第四十五話 vsフリーザー
炎の山にてサスケの襲撃を受けたブラザーズの二人はサスケと交戦。ラックの機転を利かせた立ち回りで優勢に持ち込むものの、アルタイルの粛清を恐れたサスケは道連れという選択肢をとる。道連れを辛うじてかわすことができるも一難去ってなんとやら、またも困難が彼等を待ち受けていた……。
~~ 樹氷の森 ~~
「さ……さむい……」
傷が完治していないグラスとラックは"樹氷の森"と呼ばれるダンジョンへ足を踏み入れていた。草タイプ故に暑さも寒さも苦手なグラスはこの急激な温度差に耐え切れずに体の具合を悪くしていた。その証拠に彼の体は寒さのあまり震え、そしてキモリの体色である緑が薄くなっている。
「大丈夫……じゃねーよな。ほら」
明らかに弱りきったパートナーを見るに見かねたラックはせめてと重い彼の首にマフラーをかけた。逃避行という目的の上必要最低限の荷物しか持つこともできずに弱ったグラスに対してごく簡易な応急処置しかできないことを医師として悔しく思っていた。
グラスのほうもこれまで一方的にパートナーに助けられ続けている自分に苛立ちを覚えていた。ラックに"すまない"とだけ伝えてマフラーを首にする。お互いが自分に何かしらの嫌悪感を抱いている時であった。
--シュタッ
俊敏な足音を耳にしたラックは敵かと思い身構えるが正体を確認できたのかすぐに警戒を解いた。彼等の眼前に現れたのは炎の山に入るように忠告したあのジュプトル。"一体なんのようだい"とラックはいつものような口ぶりで話しかけた。
「少しお二人の様子を見に来ましてね。やはり大分しんどそうですね」
「お陰様でな」
しんどそうと口にしながらジュプトルには申し訳なさの欠片もなくラックはそう短く吐き捨てるように皮肉を投げかけた。
「仕方ありませんよ。どのみちあのルートを通らない限りは追手から逃げ惑う逃避行になりかねませんからね。どっちを選択したところで辛くなるには変わらないんじゃないですか?それよりも--」
話をすり替えたと思いきやジュプトルは唐突に表情を曇らせた。
「この先にはフリーザーと呼ばれる伝説の鳥ポケモンが住んでいますが、その力をアルタイルが狙っています。恐らく今頃アルタイルの部下がフリーザーを狙っているかもしれません」
「…………」
グラス達には既にこのシチュエーションは二度程覚えがあった。サンダーを狙うライトとファイヤーを狙ったサスケといずれもアルタイルと関係している敵達が伝説ポケモンを連れ去っていった。つまりこのまま進むと恐らくアルタイルの配下と交戦することに成りえない。グラス達に緊張が走る。
「フリーザーは氷タイプのポケモンです。なのでコレを渡しておきます」
尤も交戦を避けるためにいちいち待っていられないことを察してかジュプトルは不思議玉を手渡した。一見なんの変哲もないただの不思議玉--見た限り"罠の玉"と呼ばれる代物であった。
「この不思議玉はいかなるフロアでも使える特別な玉です。それがあればフリーザーの力にも対抗できると思います。それでは」
相変わらずに言いたいことを言うだけ言って早々とに去っていったジュプトルにラックも舌を巻くがそんな余裕はないとすぐに足を進めた。
~~ 樹氷の森 最奥部 ~~
ダンジョンの奥地ではジュプトルの言ったとおりに既に動きがあった。アルタイルの配下の一体--ガマゲロゲのガマが既にライトやサスケと同じようにフリーザーを既に我が物へとしていた。淡々とフリーザーを洗脳しているその姿はであった当初の温情な姿は微塵も感じさせない。
「……来たか」
まるでグラス達が入っていたことを知っていたような口ぶりでガマはグラス達のほうに振り返った。グラス達もガマがいることをある程度は予期していたものの彼の冷徹な表情に一瞬だが戦慄するがグラスは剣を取り出してたたかう構えをとった。
ガマもグラスの敵意を悟ったからフリーザーを自分の背後に下降させる。
「俺は既にコトは終えたんだ。ここで無駄な戦闘はやるつもりはない。とっととこっから出て行きな」
「断る」
「フン、賢くないな」
意外にも穏便にすまそうとする口ぶりのガマだがグラスは聞く耳をもたない。そんなグラスにガマは軽蔑するような目つきでグラスを睨む。それでもグラスはこのガマゲロゲを見逃す気はなかった。
「カエルさんの言うとおりだぜグラス。今の俺達は無駄な戦闘はやるのは賢いとは言えない」
「ラック……」
ガマは嘲笑を浮かべ、グラスは落胆の表情を浮かべた。だがまだラックの口は閉じない。まぁ聞けと言わんばかりに彼は続ける。
「無駄な戦闘ならな」
『--?』
「コイツは俺達の仲間を傷つけ、伝説のポケモンを誘拐した奴だ。そんな奴をむざむざ放ってはおけないだろ?」
「ラック……!!」
ラックは不敵に笑みを浮かべながらガマを睨みどこからともなく泥爆弾を取り出した。今度はグラスが笑みを浮かべて反対にガマのほうが忌々しげに機嫌を損ねる。彼は乱暴に右手をしゃくりフリーザーに攻撃するように合図を送る。
ガマの指示を受けたフリーザーは"れいとうビーム"をグラス達に放った。二手に分かれて飛び退くが"れいとうビーム"が通り過ぎた。その威力と冷気を示すようの攻撃の通り道は氷柱が立っている。
(グラス……)
氷の柱に隠れて合流し、ラックはグラスに耳打ち。グラスは"何だ?"と小さく返す。
(アイツとマトモにやりあっちゃ勝目はねぇ。だから俺が奴の気を引くからジュプトルからもらった罠を設置して引っ掛けさせてくれ)
それだけ言い残してラックは"泥爆弾"をフリーザーに向けて投げつける。無駄だと言わんばかりにフリーザーは飛翔するが爆弾が飛んでいく先にはガマの姿があった。直前までフリーザーの真後ろにいた彼はとっさに飛んできた爆弾に気がつかずに飛散した泥を被ってしまう。
(今だ!)
