第六話 電磁波の洞窟
「さってと……電磁波の洞窟とやらかここでいいかなっと……」
「おっと、来てくれたか」
ブラザーズ基地からざっと三キロ程度にある小さな洞窟。ここが電磁波の洞窟であろう。到着した三人に背後から声をかける。黄色を基調とした虎柄の模様が特徴的なポケモン--エレブーだ。
「あんた達が救助隊ブラザーズか?」
「--いかにも」
と、グラスが返答した途端……。
「--ぷっ!なーに今の返事!”いかにも”ってカッコつけちゃって!さっきまで手紙を口のなかに入れられたくせに恥ずかしー!」
グラスの返答がキザったらしいのが鼻についたのか、それともギャップが受けたのかは定かではない。だがリンはその場で彼の声まねと共に笑い飛ばした。
「手紙……?口のなか?」
「おい!それは関係ないだろーが!」
「よさんか二人とも」
このままでは口論に発展しねないとラックは二人を止め、依頼主に話を続けさせる。
「済まないな。話を続けてくれ」
「嗚呼、私の息子がこの洞窟に遊びに行ったっきり帰ってこないのだ……。なんせここには盗賊団の残党がいるとの噂だからな……」
「(いや……その荒っぽい口調で一人称”私”だとなんか違和感感じるんですけど……)」
相手が相手だから表立っては突っ込まずに心中で突っ込む。
「だから、キャタピーの坊主から聞いたあんたたちなら助けれると思ってな。頼むな!」
「わかった、任せてくれ」
と色よい返事はしたのはいいがなぜか腰に携えた剣を抜く。
「いや、なんでこのタイミングで剣を抜く訳?その様子だとエレブーさん攻撃しようとしているようにしか見えないんだけど?」
「別にいいだろうが。少し気合をだなぁ……」
「あーはいはい、わかったから行きましょうねおじいちゃん」
「だーれがおじいちゃんだ!ていうか引っ張るんじゃない!」
「……緊張感のない奴ら……」
グラスを引っ張って洞窟に入るリンを見てエレブーもラックも同じことを考えていた。ラックはそんな二人を見て後を追う。
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「あぁ……気持ちわりぃ……」
「大丈夫?少し休んだほうが……」
洞窟に入って数分後、ラックが不調を訴えた。グラスをからかっていた時とは別人ならぬ別ポケのような心配した声調でリンが尋ねる。
「察するにここに電気技の成分が含まれている電磁波がいたるところから流れてる。水タイプのオレはあまり長いこと浴びているのは良くないな」
名のとおりに洞窟から電磁波が手当たり次第に生じている。下手に休んでいては彼の体に何らかの悪影響を及ぼしかねない。
「急ごう」
顔をしかめつつラックはグラス達に発破をかけた。
「あの……」
不意に声をかけられた。その声はあまり大きくなくグラス達はあまり警戒することなく
後ろをむいた。
「もしかして……救助隊の方々ですか……?」
「ああ、そうだ。我々はここに迷い込んだ子供を探しているのだが……、ひょっとしてキミか?」
声をかけたポケモン--エモンガはグラスの言葉に小さく頷いた。その後ろからぞろぞろと別のポケモン達が。
「あら?その子達も?」
「--!!そ、そうなんです……」
(?……なんで今少しだけびっくりしたんだ)
あからさまに態度が一瞬であるが変わったことにグラスは疑問を持つ。--彼は頭に指を当ててなにやら考えている仕草をとった。尤も実際に考えてはいるのだが。
「さっ、こんなところ早く出て早くお父さんのもとに……」
「ちょっと待ったリン」
バッジを掲げてエモンガ達をダンジョンから出そうとするもグラスが待ったをかけた。当然止められたリンは不服そうに彼に文句を垂らす。
「一体なによ!」
「おかしいと思わないか。エレブーのオヤジさんは”子供”とはいったが子供”達”とは一言も言っていない。それに明らかに種族が違うよな」
