第二十八話 ゴールドランク 2
--グラス達の前に表れたゴールドランクの救助隊。彼らを見てグラスは何を思ったのか唐突にリーフブレードを構えた。
「何者だ……!!」
唐突に自身に向かってきたキモリを砂で受け止めたバース。唐突に自分に襲いかかってきたこのキモリを睨めつける。それは生半可なポケモンは怖じ気付いて逃げ出してもおかしくはないほどの威圧が込められている。
「お前はこの辺りで一番強いらしいな……私と勝負しないか……?」
はたから見れば無謀ととれることをこのキモリは発していた。その証拠に周りのポケモン達はグラスをやれ無謀だのバカだのといった声が多数を占めていた。無論、このいきさつをみていたリンもも頭を抱える始末。
しかし当のグラス本人はこれだけバカにされようと全く悪びれることなく目の前のバンギラスを見上げている。
気が付けば辺り一帯はすなあらしが吹きあれていた。バンギラスの特性である"すなおこし"で起こされていた。
「己の力量も測れぬ愚か者が、俺にかなう筈もない。やめておけ」
「…………!!」
--お前とはレベルが違う。明らかにそう称されてグラスが反応しない訳がない。こんなわかりやすいちょうはつに乗ってしまうのがグラスという男だ。何も言わずに"リーフブレード"で切りつけにかかる。
「何……ッ!!」
確かに攻撃は決まった。緑の刃は確実にバースをとらえてはいる。しかし目の前のバンギラスは何事もなかったかのように立ち尽くし自分を見下げている。
驚く間も与えられずに、グラスの体は宙を舞った。剣を持つ腕をつかまれて投げられていたのだった。
「ぐ……ぐああああぁぁぁ……!?」
倒れているグラスの腹に氷の拳が打ち込まれた。バースの拳から発せられた冷気は瞬く間に体力を奪われる。既に大幅に体力を削られたグラスを見てバースがふんと鼻を鳴らす。
「俺を上回って名をあげようなどと、浅はかなお前の欲などその骨ごとへし折ってくれる!!」
さぞつまらないといった表情で吐き捨てるようにそう言いグラスの小さい体を踏み潰した。傍から見ても悪者のようなその所業に耐えかねてリンが飛び出す。
バースはぴくりとも動かずに辺に待っている砂を刃へと形かかえさせ、リンへと向けた。
「--ッ……!!?」
バースの足に痛みが走った。自分が踏み潰したキモリが抗うように攻撃をしていた。ようやく足から逃れられたグラスは慌てて距離をとる。
「手を出すなリン……。これは……私の勝負だッ!!」
表情こそは苦痛を表してはいるもののグラスの目はただただバースを捉えている。
「まだ目は怯まずといったところか……それなりの覚悟はあるようだな」
自分に臆することなく睨むグラスの顔に、先刻までとは表情を一変させニヤリと笑みさえも浮かべた。そしてグラスに向かって駆け出した。
そのバンギラスらしい巨体に反してバースの素早さはグラスにも劣らないスピードで迫り"れいとうパンチ"を繰り出す。
"れいとうパンチ"は空を切った。グラスは左右ではなく上に飛ぶことで攻撃を回避していた。
「空を飛ぶキモリか……面白い!!」
驚くどころか、どこかしら喜んでいるようにも見受けられるバース。その好敵手に対するような声をあげながらもグラスを見上げて"ストーンエッジ"の準備をとる。
「"リーフブレード"!!」
「撃ち落としてくれる!!"ストーンエッジ"!!」
グラスは急降下しながら葉の刃を振り下ろし--バースは自分に向かってくるグラスには岩の刃を放った。岩の刃はグラスを捕えることはできなかった。
まっすぐに自分に向かってきたグラスが避けたというより、技自体が外れたと称したほうが正しいだろう。
"ストーンエッジ"は威力を代償に命中率が劣悪な技として知られている。この場面でハズレを引いてしまったのだ。
"ストーンエッジ"とは対照的に、普通は外れることのない"リーフブレード"が迫る。
「ぐ……ッ!!」
腹に斬撃を食らい、バースは膝をつく。ハンパにダメージを入れたのが仇になりキモリの特性"しんりょく"を発動させてしまったことを悔やむ。
しかし膝をついた状態でバースは自身に接近しているグラスをにらみながら見下した。
「"電磁波"!!」
「くっ……!!」
バースの腕から発せられた微弱な電気--"電磁波"がグラスの体を襲った。電磁波で麻痺状態に陥ったグラスは"冷凍パンチ"をなすすべもなく食らってしまい、意識を飛ばした。
倒れふすグラスを見てギャラリーはバースを賞賛する声--グラスをバカにする声が飛び交った。彼らからしてみれば当然の結果であるからであろう。
