第十八話 おとのさま
~~ Side グラス ???? ~~
ワタシとリン、そしてキリキザン保安官達はシャドーとその一味を無事に討伐。しかしながらガンバルズの元リーダーのヒトカゲはチームメイトの説得を受けるも奴が改心をすることはなかった。連行されていくリーダーを見送っていたゼニガメ達の様子は私達にも物悲しいものを感じさせた。今でもその情景を思い出すたびに物悲しくなってくる。
--こんな状況じゃなければな。
~~ ブラザーズ 基地 ~~
シャドーを倒したのはよかったが、勝手に抜け出されたことがラックにバレてしまい即座に基地のベッドに蜻蛉返り。またもワタシとリンはラックの拘束を受けていた。それもさっきより強力なモンをな。こんくらい強力な拘束を受けちゃ外に出たくても出られる余地がない。それに今度こそ言うことをきかなかったら奴も本気でキレルだろう。
「暇だ……」
こうつぶやかずにはいられない。あまりに暇としかつぶやいてないのでリンが"やかましい"とキレてしまった。彼女のほうも暇が高じてかそうとうイライラしている。正直いごこちが悪い。
「--なぁ、リンよ」
「何よ!?」
初めて"暇"以外のワードを口にしたがリンの機嫌は変わらずにトゲトゲしく返す。それでも私は"あること"が気になったのでこの機会にと彼女に訪ねてみることにした。
「私の種族の"キモリ"って"何か素早さを上げる特性や技とかはあるのか?」
あの時のシャドーとのバトル、奴に剣を飛ばされてから妙な体の軽さを感じていた。今までの経験(とはいってもたった数回であるが)から何かを無意識的に出していたことは何となくだがわかっていたが、その詳細までは掴めてない。
唐突にこんなことを尋ねるものだからリンの顔もさっきの怒った表情がきょとんとした表情に豹変。それも無知による呆れによる驚きではないようにも見受けられる。
「うーん……、あたしも噂でしか聞いたことはないんだけど……」
「それでも構わないから話してくれないか?」
「じゃあ話すわね。ポケモンにはそれぞれ"特性"ってものがあるのは知ってるでしょ?普通はあたしやアンタの種族は"しんりょく"って特性があるの」
"しんりょく"--確か体力が限界まで削られると草タイプの攻撃技の攻撃力が上がる特性だな。それは覚えているな。
「でもね、最近わかったことなんだけど、ほとんどのポケモンが何らかの手段を用いて全く別の特性--所謂"夢特性"って特性に変わることがあるんですって」
「ほとんど……ってことは、その夢特性とやらがないポケモンもいるのか?」
「うん、例えばフライゴンみたいに特性が"ふゆう"のポケモンはそれが見つからなかったらしいわよ?」
フライゴンか。ふん、奴の名を聞くとどうしてもあのクズのことを思い出してしまって虫酸が走るな。
「それでね、キモリには"かるわざ"って特性があるんですって。まぁどうやってその特性を引き出すかは全く何も分かってないんだけど……」
「かるわざ……か……」
持ち物を無くすと素早さが大幅に上昇する特性……。なるほどな、だからアイツに剣を飛ばされ瞬間から自分でもよくわからない素早さを引き出せたんだな。とは言え、当然だが私にはそれをどうやって引き出す術なんてわかる筈もない。宝の持ち腐れというやつだ。
「なるほどなぁ……」
~~~~♪♪
--と、頭を悩ませた私のお腹から音が鳴った……。
「お腹すいたの?」
「あぁ……恥ずかしながらな……」
「ちょっと待ってて」
そう言いながらリンがベッドから起き上がる。ただ、起き上がる動作一つにも傷がこたえたのか痛みで表情を一瞬であるが歪ませた。
「そろそろ時間だからご飯作ってくるわ」
それでもリンは心配をかけまいとしているのか気丈に振舞っている。
-- 10分後 --
「お待たせ」
リンから持ってきた料理からはいい匂いがしてきている。コトっと音を出して私の前に料理が置かれる。
その料理からは私の空腹の促進させるいい匂いだ。反射的には私はその料理を貪るように食いついていく。数十秒もたたないうちに皿は空っぽになっていった。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
「そう?ありがと」
~~ Side ラック ポケモンひろば ~~
グラス達が一連の事件を解決させたいつもはポケモン達の話し声で賑わっているあのポケモンひろばだったが強に限っては勝手が違ってた。
ポケモンの集団が何かを取り囲むようにしてざわざわと賑わっている。そのポケモン達に取り囲まれているように見えるのは4体のポケモン。ん?2体はどっか見覚えのある奴だな?
