NEAR◆◇MISS















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最終章
-8- 再会 
 美しい走り姿のウインディ=ファーストは無翼の天馬のごとく、大空を飛翔する。
 傍で追い風に乗るチルット=アフロの『空を飛ぶ』を、秀逸に『ものまね』していた。
 ガーディ時代からの十八番はブランクを感じさせない。後継者不足で技教え職人が途絶えたとされるレア技を、はじめての出会い、すなわち悪人に傷つけられ保護されていたバトルネーソスから引き取った時点で覚えていた裏には、歴史改変前の世界を越えて来た国際警察犬の使命があったのだ。素晴らしい毛並みの尾につかまっていると、ダークライの胸を任務外の私的な追想がよぎってゆく。出生の秘密を知り塞ぎこんでいた幼少期、仔犬のぬくもりが荒れ果てた心を癒してくれた。養母を手にかけた異常者に命を狙われた時は正当防衛といえど、殺人を犯させてしまった。悪夢増幅ボールの件で報復しようと、オルデン・レインウィングス宅に殴りこんだつもりが逆に助力を受けた折には、夢の中の精神体同士の接触により失っていた記憶を取り戻すことができた。強く凛々しい焔の愛犬は今も昔もこの先も変わらない、大切な家族だ。
 世にもまれな高速の浮遊犬に騎乗している、ミナト。さらわれたエディオルを捜すダークライのバディに志願したので、臨終に立ち会った実父を含めた大勢への追悼を先延ばしにするしかなかった。血中の興奮物質で目が冴え、二日連続の激務をものともせず、人工衛星で位置情報を測り知るレーダーを見張りつづける。オルデンが日頃より万が一にそなえ、息子に身に着けさせていた発信機が頼りだった。

 下に見えるのは、夜陰に浸かった肥沃な自然保護区。
 湖に映る月が、夢の色に染まっている。誘拐犯が通った跡だ。
 あれをくぐれば、『ハイリンクの森』へワープできるだろう。
 ウインディは弱点である水を恐れずに、急降下で飛びこんだ。

 数奇な因縁の導きか、とうとう護り神セレビィの生まれ故郷に流れ着いてしまった。
 奥に見える原生林はのびやかに青葉を茂らせ、外観に異界的な個性はない。ドーム状に薄紅色の濃霧の結界で守られた広々とした草原、その中心が目を引きつける。泉から塔のようにそびえる、白と黒の二対の幹が竜巻型に絡み合う大樹。その根元近くの中空に開いている、真珠層の円盤を縦に吊り下げたような大穴。あれが噂の、交わらざる時空を繋ぐ総称“ホール”の一種なのか。状況把握も中程度に、ミナト達は泉のほとりに四張の業務用テントが設営された、医療キャンプを思わせる拠点へ向かって急ぐ。
 設備の一つから現れたのはまぎれもなく、シレネという名の女性だった。彼女の連れた黒い獣が襲いかかってきた。荒ぶる『サイコキネシス』によって、ほぼ全員が強力な足止めを食らう。誘拐犯の手先を目撃したというオルデンの証言を信じたくなかったダークライは、うなだれかけた。

