第十五話 あい うぉんちゅー とぅー ゆー れしーぶ あ りくえすと
~~ Side 保安官キリキザン 小さな森 ~~
シャドーの襲撃を受けたガンバルズ残してブラザーズ基地から去った私は小さな森へ再び足を踏み入れた。もともとは治安調査が残ったいたのでその残りをといったところ。
「--?あいつは確か……」
見覚えのあるあの大柄な体躯に全身を覆う茶色の体毛。今はその巨体のところどころが傷つき焦げてはいる。私には何故そいつがここにいるかはわからなかったがそいつに声をかけることをやめなかった。
「ゴラス!」
「--!?」
そいつの正体--マンムーのゴラスは私の声を聞いてあまり見せない驚いた顔を浮かべていた。そんなに驚くことだろうか……?
「あんたですかい……何の用事ですか?」
「そんなもの俺の勝手だろ。調査だ」
私は砕けた時に一人称が俺になるのはご理解願いたい。ゴラスは鬱陶しそうに私のほうに振り向く。私は知ったことかと言わんばかりに彼の隣に座る。
「あっしを……捕らえに来たんですかい?」
「アホか、その通りならもっと昔からお前を捕まえに行くっつの」
「悪事を犯しているあっしを捕らえないなんて……あんたもずいぶんと甘くなりましたな」
「やかましいわ。ところでゴラスよ、その傷はどうした?お前ほどの実力を持つ男がそこまでやる相手などこの辺にはいない筈だが……?」
(他から見ればそうではないが)私達にとっては他愛ない会話を交わしたあとにふっと気になったことを口にした。
「…………あっしもとうとう用なしを言い渡されましてね……」
「ほぅ……」
「あの方には失敗を犯したあっしは必要ないんですと」
「じゃ、お前はこれからどうするつもりだ?」
今までの私達の口ぶりから察してるかもしれんが私はこいつが悪事を犯していることに関してはのちに語ろうかと思うのでご理解願いたい。
--そうか……あいつがねぇ……。
「今までのお前は盲目的にあの男の言いなりになってきた。だが今のお前にならわかるかもしれないから一言言わせてもらう」
「……なんですかい?」
「また言わせてもらうがゴラスよ、
--今までお前がやってきたことは本当に主のためになるのか?」
「……そうですね」
私が思ったよりはゴラスの態度は柔和なものであった。今までもあいつに同じ話題を持ちかけたら激昂して攻撃されかけたこともあったからな。
「所詮今までのあっしはあの方の傀儡(くぐつ)に成り下がっていたにすぎやせんでした。傀儡になんて誰も感情なんて抱きやせんからね。何にしよあんたの忠告を吟味できるいい機会になりやしたよ……」
「それで、奴--シャドーとヒトカゲのオビトの悪事をどうやって止めるつもりだ?」
「あっしにもハッキリした方法はわかりやせん。ですが他のメンバーの方やあんたにも協力を求めるかとおもいやす」
「そうか……」
御尋ね者シャドー、奴は前述の救助隊ガンバルズリーダーやここにいるゴラスを利用する卑劣な御尋ね者だ。私がオビトやゴラスを捕らえないのは彼らを泳がせてシャドー一味を一網打尽にする為にそうしているに過ぎない。
「なら、俺も準備をせんとな……」
「何をするんですかい?」
「なかなか見どころのある救助隊がいる。彼らにシャドー討伐の協力を要請してみようと思う」
---Side ヤマト ブラザーズ基地 --
リーダーに負けた後意識を失っていたオイラは気がついたらブラザーズのヒト達の基地のベッドで寝かされていた。
「うわっ!?何!?」
オイラの救助隊バッジを鳴り始めた。救助隊バッジは通信機能を有してるんからメンバーどうしで話ができるんだけど……。恐る恐るオイラはバッジをとる。
「も、もしもし……?」
『聞こえやすかヤマト殿?あっしです、ゴラスです』
ゴ、ゴラスさん!?普段滅多に離さないからびっくりしたよ……。
