第五十二話 メガランチャー
突然ボンから発せられた友(バナ)の行方不明の知らせ。トノはどういうことだと彼の掴みかかり動揺のあまりボンの体を揺らしまくる。その時であった。爆音が近くで発せられたのは。
爆撃を起した正体--カメックスから発せられた”あくのはどう”はリザード達を爆風とともに吹き飛ばした。当然のように周りのポケモン達の注目を集めたカメックスだがそんなことは気にも留めずにリザードの元へ近寄っていく。
先の一撃でリザードの体はすでにボロボロであり、身動きが取れない状態。しかしカメックスはそんな彼にも容赦なくキャノン砲を向け、止めを刺そうとせんばかりに再び”あくのはどう”を放つ--
『"リーフブレード"!!』
「--!?」
キャノン砲に向けて二つの緑の刃が切りかかってきた。カメックスが気がついた時にはすでに手遅れ、右腕に傷を負った。攻撃の放たれた方向を睨むとそこにはWリーフブレード”を放ったであろうキモリとツタージャそして彼らの後ろでミズゴロウとニョロトノが彼の前で対峙している。
カメックスのたった一撃で起こった辺りの惨状にラック以外の3人が慄然。ラックはただ一人、短時間で思考しグラス達へ指示を出す。
「リン。おめぇは彼らの治療--グラスとトノサマとお連れさんは周りのポケモンを避難させてくれ」
「ラックよ?お主はどうするつもりじゃ?」
「…………俺は単独であいつを止める」
突拍子もない無茶を発し、ラック以外の面々が思わず止めに入る。特にリンは必死の形相でラックを止めに入る。その姿はほんの数十秒前にボンへつかみかかったトノの姿を彷彿とさせる。
そんな彼女を諭すようにずいっと詰め寄るリンとの距離を離し、ラックは--リンへ耳打ち、彼の言葉を受け取ったリンは納得したように
「……わかった、気をつけてね……」
とだけ発してリザード達を連れてその場から去って行った。グラス達もポケモン達の救助にあたった。
仲間達がこの場から離れてラックはじっとカメックスを見据えた。カメックスもまた自身の邪魔をしようとせんばかりに対峙しているラックを睨む。
「……ナゼオイラノ ジャマヲスル?」
カメックスがここで初めて口を開いた。カメックスの醸し出している雰囲気や彼の一人称からラックの抱いていた疑問が確信に変わった。
「お前さん……やっぱりガンバルズのヤマトだな?」
「…………」
図星なのかカメックス--ヤマトは口を開かなかった。質問を返す形でラックが続ける。
「どうしてこんなことをした?」
「オマエニハ カンケイノ ナイコトダ」
傷ついた右腕の変わりにヤマトは左腕のキャノン砲をラックへと向けた。おぼつかないカタコトに加えて、ヤマトとかかわりのあったリザードやフライゴンを襲ったことからラックは容易く状況を把握。
ヤマトの過剰な復讐心をアルタイルに目をつけられていいように扱われているのだろうと。ラックは懐から銀の針を取り出した。
「悪いことはいわん。復讐なんてやめときな」
「ソレハムリダ ヤツラニモ オイラトオナジイタミヲアジワウヒツヨウガアル」
「やれやれ……久しぶりに相手するよ……」
溜息をつきラックは手に取っていた銀の針をヤマトへと向けて彼に睨んだ。今にも自身をしとめようとせんばかりのラックの鋭い目つきにヤマトは一瞬ではあるがおそれのあまりたじろいでしまった。
「聞き分けのない患者の相手をするのは……!」
ラックが投げた銀の針は矢のように勢いよく飛んでいった。ハリが飛んでくるとは頭で認識してはいるものの進化したてで体がついていかないヤマトは反射的に目をつむり身を守る体制をとった。
その一瞬を見過ごさなかったラックはヤマトの頭上に飛び乗った。慌ててヤマトは飛び乗ってきたラックを振りおろそうと頭を振りまわすもラックもがっしりとしがみついており離れることはなかった。
苦戦したのちようやく離れたラックだが再びヤマトへ--今度は左腕へと飛び乗った。がすぐに振りほどかれ、地面に叩き付けられる。
チャキという音と共にヤマトの右腕から“あくのはどう“がラックへと発せられた。体制を立て直すことが遅れたラックはかわそうとするも直撃こそは避けたものの攻撃を掠めてしまう。
「……ったく、なんて威力だよ……」
ヤマトの”あくのはどう“を掠らせてしまったラックは体力を大きく消耗したのか体をよろめかせる。かすっただけでこの威力なのだからおそらく直撃すれば戦闘不能になってもおかしくはないだろう。
続けざまに右腕から発せられる”あくのはどう”をかわしながら先刻と同様に右腕へと飛び乗り、そして素早くその場から離れた。
「さー、もっかい警告だ。もう暴れるのはよしな。悪いことは言わん」
「……コトワル」
「そっか……、痛い目にあっても知らねぇぞ……?」
ヤマトはまた苛立った様子で右腕のキャノン砲を向けて“あくのはどう”を勢いよく放つ--
「--!?」
つもりだったのだがいつまでたっても攻撃が放たれることはなかった。予想だにしない状況にヤマトは焦り、腕をぶんぶんと振り回し始めるが、当然攻撃が発せられることはなかった。
「……俺が闇雲にお前さんの砲台のある場所へ飛び乗ってたと思うかい?」
意味深に笑みを浮かべるラックにヤマトは初めて焦りを見せる。ためしにと背中や左腕の砲台も動かしてみるもまったく動く気配がない。
ヤマトはいやな違和感を感じていた。自身の有する砲台がまるで何かを詰めこまれたのだろう。
ヤマトは砲台を使った攻撃しか使ってこなかった。ラックはそこについてヤマトの砲台の機能を停止させていた。ヤマトはムキになって砲台を無理やり力を込めるも--
「やめときな?無理に動かそうとすると--」
ラックが口角を吊り上げた瞬間ヤマトの砲台という砲台が暴発した。動かないにも関わらず無理に動かそうとしたからか、ヤマトの体の三方向から小規模な爆発が起こった。これで本当に砲台が使い物にならなくなってしまいヤマトは思わずあわてふためく。
「終わりだ」
気がついたら懐へと潜り込んみ、銀の針を構えていたラックはヤマトへ一撃を決める。そこは医師だからだろう急所を決め、ヤマトを一撃で地面へと伏せさせる。
「……ぐっ!」
ヤマトからもらった一撃がきいたのかラックは膝をついてしまう。立ち上がってヤマトを拘束した後にひとまず休息を挟む。
休んでいる最中にあたりに取り付けられたスピーカから音が発せられた。こんな状況だからかとても朗報が来るとは思えないラックは緊迫した面持ちを浮かべる。
『クックック……、聞こえていますか?愚民共?』
聞き覚えのある嫌味な声。アルタイルだ。なんらかの手段を用いてスピーカーの発信源を乗っ取ったのだろう。
『今から言うことをその耳をかっぽじってよく聞くことですね。この世界はわれわれがこの世界を滅ぼします!』