第十一話 vsマンムー+@
--ジュプトルの救助依頼を受けたブラザーズと彼らの妨害を命じられたゴラス達。二つのチームがここ"トラッピングモール"の頂上へと向かう……!
~~トラッピングモール 頂上~~
「何これ……まるでジャングルじゃないの……」
半分はめんどくさそうに、もう半分はその不気味な雰囲気に気圧されたリンが口を開けた。そこは先ほどまでの華やかな雰囲気を残したショッピングモールとはほど遠くまるでジャングルのように異常なまでに草木が生い茂っていた。その草木によって日光の半分近くが遮断され、不気味な薄暗さを表していた。
「……大方、--人間様--が育てた"かんようしょくぶつ"とやらが放置されて成長しすぎたんだろ」
「これでは依頼主を探すのは骨が折れるな。皆、ここは三手に別れて--」
『そうは問屋がおろさねぇんですがね』
--!!?
グラスとリンには聞き覚えのある声が耳に入る。振り返るとあのマンムー、そして憎たらしいほどの笑みを浮かべたドンファンとフライゴンの姿があった。
「あ……あんた達……ッ!」
「貴様ら……!何しに来た……」
マンムー--ゴラス達を見て、グラスもリンも戦闘態勢に入る。この二人の豹変っぷりを見てラックは大体のことを察した。
「なるほどねぇ、お前さん達。うちのモン達が世話になったようじゃねぇか……」
くわえ煙草を"ぷっ"と音を立てて吐き出し、タバコを地面で擦りながらすごむように言い放つ。
「(結構な威圧感のある御仁ですなぁ……)てことは、貴殿もあっしらの素性はわかってるんですかい?」
「こいつらの態度見りゃわかるってもんよ」
気が付けばグラスもリンも、すぐにでも飛びかかりそうなほどの前のめりになって構えていた。果てにはゴラスの子分のフライゴンとドンファンも同じように構えている。
「ラック!」
「--!!?」
「こいつら三人は私とリンがやる!だからその間に依頼人を探してくれ!」
「……あいよ」
--3vs2では部が悪い、だからオレも戦う。そう言おうとしたラックだがすぐに取りやめた。依頼人が今どんな状態かわからない。そして何より
(大方こいつらのことだ。絶対言ってもきかねぇだろうしな)
ラックはその場を離れるように去っていこうとした。
「お前たち!」
「へい!」
「待ちやがれ!」
ゴラスの命令で手下二人はラックを止めようと走る--
--バシッ!
--ところの彼らの背中に"蔓の鞭"が乾いた音と共に降りおろされた。痛みに苛立ちながらも振り返った先にはバシバシと蔓で地面を叩くツタージャの姿が。
「あのヒトを追うのはあたしを倒してからにしなさい!この小悪党!」
「おもしれぇこと言いやがる……てめぇは前に俺達を止められなかったんだぜ?」
「御託はいいからさっさと来たら?」
この程度の安い挑発でもあの二体はほぼ確実に乗ることはリンも分かっていた。案の定顔を真っ赤にして荒い鼻息をたてている。
「食らいやがれ!」
ドンファンの象徴ともいえる技"転がる"。ホイールのように体を丸めて勢いよくリンに向かって突進していく。その勢いから発せられる土煙からハンパな技では止められないと判断。
「くっ!」
かろうじて"転がる"をかわすリンだが"転がる"の性質上何度もドンファンの巨体が襲いかかる。徐々にかわすまでの距離が詰められていたことが物語っていた。
「けっ!"竜の息吹"!」
背後から吹きかけられた"竜の息吹"。その範囲がかなり広く左右への回避を許さない広範囲がリンを襲ってくる。彼女が唯一竜の息吹を回避できる場所--
--バシッ!
蔓で勢い良く地面を叩き。その勢いでハイジャンプ。これほどの高度であれば竜の息吹も転がるも届かない--
「甘えんだよ!」
「--!!」
タイヤ状のまま、ドンファンは後を追うようにジャンプ。リンの頭上を取り、フライゴンは彼女の真下で竜の息吹の構えをとる。--もらった!空中では身動きは取れない筈だ!
