第三十五話 集う者達
~~ ちいさなもり ~~
グラス達ブラザーズ一行がライト達を追っ払った時を同じくして--
イモムシポケモン--キャタピーが木の実をたっぷり盛ったカゴにさらに木の実を盛っている。不思議のダンジョンと言われた森であるが比較的安全ともいえる森であるからか、ちいさなキャタピーでも木の実収取もできるのだろう。
--ドンッ
たっぷり木の実を収取できた喜びからか小走りしていたキャタピーは何かにぶつかってしまい転んでしまう。その勢いからかカゴに盛っていた木の実はあたりにばらまかれた。
"ごめんなさい……"とキャタピーが謝ろうとしたが徐々にその声が震えていっていた。
「いってぇ……!!どこ見て歩いてやがるんだクソガキ!!」
キャタピーがぶつかったのは本来この"ちいさなもり"にはいないはずの手が長いイタチのような風体のポケモン--コジョンドであった。俗に言うチンピラとも呼ばれるこの柄の悪いコジョンドはチンピラ特有の脅し文句を用いながらキャタピーに詰め寄る。コジョンドとキャタピーとの体格差からくる威圧感にすっかりキャタピーは竦み上がり、目に涙をためている。
「ふえええええええぇぇえ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「ピーピーわめくな!!踏みつぶすっぞ!!」
胸ぐらをつかみ今にも殴りかかろうとせんばかりの雰囲気。しかし双方共に背後からくるポケモンの姿に気が付くことはなかった。
「おい」
「あぁ!?なんだてめぇは--」
コジョンドの言葉が終わる前にそのポケモンはコジョンドを勢いよく殴りつけた。その勢いでキャタピー
も地面に投げ出されるが殴りつけたポケモンに介抱される。殴られたコジョンドは"てめぇ……"ともらしながら攻撃したポケモンを怒りを込めた眼差しで睨む。
--が、その怒りの感情は徐々に驚嘆のソレへと変わっていった。殴りつけたポケモンの正体はよろいポケモン--バンギラスであった。
~~ ???? ~~
--薄暗い会議室のような広い部屋。そこに鎮座されている大きな机と5つの椅子。その椅子のうち一つには2のポケモンが既に腰掛けていた。
辺り一帯は薄暗く、ポケモンの正体はくっきりとは見えないが片一方のポケモンは腕も足も組んでいることから二足であることがうかがえる。
「ケッ、あのアホリーダーめ。一々糞程つまらねぇ会議なんかでヒトを呼び出すんじゃねぇってんだ」
「サスケ、少しはその不遜な口をわきまえたらどうだ」
サスケと呼ばれたルカリオは"リーダー"と呼ぶポケモンに悪態を吐いたところを隣にいたガマゲロゲに諫められる。"リーダー"と呼んでいるにも関わらず不遜な口を叩くあたりこのサスケには遠慮といった類の気持ちは一切持ち合わせていない模様。
ガマゲロゲに諫められて"ケッ"とそっぽを向いた先にはガチャリと扉が開いた。その先には傷つき、疲弊しきったピカチュウが姿を現す。
「来やがったなドブネズミが」
ぜぇぜぇと喘ぎながら入場したピカチュウにサスケが見下しきった口ぶりで呟いた。ふんぞり返って頬杖をついているサスケの姿はふてぶてしいという言葉を具現化しているといってもいい。
サスケの悪態はとどまることを知らない。
「いつもいつもオイラ達にでけぇ口ばっか叩いておいてこのざま--」
「なんか言ったか!?イヌ!!」
「ヒ……ヒイィッ!!な……なんでもないっすよ……。ライトの旦那、お勤めご苦労サマですぅ……」
ピカチュウ--ライトに凄まれた瞬間、サスケの先刻までふてぶてしい口調は一変、情けない弱々しい声に豹変。腰が引けたあまりにみっともないサスケの姿にライトは"ケッ、アホが"と漏らしながら自身の指定された席に腰を掛ける。
ライトの直後に扉から表れたポケモンは凶暴ポケモン--サザンドラ。
さらにサザンドラの腕には伝説のポケモン--サンダーが捕えられている。
「全く……少しはおとなしくしたらどうですか……」
サザンドラはライトとサスケの様子を見て呆れ果てた口ぶりで呟く。丁寧な口調に反してサザンドラはサンダーを雑に引きずりながら準備された席へと移動する。その珍妙な光景にライト達は思わず閉口する。"よっこいしょ"と軽く口に出しながら腰掛けるとガマゲロゲが口を開ける。