 白目を剥き、唾液の泡を噴く、自我を欠いた色違いのブラッキー=ダッチェスの威嚇。

(こいつに……何をした!)
「た、ただの失敗作、よ、イヒヒヒヒヒヒ」
 笑う女は、ブラッキーと同じく瞳孔のひっくり返った眼をしている。
「パ、パラディンがいつ裏切ってもいいように、何か月も前から、じゅ、準備してたわ。私、研究をやめさせられると思って、に、逃げた。機材の予備も、ご覧の通り。イヒヒヒヒ。ゾロアークの再生は時間がか、かかりすぎるから、メギナ・ロングの記憶だけ、サルベージしようとし、したの。わ、私とイーブイを使って、精神移植の実験をっ」
 パラディンの離反後、奇行がエスカレートしていたようだ。両者は不可侵を決めた利用し合う関係にあり、パラディンがリークできるシレネの情報は少なかった。提示された材料の調達に協力していたが、実験内容は秘匿されていた。心を読もうにも独自開発したガジェットでジャミングが行われ、ラボを兼ねた自宅への立ち入りも制限されていたらしい。
「どっちも壊れちゃった! 壊れちゃった! エハハハ。でも、お、おかげでインスピレーションが湧いた。私が私でなくなる前に、エディを……私の子を……不老不死に、か、変えてあげないと。丈夫で長持ちする、人外の」
 ひくひくと声をつかえさせつつ饒舌だったシレネがやおら、奇声をあげた。
「くっつかないで! 何この虫、いやー!」
 腕や脚をしきりに、はたきだす。幻覚が見えているのだ。
 オレ達に任せろ、とミナトはダークライに子どもを捜しに行かせ、紅白の球を投げた。
 くり出したのは、ヌオー=留紺。錯乱状態で水魚を見誤ったシレネが喜びに打たれた。
「オルデン、来てくれたのね! 私の願いを認めてくれたのね! 死産した時……あなたは慰めてくれたけど、二度とあんな辛い……」

 ウインディの吐いた脅しの炎が青い月輪模様の黒毛をかすめ、拘束系の『サイコキネシス』が解ける。姑息にも、焔犬に見劣りする水魚を先に片づけようと切り替える色違いのブラッキー。『電光石火』のヒットアンドアウェイが鈍足のヌオーを見舞ったが、攻撃と防御を高める『のろい』でぬるぬるした皮膚がほとんど傷つかない。

「いい加減にしねえとぶっ倒すぞ、ダッチェス!」
「イヒヒお馬鹿さん、壊して平気よ。本体が無事なら、無限に試作を作れる」
「そうかよ、教えてくれてサンキューな!」
 皮肉たっぷりのトーンで言い放ち、ミナトは水魚に『岩石封じ』を指示する。
 機動力の落ちた黒獣をさらに『ストーンエッジ』が突き上げ、草原へ叩きつけた。
 パワーの蓄えられた大技を受け、戦闘不能。薄紅の光粒となり消えるダッチェス。
 不快な同士討ちを仕組まれた腹いせに、ミナトはシレネの肩を激しく揺さぶった。
「言え! 実験台にした金髪で顔に傷のある男、今どこだ!」 
「あれのこと? ヒ、ヒ、あれはとっくに、ないわよ?」
 白衣の肩をつかむ力が抜け、はらりと小麦色の肌の両手が離れる。
 恫喝してでも、親友の真の姿を取り戻すやり方を吐かせるつもりだったが。
 あなたの親友は私が殺しました、の言い換えを、あまりにあっさり自供された。
 後ずさりした黒髪の青年の低めた声は、かたかた鳴りそうな歯を忍ばせていた。
「しらばっくれんな」
「メ、メギナ・ロングは人体を『夢の煙』の力で突然変異させて、不可逆的に携帯獣へ作り変える方法を見つけた。私の研究では再現しきれなくて、あれは生命活動を停止したけど、『シンクロ』の保険が利いて生ゴミにならずに済んだの。ラル、ル、トスのエネルギーが存在をつなぎ止めてる、あのダークライがいらないなら、維持装置を切りなさい。お望みの答え、聞けたかしら、ら?」
「嘘をつけ!」

 自分でも驚くほど、鼓膜に容赦しない雑音を露呈した。
 袋小路に追いこまれた。どうすればいい。ミナトの頭の回転がもたつく。
 
 ぐはっと強打の痛手を知らせる、テレパシー。ミナト達がぎょっと振り向いた。ダークライが表に放り出され、一張のテントが内側から潰されるところだった。目玉のないナックラーの頭のような形をした、先端があごになっている黒い触手。成人を軽く切断できるそれが半裸にされた男児の背中から生え、のたくっている。怪物化の恐怖に泣きじゃくっているわが子を、シレネは頬を紅潮させて絶賛した。 
「やっと効果が出たのね! イヒッ、いい子だわ。そのちょ、調子で融合……」
 
