第四十二話 反抗者と協力者
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--サザンドラ率いる謎の組織。総統のサザンドラも手下達と同様に動きを見せる……?
--ガチャリ
総帥のサザンドラの部屋にて扉が開く音がする。扉を開いたのはピカチュウのライト。彼は腕のせいか苛立った様子で口を開ける。
「休みだってのに呼びつけやがって……何のつもりだ、アルタイル?」
総帥のサザンドラ--アルタイルに対してもライトの粗暴な口調は変わることはない。しかしアルタイルは彼のなまいきな口ぶりを諌めることはせずに彼のほうへ振り向いて手にとった黒い輪っか状の何かを見せつける。
「これはメガリングと呼ばれる代物です。貴方に取りに行かせたあの宝玉とも関連性がありそうです」
「……チッ」
また長話が始まるのかとライトは辟易としていた。上に立つものはどうしてこうも長話が好きなのかと彼が思っていた矢先にアルタイルは続ける。
「このメガリング、調べたところによると貴方が受けた宝玉の呪いを完全に解くことができるのではないかと思われてます」
「なんだと!?」
今までの興味のなさそうな態度が一変、驚きと興味を含めた態度を顕にする。彼らしからぬその態度にアルタイルはニコニコと笑顔を見せている(尤も常に笑顔なので表情の変化はわかりにくいが)。
さっさと呪いを解けと言わんばかりにライトが詰め寄るがアルタイルにまぁまぁと距離を制される。ライトの態度が子供じみていて愉快なのかアルタイルは含み笑いを浮かべる(尤も常に笑顔なので表情の変化はわかりにくいが)
「だったらとっとと解きやがれ!!これ以上こんな腕の痛みなんかごめんだ!!」
「いいでしょう。では腕をだしてください」
言われたとおりにすなおにライトは腕を差し出す。するとアルタイルは彼の右腕にメガリングと呼ばれる輪っかと取り付ける。メガリングには管のようなものが複数繋げられていてその先には巨大なカプセルに収容されたサンダーが詰め込まれるように入っている。
一連の準備が整ったことを確認してアルタイルは手にとっていたスイッチを押した。その瞬間からライトの腕にはめられたメガリングが呪いに反応したのか光を発した。その光は徐々に大きくなっていき--
「す……すげぇ……!!痛みが全然ねぇ!!」
光がおさまるとライトの腕の痛みが消えていた。同じように左腕にもリングをはめ込むと痛みが消えていった。嬉しげに腕を振り回すライトにアルタイルはいつものようなニコニコとした笑みを浮かべる。
「よかったですねぇ……ライト。ではメガリングを返してください」
「返す?こんなおもしれぇもん安々と返せるかよ」
「……ライト、何のつもりです?」
反抗の意を顕にするライトに始めてアルタイルの笑顔が曇った。その表情に一瞬であるがライトは竦んではいたがすぐに強がりを見せる。
「こいつの力でテメェをぶっ倒せば俺がこの組織のリーダーだ。面白そうな話じゃねぇか?」
あろうことかアルタイルに反逆をしかけてきたのだ。腕がなおったことやメガリングが自分の手にかかっていることをいいことにアルタイルの首を狙っている。
しかしアルタイルもライトのことを知ってか彼の真意が汲み取れてからかいつものような笑顔が浮かんだ。
「クックック……愚かなネズミですねぇ……。私に歯向かわなければ長生きできたものを……」
万全の状態でのライトがリングをつけた左腕で"雷パンチ"で殴りかかった。しかしアルタイルがスイッチを切った瞬間からリングはライトの手首を急に締めつけだした。
締めつけを喰らい呻き声をあげるライトにアルタイルはニヤニヤしながら詰め寄ってくる。
「メガリングは貴方のような力無きものには力を貸しません。そればかしかそれ相応の力がないと身につけたものを蝕む性質があるのですよ……」
僅か数秒で頓挫したライトの反乱。リングにやられて呻き声をあげるあまりにも呆気ない姿にアルタイルも先刻まで彼の命を奪おうとしていたのがその気すらなくなっていた。
「殺されなかっただけでもありがたく思いなさい。貴方ごときは何も考えずに私の言うとおりに動けばいいのですよ。わかりましたね?」
それだけ言い放ちアルタイルはライトを自室からつまみだした。そして彼は再びメガリングを整備し始めた。その一連のやり取りをガマに眺められていたことも知らずに--
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グラスの抹殺が決まったまだ早朝。まだ誰も起きていないからかグラスとラックはできるだけ遠くへと旅立っていった。目的地こそ決まっているがその迂回路は全く定まっていない行き当たりばったりの旅。グラスは勿論ラックもあまり遠くへ来すぎてからか宛もなく彷徨っていた時--
『--!?』
彼等の目の前に一体のジュプトルが姿を現す。追手かとグラスたちは身構えるがジュプトルのことに見覚えのある二人は構えを解く。
「あんたはあん時の……」
「話は聞きました。氷雪の霊峰に向かってるんですってね」
「奴の話……あんたはどう捉えてる……?」
あまり時間はかけられないとラックは最も知りたいところを訪ねた。このジュプトルがクラッシャ達のデマを信じているか否か、それで彼が敵味方がハッキリするといっても過言ではない。
しかしジュプトルの口から出たのは彼等にとっては吉報であった。"あの陰湿なフライゴンのことは信じられない"と吐き捨てるように言い放つ。
「いいことを教えましょう。ここから東に向かった先に"炎の山"と呼ばれる火山があります。そこを通って"樹氷の森"と呼ばれるダンジョンを通ればそこは氷雪の霊峰への近道です。そしてあのルートは生半可な追手ポケモンは入るのを躊躇うでしょう」
「……お前は私達のことを信じてくれるのか……?」
「当然です。なんたってあなた方は命の恩人ですからね。ただ今から一緒に行くのは難しいでしょう。あまり大勢で行動すると追手に見つかりやすいですから」
迷うことなくジュプトルはグラス達に協力の意を見せた。
「ここから"炎の山"へむかうには"群青の洞窟"を通るのがてっとり早いでしょう。では僕は追手を足止めしてきます」
ほぼ一方的に言うだけ言ってジュプトルは去っていった。せっかちな彼だが彼の協力はありがたく噛み締めながらグラス達は"群青の洞窟"へと向かうことに。
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「ぜぇ……割と長いダンジョンだったな……」
「ああ、たしかこの先に炎の山があった筈……」
「だな。グラス、少し休もうぜ」
"群青の洞窟"を抜けたグラス達だが追手を警戒しながらの動きだったからか少し疲弊していた。元々激しい動きが苦手なラックはカバンをドサっと起きその場にあった岩に腰掛ける。グラスも彼ほどではないが疲れていたのでそれに同意。
「おい、あれグラス達じゃね?」
「ホントだ!捕まえろ!!」
しかしそうは問屋がおろさないと追手達がグラス達を見つけてしまう。こうなってしまっては休息どころではなく慌てて"炎の山"へと向かう。
ジュプトルの言うとおりか"炎の山"へと近づくに連れて追手達は意気消沈としていった。徐々にグラスを追うポケモン達は減っていく。グラス達が入口に入っていく頃には追手は誰一人として彼等のあとを追うことはなかった……。