「ど、どうしたのゴラスさん?」
『ヤマト殿、単刀直入に申し上げます。オビト殿の改心に協力を願いたいんです』
えぇ!?正直ゴラスさんの口からリーダーの改心を頼み込むなんて思ってもいなかった……。そして彼は続けた。彼はリーダーに見限られたのをきっかけに今までやってきたことがリーダーの為になるのかを考えていた。やっぱりあのヒトは凄いよ……。
『だからお願いしやす。昔のあの方を取り戻すにはあっしだけじゃ力不足なんです』
そう言い残して通信が切れた。やっぱり意外だったなあ……。
~~ SIDE グラス ~~
意識を取り戻したあのゼニガメがあのヒトカゲが例のブラッキーと組んで悪事を行なっていたこと。そしてあのヒトカゲがマンムー達を裏で操っていたことを告げた。
「でもさっきのあのトカゲの態度、ゼニガメ君の口封じのために居座ろうとしてたようにも見えたわよね……」
リンもあのヒトカゲのことを疑ってかかってるのか、信用しているように見えたが……。私も同感だ。あのヒトカゲはどうも言動が臭い。
「失礼します」
「失礼するなら帰ってください」
『は〜い』
さっきの保安官キリキザンとその部下らしきコマタナ二人が入ってきたが(何故か)追い返された。
「って、ふざけている場合じゃないんですが……」
「部下たちはホントに帰ってるが?」
「おい!お前ら!何の為に来たと思ってる!」
慌てて部下たちを止める保安官キリキザン。一体どうしたのかと私達は問うた。
「先ほどシャドーの御尋ね者ポスターを手渡しましたよね」
真剣な顔つきのキリキザンに私達三人はこくこくと首をたてに動かす。
「お二人にもシャドーの討伐に協力を願いたいのです」
「わ、わたし達に……ッ!」
リンが驚きの余り大声を出すが傷に触れたのか傷跡を抑える。正直こんな状態で討伐依頼を頼まれるとは私も思っていなかった。
「段取りは決めています。耳を貸してください……」
段取りはこうだった。ガンバルズの二人がヒトカゲとシャドーの接触しそうな時にあとを付ける。そして説得を試みてヒトカゲの改心を狙う。これはゼニガメの彼の頼みかららしい。どちらにしてもシャドーが部下を連れてガンバルズを攻撃しようとするだろう。そこを狙って私達が現れて一網打尽……とのことらしい。シャドーの部下はそれなりの数がいるらしいから物量作戦で私たちにも頼んだとか。
「と、考えているのですが……、頼めますか?」
「了解した。この依頼引き受けよう」
「ちょ、ちょっと!?」
私が即答した瞬間にリンが突拍子もなくまた大声を出す。一体何だというのだ。
「まだ傷も治ってないのに御尋ね者の相手するとか本気でいってるわけ!?」
「あぁ、そうだ」
「あんたねぇ……」
半ば呆れを、半ば怒りを露にしているリンは"ラックにも止められているじゃないの!"と言い張った。フン、知ったことか。
「リンよ、私達は何のために救助隊を始めたと思っている?」
「えっ……?」
「卑劣な御尋ね者が悪事をはたらいているの時の能天気に寝ていろというのか?」
感情が高ぶった私は剣を無意識に手にした。
「困っているポケモン達を助けるのが救助隊だろ?そんな時に悠長に休んでいる奴なんかに……」
「救助隊がつとまるかあぁッ!」
自分でも言っているはズレているとは思う。そう思われても仕方ない。だが私には体の傷よりもむざむざ自分の知るところで悪事を犯す悪党を放置していくことのほうが堪えられなかったのだ。
「全く……やっぱりあんたはバカね……」
私に対して悪態を吐きつつもリンは淡々と準備を整えていた。その後"後であのヒトに一緒に怒られないとね"と小声で耳打ちをされたが……。
作戦はいつ決行されるかわからない。いつ通信が来るかわからないからすぐ出れるように準備を整えとかねば……。