルタイル様、よいのですか?ブラザーズの奴等を放っておいても?またやつらに我々の邪魔をされかねませんが?」
「心配には及びません。ヤマトやライトのおかげで今の彼らは戦力が足りていないでしょう。そんな状態では精々あの二人のうちどちらか一人を止めるのが精いっぱいです。我々はグラードンとカイオーガのどちらかさえ目覚めさせればよいのですから……」
「そうですか……ではオレは命じられた通り”いんせきのどうくつ”へと向かいます」
それだけ言い残してバンギラスは去っていった。彼の去り際にアルタイルはこう投げかける。
「ククク……期待していますよ?--バース……」
~~ ブラザーズ 基地 ~~
「師匠……大丈夫だろうか……」
一度基地へと戻っていったグラス達3人とベガ。グラスはライトの囮となったシリウスの身を案じている。
「今はそんなこと考えている暇などない。一刻も早くアルタイルの野望を阻止することが先決だ」
バッサリと”そんなこと”と切り捨てる、一瞬はベガに殴りかかろうとするグラスもすぐに落ち着く。彼らの明確な目的を知っているベガは彼らの目的地である”マグマのちてい””あらしのかいいき”の場所を地図を用いて説明する。
「時間がないから分担していく。いいな?」
まとまって向かってはどちらもとめることなどできるはずもない。話し合いの結果リンとトノは命じられた通りのダンジョンへと向かっていった。
「ベガよ。私はどうすればいい?」
「お前にもどちらかについていってもらおうかと考えていた。だが気になることがある。私について来い」
残されたグラスはベガに言われるがままに彼のあとをついていった。
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「グラードン……。灼熱の溶岩の中ももろともせず眠りにつく雄雄しき姿……。この私が直々に目覚めさせるには相応しい上等なポケモンだな……」
マグマの地底最下層。アルタイルの命を受けてここまでたどり着いたリザードンのアドンは静かに眠っている町古代ポケモン--グラードンを目覚めさせようと”べにいろのたま”を取り出す。
”べにいろのたま”が輝き始めると今まで眠っていたグラードンが徐々に目覚め始める。灰色を帯びた体がまるで脱皮するかのように剥ぎ取られ、グラードン本来の姿である赤みを帯びた色へと戻っていっている。
”たま”をかざしたままアドンが口を開けた。彼の背後にはグラードンの目覚めを阻止せんとばかりにリンがたっている。グラードンが目覚め終わったと判断したアドンは彼女のほうへと振り向いた。
「……少し遅かったようだな。もう少しはやければ私と共に超古代ポケモン、グラードンが目覚める歴史的瞬間を見ることができたものを……」
アドンのすぐ背後には雄たけびを上げるが”たま”で制御されているからか、全くグラードンはアドンを攻撃するそぶりを見せない。またグラードンは雄たけびをあげてマグマの中から勢いよく飛び出した。対峙せずともグラードンの強大な力をリンは感じていた。真っ向から自分がどうこうできるようなポケモンではないと。
「そうだな。ここまでたどり着いた褒美だ。貴様にはいいことを教えよう。グラードンを止めたくば、すぐに私を倒し”べにいろのたま”を奪い返すことだな。いくら超古代ポケモンとて目覚めたばかりでは本領も発揮できるまいよ」
どうすればよいか考えあぐねていたリンに、ここまでアドンがご丁寧にぺらぺらと解決策を話し続ける。内心では彼女のことを気に入っているからだろうか。臨戦体制をとるリンを見てかアドンはニヤリと笑みを浮かべ姿を一変させた。
”メガシンカ”が来る。そう確信し警戒するリンが見たものは信じられないものであった。真っ黒な体に青白い炎をまとったアドンの姿。それは今までリンが知っていたリザードンとは似て似つかぬ姿だったのだ。