NEAR◆◇MISS















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第一章
-3- 未だ見ぬ明日
 今夜かぎりとアイラは付き添い宿泊を頼み込み、特別に主治医の許可が下りた。回復時期が読めないジョージ・ロングは当分、この病院に入院する。国際警察本部の決定だ。仕事帰りや休日に見舞いに行けるのは、ありがたい。
 貸し出しの簡易ベッドの寝心地を確かめるように、キルリアがマットレスを軽く叩く。
(アイラさん、お先に休ませていただきます)
「ええ……おやすみ」

 クラウが一礼し、モンスターボールに触れる。光となって吸い込まれる間際に、紅の眼が心配そうに伏せった。父と娘、家族水入らずの病室。なめらかな素肌の手が、無骨な手に優しく重なる。最後にこうして触れたのはいつだろう。昔のことで思い出せない。

「パパ」

 耳に跳ね返るだけの自分の声。空虚さに胸が潰れそうになる。

 父は、国際警察官を辞めるつもりでいた。
 二人の優秀な刑事見習いを一人前に育て上げたい、それを最後の仕事にする、と電話があった時は驚いた。名前も聞いたことがない少年たちへの入れ込みように釈然としなかった。本部務めの長いベテラン捜査官が突然地方へ転勤し、早期退職を希望する理由を問いただそうとして、はぐらかされた。分からずじまいだろうと、引退後は幼い頃のように親子で過ごせる時間が増えるはずと前向きに納得していた。
 それなのに。

「お願い、パパまでいなくならないで……置いていかないで……」

 父をこんな目に遭わせた被疑者を許せない。被疑者を逃がしたキズミ・パーム・レスカも。彼が被疑者を捕えていれば、今頃、せめて、なぜ父が襲われたかを知ることが出来たかもしれない。動機すら分からない被害者家族は、まるで生き地獄だ。彼が悪い。彼のせいだ。簡易ベッドに俯せとなり、枕に目頭を押しつける。逆恨みでどこまでも醜くなれそうな自分が、空恐ろしかった。

レイコ ( 2011/08/05(金) 23:47 )