第五十話 救いようがない
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「ヘッ、おいお前ら。なーんでグラス達を追わねぇんだよ」
広場の人だかりの真ん中でふてぶてしく構えるのはグラス達が逃避行の旅に出る発端となったフライゴン--クラッシャ。彼はグラス達を1度は追ったものの途中で諦めて帰ってきた救助隊ポケモン達を責めている。
「だってよぉ、あいつら"炎の山"まで逃げちまったんだぜ?俺達にはそんなとこにはとてもおえねぇよ」
救助隊ポケモンの一人がバツが悪そうにそう答えた。他のポケモンもそれに賛同するように首を縦に振る。クラッシャにはその様子がひどく気に入らずに顔をしかめる。
「ケッ、数ばっか多い癖に情けねー奴らだぜ」
「あぁ!?そういうおまえは何なんだよクラッシャ?ずっと広場でのさばってるだけじゃねーか。文句があるならお前が行けばいいだろ!」
「へへへ、俺様はお前らと違ってアイツがくたばったという報告を受ける重要な役目があるのさ」
威張り散らしてそう口にするクラッシャに一同は徐々に不満を募らせ、一人は血相を変えてクラッシャに詰め寄っていた。元々悪評が絶えないクラッシャだけあってグラスを皆の敵に回すことで得た信用もさしたる時間がたたずとも崩れつつあった。そこにグラスをおっていたであろう一体のポケモンが--
「た、大変だあああああああぁ!ラックが……!」
「ラック……?そうか、とうとうグラスがくたばったから尻尾を巻いて帰ってきやがったんだな。ヘヘッ!!」
そう信じて疑わなかったクラッシャは汚らしい笑みを浮かべながらそう尋ねる。しかしそのポケモンはクラッシャが望んた言葉を口にはしなかった。
「違う!!アイツ、無実を証明するためにキュウコンを連れて戻ってきたんだよ!!」
「な……なにいいいいいいいいいいぃぃぃ!?」
派手に転倒するクラッシャ。彼の眼前には自信満々にこちらに歩み寄ってくるミズゴロウが伝説に現れるであろうキュウコンを引き連れている。ミズゴロウは懐かしさを醸し出した様子であたりを見回している。
「ここに来るのも随分と久しぶりだな……」
「お、おい!!」
クラッシャはミズゴロウ--ラックを睨めつける。そんなクラッシャに始めて気がついた様子のラックは対抗する形で彼を睨めつける。その殺気さえも込めた目つきは明らかに自身に向けており体を震わせるクラッシャ。
「フン、お前かいクラッシャ。随分と久方ぶりだな」
(--!?なんだコイツの自身満々な態度……。まさか……!)
背後にキュウコンを連れてたりラックのその態度。クラッシャは動揺を隠しきれずに思わず冷や汗をかく。ラックは彼の取り乱した様子にほくそ笑みつつ前に一歩荒々しく足音をたてて踏みだす。ミズゴロウ
のそれとは聞こえない足音はポケモンたちも震わせる。
「おいクラッシャ!お前いい加減なことばかり言いやがって!グラスは無実だったぞ!!」
声を荒らげるラックの迫力にクラッシャは思わず後ずさる。広場にざわめきが起こる。しかし、その声質にはどことなく喜々としたものが感じられ、ラックは思わず笑みを浮かべる。
「こちらのキュウコンが例の伝説に出てくるポケモンだ」
「し、証拠は!」
「--!!」
「そいつが言い伝えで出てくるキュウコンである証拠はどこだって聞いてんだろ!!嘘かも知れないだろ!」
このごにおよんで明らかに言いのがれを企てるクラッシャだが意外とラックは慌てふためく。自身も予想しておらず、クラッシャは汗を拭きつつ、徐々に勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ギャハハ!証拠がなけりゃしょうがない!自分からむざむざ倒されに来るとは馬鹿もはなはだしいぜ!!」
高笑いするクラッシャはあたりを見回す。
「さぁ、みんな、やっちめぇ!!げへへへへへへ!!!」
下劣に笑うクラッシャ。そこに周りのポケモン達は一斉にラックに襲いかかる--
ことはなかった。誰一人としてラックを襲うポケモンはいなかった。クラッシャはキョロキョロと辺りを見回した。やはり誰一人ラックを攻撃していない。
「みんなどうしたよ……?アイツをやっつけないのか?」
再び焦りだすクラッシャ。そこでポケモン達からニョロボンが姿を表す。
「オレは初めからグラスさんを信じてた。お前らなんかに騙されるか!」
「ゲッ……」
ここでのニョロボンが入ってきたことをきっかけにポケモンたちが騒ぎ立てる。それはクラッシャからすればまずいことだ。"証拠がなんだってんだ!"やら"俺もグラス達を信じる"といった、グラス達を擁護する声が次々とあがる。最早後がないクラッシャは青筋を立てている怒り出す。
「ケッ!アホだろお前ら!なんであの妙なキモリを信じてる訳!?大体アイツとかカッコ付けてるだけのクソ野郎じゃねーか!」
--ピクッ
ラックはクラッシャにとびかかった。押し倒されたクラッシャは罪悪感や申し訳なさを全く見せず、”なにしやがる!”怒りを顕しつつ言い返す。
「謝れ」
ミズゴロウと思えない低い声でラックはそう小さく口にする。彼の凄む口調はクラッシャを一瞬であるが震え上がらせた。自身より下と見下していた相手を危いと頭では理解していたが、彼は口では強がりを見せた。
「はぁ!?」
「お前が下らない嘘をついてグラスがどれだけ傷つけたと思っている!アイツに頭下げてわびを入れろ!」
「ケッ!やだね!」
全く反省を見せずラックは勢いでなぐりかかろうと手を振り上げる。
--が、彼の手は一本の鞘がそれを止めた。グラスだった。
「よせラック。むざむざお前が手を汚す必要はない」
口こそ制してはいるが、彼もクラッシャの卑劣極まりない行為を怒っていることは見えていた。後ろの
リンもラックと同じくクラッシャを攻撃しようとしているところを止められている。多勢に無勢とクラッシャは尻尾を巻いて逃げようとしていた。
「失せろ」
グラスがそう言われずともとクラッシャは捨て台詞を吐いて逃げていった。なにはともあれとホッと一息、グラスとリンはため息をついて座り込む。そこにあるポケモンが近づいてきた。先ほどラックをいち早く擁護したニョロボンだった。
「リンさん達……でしょ?覚えてますか?オレのこと……」
(てかなんでリンの名を?)
「えぇ勿論よ」
「あんたには世話になった。忘れるわけないだろう」
名を言われず、一人ツッコミをいれていたグラスを放置して会話が始まる。ニョロボンはトノの従者であり友達のボンであった。彼は頭をポリポリかきつつ、もの申そうとしていた。
「実は折り入ってお話がありまして……」
「どうした、そこまで遠慮することかい」
ばつが悪そうなボンとは対照的、ラックは優しくそう声をかけた。リンも同じくそう切り返すが--
「うちのフシギバナ--バナさんが行方不明なんです」
『--!!』