 悪食(あくじき)の大あごが、シレネの胴体を咥え上げた。
 エディオルが真っ青になり、ダークライが抱き寄せて幼い目と耳を塞ぐ。
(ファースト!)
 相棒を呼んだが、敵を覆う竜族の甲殻は主力の炎に手遅れの汚名を着せた。
 人骨が砕かれ、臓物が押しつぶされる音。真っ二つになりそうでならない。
 蛇口のように噴いた血で濡れた、赤い女の唇は自己陶酔の微笑を浮かべていた。 

「ほらね、人間って簡単に、死んでしまう」

 ばくんと、ひと飲みでシレネの姿が消えた。
 丸太のような触手の付け根に食らいつくウインディが、勇壮な牙に『怪力』をそそいだ。警察犬の意地にかけて、繊維一本と残さず噛みちぎる。宿主から断ち切られた瞬間、超獣の肉塊は黒煙と化し“穴”の彼方へ吸い込まれていった。
 誰の表情にも、勝利の喜びは無い。
 逮捕すべき被疑者を、この子の母親を、悲惨な事故から守れなかった。
 エディオルの震えがおさまっていくにつれ、意識の低下していく肌触りがある。 
「ぼく、おかあさんを……」
(違う。悪夢だ。俺の特性のせいなんだ。何も考えず、休め)
 偽りだ。『ナイトメア』は臨時で交換し、エルレイド=クラウに貸している。
 父親似の茶髪に三つ指の手を添えると、胸に顔をうずめたまま寝息を立てはじめた。
 ごめんな、エディ。
 俺にとっての弟なのに、兄貴らしいことを何もできなくて。
 テレパシーで起こしたくないと考えたダークライは、心の壁越しに謝る。
 優しく横たえた小さな体が寒くないように、残骸の布切れをかけてやった。

 あの光る“穴”が『夢島』に通じているのか、ミナトと手短に論じ合う。花に刺し傷をつくる盗蜜者さながらに、シレネが人為的に異空間の壁を破って夢エネルギーを強奪したにせよ、この森にセレビィ再誕の兆しは見えない。警部補が上手くやってくれたのだと、ダークライは絶対の信頼を寄せていた。
「ちぇっ、のろけやがって。過保護なお前が、アイラの心配しねえとかマジか」
(お互い、命懸けだ。彼女に何かあれば俺が寂しい思いをさせないと、約束した)
 勘の鋭いミナトの眼を見ないようにしながら、ダークライが言った。
(ウルスラとダッチェスを見つけた。やばそうな培養槽に閉じこめられてる)
「ちょっと待て」
(こっちだ)
「おい! お前、自分の体のこと知ってたのか!?」
 幼馴染の親友のみに出せる、怖気を恥を思わない怒鳴り声。
 これ以上は、話をぼかせばぼかすほど墓穴を掘る。観念した念が語った。
(意識を奪われて、実験を覚えていない。知ってたとは言えない)
 しつこく問いただそうとするミナトを引っ張り、テントの一つに案内する。精密機械に囲まれ、ガラス張りのケースの中で赤に近い培養液に漬けこまれたラルトスと、色違いのイーブイ。水耕栽培されている白黒の幼木の根が、チューブのように死んだような寝顔のふたりに絡みついていた。助けなければ、とこれほど気持ちが急く光景も少ない。 
(俺のやろうとしている事を感じて、ウルスラの“夢”が拒んでる。さっき試したんだが、近づくと急に身動きが取れなくなって、あの装置を止められせそうにない。このままだと、あいつは眠ったままだ。俺の代わりに、目覚めさせてやってくれないか)
「んなことしてみろ、後で責められるのはオレだ! 言ってる意味分かってんのか!?」
(お前こそ、判ってるんだろ。俺はもう……)
「言うな。何も言うな!」
 ミナトの目は血走り、なだめようとするダークライのボルテージも上がってゆく。 
(叫ばなくても、聴こえてる。そういうの辛くなるから、よせ)
「辛くなれ! 今ここにいる自分を大事にしろ、カッコつけてんじゃねえ!」
(俺はもう存在しない! 消えることでしか、ウルスラを助けられない!)