「そ、そういえば……!」
先ほどまで怒りを表していたリンもグラスの洞察にはっと驚きを浮かべる。そんなことはお構いなしに彼は続けた。
「尤も、親子での種族が違うのはさして珍しいことじゃない。だが……子供なら言える筈だよなぁ……親の種族がはっきりと……」
「うぅっ……」
一歩ずつ問い詰めるグラスとそれに呼応するように一歩ずつあとずさるエモンガ達。
「さぁ答えろ!お前たちの正体を!」
「クックック……バレちゃ仕方ないね……」
剣先という名の敵意を向けられエモンガはうすら笑いを浮かべた。彼の疑問が確信に変わった瞬間だ。
「そうさ……僕達はその子供達じゃないし、その親の種族なんて知らない」
「あんたたち……盗賊団ね……」
睨むような目付きと共にリンが言い放った。
「そう……僕たちは盗賊団(と言っても下っ端なんだけど)……。救助隊が来るからってここに迷い込んだエレキッドの子が言ってたからちょいとひと芝居とうってやろうとおもったんだけど……」
「オイラ達のかわいさに騙されなかったね。兄ちゃん」
横にいたパチリスがエモンガに口を開く。ラックが”そんなあくどい顔のどーこが可愛いんだか”と小言ツッコミをしていたことには誰も気がついていない
「まっ、見た感じ君たち弱そうで一人はここの電磁波にやられちゃってるみたいだからね。道具全部置いていったら……--!!」
既に気がついた時にはグラスが目の前に迫っていた。エモンガは自信の両翼で斬撃のダメージを緩和する。
「ただのチンピラ……って訳じゃなさそうだな」
「やってくれるね……。みんな!手加減なしでいいよ!」
その号令から取り巻きのポケモンから一斉に帯電が始まる。ブラザーズの額にシワが寄った。
(ラック)
(なんだ……)
小声でのやりとりだがラックの声には元気がない。
(私とリンが奴らの相手をする。だからお前はエレブーさんの子供を助けに行け!)
(……分かった。どーせ今のオレが行っても足でまといにしかならんからな……)
ラックはこっそりと盗賊に見つからないようにダンジョンに進んでいく。
「逃がさないよ!」
(ぬっ!まずいっ!)
「リーフブレード!」
こっそりと奥へ向かうラックを手下のパチリス・プラスル・マイナンが遮る。そんな三体をリンが遮った。
「あんた達の相手はあたしがやるわ」
「邪魔しないでくれるかい?」
「なーに?得意なタイプ相手に三人がかりで襲うような情けない男にそんなこと言われるいわれはないんですけど?」
なんともわかりやすい”挑発”であった。歴とした彼女のわざとしての挑発は三人の狙いを自分に向けさすには十分すぎる。
「て、てんめぇ……!」
「覚悟しろ!」
激昂したパチリス達。そんな三体が自分に襲いかかるところを見たリンは手で自分の目を被った。
「なんだぁ!?僕たちにビビってんのかぁい?」
そしてすっと目線をやった。
「うっ……!」
「ひぃっ……!」
「ぎゃっ……!」
今までのリンの目付きが大きく変わった。そんな彼女の目付きに見とれた三人はまさにベビに睨まれたなんとやらと身がすくんで動けなくなる。
「あんた達……じっとしていなさいよ……。動くと斬るから……!」
『こ……こええええええええええええええええぇぇ!』
左手にとったメスが彼らの恐怖の感情を増幅させる。
「さって……」
(ほっ……なんとか見逃してくれそうだな……)
威嚇用に用いられたメスをしまってツカツカと自分たちに歩み寄る彼女を見てホッと安堵する。そして彼女はニッコリと笑い--
「リーフブレード……」
『やっぱり斬られるんかああああああああああああああああぁいい』
端から見逃す気なんぞ微塵もないリンはそのまましっぽを尖らせ”リーフブレード”で三体を切りつけた。一撃で三人共撃沈する。
「弱いわね」