第四十四話 vsサスケ
~~ 炎の山 山頂 ~~
--追手を巻くために"炎の山"に入っていったグラスとラックはアルタイルの差金であるルカリオのサスケに出会ってしまう。彼等の首をとって手柄を立てようと企むサスケは"シンカ"をして姿を豹変させてグラス達に襲い掛かり……
「この姿でテメェ等をぶっ飛ばしてやらぁ!!」
サスケは先ほどよりも素早くなったのか猛スピードでグラスに突っ込み、"インファイト"で殴りかかった。スピードこそ高いものの直線上の攻撃をみすみす食らう訳もなくグラスとラックは横っ飛びに飛び退いた。
自信のスピードを制御しきれていないのかサスケは攻撃がかわされても突撃をとめられずに近くにあった巨大な岩に攻撃をぶつけた。攻撃を受けた直後、轟音をたてて跡形もなく砕け散った岩が彼の"インファイト"の威力を物語っている。
(おいおい……あんなの食らってられるかよ……)
その威力を目の当たりにしたラックはめずらしく額に汗を滲ませていた。常軌を逸した破壊力を目の当たりにしたグラスは"逃げるべきだったか"と一瞬だが弱気になっていた。しかし明確な敵意が相手にある以上はそうもいかない。
サスケの攻撃力に一瞬気圧されたグラスは"インファイト"と後隙を逃さないと言わんばかりに剣を握った。手に取られた剣は緑色の角のような姿を模し徐々に大きくなっていく。
「"せいなるつるぎ"」
「ぐうぅッ!!」
斬撃を食らったサスケは片膝をついた。不完全ながら格闘タイプの性質を持ち合わせているグラスの"せいなるつるぎ"は防御力の落ちたサスケには十分に威力となっていた。しかしながらやはり習得してまだ使いこなせていないからか致命傷を与えるには至らずに不用意な傷を付けられたサスケは激昂、防御をかなぐり捨ててまたも"インファイト"で特攻してきた。
攻撃の直後からかグラスは攻撃を避けることができずに腹に拳や蹴りの嵐を食らった。最後の蹴りの一撃でグラスは吹き飛ばされて岩場に叩きつけられ、その衝撃で岩場は粉々に砕け散った。岩の破片をところどころに浴びたグラスはこの僅か数秒の間に致命傷を負ってしまう。
サスケは弱ったグラスに止めを刺そうともう一度"インファイト"で特攻してきた。傷ついたグラスの体では今の接近を止めることもかわすこともできない。
「まずい」
短くそう口にしたラックがサスケの攻撃を許さなかった。彼は"泥爆弾"を生成して持ち上げ、それを一瞬のうちに巨大化させた。ラックはその巨大な"泥爆弾"をグラスに向かって突進するサスケに向かって投げつけた。爆弾はサスケにぶつかった衝撃で勢いよく爆発--爆風を模した泥の塊はサスケの体力を奪っていく。
「邪魔すんじゃねぇよ!!」
猛り狂ったサスケは弱ったグラスを後回しにして自身の妨害をしてきたラックに標的を変更した。なんとかの一つ覚えというのはこのことなのかまたも"インファイト"で突っ込んでくるがそれをいなせないラックでもなく今度は小さめの"泥爆弾"を生成しそれを突っ込んでくる敵に向かって蹴飛ばした。
サスケが特攻してくる度にラックは泥を模した爆弾をぶつけて攻撃した。驚く程サスケの攻撃が単調だからかラックは攻撃を一度も食らうことなくサスケを瀕死寸前にまで追い込み、彼に片膝をつかせていた。
「これ以上やっても、お前さんには勝目はないぜ?知ってることを洗いざらい話せばこれ以上は攻撃せん」
逃げることもこれ以上たたかうこともできなさそうなサスケを見てラックはそう口にした。悔しそうに顔を歪ませながらサスケは"クソっ!"と吐き捨てる。ラックにはサスケから聞きたいことが山ほどあったからここで聞き出そうと企てる。この状況なら大人しく話すのではないかと思った時であった。
「ケッ、んなこと喋ったらアルタイル様にぶっ殺されるからな……。お前らに協力して殺されるくらいなら--」
「--!!?」
不敵なサスケの表情とぐっと力を込めた右手を見てラックの背中に悪寒が走る。とんでもないことが起きると彼の本能が告げていた。
「この山ごとお前らを吹っ飛ばしてやるよ!!」
そう叫びながら今までの"インファイト"を上回る力で勢いよく右手を地面に叩きつけた。その瞬間に地響きがあたり一帯に生じ、そして音をたてて山が崩れ始めた。悪い予感が的中したラックは傷ついたグラスを抱えて慌てて下山する。
サスケは渾身の力で"炎の山"を砕き、グラス達をマグマの藻屑にしてやろうと考えてこのような行動に及んだ。彼の力が凄まじく山はさほど時間もたたずに崩れ落ちていった。
「逃げるぞグラス!!」
「へへへッ、もう逃げられると思うなよ?」
下山しようとするラックを見てサスケはほくそ笑みながらそう口にし、そして自身も脱出の準備をとった。その時だった彼の眼前には既に大量のマグマが迫っていることに気がついたのは……。
「ったく……まさか道連れにしにくるとはな……」
跡形もなく崩れ落ちた"炎の山"の跡地を見てラックはそう口にした。それと同時に口封じのために殺されたシャドーのことを思い出した。あのルカリオもアルタイルという名のボスの粛清を恐れての道連れ行動だったのだろう。
「とりあえずまずはグラスの治療をせんとな。歩けるか?」
「あぁ……少しくらいなら……」
「そうか。ここでは危険だから離れたところで治療してやる。少し堪えてくれよ?」
~~ ~~
「……サスケがブラザーズにやられたようですね」
自身の一室でアルタイルが不意にそう口走った。彼の傍にいたライトが一体何事かと問いかける。
「突然彼の生物反応がなくなりましたからね。恐らく彼のことですから山を崩して道連れにしようとしたのでしょう」
「……慌てて先走った挙句奴等を仕留め損なうとは、サスケも随分と愚かな最期を遂げたもんだな」
「ライト、そう悲観するものじゃありませんよ。彼は我々よりもずっと若い、追い詰められて慌てるのも無理はありません」
アルタイルはサスケが逃げきれなかったことを悟っていた。にも関わらず手駒を失った筈の彼は淡々と口にする。そしていつものように笑顔は保たれたままだ。
「それにサスケは我々のことは口走らずに道連れを選択した。すぐに頓挫するような裏切りをするマヌケなあなたより忠誠的には彼よりも遥かにマシなコマでしたよ。実力もあの程度ならすぐに補充はききますからね」
「…………」
あからさまに自分をバカにするアルタイルの発言が気に入らなかったのか。ライトは何も言うことはなかった。しばらくしてアルタイルは重い腰をあげる。一体何をするのかと思ったガマは"どこへ?"と問いかけた。
「少しブラザーズの面々と"
お話"をしたくなりましてね。ライト、留守番は任せましたよ」
それだけ言い残してアルタイルは飛び去っていった。