第四十六話 真実
炎の山にてサスケの、樹氷の森にてガマの襲撃を受けたブラザーズだがグラスが師と仰ぐポケモン--ビリジオンのシリウスの助けにより彼等は難を逃れる。シリウスは弟子の実力を見届けるという口実で氷雪の霊峰まで彼等についていくことになり--
~~ 氷雪の霊峰 ~~
「流石だな……」
コモルーの集団を容易く蹴散らすシリウスを見てラックは(彼にしては)驚嘆の声をあげる。相性差を感じさせない彼女の実力は伝説のポケモンの名に恥じない。道中の戦闘は疲弊しきっているグラスたちは後ろにまわりシリウスに任せることにした。
「……!!」
「どうしました?」
唐突にシリウスが表示を険しくし、それにつられてグラスにも緊迫した表情に。
「……ここの頂上に何か巨大な力を持つものがいるみたい……」
「--ん?それってキュウコンのことじゃねぇのかい?あやつさんなら別に頂上にいても何ら不思議じゃねぇだろ?」
頂上に何かしらの気配を感じたのだろうが、ラックは彼等が探しているポケモン--キュウコンのそれではないかと勘ぐっている。しかしシリウスはそうではないとバッサリと切り捨てた。
「恐らくだけどキュウコンよりも強い力……それを感じるの」
「……まさかまたアルタイルの差金が!?」
今まで訪れた先にもことごとくアルタイルの手下と遭遇したのだから今回もそうなることを危惧せざるを得ない。気配の主は敵意を持っているような気はしないものの、明確な正体まではシリウスにも分かり得ない。
「頂上にいるポケモンはあなた達を待ちうけてるかもしれないわ。だから道中は極力体力は温存しておいて」
「わかりました」
「あいよ」
~~ 氷雪の霊峰 頂上 ~~
道中の戦闘はシリウスに任せたグラスは目的地に到着。しかしそこには彼等が探し求めていたポケモン--キュウコンの姿はなかった。そしてそこには別のポケモンが鎮座している。
「ついに来たか……」
シリウスが感じた気配の正体はバンギラス--バースであった。既に先回りしていた彼はここまでグラスが来るのを待っていた。
「待っていたぞ。あの騒動以来俺はお前がどれだけ変われたかと心待ちにしていた……」
「……ッ!!」
グラスは口を開けることなく剣を構えた。今のバースにとってはグラスがコトの元凶かどうかなど最早どうでもよかった。ただ彼は強くなったグラスと手合わせするのを心待ちにしていただけだった。それを汲み取ったグラスはラック達に手を出さないように示す。
ラックはそれを止めようとしたがシリウスに静止される。弟子の気持ちとその力量を見極めたい彼女の好奇心をラックは止めることができずに渋々見守ることに
「……準備はできたようだな」
砂嵐が吹き始めた。言うまでもなくバースの種--バンギラスの特性は多くのポケモンに定期的にダメージを入れる悪天候を起こす特性。グラスは砂嵐のなか”リーフブレード”でバースに突撃していく。それを予期してたかのように”ストーンエッジ”で迎え撃った。無数の尖った岩がグラスにむかってくる。
「何!?」
岩の向かった先には既にグラスの姿はなかった。バースはすぐにグラスが自身の頭上に跳躍していることに気が付くもバンギラスの素早さでは体がついていかずに斬撃を食らう。
が、それでも大したダメージにはなっていないのか”かみくだく”で反撃。接近してきたところに文字通りかみくだこうと鋭いキバを近づけた。
「”二度蹴り”ッ!!」
紙一重の差で”かみくだく”をかわし、その大顎に蹴りをぶつけた。相性のうえでは格闘タイプには極端に弱い筈だがバースの足は地面から離れることなくしっかりと地を踏みしめて隙を作らないように構えをとる。
「フン!なかなかやるな!」
「おいおい……なんて耐久だよ……」
弱点攻撃を二度食らったにも関わらず、バースは立てているどころかダメージでふらついている様子もなく余裕の笑みさえ浮かべており、そのバンギラス特有の桁外れな防御能力に戦闘を傍観していたラックさえも唖然としていた。バースは本気を見せてやると体全体に禍々しいオーラを纏う。
「待てッ!!」
グラスとバースの間に割って入るように一体のポケモンが姿を現す。ポケモンの姿を確認したバースは渋々オーラをおさめる。
