第十六話 VS シャドー
~~ Side グラス ブラザーズ基地 ~~
「……行ったようね」
あれから2日後、私達は保安官キリキザンからシャドーとつながっているあのヒトカゲが動いたとの連絡を受けた。ラックが基地を後にしたところを確認したリンが手招きして私を呼ぶ。
「あいつに知らされると間違いなく止められるだろうからな。今回は私達二人だけで向かうことにしよう
」
「そうね」
場所は"怪しい森"と呼ばれるダンジョンらしい。そこでキリキザン達と落ち合うことになっている。
~~ 怪しい森 ~~
保安官達と落ち合った私達は特にこれといったトラブルもなく突き進んでいった矢先--
(------!!)
「皆伏せろ!」
小声ではあるが全員の耳に通る声量で私は全員に草陰に隠れるように指示する。ブラッキーとヒトカゲ、あとそいつらに対峙するようにゼニガメとチコリータがたっていた。誰が見てもこのまま穏やかに終わる様子はない。
「うるせぇ!言った筈だろう!俺達はもう元のように戻れないんだ!」
「そんなことはない!リーダーが--」
「黙れェッ!!」
説得が続き、鬱陶しさのあまり激昂したヒトカゲ--オビトが説得しているチコリータを殴り飛ばした。裏でブラッキーは人事のように傍観している。
「くっ……!」
この光景を見てリンが怒り出さない訳がない。自分を慕っている仲間の存在を無下にしているあの態度はリンでなくとも怒るはずだ。無論私も今すぐにでもあいつを吹っ飛ばしたい気持ちをある。そんなやり取りがしばし続いて--
「もういいッ!!」
今まで傍観していたブラッキーが苛立った様子で声を荒らげた。
「オビトォ!てめぇはおれにそんなつまらねぇ茶番を見せに来たのか!」
「チッ……。仕方ねーだろーが。こいつらが勝手に付いてきやがったんだからよ」
仲間割れか?このまま内輪揉めが起こってくれればこちらとしては対処が楽になるんだが……。
「んなもんてめぇが間抜けにも引っ付いてこられるからだろうが!おーい!野郎どもッ!」
『ウィーーー!!』
『--!!?』
--!!?こいつは?
ブラッキー--シャドーが叫ぶとガンバルズと取り囲むように奴の手下らしきヤミラミの群集が表れた。やはりキザン保安官の情報のとおりだ。奴は激昂すると自分の部下を呼んで数にモノを言わした攻撃を仕掛けてきた。
「てめぇの言い分はもう沢山だ!オビトォ!!てめぇの手でその邪魔者二体を再起不能にしろ!!さもないとてめぇも同じ目にあわせてやるッ!」
「なんだとぉ!?」
体制を低くしたシャドー--あれはブラッキーが戦闘態勢に入った構え--それをとったシャドーはオビトと決別を迫った。流石に仲間を自分の手で仕留めるのはオビトも躊躇いを見せた。これはひょっとして--
「……チッ、"火炎放射"!!」
「うわあぁッ!?」
私の期待は打ち砕かれた。オビトはシャドーではなくゼニガメのほうに攻撃をしていた。奴に改心を求めるのは無理な話だったのか……。
--おい!?隣にいたリンが我慢できずに草陰から矢のように飛び出してきた。全くあいつは……。
「フフフ、オビト……てめぇも少しは分かってきたようだな。さぁガキ共。これでてめぇらは袋のコラッタといったところかぁ?」
『それはどっちのセリフかしらね!?』
オビトとシャドーが全く同じタイミングで"誰だ!?"と叫んだ。待てリンよ。そのセリフは主人公の私が言うところじゃないか?
「悪党共に名乗る名前なんてないわ!あんた達!大人しくお縄につきなさい!」
「ヘッ!てめぇ一人増えたところでだな--」
「それはどうかな?」
私も保安官たちも奴らを取り囲むように姿を表した。フッ、あいつ等が言っていた"袋のコラッタ"の状態とやらはあいつ等のほうになったな。
「あ、あんた等……!俺のことを……!」
「そうだ。お前が裏でシャドーとつながっていたのは俺もわかっていた。わざわざ一味を総動員で引っ張り出してくれて感謝してるぞ」
私の隣のキリキザンがしたり顔はオビトにかなりショックを与えていた。シャドーの舌打ちと彼のニヤケ顔はかなり奴を焦られているに違いない。
「さぁ、あんた達!覚悟はできてるわね!?」
ドサッと足音を立ててリンがドスの聞いた低い(あいつにしては)声で一歩踏み出した。ボキボキと指を鳴らしている姿は闘争心を剥き出しにしている。そうとうヤル気だなあいつも。さて--
~~~~
「やーれやれ、だーれが相手かと思ったらじじいとオンナじゃねぇか」
「ふんっ、お前のその余裕。いつまでもつかな」
今まさに飛び出してきそうなリンを制止し奴を挑発する。しかし所詮は口プに近いものなんだからか奴の余裕の顔は変わることはない。相変わらずの憎たらしいほどにニヤニヤしている。見てろ……その余裕を今から粉々に打ち砕いてくれる……!