ガマの視界が一時的に封じられたことを確認したグラスはジュプトルから譲り受けた不思議玉を起動させた。罠が設置されたことを確認したグラスはフリーザーの気を引こうと目の前に立った。指示を発することができないガマを認識してかフリーザーは自らの意思でグラスに攻撃してきた。
"れいとうビーム"でなく"はがねのつばさ"で特攻をしかけてきた。技の名の通りはねを鋼鉄のように硬化させてグラスにむかって降下する。
「ここだ!」
罠を踏むようにグラスが誘導し、彼の思惑通りフリーザーは罠の仕掛けた真上にまんまと通り過ぎた。その瞬間、地面から多数の尖った岩が出現。岩はフリーザーの体に食い込み、致命傷を与えた。
「ステルスロックだと!?」
視界を遮っていた泥を振り払ったガマは一瞬のウチに致命打を負ったフリーザーを見て狼狽えを見せていた。"ステルスロック"--名のとおり見えない岩は踏んだポケモンにダメージを与える罠。岩タイプに対する相性に比例するこのトラップは氷・飛行タイプを併せ持ち岩タイプが苦手なフリーザーには一度踏むだけで体力が大幅に削られる代物。
「チィッ!引けフリーザー!!」
これ以上ダメージを負ってしまえばフリーザーはアルタイルの元に向かう体力すらなくなりかねないとガマは判断、以降は自身で戦うように彼は喉を膨らませる。
「"ハイパーボイス"!!」
技名を唱えた瞬間--一帯に爆音が発せられた。音故にかわすこともままならない攻撃にグラス達はダメージを軽減させようと身構えた。
「"リーフブレード"!!」
「--!?」
グラス達に"ハイパーボイス"が到達するまえに爆音は跡形もなく消え去っていった。グラスは自分以外のポケモンがだせないはずの技名に、ガマは自慢の攻撃を容易く相殺されたことに思わず目を見開いた。
緑色でしなやかな美しい体を持つグラスが師と仰ぐポケモン"ビリジオン"が彼等を庇うように立っていた。
「師匠!?」
「あ……あれは!?」
「チッ!!」
グラス、ラック、ガマが一斉にそう口にした。明らかに自分の邪魔をしにきたであろうこのビリジオンは今の自分ではかないそうにない。そう彼が考えて額にしわを寄せていた時--彼の体を唐突に光が包んだ。
「残念ながら時間だ。運がよかったな」
ガマは前持って時間がすぎてばオートでアルタイルのもとに戻れるよう装置をつけて向かっていた。慌ててグラスが捕まえようとするも既にガマは敵基地に転送されて跡形もなく消失していった。逃がしはしたものの危機が去ったことでラックは安堵した様子で座り込む。
「師匠、何故ここがわかったのです?」
聞きなれないグラスの敬語に驚いているラックを尻目にビリジオンとグラスの会話が始まる。多少の警戒を持ったグラスとは対照的にビリジオンははぐらかすように含み笑いを浮かべる。これ以上詮索しても無駄だとまたもグラスは考え、ため息をついていた。
「なぁグラス……誰だこのヒト?」
ここでラックが介入。初対面な彼はビリジオンの正体がつかめずに首を傾げる。含み笑いを包み隠さずにビリジオンは答える。
「そうね、今はグラスの師とだけ答えておこうかしら?」
「ほぉ……随分とべっぴんなお師匠様だな」
見た目に違わぬ綺麗な声にラックは心を奪われかける。この光景をリンに見られれば修羅場は間違いない状況だがビリジオンは"ありがと"と返し続ける。
「話は既に聞いたわ。"氷雪の霊峰"にむかっているんでしょう?」
どこから聞いたのかはしらないが彼女もグラスの目的を把握済み。グラスは"そうです"と返した。やはり聞きなれないグラスの敬語にラックは違和感を拭いきれない。
「そうね……ここからは私もついていくわ。グラスがどれくらい強くなったか知りたいし」
「ほ、本当ですか!?(本当か!?)」
グラスたちのハモリに"嘘は言わないわ"と冷静に返す。疲弊しきっているグラスたちにとっては彼女の助けはありがたいことこの上ない。すると何かを思い出したかのようにまたビリジオンが口を開ける。
「そうそう、私の名はシリウス。覚えておいて」