第十四話 やだぁ…!怖いよぉ…!
自身のチームリーダーがまさか御尋ね者と組んでいたとは思わず、動揺のあまり草を揺らしてしまうヤマト。その音が聞かれていない筈もなく徐々に詰め寄られていく。
「誰だ!大人しく出てきやがれ!」
オビトの口調は最早救助隊ではなく完全にチンピラのそれと化していた。焦りのあまりヤマトは鳴き真似をしてごまかす作戦を敢行。
『ニ……ニャ〜』
「なんだ……ただの猫か……
--ってごまかされるか!出てこい!」
シャドーの"くろいまなざし"を受けてしまい逃げることもできない。草をかぎわけられてその身をさらけ出してしまう。その姿を見てオビトも驚きを隠すことはできない。
「て、てめぇは……!」
「オビト、そいつはお前の連れか?」
おもちゃを見つけたような子供のような笑みでシャドーが口を開く。そのニヤニヤとした顔つきはヤマトもオビトもいい感じは微塵も感じない。
「あぁ、どーしようもないクズだがな……」
「かっかっか。そりゃてめぇの引っ張るチームじゃそうだろうよ」
チッと舌打ちのあとヤマトを睨めつけ、彼の首根っこをつかんだ。
「全部見たようだな、ヤマト……わかってるだろうな?」
「な、何が……?」
「いちいち説明しねーとわからねーのか。お前が見たことは全部見なかったことにしろ」
自分のリーダーが悪事を、それも見逃せと言ってきたのだ。しかしヤマトはそれを許すことはできずにとうとう彼に反論する。--今まで怖がって言えなかったけど……、言おう!
「ダメだよ!リーダー!もうこんな悪事はやめよう!」
「------チッ」
同じ日に二人して足を洗えと言われオビトも苛立ちを募らせる。相変わらず後ろでシャドーが面白がってニヤニヤしている。と、そんな時突発的にオビトが何かを思い出したかのように口元を釣り上げる。
「そうだな?ただし--
俺と勝負して、お前が勝ったらお前の言うとおり足を洗おう。ただしお前が負けたら俺の言うとおりにしてもらう。相性ではお前が有利なんだから悪い条件じゃないだろ?」
戦えと言われてヤマトは軽く冷や汗を垂らす。相性こそは自分のほうが有利とはいってもバトルには自信のない彼にはオビトには勝てる気がしない。しかし--
「わかった。それじゃ……行くよ……」
--三分後
「……ぐっ……」
案の定手も足も出せずにオビトのコテンパンにされてしまった。
「ん?どーした?俺の悪事を止めるんじゃなかったのか?」
足で倒れ込んでいるヤマトを小突くオビトの顔はシャドーの表情とかなり酷似していた。先ほどまでの苛立った顔つきではなく、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、首をつかんで強引に体を起こさせる。
「根性のねぇ奴だぜ。おらっ!」
「……くっくっく」
チームメイトを容赦なく殴りつける--さながらチンピラのような姿をシャドーは気に入った様子。高みの見物といったご様子でヤマトが倒れたところまで眺め続ける。
--ガサガサ!!
「--!!」
またも草が揺れる音が、しかし今度はあからさまに自分達に敵意が向けられていることをシャドーは感じていた。
「御尋ね者"シャドー"!今日こそ貴様を逮捕する!」
矢のように飛び出してきた二体のコマタナ。彼らの胸に付けたバッジが彼らが保安官であることを示されていてオビトもビクリと背筋を立たせる。
「やっべ!逃げろッ!」
「待ちやがれッ!」
逃げていくシャドーを保安官コマタナが追う。倒れているヤマトとその近くで突っ立っている
オビトに同じくバッジを付けたキリキザンが姿を表す。
(やっべ……)
「大丈夫でしたか?ガンバルズのお二人?」
「ほぇっ?」
このゼニガメをボコボコにすることに頭がいっぱいなオビトはこのキリキザンが自分を救助隊と思い込んでることに一瞬であるが違和感を感じてた。そんなさなかキリキザンは自分が倒したヤマトの様子を伺っている。
「ずいぶんと酷い怪我だ……シャドーにやられてんですかな?」
「あっ……えぇ。たまたま二人で見つけて捕まえようと思ったんですが……」
"そうですか……"とキリキザンはヤマトの体を抱きかかえる。
「とにかく一旦でましょう。彼の様態が思わしくありません」
「わ、わかりました……」
--ブラザーズ 基地--
「……んんっ……。ここは……?」
あのあと蓄積ダメージでまたも意識が飛んだ私が目を覚ました先には見覚えのある光景--自分達の基地が眼前に広がっていた。
「やっと起きたわね」
「リンか……、ラックはどこだ?」
自分と同じくベッドの上のリンに訪ねては見たが粗方自分が置かれている状況が予想していた。
「出かけていったわ。それと、わかってるかも知れないけど勝手に外に出ないことね」
「あぁ、わかってるつもりだ」
リンが"あのヒト本気で怒るとあたしより怖いからね"と後付する。あのヒトってのはラックのことだろうな。しかしいっつも飄々としているあいつが本気で怒るところは想像もつかんが……。
「……暇だ」
そうさっきからものすごく暇で暇で仕方がない。怪我人で動いちゃいけないのは分かってはいるがそれでも暇なものは暇だ。あのマンムーで不意にだせた技を極められるように修練したいものだが……。
「失礼します!」
『--!?』
慌てた様子でゼニガメを抱えたキリキザンがヒトカゲを連れて基地に訪れた。あのゼニガメ……相当な傷を追っているな。
「どうしたの?」
「事情はあとで話ます!早急に彼の治療を願います!」
キリキザンの切羽詰った様子にはリンも押されたようだ。いそいで治療に入った。
「これで大丈夫ね。それで……どうしたんですか?」
「はい、まずはこれを見てください」
治療を終えて一段落した。初めてリンが敬語使ってるのはさておきキリキザンが取り出したのは一枚の写真付きの紙切れだ。これはもしかして……。
「手配書か?」
写っているポケモンは--確かブラッキーとかいう種族だっけか。しかし相当悪そうな面しているな。
「ブラッキーか……。それで--」
「こいつがどうしたんですか?」
先に言われた。
「えぇ、この御尋ね者ブラッキー--シャドーにこのお二人が遭遇して重傷を負ったんです」
「なるほどな……」
「最近こいつが辺りをうろついているとの報告を受けています。ブラザーズの方々も見かけ次第気を付けてください。では私はこの辺で」
そう言い残してキリキザンは去っていった。取り残されたこのヒトカゲとゼニガメは先ほどから一言も喋らない。ゼニガメはともかくさっきから何故このヒトカゲはしゃべらぬのか……。
しばし沈黙が続いた。初対面の時にも思ったがどうにも臭いな……あのヒトカゲ。
「もう彼は大丈夫よ。あとはあたし達に任せてあんたは帰っても構わないわよ」
「--!!いやっ!俺はまだいるよッ!まだこいつのことが心配だし--」
この動揺のしかた……。私の直感が正しければこいつはやはり何か隠している!必死に残ろうとするヒトカゲだがとうとうリンに怒られて渋々帰っていった。しかしいきなり"鬱陶しいから帰れ"って酷い言い方だな……。