第二十話 水の波動を忘れた トノ
※サブタイトルと物語とは一切関係ございません。
~~ Side リン カエル屋敷 ~~
バカと……依頼主のトノ様とバナさんとボンさんが自分達で依頼したあたし達救助隊の二人--グラスとラックを拉致するかのように連れ去っていった。夕飯までには戻ってこいとは念を押したものの、正直あいつ等が定刻通りに戻ってくるとは思ってないけど……。
「ガマさん。あちらの塩をとってもらえるかしら?」
「あっ、はい!!」
そんな訳で屋敷に残ったあたしはガマさんと夕食の準備をしている。あの屋敷には結構な数のポケモンがいるらしくその量は結構なモノ。とても一人じゃ手が回らないからガマさんに手伝ってもらっている。
「ねぇ、ガマさん……?」
「なんでしょう?」
「さっきの宝玉を奪うって書かれてた脅迫状……。何でガマさんがいついつ奪うかの日程を把握してたのかしら?」
「----!!?日程……ですか?」
「あぁ!アレです!アレ!僕がこの前一人で買出しに言ってた時に奴らの配下に接触したんです!
"いついつに奪いにくるぞ"って!」
「そう……」
いつになくガマさんが取り乱していた。何か隠しているようにも見えるけど……。と詮索をかけようとは思ったら扉が開いてドクロッグ--ドクさんが入ってくる。
「ガマ、そろそろ時間だが準備はできた?」
「おう。そろそろできそうだよ」
詮索は中断。もう日も落ちてきたことだし夕食の準備を再開。釘をさしてはおいたけど多分あいつ等が時間通りに帰ってこなさそうね……。
~~ Side 三人称 とある居酒屋 ~~
「ここなんじゃがな」
先刻まで大暴れというしたトノ達一行は腹をへらせたのか、一度切り上げて食事にするかとトノが提案。トノ達の暴れるのあおりをくったグラス達も休憩が欲しかったからかそれに賛同。
「いらっしゃーい。今日ははやいねー」
出迎えたのは店主らしきキングドラ。彼の態度からトノ達とは顔見知りなのだろうかフランクな態度で応対する。
「じゃあいつもので行くかー!?」
(いや、いつものでわかる訳ないだろ……)
当たり前だがグラスもラックも"いつもの"でどんなのが出てくるかわかる筈もない。
「はーい!"脱出雨チャーハン"ですねー」
(アンタもわかるのかよ!てかなんだ"脱出雨チャーハン"って!!)
「あと大将!ビール一本!
今日はわしの奢りじゃ!アンタ達も存分に楽しむのじゃ!!」
ツッコミも何もない店主キングドラの口ぶり。そればかりかはたから聞いたら訳の分からない料理名が彼の口から飛び出てくる。グラスにはツッコミが追いつかない。
「お前またビール飲むのか〜?」
「トノサマ酒にめちゃくちゃ弱いのに大丈夫なんですか?」
「やかましい!好きなんじゃよ!」
「しっかりしろよバカトノ〜。曲りなりにも領主なんだから千鳥足で帰宅なんてかっこつかないぜ〜?」
そう言いながらもバナもボンも酒をかっくらっている。だが彼等は結構な量を飲んでいるにも関わらず全く表情等に変化は訪れない。そうとう強いのだろうか。
「はいお待ち!"脱出雨チャーハン"です!」
「おぉ来たぞい!」
キングドラが出したのは巨大な皿に置かれた巨大なチャーハン。どこにも"脱出"も"雨"の要素もない至って(量以外は)普通のチャーハンであった。
~~ 五分後 ~~
「はぁ〜食った食ったのじゃ〜」
「おいバカトノ、てめぇ顔が真っ赤じゃねぇか」
『…………』
料理が来てからわずか五分であった。グラス達の体ほどのチャーハンがあっという間に消えて行ったのだ。その行き先のほとんどがトノとバナの胃袋の中に消えていきグラスもラックも手がつかずに腹を空かせている。ちなみにボンは小食なのであまり腹は空かせていない。
「おっと電話だ。失礼」
突然の着信。電話のために一旦外に出る。既に夜となっており外は暗くなっていた。
「はいよ」
『今……何時……?』
「はい?」
電話の相手はリンであった。第一声から何言っているんだこいつはと思ったグラスがその真意に気がついたのは次の瞬間であった。
『今何時だと思ってるのバカ亭主!!!!』さっきまでの低音かつ消音の声を一転させリンが叫ぶ。トノの"ハイパーボイス"にも劣らない爆音はトノ達やキングドラにも聞こえていたのか腰を抜かせて驚いている。
(やっぺ……!そういや7時までに帰ってこいって言ってたっけ……!!)
ここでラック。リンの真意に気がつき時計を確認。時刻は既に7時を軽く超えている。だからこれだけあいつ怒ってるのか……。
『こんな時間まで何してたの!!せっかくガマさん達とご飯作って待ってたのに!!』「あ、あぁー、悪かったから怒らないでくれよリンちゃんよぉ〜。これもトノ様づきあいなんだからよ〜」普段の飄々としたラックの態度はどこへやら気の抜けた返答、果てには"リンちゃん"呼ばわりだ。その内容はトノ達にも筒抜けであり三人はニヤニヤとグラスはため息でキングドラは苦笑いだ。
一連の内容が終わり。ラックが戻る。
「悪いなトノサマ。うちのオンナ怒らせちゃったからそろそろ切り上げないか?」
「うーむ、致し方ないのぉ。大将!コレで」
口ぶりとは裏腹にトノの顔は明らかに残念には見えない。ポケを支払って彼らは屋敷に戻ることに。
~~ カエル屋敷 ~~
「遅い!!」
「すまん」
さっきと同じようなやり取り。しかし意外にもこれ以上のやりとりは行われずに彼らにとって二度目の夕食が始まる。
その時の夕食はトノとバナによる食料争奪戦(仮)が勃発。食欲旺盛な彼らによる食事という名のバトルが勃発するのであった……。
「ケケケッ!あいつ等、これからどんな目にあうかも分からずに騒いでいやがるぜ」
「……様。いかがいたしましょうか?今から乗り込みますか?」
カエル屋敷を草影から覗いている三つの影。
「いや、明日の昼だ。今はヤル気がおこらねぇ」
(やる気おこらねぇって……)
明らかに悪巧みを企てているこの会話。しかしこのリーダー格のポケモンの冷めた口ぶりからやる気は全く感じられない。それとは反比例してか手下の一体はやる気だけはそなわっている。リーダー格のポケモンは苛立った様子で頬から電気をバチバチと出しながら屋敷をあとにしていった。