ポケダン救助隊 〜最強と呼ばれた所以〜








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救助3 ゴールドランク
第三十二話 雷鳴と聖剣
--ワタッコの救出にちんもくのたにに向かったブラザーズだが予想だにしない強敵に阻まれて、ワタッコを"ライメイのやま"に連れ去られてしまう。ライメイのやまにむかったグラス達三人は二手に分かれて行動することに……。











~~ ライメイのやま 4F ~~

「ねぇ……」

ダンジョンを進むラック&リンのペア。不安が混じった声質でリンが声をかける。そんな不安げなリンとは対照的にラックは緊張感のない声で返す。

「アイツ--グラスは大丈夫かな……。なんかまた無茶してそうで……」
「なんだ?お前、普段いがみ合ってる割にアイツのことを心配してんのか?」



意地の悪いラックの笑み。そんな彼の表情を見てリンは首を大げさに横に振る。ラックにとっては最も長い付き合いのパートナーがこれだけ焦る姿を見るのはひさかたぶりなのか彼にはその様子が酷く滑稽に見えた。

彼女がこれだけ焦るのは自分と初めての喧嘩してラックの方から謝った時以来であった。やっぱりこいつ--リンはこういう時は嘘がつけないやつだな。


「じゃあ、あなた心配じゃないの?アイツのことだから戦闘を回避するどころか"腕試しだ"とかいってよけいな体力使ってそうなんだけど」
「そうか?いくらアイツでもそこまでバカじゃないだろ。なんたって俺達のリーダーなんだぜ?」
「だといいんだけど……」












~~ ライメイのやま 2F ~~

単身頂上へ向かっているグラスはとんでもない光景を目にしていた。
それはビードルやらニドランやら野生のポケモンの群れが敵意を向けてにらめつけているという最悪の状況。だがグラスは臆することなく野生ポケモン達を見据える。

「モンスターハウスか……。腕試しにはちょうどいい……」

リン達のリーダーはそこまでのバカであった。数分前までの自分の作戦の意図を忘れる鳥頭っぷりを披露。お前は戦闘狂かとつっこまれても仕方がないこの有様。ご自慢の剣を取り出してニッと笑みを浮かべる。

「行くか……」









~~ 5分後 ~~

「--造作もない……」

ほぼ攻撃を食らわずにグラスは敵を殲滅させた。
つまらなさげに剣をしまうグラスは先へすすもうと足を運ぶ







--かと思われたが。すぐに足を止めた。

「誰だ」

警戒心をこれでもかというほどむき出しにして短くそう発する。その声にこたえたのは済んだ大人びた声。その声質から明らかに敵の者ではないことをグラスは悟る。









「し……師匠!?」

グラスが師匠と称する正体--それは伝説と称されているポケモン--ビリジオンであった。
予想だにしていないポケモンが現れてグラスは腰を抜かす。

「ふふっ、その様子だとわたしのことはしっかり覚えているようね」
「師匠……何故私のこと--」
「皆まで言わなくてもわかってるわ」

--何故自分が人間になってるのか、何故自分がキモリになったことを知っているのか、そして何故記憶を失った筈の自分が彼女のことだけは覚えているのか、グラスはこの師と呼ぶビリジオンに聞きたいことが山ほどあった。きっと師匠なら何かしっている筈--


しかしグラスのその期待は無情にも軽く流されることに。

「今はあなたの質問にこたえることはできないわ。ただ一つ、言えることがあるの」
「……なんでしょう」

ポケモンになって初めて発せられるグラスの敬語。他の者が見られれば違和感が満載なこのやり取りの中--

「グラス……あなたは重要な役目を持ってこの世界に来たのよ」
「重要な……役目……」

言われたセリフを復唱する。おそらくこれ以上は聞いても答えてくれそうにない。詮索を諦めないグラスが続ける。

「それで師匠。それだけを伝えに私のあとをつけてきたのじゃないでしょうね?」

だけの部分を強めてそう尋ねる。グラスはライメイのやまに向かう時から彼女の気配を感じていた。だからこそあのような建前で一人になったのである。
わざわざ一人になってまで得られた収穫が大したことなく、多少苛立ったようにも見受けられるグラスにビリジオンは"いいえ"と返す。

