NEAR◆◇MISS















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最終章
最終話 春風
 親愛なるアイラ・ロングロード様


 貴女には大変お世話になりました。捨て子のスラム育ちに始まる劣悪な生育歴を否定されず、感謝しています。劣等感をバネに国際警察の養成スクールを首席で卒業しましたが、有名な進学校に通う才色兼備の彼女との身分違いに悩み、彼女の父である直属の上司と関係が悪くなる覚悟で心を焦がす直感を貫いたあの瞬間のデジャブのようでした。

 『時渡り』で転送させられたはるか遠い未来では、人類が死に絶えていました。歴史改変の影響か、頻発する自然災害や異常気象、特定の地域で地形が周期的に変動するダンジョンと呼ばれる空間のゆがみが多発する荒廃した環境を生き抜くポケモンは、町を築き文化的生活を営む少数派と野生状態の多数派に二極化していました。コミュニケーションの壁はテレパシーに精通する者の力を借りて乗り越え、町民が結成する探検隊の一員となって元の時代に戻る方法を探し求めました。聖域を守護する桜色のセレビィに乞い願い、歴史の変わった過去に行って何になると反対されましたが、どうしても、もう一度再会する夢を諦められませんでした。

 ネイティの長老が言っていました。国際警察の予知能力を利用した治安維持が万物の均衡に過干渉し、ハイリンクの森の護り神が調整役を担わされたのではないかと。ポケモンだけが生き残った未来は消滅した可能性が高いだろうと。我々が生まれ育った世界は正史ではなく、再編成されたこの世界が正史なのかもしれない……と。

 貴女に会えて、本当に良かったです。うららかな日和で、満開の桜が綺麗でした。ピクニックに誘ってもらえて嬉しかったです。トマト嫌いですみませんでした。交際相手をどう思っていたかと訊かれて「生まれて初めて結婚したいと思った」と正直に答え、声を立てて笑いながら「私はいいけど、他の人にそんなセクハラしちゃ駄目よ」と冗談っぽく答えてくれた時、はっきり分かりました。あと十回、百回と歴史が変わろうと、一番の幸せを願う相手は貴女だけです。

 貴女の心の傷は、まだ癒えていないのでしょう。たまに無理をしていると感じます。彼の存在が、正しい男が未来から帰還するまでの中継ぎだったという長老の考えには賛同できません。思い出を持たない人間に居場所を作ろうと努力してくれている貴女へ、何かお返しできるとするならそれは、気持ちの整理に必要な時間だと思いました。貴女には止められましたが、やはり旅に出ます。エディオルの病室から国際警察官を遠ざけるには、母親殺害の容疑者が別にいるべきです。指名手配犯は逃げ回ったほうが信憑性が高まります。エディオルが治療に専念して元気になり、真実を受け入れられる年齢になるまで冤罪を被りつづけるつもりです。

 オルデン・レンウィングス先生から頼まれたバンギラスが一緒なので、心配しないでください。歴史改変前はハークと名付けていて、ファーストと並ぶ心強いパートナーでした。頑固なダッチェスは連れて行きます。ライキのリハビリ、頑張ってください。ソリッシュは貴女が思っている以上に心をひらいていると見えます。一年の期限付きでクラウが金城のところから戻ってくるそうで、成長が楽しみですね。もしウルスラに会えたら、謝っていたと伝えてください。大学に興味があるなら、受験勉強を応援しています。貴女ならきっと充実した大学生活を送れます。形として残る物を贈るのはどうかと思いましたが、三日月の羽を同封します。悪夢を見なくなる優れもので、ずっとお守りにしていました。よかったら貰ってください。
 さようなら。お元気で。


 敬具


 キズミ・パーム・レスカ



 追伸

 読み終えたら、この手紙は処分してください。

レイコ ( 2019/05/02(木) 21:01 )