第二十二話 首謀者登場
~~ カエル屋敷 ~~
「だ……旦那ァッ!?」
「……なんだ……?」
ガマゲロゲを追っていたフライゴン--クラッシャは旦那と呼んだポケモンと合流。いつものようにへらへらと媚びへつらい、ニヤニヤと笑ってる。
「この部屋に宝玉があるんですかい?」
「嗚呼、これを奪ってとんずらすりゃ目的完遂さ」
「へへへ!流石旦那だ!!
しかしまさか旦那が--」
「それ以上言うんじゃねぇ……」
それ以上クラッシャが続けようとすると"旦那"と呼ばれたポケモンに凄まれて"うぅっ……"と、息を飲む。彼の減らず口も一旦は止められていた。
「さぁこれが宝玉だ。さっさと奪い取って……様のもとに献上だ……」
「ヘイ!!」
旦那と呼ばれたポケモンが箱に入った宝玉を箱ごと奪っていきクラッシャもさながらトサキントのフンのごとくポケモンに付いていく。
~~ カエル屋敷 門前 ~~
「キサマが……コトの首謀者だな……」
「ケッ、んなこともわからねぇのか?この屋敷もずいぶん間抜けなガードマンを雇ったもんだな?」
剣を取り出し威嚇するグラスといかにも柄の悪いコトの首謀者らしきポケモン--ピカチュウが対峙してる。ピカチュウは意地の悪そうな目付きでグラスを睨む。
「おれもお前らにかまってるほど暇じゃねぇんだ。さっさと宝玉を渡してもらおうか?」
「フン、そのまま "はい、わかりました" と渡すと思ってるのか?」
口角を釣り上げ挑発するグラスに相反してピカチュウはつまらなそうな顔で舌打ちをしている。
「なんだ?その顔は?ヒトのもの取っちゃいけないってのは子供でもわかることだぞ?」
「笑ってんじゃねぇ」
ピカチュウの"十万ボルト"が飛んだ。グラスはその場から飛び退いて寸前のところで攻撃をかわす。グラスは手にとった剣にグっと力を込める。かつてシャドー戦で繰り出した"リーフブレード"だ。
「食らえ……ッ!」
「遅ぇよ、バカが」
グラスのスピードこそ決して遅くはないもののピカチュウは余裕の笑みを浮かべながら軽く襲いかかってくる剣をいなす。攻撃がかわされるごとにグラスの攻撃が若干ながら大ぶりになっていく。その隙をピカチュウが見過ごす筈もなく"電磁波"を打ち込む。
「ちいぃ……!」
「ヘへへ、もっと苦しみやがれッ……」
麻痺状態に陥ったグラスの表情が歪んだのを見たピカチュウは体に力を込め"めざめるパワー"を発した。"めざめるパワー"によって出されたエネルギーは凍てつくような冷気はタイプは草タイプの弱点攻撃である"氷タイプ"であることはグラスにも肌で感じていた。
"めざめるパワー"がグラスの眼前にたどり着いた時茶色の泥の塊が氷のエネルギーを阻む。茶色の泥の塊は"めざめるパワー"を受け散乱。一部の泥がグラスの体に付着し彼のしびれを吸収していった。
「なんだてめぇは……」
気分よくグラスを痛めつけようとしていたところを邪魔されチッと舌打ちし邪魔をした張本人を睨めつけた。--ミズゴロウか……。所詮水タイプだ……俺の相手じゃねぇだろうな。
ピカチュウはミズゴロウ--ラックを侮りを込めた目付きで見下していた。しかしラックはいつもと変わらない飄々とした顔つきで"泥爆弾"を手にし、"泥爆弾"を投げつけた。
「んなモン食らうと思ってんのか……」
"泥爆弾"を先ほどと同じようにいなし、ラックに四足で詰め寄ってくる。ピカチュウは拳に力と電気を込めて"雷パンチ"を繰り出す。ラックはくわえ煙草をぷっと吐き捨てて防御の体制をとって"雷パンチ"のダメージを最小限におさえる。
「そぉらよっとぉ!!」
「ぐあぁぁ……ッ!!」
攻撃を防ぎ防御体制を解いたラックはそのまま"ずつき"をお見舞いする。接近攻撃をしていたピカチュウは"ずつき"をかわせる筈もなく脳天に攻撃を食らってよろける。
「なるほど……素早さがないから攻撃後の後隙をついたのか……。流石ラックだ」
体に付着した泥を払いながらラックを賞賛。すかさず彼の加勢に入る。
「どうだ?これで2対1だ。無事に帰るなら今のうちだぞ?」
「ケッ、多勢に無勢ってことが言いてぇのかお前ら?」
「……それがどうしたってんだ?」
敵が増えたのにも関わらずピカチュウに余裕の笑みが消えることはなくニタニタ笑っている。その顔つきが怪しげに見えラックは額にシワを寄せる。
