-4- 救世主
「キミ、だあれ?」
私は……
「ウソウソ、冗談! よく知ってるよ。キミの頭の中、覗き放題だもん」
この暗闇……意識だけの会話か。
その光の姿……セレビィ、なのか。
「セレビィ? その呼び名はまだ“先代”のだから。あ、麹塵でどう? ほら呼んでみて、き、く、じ、んっ!」
何が望みだ。
「ノリ悪ーい。まあいいや。自己紹介したげる。ぼきゅは“先代”の生まれ変わり。国際警察の敗北ルートの尻ぬぐい役ってとこ。今キミがピンチだから半分顕現した……『夢のはざま』の住民、的な? 精神世界と物質世界は『時渡り』の法則が違ってて、こんな風に実体が不完全でも干渉できちゃうんだよねー、こんな風に。ねえ、国際警察なら『ウルトラホール』くらい知ってるよね」
時空のゆがみで発生する、異世界へつながる量子特異点……
「そう、それ。人類が消えた後の未来でいっぱい開いて、バカみたいに強い侵略獣どもにこの世界が蹂躙される。ハイリンクの森も襲撃される。人間が滅びてなけりゃ、連中を科学の力で撃退してくれたかもって、ムシャーナたちは悲嘆にくれる。そういうみんなの“夢”から生まれる森の護り神が、このぼきゅ。ぼきゅは“先代”の歴史改変を上書きして、人類を救ってほしいっていう願いを叶えなきゃいけない」
滅びた人間の穴埋めを侵略獣が果たし、万物の秩序は守られる……歴史の修正力、か。
「ぼきゅと“先代”は“正史の残滓”で結ばれてる。けどぼきゅ、“先代”ほどマメじゃないから。過去へ飛んでちまちま上書きとか、だーるーすーぎぃ。キミたちがこの局面で勝利したほうが、ラクできていいんだよねえ」
怠惰を理由に、力を貸すというのか?
今私に話しかけているその心が、命が、実体として誕生する未来が失われる。
それで構わないのか?
「きゃはははは!」
なにが可笑しい。
「だってぇ。賢いサーナイトだと思ってたのに、バカじゃん。自己犠牲は力のないヤツのすることだよ。下等生物の頼みを気まぐれに叶えるのが神サマ、叶えた後のことを考えないのも神サマ。その神サマを哀れむとかさあ、何サマって感じー。キミはぼきゅに救世主になってほしいの? ほしくないの?」
……加護を受けるには、どうすればいい。
「そうこなくっちゃ! キミら国際警察官は『シンクロ』でパワーアップできるんでしょ。それ、パクろうよ。ちなみに、ぼきゅが力を貸し与えられるのは魂の部分だけ。肉体が負荷に耐えられなかったらキミは死ぬけど、別にいいよね?」
啓示に感謝いたします――森の護り神、麹塵様。
「きゃは! 露骨な掌返し、キモーい! じゃーそういうことで、パラディン」