第五十一話 報復
--グラスとラックが逃避行の旅に出た頃、あるポケモンが彼らの知らぬところで動きを見せていた……。
~~ 小さな森 ~~
体中に痣や傷を負ったゼニガメ--ヤマトがとぼとぼとさまようように歩いていた。彼のリーダーは悪事さえ行わなくなったものの引き続いて彼をいじめ続けこき使い続けていた。少しでもリーダーの機嫌を損なうことがあればすぐさま暴行を受け彼は心身共に疲弊しきっていた。
「--痛ッ!」
前方への注意が散漫になっていたヤマトは不意にぶつかってしまう。あわてて彼は体を起して謝罪の言葉を口にしようとした--
「いってぇなぁ……ってお前は!」
ぶつかった相手はフライゴンのクラッシャ。かつてオビトが雇ったポケモンの一体であるが彼が(建前は)改心したことによりリストラを食らっていた。クラッシャはあの時の仕返しとばかりに地面に転がっているヤマトを踏みつける。
「へへへっ、久しぶりじゃねぇかおぉん?てめぇ等のせいで俺達は仕事もアテもなくさまよってたんだ……どう責任とるつもりなんだ?あぁん?」
「うぐっ……お、おいらは……」
「うっせぇ!なんでチームでもてめぇみたいな役立たずが残って俺様達が首を切られなきゃならねぇんだ!何にもない上に仕事も出来ないとかチームにいる意味意味あんのかおぉ!? 」
「ご、ごめん……」
「ゴメンで済んだら警察はいらねーんだよ……ゴミがッ!」
自分よりヤマトのほうが弱いとわかってからか強気な態度で腹いせといわんばかりにクラッシャはうずくまるヤマトのお腹を執拗にけり続けた。不条理極まりない暴行に抗うこともできずにひたすら耐えるしかなかった。そして彼の気が済んだ頃--
「ケッ!気分が悪ぃぜ。今度その間抜け面みせたら埋めっかんな」
捨て台詞と唾をヤマトへ向けて吐いてクラッシャは去って行った。クラッシャが去ってからヤマトは涙した。どうしてこうも自分だけがつらいおもいをしなければならないのか。
どこかで誰かに打ち明けようとしたこともあったが彼は後の報復を恐れていた。下手に密告すればまたオビトやクラッシャが逆上してよりきつい攻撃を受けるかもしれない。ヤマトのなかをそんな恐怖感が支配していた。
「はははは……やっぱりオイラって役立たずなんだ……」
「あのー、もしもし?大丈夫でしょうか……?」
とぼとぼ歩くヤマトだが、そんな彼の耳元にとあるポケモンが優しく声をかける。ヤマトが振り向いた先にはきょうぼうポケモン--サザンドラがとても凶暴とはかけ離れた表情で自身を見据えている。
「一体どうされましたか?」
「い、いえ……!なんでもありません……!し、失礼しま--」
あわててその場を去ろうとしてヤマトだがサザンドラに腕を掴まれてしまう。振りほどこうにも傷ついているからだではとうてい振りほどくことはできない。
「そんな傷だらけで何もないわけがないでしょう?私でよかったら相談にのりますよ?」
ヤマトはここまで自分のことを親身になって聞いてくれることがなかた。このサザンドラなら話しても大丈夫だと思い、いままで自分の身にあったことを洗いざらい話した。
「それは酷い話ですねぇ……」
そう小さくつぶやくサザンドラ。以前としてヤマトは俯き落ち込んでいる様子を露にしている。すると突発的にヤマトの体に鈍い痛みが走り蹲る。
「大丈夫ですか!?私の家で少し休まれたほうがよいのでは……」
「で、でも……遅れるとリーダーにまた……」
「大丈夫ですよ。私もついて事情を説明しますから」
懸念するヤマトにサザンドラはニコッと笑顔でそう口にした。ヤマトはこのまま彼の後をついていくことにした。
~~ ???? ~~
「ずいぶん変わった家ですね……」
「えぇ。よく言われますよ」
ふっと出てしまったヤマトの失言にも笑顔を絶やさないサザンドラ。あわてて謝罪するもサザンドラは全く気に留める様子はない。彼はヤマトの身の上話を耳にしながら治療を続けていた。
「ふわぁ〜。なんだか安心したら眠くなってきました……」
「なら少し眠られてはどうですか?」
「で、でも……」
「いいんですよ。困ったときはお互い様ではありませんか」
横になっているヤマトにサザンドラは優しく藁の布団をかけた。今まで我慢していた疲労がどっと押し寄せてきたのかヤマトは数分足らずで眠りについた。
「お礼は……これから私のために働いてもらうことで返してもらいますから」
ヤマトが眠ったとほぼ同時に、柔和な彼の笑みが同じポケモンのそれとは思えないほど邪悪な笑みへと変貌。そしてサザンドラは傍らにおいてあった機械を眠っているヤマトへとつないでいった。
~~ ~~
時がたち、グラスたちが無実を証明した頃。デマを流したということで追われていたクラッシャは報復を恐れて逃げ惑っていた。
「痛ェッ!!この野郎どこみて歩いて--」
あわてて走ったものだからぶつかってしまうが当然のごとく彼に謝罪の二文字という言葉が存在するはずもない。ぶつかったであろう相手に文句を言い始める。
ぶつかった相手はこうらポケモン--カメックスににた風体を持ったポケモンだった。しかしそのポケモンは従来のカメックスと違って特徴的だった2門の背部キャノン砲は巨大化して1門に統一され、代わりに両腕に1門ずつキャノン砲が付く姿となっている。
「てめぇはあんときのカメか!今度面見せたらどうなるかわかって俺様の邪魔しにきたのかあぁ!?」
「…………」
進化はしても雰囲気は変わってはいないのかクラッシャは強気に凄みだした。そのポケモンは口を開くことなく片腕のキャノン砲をクラッシャに向ける。
「なんだよ?屑のくせにおれに逆らう気か。はっ、死ねよおま--」
クラッシャの言葉が終わる前にキャノン砲から禍々しいオーラを放った。”あくのはどう”だ。”あくのはどう”はクラッシャの体を一瞬で飲み込む。悲鳴を上げてクラッシャは地面に伏す。
「ひぃっ!--」
カメックスは自身を見上げるクラッシャにもう一度容赦なく”あくのはどう”をぶつけた。あっけなくクラッシャは気絶してしまう。
あえてカメックスはクラッシャの体を踏みこえてその場から離れようとした。すると彼の前には仲良さげに歩いているリザードとチコリータの姿があった。リザードのほうはチームメイトを罵倒するような言葉を吐いている。
「…………」
カメックスは背中のキャノン砲をリザードたちに向け、そして”あくのはどう”を放った。