迷いこんだお客
森と草原で一面緑の場所に、何やら動くものが――
はあ、はあ………
ここは一体どこなんだろう?
僕、迷っちゃ……
あれ、あそこに見えるのは建物?
よし、道を尋ねよう。
誰かいてくれればいいけど……
それと、悪いやつとかじゃないといいけど………
―――――――――――――――
ある者が目指すその建物の中、またある者がテーブルを拭いている。
「……ん、誰かがやって来たね。」
と、テーブル拭きをやめてふきんを投げる。
フワフワと飛んでいったそれは、突如フッと消える。
キイイィィ……
ふきんが消えたのと同時に、扉が開く。
誰かいますか……?
「いらっしゃいませ〜♪」
!!
えっ………!?
「ここは喫茶店ながれぼし!!
ボクはここのマスター。
だからキミはボクのお客さん。
確かドアノブに小さな看板なかった?
ちゃんと
『 喫茶店ながれぼし OPEN 』
って書いてあったはずだよ?」
………なるほど確かに小さな看板があったような気がする。
って、僕はお客じゃないんだ!
「へえ、じゃあキミは何だっていうんだい?」
……道に迷ったんだ。
だから、この建物を見つけて道を訪ねようと……
「なるほど、道に迷って偶然ここにたどり着く。
これも何かの縁だね。
よし、道を教えてもいいよ。ただし!!」
ただし?
「せっかくここを訪れたのだから、何か注文してよ。」
えっ!?
「何?嫌だっていうの?
店に入って、『道を教えてください。』
でもって教えてもらったらそのまま立ち去るのって失礼だと思わない?」
でも僕、お金無いし……
「大丈夫、大丈夫だよ♪
この喫茶店では誰でも訪れてほしいから、お金の有無は関係無いんだよ。もちろんお金を払ってくれてもいいけど。
でも、お代が全く無いというわけではないよ。
お代はあなたの経験談!!
皆それぞれ千差万別なお話をボクにするのがお代なのさ♪」
はあ…?
「とりあえず!!
まあ、そこらに座ってよ、ほらほら。」
あっ、ちょっと……!?
体が勝手に動く……!?
「ボクのサイコキネシスさ。
いい?もう1回簡単に繰り返すね。
この喫茶店ではお代はお金か、お話かってこと。
さっ、メニュー表どうぞ♪何にするか決めたら呼んでね。」
と、"マスター"はお客を椅子に座らせ、どこからともなく現れたメニュー表を渡す。
分かったよ……
そういえばこのお店についていくつか訊いてもいい?
「うん、いいよ♪何でも質問してよ♪」
まず、君は誰なの?
「ボク?
ボクはここのマスターさ。」
いや、そういうことではなくて、どんな生物かって……
「それについては言えないな〜。
このお店のルール上、ボクは"喫茶店ながれぼしのマスター"、それ以上でもそれ以下でもないとしか言いようがないんだ。
ボクはあくまでキミのお話を聞く第三者。
キミのお話を聞くのにボクが何者かなんて、"喫茶店ながれぼしのマスター"という肩書きしか介入の余地がないのさ。」
はあ……、まあなるほど。
それじゃあ、次の質問。
どうしてこんなところにお店を構えているの?
ここにはたくさんのお客は来なさそうな気がするけど……
「だからこそだよ。
このお店にはボクしかいない。
でもって、お客のお話を聞くのだから、一度にたくさんのお客をもてなすことはできないんだよ。
ここに来れるのは、ボクのことを知っている者か、キミのようにたまたまここを見つけた者か、ボクが招待状を送った者か。
更にお客の中には、店内に入れない程大きいのもいるから、こういった開けた、のどかな場所が適しているのさ。」
へえ……それじゃあ最後の質問。そんなルールでお店やっていけるの?
「……結論だけで言えば、やっていけるよ。
ただ、どうしてやっていけるかはここでは答えられないよ。
だってその理由を聞いたら幻滅しちゃうだろうから。
ここのお店は不思議なお店であることが前提だからね。
知らない方が良いこともたくさんあるんだよ♪
さて、キミは何を注文するか決めた?
料理1品につき、お話1話だからね♪」
えっと、じゃあ……
「ホットケーキね♪」
えっ!?どうして僕の注文しようとしたものが分かるの?
「ボクはエスパーだよ、だからキミの考えを読めるんだ♪
というわけで、はいどうぞ♪」
!!
突然目の前に料理が!?
もしかしてこれもエスパーの力……!?
「そーだよ♪
だからボクひとりでもお店はやっていけるんだよ。
さて、食べながらでもお話してもらおうかな。
話すのが下手でも大丈夫。ボクはキミの考えを読めるから。」
……なるほど、エスパーって便利だね。
では、つい最近の話なんだけど……
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