NEAR◆◇MISS















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序章
Daytime -昼-
 人に比肩する、或いは人の優位にある高度な知能をもつ携帯獣を『亜人(ヒューモン)』と号し人間社会の構成員として理解する世論が国際規模に浸透している今日。携帯獣の人間帰化は新たな弊害を生ずることになった。従来の「人間主体」とした携帯獣不正使用による犯罪と一線を画する「携帯獣主体」の犯罪の増加である。これを受けた国際警察機構は犯罪に関わる全ての携帯獣を対象とする『Get(通常捕獲)』『Capture(一時捕獲)』の捕縛手段に加えて、これまで犯罪組織による『Snatch(強奪)』との類似から敬遠されていた強制処置『Arrest(逮捕)』行使の裁断を下し、国際警察職員に実務的な捕獲および奪取権を付与することになった。――

                          


「でっ店長と、添い寝してもらうならサーナイトとミミロップのどっちがいいかって話になって、やっぱ人間の女がいいってことになったわけさ」

 キズミ・パーム・レスカと金城湊(キンジョウ・ミナト)は本部運営の職員養成所に在籍し、特殊課程を修了した卒業生である。同じ16歳だが性格は対照的であり相容れない言動も多く、そんな人物となぜ10年来の親友でいられるのかと聞かれれば本人が一番答えに悩むだろう。
 外跳ねした黒髪と日焼けした小麦色の肌に強調される白い歯を三日月のように浮かべるミナト。隣のデスクではキズミがパソコン作業を続けており、ディスプレイからを目を離すこともない。

「ところでさ、ロング警部の自慢のムスメさん気になるよな! 二人いるらしいけど、どっちもすんげえキレイらしいなー! あーあ、写真くらい見せてくれりゃあいいのによ」

 聞き手が無言であるのをいいことに、黒髪の青年はしゃべり続けた。

「なぁなぁ、オマエ姉と妹どっちがいい!? いつか四人でダブルデートしようぜ!」

 キズミは溜息をつき、ついにすげない返事をした。

「そんな軽い事ばかり言ってるから女に愛想つかされるんだ」
「そんな堅い事ばっか言ってるから彼女が出来ねーんだぜ?」
「てめえらがそんな調子だから俺ぁ苦労する」
 
 ミナトの後に続き混ぜ返した男は振り向く彼らを見てにやりとする。濃灰のスーツがはち切れそうな体型は彼らのすらりとしたシルエットと並ぶと一層逞しく感じられ、40越えの実年齢よりも若気な印象を与える。肌はミナトのように日焼けで浅黒く、髪は角刈りで顔は四角く彫りが深い。おまけに大柄なので近寄りがたいかと思いきや、実際には茶目っ気のある表情から人好きのする雰囲気であった。

「まったく、てめえらみてえなのが国際警察の未来をしょって立つのか。世も末だ」

 目が笑っているので嘆き方がなんとも白々しいこの人物、ただの筋肉親父だと思ってはいけない。その実態は世界各国の犯罪抑止に務め捜査活動を行う国際組織・国際警察機構の構成員、本部直属のジョージ・ロング捜査官である。そんな彼が本部によりアルストロメリア署携帯獣課の警部として派遣、配属されたのにはある理由があった。
 
「あーウルスラ、そこのコップ取ってくれ」
(こちらですね。どうぞ、警部)
「すまんな、で、キズミ。色チは特定できたか?」
 
 ラルトス=ウルスラから紙コップのコーヒーを受け取り、本題に入るロング。彼の頭に乗っていたミズゴロウがヌオーの背に飛び移る。キズミはディスプレイを指して答えた。

「これを。半年前リルアスで行われた違法売買リストです。No.13のブラッキーに、イーブイの頃の面影があります」
「みすみす逃がすなんて、ホンット身内に甘いよな。よっ、ぶきっちょ」
「うるせえ。次に会ったときは―――」
「おらおら、騒ぐな。始末書かかせるぞ」

 ヘラヘラ茶化すミナトにムッと言い返すキズミを適当にあしらうロング。日常的に繰り広げられる三人の遣り取りに床に寝そべっているヌオー=留紺とその上のミズゴロウは見向きもしない。署内の警察職員の反応も似たり寄ったりだ。こまめに気に掛けてくれるのは心配性のウルスラくらいであった。

「まあ別にこれといった容疑はかかってねえし、今はほっとけ。それより本部からアレストボールが届いた。てめえら後で補充しとけ」
「はいっ」
「はい」

 すでに捕獲されたポケモンには、個体情報を記憶したモンスターボールが機能するかぎり半永久的な拘束力(ロック)が働く。ロックを解除するには通常、キーとなるモンスターボールから個体情報を消去するか、ボ−ルを破壊するかの二択である。そのため国際警察は犯罪に利用される携帯獣に長く苦戦を強いられてきた。
 だが国際警察本部技術部門の開発したアレストボールは一般的な市販ボールのロックを上書きするまでに強力な記憶力を持つ。強奪(スナッチ)を彷彿とされることから未だに抵抗がある職員もいるが、あらゆるケースに応用できる確実な手段であることは言うまでもないだろう。
 改良の末、現在使用されているタイプは本来の球形とは異なる形状が少なくない。

「課長が電気代がどうたらこぼしてたぞ。トランツェンを充電するのは構わんが無茶すんな。特にキズミ、お前の頭の固さはどうにかならねえのか」

 ロングの言葉に腹を抱えてぷくくと噴き出すミナト。

「柔軟に思考できるよう努力しま、す!」

 キズミが言い切るが早くミナトの顔に裏拳を飛ばすのを黙殺し、ロングは続ける。
 ちなみにトランツェンとはアレストボールと同時期に開発された対携帯獣特殊警棒の名称であり、人工的にミラーコートを発生させ小範囲の特殊技の軌道を歪める他、鋼ポケモンの皮膚に匹敵する高い硬度から武具・防具としても使用可能な優れ物である。両道具の開発にはとある客員顧問の功績が大きく関与していた。

「そういえばさっき、ユキメノコに痴漢行為をはたらいた馬鹿が出たそうだ。お前じゃねえだろうなミナト?」
「えっ!? いやいや警部、さすがのオレもそれは」

 ぶたれた鼻を押さえて否定するミナト。

「コイツならやりかねません」

 ざっくり切り捨てるキズミ。ウルスラは咳払い、留紺は肩を持つどころか頷いていた。

「安心しろ。相手は一瞬で凍り付いてご用だったとよ」

 ロングはそう言うと豪快に笑い飛ばした。その夜に起きる出来事で信頼の置ける上司の笑顔がこれで見納めになるなどと、誰も予想だにしていなかった。

レイコ ( 2012/05/12(土) 10:56 )