 しんと静まり返る。
 水掛け論に業を煮やし、赤裸々な発言もろともに直情の雷を落としてしまった。
 のがれようのない真実は、“彼”の心を貪って羽化した蛾のように飛び立ってゆく。
 
 放心した彼らの、先に口を開いたミナトの声の棘は、何本か焼け焦げていた。 
「アイラはどうでもいいのか? 帰りを待ってるんじゃねえのかよ」
(……帰れないと決まったからには、必ず理解してくれる。最高の上司だからな)
「オレは、オレは……」
(お前にしか頼めない、頼みたくない。ミナト)
「無理だ……やりたくねえ!」
 
 絶叫をあげて拒否した男に代わり、伏兵の『泥爆弾』が培養槽を叩き割った。
 無表情のヌオーに殴りかかろうと猛ったミナトを、ウインディがのしかかって止める。
 ダークライがラルトス達から根をはがして抱き上げると、幼木はたちどころに枯れた。
 “彼”の体にノイズが走り、透けていく。ダッチェスと同じく、光の粒をまとい出す。
 ふたりが腕をすり抜けて落ちる寸前、動けないミナトに押しつけるように受け渡した。
「こんな別れ方、納得できねえ! 一生恨むぞ、キズミ!」
 
 過去最高のミナトの怒りを買った。殺気はレストロイ城での決闘を超えている。もう一度夢を見る機会があれば、出てきそうな形相だ。笑って送り出せというのは土台無理だと思っていたが、らしいと言えばらしい親友の口の悪さが良い具合に瞳の水分を乾かしてくれた。喧嘩別れ、という後悔の代名詞も引っこむ。生への執着を正論で片づけないでくれて、嬉しかった。血管の切れそうなミナトの赤ら顔を焼きつけていた眼を、“彼”は順番に移していく。汚れ役を引き受けてくれたヌオー。眠っているダッチェス。返しきれない愛情を受けたのに、恩を仇で返すような形になってしまったウルスラ。視線を交差させて数瞬、遠吠えするファースト。皆、命と定義できるかも怪しい状態へ改造されたにも関わらず、本人そのものと接してくれた。まだ消えたくないというのが、本心だ。すべてを投げ出し逃げる選択肢がなかったとは、言わない。ウルスラを見捨て、恥をしのんで日陰に暮らす勇気がなかっただけのことかもしれない。粗をさがせばいくらでも、自分本位の偽善的な汚れは転がっている。けれども、けれども。ここにいない者たちの顔も、脳裏に浮かんでくる。自然保護区の湖畔に待機させているアフロ。銀朱たち。ロング警部。オルデン先生。バディになってくれたクラウ。大好きだと伝えられなかったアイラ。これを、走馬灯のように、と言うのだろう。白髪で片側の隠れた碧眼が閉じていき、刹那的で一回きりの、おだやかな微笑みを表す擬態語を広い世界に振るまった。




 身じろぎし、ひとりの消失と入れ違いにラルトスが目を覚ます。
 ミナトの腕の中から葬式のような重い空気に触れ、事の次第を察した。
 半狂乱のサイコパワーが、シレネの築いた忌まわしい基地を全壊させていく。
 名の後につく敬称が終わり母音だけになろうと、金切り声で伸ばしつづけた。