「あなたにこの技をさずけに来たの。少し剣を貸してもらえるかしら?」
「--はい」

グラスはビリジオンに剣を貸す。そして左足で軽くグラスの剣に触れ--







「--!!?」

辺りが茶色の閃光で覆われた。グラスは思わず目を瞑る。

光が収まり、ビリジオンは剣を返した。

「これは……一体?」
「あなたに"せいなるつるぎ"の技をさずけます」
「"せいなるつるぎ"……ですか?」
「えぇ」

"せいなるつるぎ"--格闘タイプの攻撃技。サンダーに挑む身としては何故わざわざ格闘タイプの攻撃技を伝授されたのか。グラスにはわからなかった。

しかし自分の師のことだ。何か考えがあるのだろう。それ以上の詮索はやめることにした。

「師匠。ありがとうございます」










~~ ライメイのやま ちゅうふく ~~


狭い空間にポツンとガルーラ像が鎮座しているこの部屋。ここは長いダンジョンに存在するいわば休憩所であった。
グラスがここに到着したころには既にラックもリンも到着したようで、自分の到着を待っていたようだった。

「遅かったな」
「どーせまた戦闘に夢中になってたんでしょ……」

グラスは半ば図星で言い返すことはできずそれがリンの呆れを推進させる。いつもどおりのやり取りが繰り広げられ、ラックはふっと笑みを浮かべた。

「お前らね〜、そんなくだらんことで言い争う暇あったらちっとは休まなきゃだめでしょーが」






~~ ライメイのやま ちょうじょう ~~

短いながらも一層険しい道のりをこえ一行は頂上へとたどり着いた。ライメイのやまとの名の通り辺りには雷が休む間もなく鳴り続けている。水タイプのラックにはその空間が酷く不快に感じられた。
しかしそれどころではない、ある敵の手に落ちたポケモンを救助するという使命がある。


「出てきなさいライト!!さっさとワタッコさんを返しなさい!!」


リンがそう啖呵を切ると雷鳴が一層激しく鳴り響き。その中からサンダーに乗ったピカチュウ--ライトが姿を表す。待っている間にも宝玉の効力は切れることなくライトの腕を蝕み続けていた。
その証拠に彼の両腕は無数に傷ができ、そこから血という血が噴き出している。

「ったく……待たせてんじゃねぇよ。怖じ気付いて逃げ出したのかと思ったぜ」
「言ってろ、私はお前のようなチビの癖にスカしたやつが一番キライでな」









『…………』







一触即発の空気から一転してこの沈黙。







「てめぇ鏡に向かって同じセリフ吐いてみやがれ」
「こればっかりはライトに同意ね」
「全くだ」
「…………?」

出会ってそう時間もたっていないにも関わらずこれ以上ないほど的をえたライトの突っ込み。しかしグラスには自覚は全くなく何故チームメイト二人もやつに賛同しているのかが理解できなかった。

「まぁいい、救助隊ブラザーズの名にかけてこの依頼--必ずや成功させる!!」
「うるせぇな。そんなデカイ口二度、とっととたたけないようにしてやるぜ--サンダー!!」

ライトはサンダーの背中から飛び降りる。









「手始めだサンダー!!」
『--!!!』














アイツ等を殺せ!!」









ライトの指示を受けたサンダーは雄叫びをあげ、その刹那にブラザーズとの間に落雷が割って入った。

「来るぞ!!ラック!! リン!! 気を抜くなよ!!」
「おうよ」
「わかってる!!」


ノコタロウ ( 2014/02/16(日) 02:49 )