しかし当のバースだけは違っていた。切りつけられた腹の傷と倒れ込んでいるグラスを交互に見渡す。
「………キサメ、帰るぞ」
一通り辺りを見渡して仲間のガブリアスに無粋に声をかけた。しかし辺りにキサメの姿はどこにも見当たらない。
「そういえば……さっきからトノさまもいないわね……」
リンも同じように声をかけるも仲間のニョロトノの姿も見えない。思い当たる節があるバースは不意にリンの方へ振り向く。
「ついてこい」
「で、でもグラスが……!!」
バースはリンの腕を掴むも彼女は倒れた仲間の身を案ずる。リンの考えを察したのかバースは倒れているグラスの体を担いだ。
「俺が担いでいく。これでいいのだろう」
それだけ言い残してその場を去っていった。
~~ ~~
時はグラスとバースがバトルしている頃に遡る。
「いででででで!!ちょっと待て……!!」
二人のバトルの間にまた別のポケモン達が街を疾走していた。尤も一人のポケモンはもう一人のポケモンに引きずられながらという形にはなってはいる。
引きずっているのはバースの仲間のガブリアス--キサメ、引きずられているポケモンはグラス達の仲間のニョロトノ--トノだ。
トノは何で自分がこのガブリアスに引きずられているかわからなかった。訳も分からず引きずり回される。
「……いたたた、まったく……どういうつもり……?」
キサメにいちゃもんを付けようとしたトノだが彼が目にしたのは明らかにキサメに怯えきったクラッシャとグランガの姿があった。
だがこの二人、トノの姿を見るや否や余裕の笑みを浮かべている。
「なーんだ、誰かと思えばさっきの弱虫カエルじゃねぇか。一人じゃ何もできねぇからゴールドランクに頼ったのかい?へへへッ」
「アンタも大変だな。こんな間抜けに手を貸すなんて……間違ってるぜ?」
どこまでもやまない彼らの減らず口。今すぐにでもこの二体を吹っ飛ばしたいのを我慢しキサメはトノの背中を押す。
"自分でしっかりとやりかえせ" 口に出さずともそう伝えられていた。
黙ってクラッシャ達に罵られるトノ。しかし彼は口を開け--
「ぐああああぁッ!?」
「あ、あにき!?」
一瞬のことであった。グランガが"ハイドロポンプ"で吹っ飛ばされていた。気がついたら辺りには大雨が降りしきっている。予想だにしていない反撃にクラッシャも驚きを隠せない。
「てめぇ!!弱虫のくせに兄貴を!!」
「どっちが弱虫だよ。お前のほうが"兄貴、兄貴"って叫ぶだけで何もできてはないではないか。
お前のほうこそ弱虫じゃ!バーカ!!バーカ!!」
子供のような悪口だがしっかりと言い返したことにキサメはふっと笑みを浮かべた。それとは対照的にクラッシャは言い返せずに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
「ちっくしょ……!!ずらかるぜ……!」
仲間のドンファンが倒れて危機を感じ、背中を向けるクラッシャ。しかし彼は既に囲まれていたことを悟る。
「ぼくから逃げられると思わないほうがいいよ〜」
「うへぇ……」
このときのクラッシャは"天使のような悪魔の笑み"を見て戦慄。"ガブリアス"という種族の戦闘力の高さを肌で感じていた。
キサメは文字通りの"げきりん"をぶっぱなした。無造作ながら恐ろしい程の攻撃力でクラッシャを殴りつけそのまま吹き飛ばした。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁ……!!?」
"げきりん"をかわせることなく食らったクラッシャは悲鳴と共におおよそ数メートル先の海へと飛ばされていき、彼が落下したところには小さな水柱が立つ。
「いや〜すっきりしたよ〜」
「そ、そうじゃな……」
あれだけの技をぶっぱなしておきながら、ものすごく爽やかに笑みを浮かべるキサメに若干ながら恐怖するトノ。そこに戦闘を終えたバースとリンが駆けつける。バースのほうは呆れ果てた様子でキサメを睨んでいた。
「キサメ……やりすぎだ」
「だってぇ〜、あいつ等むかつくんだも〜ん」
あの"げきりん"を放ったポケモンと同種とは思えないほどの甘えた声を出すキサメ。バースにげんこつを食らわされている傍らでリンがトノの駆け寄った。
「トノさま?大丈夫だった?」
「わしは大丈夫じゃ。それよりもリン!グラスはどうしたのじゃ!?」
トノが気が付けばあのバンギラスに傷ついた様子でかつがれている姿が目に入る。リンがコトの経緯を話すと先ほどまでの心配そうなトノの表情が呆れた顔に急変した。
--のちに報告書を終えたラックが合流し、トノとグラスに制裁を加えたのはまたあとの話。