第十九話 カエル屋敷
~~ Side 三人称 トノの屋敷への道中~~
「ほーらお前たち!さっさとあの邪魔者を蹴散らすのじゃ!」
ニョロトノ--トノとその従者のニョロボン--ボンの案内を受けて彼らの屋敷に向かおうとしているブラザーズだが道中のダンジョンに足を踏み入れたところ、数体の敵に遭遇。依頼主を守るということで前に出て戦っているグラスとリンだがそんな二人にトノがいつもの通りの高圧的な態度を露にする。
(あの蛙……。いつかあの足もいで蛙肉の唐揚げにしてくれる……)
(グラス……油と火なら準備するわよ……?)
先ほどからトノがあんな態度なためにリンとグラスの怒りのボルテージが上がり、しまいにはこんな物騒なことまで考える始末。
「はぁ……どーしてあいつらはあんなんだろうかねぇ……」
ボンとトノを野生ポケモンから護衛しているラックも思わず苦笑い。
下手な野生ポケモンより危険な殺気を出してトノを斬ろうとせんばかりグラス、リンとは対照的に彼は依頼主の背後を守る形をとっている。
「んで、お殿様よ。後何分くらいでお屋敷につくんですかい?」
「そうじゃなー、あと十分程度でつくぞよ」
~~ 十分後 ~~
「ついたぞ!アレがワシの屋敷じゃ!」
ダンジョンを抜けた一行が目にしたのは、屋敷と呼ぶにふさわしいほどの大きさのお屋敷であった。これほど大きな屋敷を所持してるのだからあのトノ様もこんだけ態度が大きくなるのだろうかと一人でラックは考えている。
「トノじゃ!お前たち!客人じゃよ!出迎えよ!」
"ハイパーボイス"でも発しているかのような大きな声でトノが叫び、ブラザーズの三人は思わず耳を塞ぐ。ボンは慣れているのかケロッとしている。
そんなトノの声(というかむしろ爆音)を聞いて緑色の巨体がドタドタドタとけたたましい音を立てて彼らの元に急接近。その緑の塊はトノに近づいて彼の体を吹っ飛ばす。
「--ケロォッ!!」
自身の二倍ほどの丈の相手に激突されてトノの体が宙を舞い、10メートル程離れた壁に叩きつけられる。
「いや、バナさん……」
「それやりすぎでしょ……」
「ごめんごめん。んでボン君。バカトノが連れてきた救助隊のヒトってこの人達?」
後ろのガマゲロゲやドクロッグに言われて初めてトノの存在に気がつくも、彼のことは気にもとめないばかりか"バカトノ"と称したバナと呼ばれたこのフシギバナ。彼の顔には反省の2文字はなく、ニヤニヤと笑っている。しかしその笑いには今までグラス達が見た悪者のようなうすら笑いとは違い、悪意は感じられない。
「あっ、はい。ブラザーズって名前です」
「そうなん!?あっ、初めまして。あのバカトノが世話になります。僕この屋敷に住んでるフシギバナです。まぁバナって呼んでくださいね」
フシギバナ--バナに続いてガマゲロゲ--ガマとドクロッグ--ドクが一通り自己紹介。ブラザーズの第一印象としてはバナはムードメーカー、ガマは礼儀正しいしっかりもの、ドクにはただ無口なイメージがつけられる。
『
ってこらああああああああああああああああああああぁぁッ!!』
「…ッチ……。うぜぇんだよ糞バカトノ……しんどけ……」
自己紹介も終えて他愛ない話を遮ったのはバナに吹き飛ばされたトノの"ハイパーボイス"だ。その爆音にかき消された筈のガマの悪口はリンの耳にしっかりと届く。さっきまでの態度とは180°違った彼の態度に戦慄。
(ガ……ガマさん……!?)
「お前たち!領主のわしを放置してなに和やかに会話をしておるんじゃ!
