その1
ポケットモンスター。1990年代に初代、赤緑が発売され、それから20年以上ゲームが続き、アニメや映画、グッズにアプリまで、派生作品がハリウッドで映画化される、など様々な面で愛されてきた作品である。
俺は、そのポケモンの最新作である『Let's Go! ピカチュウ』を買いに仕事終わりに店に向かっていた。
初代のリメイクとの事で、ウキウキ気分で信号を待っていた。
信号待ちの最中、俺は『ポケモンGO』を弄っていた。
今どき歩きスマホなんて珍しくもない。危険な行為だが至る所で普通にやられてる。俺なんて信号の待ち時間で使うぐらいだしまだ良い方だ。
それでも、天罰が落ちたのか。それとも夢中になりすぎていたのか。今となっては分からないが、強い衝撃と共に俺の意識は途絶えていた。
最期の時に俺は何も思っていたのだろう。多分、新作ゲームが出来なくて落ち込んでいたに違いない。なぜなら俺はこんな歳になってもポケモンが大好きだったから。
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次に意識を取り戻す時、とてつもない息苦しさが脳を支配した。昔、海で溺れかけた時よりもずっと苦しい。
どうにかして息を吸い込もうと、体中に力を込めてみた。しかし、体はピクリとも動かない。さらに、助けを求めようと周りと見ようとするが何も見る事が出来ない。
その時、背中を叩かれるような感覚があり、俺は何かを吐き出した。それと同時に口から自分のものとは思えないような声を上げた。
例えるなら、そう。産声だ。
何が起きたのか全くわからず、俺はそのまま、また意識を手放した。
*
どうやら俺は転生してしまったらしい。
前世の人間関係や自分の記憶はあやふやだが、趣味や思い出、知識はしっかり残っていた。
産まれてすぐは目がよく見えず、周りを観察する余裕など無かったが、1歳頃になるとなんとか見えるようになり、ある衝撃の事実が発覚した。
この世界にはポケモンが実在している。
うちにはウィンディが居て、たまに俺と遊んでくれる。
ウィンディは俺が赤ん坊だからと不安げだが、俺としては大好きなポケモンが目の前にいる事に興奮してやたらめったらウィンディに絡み続けた。
ウィンディは俺の気持ち悪い視線に気づき始めたのか、少しずつ離れ気味になり、 うちの両親は、「ポケモンが大好きなんだな」やら「パパに似たのね」やらその様子をニコニコと見ている。
前世の事が気にならないと言ったら嘘になるが、それでも大好きな物が架空の物なはずだったのに現実になってしまったこの興奮は抑えられない。
俺は、いつかトレーナーになる日が来るのを楽しみにして、今の家族を大事にしようと誓うのだ。