「ボス、我々をまた召集したという要件は?」
「その前にだ、アドンの野郎がまだ来てねぇんじゃねぇのか」
ボスと呼ばれたサザンドラにガマゲロゲが要件を尋ねようとするとライトが割って入るように口を開ける。よく見なくとも空席が一つ存在する。"そういえば"と言わんばかりにサスケがキョロキョロと辺りを見回す。
「嗚呼、カレなら今日は所用でここには来ませんよ?」
(チッ……っざけんなよ糞が……)
何故いないのかは問い詰めたくとも自分が納得する答えはかえってこないだろう。諦め切ったライトは心の奥底で悪態をつく。なんで手負いの自分がここにいてヤツはいなくてもいいのか--ライトが心に留めていた筈の愚痴は明らかに顔に出ていた。
「それで、あなた方を召集した件ですが……。このポケモンを見てあらかた察しはついているのではないですか?」
サザンドラの視線の先には傷だらけで横たわっているサンダーの姿。ライトもサスケもガマゲロゲもサザンドラの言いたいことを察したかのように気怠そうな表情を一変させる。
真剣さが垣間見えたのかサザンドラはニッコリと笑顔を浮かべる。
「お察しのとおりです。ライトがサンダーの回収に成功しました。しかし無様にも救助隊に見つかり、捕まりかけたのでカレ等にはより一層今後の我々の動きは警戒される恐れがでるでしょう……」
あくまでも笑顔は絶やさずにボスのサザンドラはサスケとガマゲロゲに視線を移す。サスケはボスの視線が自分に写されて思わず背筋を必要以上に伸ばしてしまう。必要以上に悪く言われたライトは"チッ"と舌打ちを漏らしていた。
「サスケ、そしてガマ。あなた方には早急に残りの二体の復活--そして回収を命じます。サスケはアドンと共にファイヤーをガマは単身でフリーザーのほうをお願いします」
「……行意」
「わかったっスよ。旦那にも要件を伝えればいいんですかい?」
「……はい」
二人の返事を耳にしてサザンドラはまたニッコリと笑顔を見せる。そしてボスはライトの方に視線を移した。
「おれはどうすりゃいい?」
「あなたはしばらく休んでいても構いませんよ」
ようやく得たライトの休暇。カレはため息をつきながら机に突っ伏した。腕どころか体中が痛むこの状態で戦闘に駆り出されてはカレとてたまったものではないだろう。
ここでボスが解散を命じそれぞれが休みなり任務の準備なりに大部屋を後にした。
ただ一人、ガマゲロゲ--ガマだけが去りゆくサザンドラ達の後ろ姿を眺めながらほんの僅かだけだが口角を釣り上げて、ほくそ笑んでいたが。
~~ ちいさなもり ~~
「かはッ……!!」
岩陰に隠れて経緯を見ていたキャタピーは目を見開いていた。幼い自分でもバンギラスは格闘タイプに滅法弱いことはわかっている。しかし自分の眼前で戦っているバンギラスは格闘タイプのコジョンドを圧倒していた。
「お前のような曲がった技なんぞもう必要ないだろう。この場で打ち砕いてやろう」
その場に居合わせた者全員が竦み上がるような低い声でバンギラスはコジョンドに詰め寄った。最初の威勢のよさは何処吹く風--コジョンドは完全に相性優位な筈のバンギラスに臆して震えている。
「クソっ!覚えてやがれ!!」
悪者の決まり文句ともいえる捨て台詞を残してコジョンドはその場を去っていった。その醜態ともとれる情けない姿を見ていたバンギは"フンッ!"と鼻であしらった直後--思い出したかのようにキャタピーに歩み寄る。
バンギラスという強面からかキャタピーもすっかりバンギラスを怖がっていることには変わりはない、怖さを押さえ込みながらキャタピーは絞り出すように声を出す。
「ありがとうございます……。でも、ぼく……お金持ってないです……」
「金なんどいらぬ」
素っ気ない口ぶりとは裏腹にバンギラスは震えているキャタピーの体を優しく抱き抱えた。考えてもいない言動にキャタピーは慌てふためきあたりをキョロキョロと見回している。その様子を--
「やっと……見つけた!!」
--バンギラスのその経緯を草陰で眺めていたポケモンがバンギラスのあとをこっそりと追っていた。