--バナよ!なんで今日に限って轢いた!」
「ごめんごめん!ちょっとアレを考えたら勢いつけすぎたわ!」
「ごめんじゃなかろうて……、アレって何じゃ!?」
「祭りやって。今日までやで?知らんかったん?」
「なんじゃと!?」
自分達を依頼で呼んでおきながら、その依頼より先にバナから聞いた依頼に関心がいくこのトノ。ブラザーズのなかでの彼のイメージが急降下の一途をたどる。
「それをはやく言わんか!こうしちゃおれん!ボン!バナ!それにお前たちもさっさと遊びにいくぞい!」
「おう!」
「あっ……まぁいいですけど……?」
意気揚々と"遊び"に向かったトノはグラスとラックを強引に連れて行ってしまう。バナこそは乗り気であったがボンはトノの強引な態度に若干引き気味。
「19時までには帰ってくるのよー!わかったー!?」
今更止めても無理だと察したリンは、さながら彼らの母親のような忠告を促す。それに一番元気よく返答したのはトノとバナだった。五人の影が次第に見えなくなっていく。
「はぁ……あの殿様は一体何がしたくてあたし達を呼んだのかしらね……」
「す、すいません!!うちのバカトノのせいでご迷惑を!」
その後も謝罪ついでにトノをこれでもかというくらいけなすガマにドクが制止をかける。
「それで、今回の依頼ってどういう内容か詳しく聞かせてもらってもよろしくて?」
「はい、そのことですが詳しいことは屋敷内でお話しましょう」
一通りトノへの私怨を吐きまくり落ち着いたのかガマの態度も初めて出会った時の冷静な態度へと戻る。リンはガマとさっきからろくすっぽ喋らないドクに連れられて彼らの屋敷へと足を踏み入れる。
~~ カエル屋敷 ~~
「こちらです」
ガマに連れられた先はいかにも厳かな装飾と共に飾られている宝玉が納められた部屋であった。
「この宝玉は……?」
「これは"夢の石"……触れると所謂夢特性が使える不思議な石です……」
珍しくガマじゃなくドクの口が開く。改めてその石の性能を聞かされたリンは触りたいという衝動に駆られた。多分無理なんじゃないかと思いつつリンが尋ねる。
「ねぇ、ガマさん……。あたしにも触らせてもらって--」
「無理です」
(ですよねー!)
拒否されたリンよりも拒否したガマのほうが明らかに口惜しそうな顔をしていた。理由を尋ねられガマが口を開ける。
「バカト--トノサマは何故かこの石に関しては他の者だけじゃなく屋敷に仕える僕たちにも頑なに触らせようとしないのです」
「その癖トノサマ、一人で触ってる……不平等です……」
ガマだけじゃなくドクも露骨にトノに対する不満を露にしている。領主なのに彼がここまで嫌われているとは思ってもいなかったリンは思わずその態度に苦笑い。尤も、領主という上に立つ立場だからこそ嫌われるのかとも思い直したが。
「それで……この石をどうすればよろしいのかしら?」
「はい、先日こんなものが届いたのです」
ガマから手渡された一枚の手紙。自分達が呼ばれたというからには脅迫状かと察していたが、その封は意外にも丁寧になされていた。リンはその手紙を開け内容を読み取る。
「--なるほど……。この石を盗人から守るためにあたし達を呼んだ……そういうことでよろしいかしら?」
「はい……」
「…………」
いくら気に食わないとは言えトノはここの領主だ。ガマもドクも真剣な表情でリンに頼み込む。
「この屋敷ではトノサマの命は絶対なのです。救助隊"ブラザーズ"様。盗人からこの宝玉を守り通してください」
「--お願いします」
誠実なガマの態度と不器用な口ぶりながらもも頭を下げるドクの態度を見てリンが断れる筈もなく--
「わかりましたわ。この依頼はリーダーから進んで受けた依頼です。承りましょう」
--一方その頃、グラス達は
「ボエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェ」
「なんで祭りからカラオケに派生するんだ……」
「しかもあのトノサマとやら……ずいぶんなお手前でいらっしゃる……」
「おらああああああああぁ!引っ込めえぇぇぇ!バカトノおおおおおおおぉ!」
「Boooooooo!!」
トノ率いるカエルチームのカラオケに付き合わされているのであったとさ。