「この状況で……そう言えるかなッ!!」
「何……ッ!!?」
「"ヘドロウェーブ"!!」
「"ソニックブーム"!!」
グラス達の背後から飛んできた二種類の攻撃が彼らに直撃。毒攻撃が弱点のグラスは"ヘドロウェーブ"を背に食らい膝を付く。ラックも"ソニックブーム"を食らったが威力が低すぎるのかピンピンとしており、グラスのもとに駆け寄る。
「グラス!大丈夫か……!?」
グラスの背中が紫色の変色している。毒を浴びたのか苦悶の表情に変わっている。ラックは攻撃の主達をキッとにらめつける。
「流石旦那だぁ!?すげぇ威力だぜ!」
「……お前の攻撃の威力が低すぎるんだろ……」
不意打ちを決めたことで攻撃の主--フライゴンは上機嫌なのに対して旦那と呼ばれたポケモンはフライゴンに対して機嫌を損ねる。
「……ッ!アンタは……何故そいつと……ッ!」
普段滅多に崩さないラックの表情が驚きのあまり崩れる。その視線の先にはフライゴンの隣にいた旦那と呼ばれたポケモンが鎮座していたからだ。そのポケモンには箱入りの宝玉が抱えられておりそれを確認したピカチュウは上機嫌になる。
「ごくろうだったな……
--ガマよ……」
宝玉を奪った張本人がまさか屋敷の従者であるガマであることにグラスもラックも動揺を隠せていない。その張本人であるガマは普段の温和な顔ではなく冷徹な顔つきでラック達を見下す。
「ガマさん……あんた……スパイだったのか……」
「…………」
ガマは口を開かない。
「どーだ、これで2対3だぜ?無事に帰るなら今のウチだぜ?」
ピカチュウのセリフはグラスのそれと全く同じ口ぶりで返す。しかし次第に彼の声をかき消すような爆音に近い音が発せられる。
「ガマアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!!」
「うるさい……」
誰がどう聞いても怒りを込めた怒声でドサドサと大げさな足音を立ててトノとそんな彼に半ば呆れ果てた様子のリンが姿を表した。
「ガマァッ!!キサマッ!!最近わしの命令に背くばかりかわしを裏切ったのかぁッ!!」
「ガマさん…………」
「…………」
猛り狂ってるトノとは対照的にリンは悲しそうにガマを見つめるもガマは全く答える素振りを見せない。ガマの平静としている態度が気に入らないのかトノの怒りが再燃。ガマの胸ぐらをつかみにかかる。
「なんだその態度はぁ!?キサマは我らカエル屋敷の誇りと絆を踏みにじったんじゃぞ!?」
「んだおまえ?何俺に馴れ馴れしく触ってやがる?」
「ガ……ガマ……?」
あくまでも平静のガマの態度。しかし本気で怒りを込めた彼の態度にトノは背筋が凍るような視線に戦慄する。刹那、トノの体が宙を舞う。
「なーにが絆だ!!お前のようなクズ領主のやってることなんかただのなれ合いだろうが!!」
気がついたらガマに投げられていたトノ。気がついたときに彼の視界に入ったのは相変わらず冷ややかに自分を見下し、自分に罵声を浴びせているガマの姿だった。
「ぐうぅぅ……ッ!!」
今まで仕えていた時の恨みを晴らすかのごとくガマは"どくづき"で倒れているトノを痛ぶり続けた。突かれた部分がグラスの背中と同じように紫色に変色している。あちこちが毒状態に陥りトノは一層苦しそうな声を上げる。とても目の前の光景に信じられないリンはガマの攻撃を止めることを躊躇していた。
「……ッ!トノ様から離れなさい!"グラスミキサー"!!」
--しかし攻撃を今までためらっていたリンだがトノが痛めつけられた様子を見て吹っ切れたのかとうとうガマに攻撃をしかけた。弱点攻撃が自分に飛んできたのを確認したからか、トノを痛めつけるのを止めて攻撃をさけ、再度トノをいたぶろうと近寄る。
「ガマ、宝玉は手に入ったんだ。これ以上余計な時間を食ってんじゃねぇ」
「……チッ!」
ピカチュウに制されるもガマは不服の様子。クラッシャはグラス達に臆したからか慌てて彼らに引き上げるように促す。
「ライトの兄貴!!さっさとずらかりやしょう!!」
「てめぇのような虫ケラに言われなくてもわかってんだよ。じゃあな」
ライトと呼ばれたピカチュウはガマとクラッシャを引き連れ去っていった。