「戦闘をやめろバース。このものは……わたしの客だ」
「……フン、主の癖に客をもてなすには随分と遅いご登場ではないか、ベルフェルよ」
ベルフェルと呼ばれたのは金色の毛並みと九本の尾を持つポケモン--キュウコンが彼等の間に割って入り戦闘を静止。グラスやラックにとって尤も待ち望んだポケモンが現れ彼等に緊張が走る。ラックは恐る恐る気になるあのことについて口を開ける。
「あんたは伝説に出てくるキュウコンだよな!?教えてくれ!伝説に出てくる人間が誰か!!そもそも伝説は本当なのかどうかを!」
いつになく切羽詰まった様子でラックがベルフェルに詰め寄る。しばし間をあけてからベルフェルは口を開けた。
「……祟りの話が伝説としてどう伝えられたかはわたしの知るところではない。だが、あったことは本当だ。昔わたしはある人間に祟りをかけようとしたがその時その人間のパートナーであるサーナイトが自らの身を犠牲にして祟りを受けたのだ。しかし人間は卑怯なことにサーナイトを見捨てて逃げ出した。
やがて、その人間はポケモンに転生した。ポケモンに姿を変えたその人間は今も尚生きている。」
ゆっくりとベルフェルはグラスのほうに振り向いた。短く名を呼ばれたグラスの体に尋常ではない緊張が走り全身が汗だくになる。
「安心しろ。お前ではない」
「--!?」
「い、今なんて……?」
震えた声でラックがたずねた。声を震わせたグラスやラックの目には涙がたまっている。
「グラスは伝説に出てくる人間ではない……といったのだ」
ラックは自身が尤も聞きたかった事実を耳にし、嬉しさのあまりグラスに飛びかかった。押し倒されたグラスに気にもかけずにラックはわんわんと泣いている。グラスも彼程ではないが涙を流す。
しばし時が流れ--
「--いやはや、随分と麗しい友情劇を見せていただきましたよ」
聞き覚えのある慇懃な言葉。声の主を探ろうと見上げると見覚えのあるサザンドラが笑顔で手を叩いていた。傍から見ればみっともなくなるほど涙を流していたブラザーズ二人は顔をくしゃくしゃにしながら声をあげる。
「んあ?あぁあんたか……」
「--アルタイル!!」
間の抜けた声でラックが返す前にシリウスが声を荒らげる。彼女は険しい表情でアルタイルを睨み戦闘の構えをとる。二度にわたりライトを拘束したこのサザンドラがコトの首謀者であるアルタイルということを始めてグラス達は耳にした。
正体を呆気なく明かされてかアルタイルはつまらなそうに顔をしかめる。
「お、お前がアルタイルだったのか!!」
「どーりで変だと思ったぜ……サザンドラがあんな弱ったピカチュウを逃がすなんて普通ありえないからな」
ラックも薄々は気がついていたのか涙を拭いながら構えをとった。グラスも不安定な感情を押し殺して剣をとる。真っ先にシリウスが飛びかかろうとした時であった。
「おっと、動かないほうがいいですよ?少しでも動けばあなた方のお仲間に傷がつくことになりますが?」
部下が部下ならボスもボスなのか、得意気アルタイルはどこからか檻を取り出す。その檻にはグラス達もよく知ったポケモンが傷ついた様子で閉じ込められていた。
『リン!!』
傷だらけで拘束されたツタージャ--リンの姿を見てラック達は声をあげる。攻撃に移ろうとしていたシリウスは慌てて足を止めて表情を歪ませる。自ら姿を現した意図としてはあらかたの意図はわかっていても聞かざるを得ない。
「アルタイル!!一体何しに来たの!?」
「貴女に用はありません。シリウス」
優勢になったとたんにアルタイルはいつものような笑顔が浮かべる。"グラス、貴方に用があるのですよ"と振り向いた。緊迫した空気が辺りに張り詰める。
「このツタージャの娘を返してほしければ、私のアジトに来なさい」
「どういうつもりだ?」
「クックック、地図を渡しますから必ず貴方一人で来なさい。間違っても他に誰か連れてくればこの娘の命はないと思うことですね……」
話も聞かずに、そして言葉遣いこそ丁寧だが高圧的な態度のアルタイルにグラスもラックも怒りを隠せなかったがリンが捕らえられているので彼に従わざるを得ない。アルタイルが去ったあとグラスは休む間もなく単身でアルタイルのアジトに向かっていった……。