第九話 暗躍
--ガンバルズ 基地
「おいヤマト、今日はこの道具買ってこい」
「ちっ……」
高圧的な態度で話しかけるのはヒトカゲ--オビト。呼びかけられたゼニガメ--ヤマトは態度からもわかるほどの不満を露わにしてる。
まして起床直後にこんなこと言われて不快感を感じない者のほうがめずらしい。
「返事はねーのか」
「へいへい……」
「けっ!技しか脳のないクズがッ……」
グラス達を訪ねた時とは別ポケのようにオビトは苦虫を噛み潰した顔つきで吐き捨てる。同じような顔つきでヤマトはバッグを
背負って出ていった。
「ただいまもどりやしたぜ……」
「ふん……遅かったじゃねぇか」
基地へと足を踏み入れた1体のポケモン。まだ顔つきを緩めることはないオビトは吐き捨てる口調で諌める。
「申し訳ござぜぇやせん……。ですが申し出通り奪ってきやしたぜ」
巨体のポケモンがオビトに一枚の紙切れを手渡した。ひったくるようにオビトはそれを奪い取る。
「さって、次は段取りの通りだ。しくじるんじゃねぇぞ?」
「わかりやした……しかし……」
「なんだ!?」
ポケモンの歯切れの悪い様子に3度額にシワを寄らせる。
「ほんとにそれでいいんですかい?」
「何がだ!?」
「あんさんがそれを望んでいるならあっしは何も言いやせん。でも……あの時のあんたなら……あっしの命を救ってくれたあんたなら……」
「そうだよ……」
今までオビトの隣で黙っていたチコリータ--ハーブもようやく口を開いた。
「だって今までのオビトならこんな悪さなんて絶対こんなこと……」
「うるせぇ!文句あるならてめぇらとっとと出て行きやがれ!」
強引に二人ともに追い払っていった。
「俺のようなな……口先だけのクズはまともに救助隊なんざやる刺客なんざ……ッ!」
----☆
「はー、だからあんなにあいつ機嫌悪いんだなー」
「そうだな……。しかも私が無様なマネをしたばかりに余計にな……」
救助隊としての準備を整えるために町へと繰り出したブラザーズ。だが機嫌を損ねていたリンの後ろで男二人がヒソヒソと話していた。
「それで、どうするのだ?あの様子ではリンの機嫌はなおりそうにないぞ?」
「心配すんな」
グラスの心配を容易くラックがあしらうように流す。しかしグラスが見る限り前を歩いているツタージャの怒りは到底収まりそうに見えない。
「おっと、これなんか見せたら喜ぶんじゃねぇのか?」
ラックが取り出した一枚の紙切れ--もとい依頼。その文面にはこう
書かれてた。
--
依頼主:ジュプトル
場所 :トラッピングモール 8F
報酬 : ????+3000ポケ
--
「……とりあえずどこから突っ込んでいいのかわからんのだが……」
グラスにとってダンジョンの名前、そして報酬と色々と訳がわからないという状態であった。しかしラックはそんな彼の疑問に答えることはなくリンに話しかける。
「よおよぉ」
「なによ!」
怒りの収まらないリンであるがひるむことなくラックは続ける。
「ちょいと面白そうな依頼を見つけたんだ、こいつを見てくれ」
そう言われてひったくるように依頼の紙を手にする。
(おいラックよ!)
(なんでぇ)
(確かに報酬は悪くないがそれだけであいつの怒りが冷める筈がないだろ!かえって怒らせるんじゃないのか!?)
リンに若干怯えているようにさえ見えるグラスは彼女の怒りに大して懸念を持っていた。そんなやりとりを知らない依頼を手にした彼女は--
「二人共!」
「(ビクッ!)ど、どうした……!?」
「さっさと準備してダンジョンに向かうわよ!」
「あ、ああぁ……(ホントに怒りさめたなぁ…)」
あっけに取られるグラスの隣でラックはしてやった顔で二人を眺めていた。ラックには彼女ががめついところを知っての対処であった。
「さて、それじゃ準備して行きますか」
「ふむ……あのどうやらトラッピングモールに行くそうですな……」
「アニキー、今度こそあのクソナルシトカゲをぶちのめしていいんでいいんですか?」
ブラザーズが去った直後、三体のポケモンがその後に姿を表した。彼らの口から不穏な言葉が湯水のように飛び出してくる。
「ふふふっ、あの方から直々にしとめろとのことですぜ。遠慮なくやっても構いませんぜ」
「へへへっ!そうこなくっちゃな!」
「けっ!あのナルシめ!今度こそオレ様をコケにした報いを受けさせてやるぜ!覚悟しやがれ!
--っておーいアニキー!置いてかないでくれー!」
三体のうち一体が他のメンバーに置いてけぼり。半ば涙目になりながらメンバーの後を追っていった。