 何十分間、撤収の支度もせずその場で途方に暮れていただろうか。
 突如、何かに共鳴して活性化した“穴”から吐き出されるようにして登場したのは、長い金髪の男だった。うつ伏せに倒れこんだ旅人にウインディが跳びつき、興奮気味に嗅ぎまわってから鼻を使って裏返す。ころんと仰向けにされてぼんやりしていた目の焦点が合った途端、すっとんきょうな浮かれ声をあげて焔犬のマズルに抱きついた青年の右頬には傷跡があり、澄んだ瞳が青い。
 端正な容貌が記憶と合致するミナト達は立ちすくみ、犬の毛で視界不良の彼は呑気に言う。
「ファースト、進化したんか! おめでとう!」 
 すり切れて色落ちした赤いジャンパー、ぼろぼろのジーンズやスニーカーに比べると、無造作に伸びたまばらな髪はティーンエイジャー相応に張りがあるが、寝転がっているせいでモップのようにぐしゃぐしゃだ。わざと古着で統一したような身なりの青年の笑顔を、押し倒しているウインディが大好物を塗った皿より大きなリアクリョンで舐め回す。光の加減によれば黄金に見える立派な尻尾も熱烈に振りながら。
 じりじりと距離を詰めたミナト達に、よだれでべとべとの青年がようやく気づいた。 
「ウルスラやないか! と、なんでレストロイ!? ここで会ったが百……」
 あかん、とこめかみを拳でほぐし、親の仇を見るような目つきを半分以下に弱めた。
「先に確認せんと。今、暦は何年何月何日や? ロングロードとかフィッシャーゆう刑事、知らへんか? せや、もしもやけどア、アイ……」
「てめえ、何者だ」
 ラルトスを腕に庇い、突き刺すような視線のミナトが糾弾めいた口調で訊く。
 俺? と青年は一瞬きょとんとし、眉尻を下げて頭を掻きながら苦笑いした。
「俺は、国際警察官のキズミ・パーム・レスカや」
 瞬間、蒼白になったウルスラと唇を噛んだミナトを、長髪のキズミは見逃さない。
 揉めそうな質問責めをやめ、初対面を仮定した真顔になり、身の上を打ち明ける。
「この森の護り神の『時渡り』に巻き込まれて、どえらい遠くの未来に飛ばされてしもてん。元いた時代に帰ろうとあれこれ試して、上手くいったおもたけど、ファーストしか俺を知らんみたいやな……ひょっとして、歴史改変っちゅうヤツやろか」

 強風が吹きはじめたのは、その直後だった。“穴”の周りの空間にひびが入り、向こう側へ引き寄せられる。「留紺、穴を掘れ!」とのミナトの指示に、男児を脇にかかえたヌオーがずしんと片手で地盤を沈下させ、風よけの塹壕(ざんごう)を即席した。エディオルをひと目見て込み上げた兄弟愛をぐっと飲みこみ、塹壕の縁から周辺をさぐるキズミ。見た感じではポケモンの技を応用した人工の『ホール』だ。近くに専用の機械がありそうだが、次々に吸いこまれていくスクラップのどれかだろう。制御が切れて時間が経ち、安定性が持たなくなったのだ。被害が大きくならないうちに、あの穴を閉じなければ。言ってみれば空間にひらいた傷口のようなもので、理論上は強大な火焔で焼き潰せる。ウインディに上着の左長袖を肩から食いちぎらせ、紐の代用品にする。このように“夢の力”がうずまく場所で時空を超えた“あれ”を使えば、エネルギーの乗法で手首が吹き飛ぶかもしれない。人として痛い思いはしたくないが、そんな事は言っていられない。止血用の紐代わりにした布切れで右手と歯を使い、左腕を縛り上げると、「レストロイ!」と轟々とうなる風鳴りに対抗して呼びかけた。すぐに「金城湊(キンジョウ・ミナト)だ!」と逆鱗すれすれの位置に触れられたミナトの訂正が返ってきた。

「金城、ここを頼む!」
「オレに命令するな!」
「いらちなやっちゃ。さっきから俺のこと、ごっつ嫌いそうやもんな」
(何もご存じないのに、分かったようにおっしゃらないで!)

 鼻声を張りあげたラルトス=ウルスラの頬を、涙がはらはらとつたう。

(違いますの! わたくしもミナト様も……違いますの!)
「オレがっ、オレ達が会いたかったのは、てめえじゃねえんだよ……!」

 ぼろっとミナトの目からこぼれた大粒が、彼女の赤い角の上に落ちた。
 
「……奇遇やな。俺もお前が好きやない。生き延びて、詳しい話しょうや」
 髪をなびかせたキズミが背にまたがり、ウインディは塹壕を跳び出す号令を待つ。
「まかしとき、絶対に守ったる。ゼンリョクで行くで、ファースト!」
 あらわとなった腕輪にはめ込まれている、菱形の赤いクリスタルが爆発的に輝いた。

レイコ ( 2019/04/01(月) 09:15 )