NEAR◆◇MISS















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最終章
-2- 滅亡
 真の器を取り戻したセレビィの魂は、狂喜に痙攣していた。
 じっくり指を曲げのばし、二本の触角を根元から先端へ撫でつける。
 透明な翅を羽ばたかせ、華麗に横回転。くすくす震えが止まらない。
 全身から漏れ出すエネルギーの強風に煽られ続ける、ハイリンクの森。
 涼やかな葉擦れの音は、守護神の復活を祝福する賛歌を思わせる。
 さて、どうしてやろうか。
 重傷の宿敵、レストロイ卿とジョージ・ロングロードは絶命寸前。
 放っておこう、と完全勝利のゆとりが積年の復讐心をなだめすかした。
 胸いっぱい、人間の血の臭いが混じる草木の青っぽい香りを吸い込む。
 物心がつく前に隔離された生まれ故郷の空気を、戦利品として。
 救われぬ者たちの“夢”が具現化された肉体の隅々に、染み渡らせた。
 
「じゃ、ばいばーい」

 愛らしい妖精の姿で、とっておきの笑顔を振りまく。
 行き先は、過去。“時渡り”を始めよう。

◆◇

 ある古代では、不毛な戦争を扇動した。
 ある時代では、破壊の遺伝子をもつ生物兵器に殺戮をそそのかした。
 ある土地では、陸と海の司の原始回帰に手を貸し、隕石の落下を見届けた。
 ある思想では、布教の妨げとなる英雄の片割れを始末した。

 次に超えた時間軸では、人類は滅亡していた。
 栄華を極めた都市は樹海に飲みこまれ、遺跡と化していた。
 環境の激変を生き延びたのは、かつて科学の力に征服された生物達。
 意に反して球型の檻に拘束され、不当に使役されることも。
 研究の実験台にされて残酷な仕打ちを受けることもない。 
 未来永劫、彼らは自由の身だ。
 スワンナが隊列をなして、優雅に空を飛んでいく。

 人間さえいなければ。
 その悲痛な“願い”の集合体。叶えてこその、“神”たる命。  
「あー、楽しかった!」
 蔦に覆われた摩天楼の頂上で、ぶらぶら足を揺らしていた。

レイコ ( 2019/02/07(木) 14:55 )