「勝ったと思ったかしら?」
『--!?』
シュルシュルという音を出しながらリンはジャンプで使った蔓をさらに伸ばしていき近くにあった木々の幹に蔓を巻きつけた。そして掃除機のコードのように蔓を縮めていき木々に接近していった。--つまり……。
「うああああああぁぁぁ!こっちこないでアニキイイイイイィィィ!」
「と、とまらねえええええええええええぇぇ!」
情けない叫び声とともにドンファンは竜の息吹を、フライゴンは相当威力の上がった転がるを直に食らった。この二人にレベル差があったのかフライゴンのほうは転がる一発で倒れていた。ドンファンも竜の息吹で麻痺を食らっている。
「ぐっ……」
「……フンッ!」
ドンファンの背後から容赦なく"リーフブレード"で切りつけられる。弱点攻撃を食らい、そのままフライゴンにのしかかるように倒れていく。あっけなく散っていくこの二人をリンは嘲るような目付きで見る。
「弱いわね」
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「やれやれ、あっしのお相手はあんさんでしたかい」
「フン、その余裕の態度いつまで続くかな」
喧騒が響くリン達とは対照的にグラスとゴラスは静かに、しかしグラスは静かに闘争心を燃やしている。明け方の借りをこれだけ早くに返すことができるのかと考えニヤリと笑みを浮かべてゆっくりと剣を抜く。
「さぁ……行くぞ」
切りかかるグラスを見定めるような目付きでゴラスが見る。グラスにとっては自信のある素早さもゴラスにとっては十分に見切れる程度であった。
「遅い」
「何っ!?」
その巨体とは想像もつかない(グラスにとっては)俊敏な動き。驚き、攻撃をかわされた勢いでバランスを崩す。
「"氷の礫"」
「ぐっ……!」
電光石火にも見劣りしないほどの速度で氷の塊が生成され、それがグラスに向かって発せられる。バランスを崩したグラスには避けられる筈もなくまともに氷の礫を食らう。
--ぬっ!奴はどこに!?--
グラスがそう思索する。マンムーほどの巨体を隠すほどこの地形はそこまで複雑とは言い難い。たとえ草木に隠れたとしても、木々程度では彼の巨体を隠すことはできないはず--
「ん--ってうおぉっ!」
グラスの真上、つまり空中にゴラスはいた。勢い良く跳躍したゴラスはグラスを踏み付けるように落下していくも踏みつけられる寸前でなんとか避ける。
「ぐ……ぐわあああぁぁッ!」
爆弾が投下されたような爆音と共に地面が激しく揺れた。本来草タイプには効果はそれほどでもない"地震"であるがその衝撃は生半可な相性を貫けるほどの威力はグラスの体についた傷の数が物語っていた。"地震"の衝撃で地面に叩きつけられたグラスだが、その目は実力の差には屈していない。真っ向からゴラスにまた突っ込んでいく。
「……なんですかい、そりゃ」
ゴラスには最早戦闘をする体制ですらなかった。興味などないといった表情でグラスの剣を持っている右手に牙を振り下ろした。至近距離から牙を避けられる筈もない。手にとった剣はその勢いで遠くに飛ばされ剣先が地面に突き刺さる。
「ぐっ……!」
「あんさん、あっしのことを舐めてるんですかい?技もろくすっぽ使わずにそんな玩具だけであっしを倒そうなんざ……」
ズシンズシンと音を立てながら一歩ずつ確実に迫るゴラスに合わせるようにグラスは後ずさった。グラスは技を使わないのではない、使えないのだ。
(まずい……こいつは強い……!)
"技"を使わない--もとい使えないポケモンは能力値より数段と見劣りする。"技"は回数制限こそあれどポケモンの身体能力の数倍のスペックを発揮することができる。ゴラスには自分が舐められていると勘違いをし、グラスに苛立ちを覚えていた。
--やれやれ、これほど大口を叩いておきながらこの程度ですかい……。
「--舐めないでくだせぇ……!」
ゴラスから放たれた"氷柱落とし"が手負いのグラスに降り注いだ……。