第一話 私がポケモンに!?
----……ぃ……ぉぃ……
……誰だ……?私を呼んでいるのは……?
--……おい……きろ……
--起きろっての!!
「うわあぁっ!!」
唐突な叫び声につられた私は共鳴するように叫んだ。なんだ……私は寝ていたのか?しかもよく見ると辺りは草木がはえてることから外で寝ていたとは……。
「おぉ、やっと目を覚ましたな」
そう私に声をかけたのは青色の体にヒレをつけたポケモン、ミズゴロウだった。しかしミズゴロウにしては随分と低い声だな。もっと子供っぽい声でしゃべるものかと思っていたが……。
--??喋ってる??おかしい。私の記憶ではごく一部のポケモン意外は人間の言語を喋らない筈だ……なら私の目の前にいるこのミズゴロウは一体……?
「……お前さん、俺の顔になにかついているのか?」
「いや失礼、なにせ人間の言葉を話すミズゴロウなんて初めてみたものでな」
(私からすれば)当たり障りのない答えを出したつもりだがミズゴロウはさながらマメパトが豆鉄砲を食らったようなあっけにとられた表情へと変わる。
「何言ってるんだお前さんは……変わったキモリだな」
「--!!?」
なっ!!?さっきのが聞き間違いでなければ確かにさっきはキモリだと答えなかったか!!?
「い……いまなんて……」
「だから……変わったキモリだなって……」
…………。一旦気持ちを整理し私は自分の体を確認してみた。手は人間のそれとは程遠い緑色、さらには指が三本しかない。背中をみると自分の背丈ほどの大きな尻尾。やはり夢ではなかったのか……。
「……お前さん、どうしたんだ?」
「あぁ、実はな……」
初対面ながら妙に私にことを気にかけるミズゴロウ。彼(口調からしてそうだろう)の表情を見るとこころなしか安堵している自分に気がついた。おそらくこのことを口にしてもそう簡単には信じられないだろうが……。
「--私は元々は人間なのだ」
「ほぉほぉ……
--な、なにぃ!?」
予想通りミズゴロウはテンプレともとれる表現を表した。目の前のキモリが元々は人間でしたなんてなんて言ってもやすやすと信じるほうが無理がある。
「で、お前さんの名は?」
「…………」
「ちなみに俺はラック、種族はミズゴロウだ」
「ふむ……ミズゴロウにしては随分と老けた感じだな……」
--ピクッ
私が"老けた"と口にした瞬間ミズゴロウ、ラックのにこやかな顔が一瞬にして曇った。
「あのな、言わせてもらうぞ。ミズゴロウだからといって子供っぽいというのはそれは偏見だ。わかるか?進化したって子供なポケモンや未進化であったって成熟しているポケモンだっているんだからな」
その表情に反して、怒ったというよりは諭すような彼の口調は反対に私を驚かせた。
「す、すまない……」
「わかればいい。それでもう一度聞くがお前さんの名は?」
「……グラス。さっきも言ったが元々は人間だ。それ以上は思い出せない……」
どうしても名前以外のことが思い出せない……。私は現状を率直に言い表した。
「ふ〜む、しかし珍しいな。人間ってのは。そんな物騒なもんやけったいな装備品まで身につけてるなんてな」
装備品?そう言われて確認すれば私の方にはマントと呼ばれるものが、そして左手には黄金色に輝く剣が手にしていた。……どうして今の今まで気がつかなかったのだ……。
「そうか……」
「しかしお前さんもヒトのことはいえんぞ。キモリなのに随分とおっさんみたいな雰囲気だな」
「なっ……!!」
--お、おっさん……!!ちょっとショックだ……。さっきラックに言われたことがひしひしと分かったきがする。
と私がショックに打ちひしがれている間に一つの影が目に入った。赤い複眼を持つ昆虫のような目に緑を基調としたポケモン。あれはたしか……。
--ガスッ
「うぐっ……!!」
不意にそのポケモン、フライゴンが私の腹にパンチを食らわせた。通りすがったポケモンにいきなり攻撃をくわえられるとは思ってもいなかった。
「おう、いきなり殴りつけるとは随分なごあいさつじゃねぇか」
「へへっ、なぁおっさんよぉ。俺ちょっと金がねぇんだよ。その剣渡してもらうぜぇ」
なんだこいつは。見ず知らずの相手に対しての不遜極まりない口調。そしてこの世界のあまりに対しての不信感。私はこの目の前のフライゴンに極度の不快感を覚えた。俗に言うチンピラという奴だろうか。
「…………」
私は無言でそのフライゴンに近づく。そして--
ドゴッ!!
さっきの腹パンチのお返しだ。不意打ち気味に奴の足にローキックを食らわせてやった。キモリとミズゴロウだからとタカをくくっていたフライゴンの余裕の顔つきは消え、激昂をあらわにする。
「てんめ!!」
バサリと羽音を立ててフライゴンが宙へと舞い上がった。そして勢いよくこちらに向かって急降下してくる。
「--!!?」
一瞬自分でも何をしたのかがわからなかった。ただ向かってくる敵に対して手にした剣で切り裂いた。ただそれだけだった。
「ほぉ……」
「調子にのってんじゃねぇぞオラァッ!!」
フライゴンの口に凝縮された炎、火炎放射の準備がなされた。確か今の私はキモリで草タイプ。あれを食らうとまずいか……。
「電光石……」
キモリの技といえば電光石火。そう反射的に思いついた私はグッと足に力を込めて放たれた火炎放射をよけたのだが--
--ズルッ
「しまっ……!!」
この体に慣れていないせいか不覚にも私は足を滑らせてしまった。そして火炎放射は直撃こそはさけれたものの私の左腕が焼かれることに。
「なんだ、かっこつけた割には大して強くねぇじゃねぇか」
「そんな減らず口を叩けるとでも思ってるのか」
啖呵を切ったはいいが利き腕に火傷を負ってしまい、上手く剣が使えない。自分でもわかる無様な攻撃法はフライゴンに簡単にいなされる。
「どこねらってんだよバーカ」
「バカ?進化前のポケモン相手に本気でかかる貴様の方が愚かだな」
そうは言ったが激昂した相手を完ぺきにあしらう自信はなかった。しかし--
「ぐわああああぁぁっ!!」
奴の叫び声と共にフライゴンの周囲から爆発が起こった。これは……ラックか?
「お前さんは下がってな。怪我人に戦わせるのは俺の美学に反するんでな。おい蜻蛉、覚悟はできてるか?」
低く重い声がフライゴンに発せられた。ラックの手(ミズゴロウなら足か?)には泥の塊が手にされていた。あれば泥爆弾か……?
「ひっ……!!くそっ!!覚えてやがれ!!」
泥爆弾を食らい、さらには低温ボイスに脅えたフライゴンは捨て台詞を残してさっていった。
「--ッく!!」
さっきの火炎放射での火傷の痛みが私の左手を支配し、私は膝をついた。
「大丈夫……じゃねぇな。ちょっと俺についてきな」
私はぶっきらぼうに語りかけるラックの後を追っていった。