怒りながら詰め寄っているのはニョロトノ。ニョロトノを煽っているのはあの俺達を邪魔し続けているフライゴンだ。そしてその二人を制止しているのはドンファンとニョロボンだ。
「貴様ぁッ!殿様のワシがこれだけ頼んでいるのに何だその口のききかたはぁッ!」
「あぁ!?んなチャチな報酬でオレらが引き受けるか!200万ポケ以上は出しやがれ!なんだ2ポケってオレら舐めてんのかあぁ!?」
「なんだとおおおおおおぉぉ!?」
「よしてください!殿様!」
「クラッシャもやめろ!こんなとこで喧嘩したって一ポケにもなんねぇぞ!!」
あのドンファンが喧嘩を止めているのは意外に思いつつ俺はしばしその喧騒を眺めていた。喧騒のギャラリーはやれややれやとはやし立てている。そんなギャラリーのことなんざ耳を傾ける様子もなくフライゴンとニョロトノは睨み合って動かない。
「ふん!もう二度と貴様のような無礼者なんざに頼まん!」
「こっちこそんなふざけた依頼主なんざ願い下げだッ!」
彼らの諭しがきいたのか意外にもあの二人の喧騒は戦闘に発展することなく終えた。フライゴンは捨て台詞を吐いてさっていき、ドンファンはそんな彼の後を追う。ギャラリー達はさぞかしつまらなそうに散り散りになっていった。その場に取り残されたのは俺とニョロトノとニョロボンの三人だけとなる。
「ぐぬぇ……まいったのじゃ……。あんなクソほど弱そうな救助隊ですらワシの依頼を受け付けんとは……」
「いやーそりゃ誰だってあのヒトをバカにしたようなクソみたいな報酬の依頼なんざダレも受ける気ないんでしょう?」
「うーむ……」
さりげなく毒づいたニョロボンのツッコミにはまたしても耳を傾けずに一人で首を捻る。そりゃあんな内容じゃフライゴンじゃなくても誰だって怒るだろうよ……。まぁ、奴の言い分も無茶苦茶なんだが。
--と、そんな彼(声質から多分♂だろう)が俺に気がついたのか喜々とした表情で俺のもとに駆け寄ってくる。
「ニョホホ!会いたかったぞえ!」
「--!!?お、おれにか?」
まるで旧友にあったかのごとくリアクションに俺は所謂ドン引きというアクションをとる。当然だが俺はこのニョロトノとは初対面であり全く誰かもわからない。
「そうじゃそうじゃ!お主のことはあらかじめ調べさせてもらったぞよ!」
「そ……そうか?」
俺も有名になったのかな。と、気分が浮かれていたのだが、そんな淡い期待もニョロトノの次の言葉で虚しく打ち砕かれたことはこのときの俺は予想だにしていなかった。
「うむ!この辺の無名新人救助隊は徹底的に調べ上げたのでな!」
ずっこけた後、俺はこのカエルをハッ倒してやりたかった。が、俺も大人だからぐっとこらえる。あいつ等がいたら真っ先に殴りにかかっただろうな。
「すいません、実はうちの屋敷はあまりお金がないものですから……」
「だから金のかからないお前たちのような新米救助隊を探していたのじゃ!さぁ!救助隊"ブラザーズ"よ!お主達の基地にワシ等を案内するのじゃ!」
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~~ Side ラック ブラザーズ基地 ~~
「たのもーッ!」
「って殿様……道場破りですか」
俺が帰ってきたのだが真っ先に口を開いたのは不遜な口ぶりのニョロトノとそれを制したニョロボンだ。ラックは頭を抱えている。
「ねぇ、あなた?このヒト達誰?」
「あぁ、さっき広場で会ったんだがな……」
「おぉ!お主がグラスじゃな!会いたかったぞい!」
「わ、私にか?」
この数秒後グラスが先ほどの俺と全く同じリアクションをとることになっていた。
「あのミズゴロウじゃ話にならんからの。リーダーのお主に話をつけにきた!」
「ほう、してその内容は?」
ニョロトノが"あの依頼"の内容が書かれた紙切れをグラスに手渡した。そして数秒後、ニョロトノの体が地に伏せることに。
「ありえないな。断る」
「ちょっとグラス!いくらなんでもやりすぎでしょ!」
ニョロトノを殴り飛ばしたグラスをリンが制する。ごめんなさいと謝罪しつつニョロトノに頭を下げる。そしてグラスの持っていた紙切れを手にとり--
--ズバッ!バキィ!
さっきのグラスの攻撃よりもえげつない音と共にニョロトノが二度地に伏せられる。全くこいつらときたら……。
「グラス、あのカエル殺るわよ」
「嗚呼、お前たちの解剖実験の材料には丁度いいな」
流石に冗談だとは思うが"リーフブレード"を構えたグラス達を制止した。あのニョロトノは腰を抜かしてガタガタと震えながらあの軽口を叩き続ける。
「ぬーッ!どいつもこいつも便りにならん!」
「殿様、手紙になってます」
「このままじゃワシ等の家宝"夢の石"が奴らに奪われるのを指を加えて見なけりゃならんのかぁ!」
--ピクッ
ニョロトノの"夢の石"と聞いた瞬間からグラスの顔が一変する。
「なぁ、夢の石ってなんだ?」
「夢の石はその石に触れることで触れたポケモンの夢特性を引き出すことができるんです」
「そうじゃ!だからワシの大事な家宝なんだが……」
「よし、ならばその依頼。私達が受けることにしよう」
「おいおい、いきなり手のひら返して何言ってんだ?」
俺は受諾した理由が分からずにいるがリンは察していた。後で聞いた話だがあの野郎、あわよくばニョロトノの夢の石に触って夢特性を得ようとしてやがるな。こすい奴だ。
ニョロトノは機嫌を良くしたのか笑いながら扇子で自身を仰いでいる
「ニョホホ!!流石期待の新人救助隊ブラザーズじゃ!ボンよ!早速彼らをワシの屋敷に案内するのじゃ!」