「"毒毒ッ!"」
『--ッ!!』
シャドーの体中の毛穴から猛毒を染めた液体を飛ばしてくる。リンがその場から飛び退き、私が良けながらシャドーに近寄る。さっきまで立っていた地に"ジュッ"っと地面が溶ける音が発せられる。
「あんな毒……受けてらんないわ……ッ!」
「くらえ……"けたぐり"ッ!」
--ガシッ
シャドーに足払いに近い蹴りが入り、奴はバランスを崩し転倒する。だがシャドーの表情は痛みに苦しんでいることはなく私をにらみ続けてる。
「舐めてんのかてめぇは……ッ!"バークアウト"!」
「ぬっ……!」
シャドーがまくし立てるように吠え、衝撃波を作り出す。シャドーに近づきすぎて避けられない私に--
「--間に合って! "蔓の鞭"!」
リンの"蔓の鞭"が私の体に巻き付かれて彼女のもとに引き寄せられた。それに気がついたのは私がリンの足元で彼女に睨むように見下された時であった。
「全くあんたは真性のバカじゃないの!?ブラッキーに"けたぐり"なんかがきくわけないでしょうが!」
「え?」
うかつだった。"けたぐり"は体重に依存する技。見た目からも比較的軽量のブラッキーにはけたぐりは通らない。だが技をうつ瞬間の私は気がつかなかった。何せポケモンの知識なんて乏しいことこの上ないのだから。
「くっくっく……あんまり俺様を舐めんなよ?"のろい"」
「--!!あいつにのろいはダメ……!」
技のことがよくわからない私は置いてけぼりにされて、リンが策を練った。アレはブラッキーが使える積み技……で、あっているのか?と首をひねってるさなか、リンがニヤリと悪役のように口角を釣り上げて--
「呆れた!あれだけあたし達のことバカにしておいて積み技使ってくんの!?あんた、男の癖に真っ向からの殴り合いも出来ないほどの臆病者なわけ!?」「--!!?」
今までに見たことも聞いたこともないほどの嘲りを含めた口ぶりでリンは暴言にも近い言葉を吐き捨てた。その目付きは進化系であるジャローダのような睥睨とした目付きであった。リン?ど、どうしたんだ……!?
「こ、このオンナ……!言いたいこと言ってくれるじゃねぇか!」
リンの"ちょうはつ"で激昂したブラッキーは"のろい"を積むことを忘れて殴りかかった。そうか、れっきとした技の挑発か。さすがに技ともなれば私のソレとは格が違う。聞いてたこっちまで腹が立ってきそうな勢いだ。
リンが"宿り木の種"をシャドーに植え付ける体力を一定量奪い続ける技だな。いいぞ、アレならいくら防御に定評のあるブラッキーとて痛手になりうる筈……。それに焦りを感じたシャドーはリンに殴りかかってくる--
「させん」
私とて黙って指を加えて見てる訳にもいかん。背後から奴を切りかかった。斬撃を食らったシャドーはバランスを崩しかけるも体制を立て直す。しぶとい奴だ。
「チマチマと小賢しい奴らめ……こいつを食らいやがれッ!」
ドゴッと音を立ててシャドーが近くの木を殴りつけた。その瞬間私の頭上から不思議珠が降ってきた。その直後私の意識が飛ばされた--
~~Side out~~
「な……なんなの!?」
「てめぇ等は俺を怒らせた……このままただで返せると思うなよ!」
鬼面と言える顔でシャドーが睨む。あの"混乱玉"を浴びたグラスは"こんらん"状態に陥って使い物にならなくなった。不意のトラップピンチを招いてしまったことにリンも顔には見せないが焦りを感じる。
シャドーの姿が唐突に消えた。リンはわけが分からないままあたりをきょろきょろしていた--が"リーフブレード"の構えをとって攻めの構えを取るが--
「きゃあッ!?」
攻撃を仕掛けようとするリンの頬に拳が横殴りに打たれた。シャドーの攻撃が文字通り"不意を打たれ"て構えを崩してバランスを崩す。そこに"追い打ち"が飛んでくる。
リンもこれ以上は受けれられないと"蔓の鞭"をシャドーの攻撃を遮るようにばらまいていくがブラッキーの防御では大きな意味をなさない。ただシャドーの怒りを煽ってる動きにしかならない。
「……鬱陶しい!」
シャドーからリンの足元に投げられた種。そこから眩い光が発せられ--
「う……動けない……!」
閃光が収まるとそこには地面に足を取られて身動きが取れないリンとそれをしたり顔のシャドーの姿があった。
「落とし穴の罠って……知ってっか?」
余裕を見せたシャドーがニヤリと口角を上げておしゃべりを始めた。彼が言うには"ただの種"に落とし穴の罠を作製させるように改造した種を使っていた。ダメージのほとんどが宿り木の定数ダメージのみシャドーに対してゴラスとの戦いもあってダメージが蓄積ているリンと状況は悪いの一言。
「ケケケ、おいお前。今から謝って俺の手下になれば、お前だけなら許してやらんこともないんだぞ?」
「ありえないわ!」
「ん?そうかそうか……だったら--」
この状況下であってもリンの目からは変化はなくシャドーをにらみ続ける。屈することのない目付きはシャドーを苛立たせ、ガサゴソと銀の針を取り出す。
--ザシュッ
リンの体を切り裂いた。しかし加減が入っているからかダメージは少ない。
「そう簡単にくたばってもらっちゃー困るんでな。たっぷりといたぶらせてもらうぜ?」
「クッ……!」
シャドーのいたぶりを受け続けたリンの体力が限界に達するのはそう時間はかからなかった。ボロボロの姿にシャドーはつまらなさそうにため息をつく。
「さーて…………
くたばれやぁッ!! 」
つまらなそうな表情から唐突に一変、狂ったかのような笑みを浮かべて殴りかかるシャドー。その顔は情緒不安定の一言でしか言い表せなかった。いまだ動けないリンは観念してか目をつむり、じきにくる痛みを覚悟した……。