-2- 滅亡
真の器を取り戻したセレビィの魂は、狂喜乱舞した。
じっくり指を曲げのばし、二本の触角を根元から先端へ撫でつける。
翅を羽ばたかせ、華麗にスピン。体を震わせるくすくす笑いが止まらない。
ハイリンクの森が、小柄な妖精のような姿の全身から溢れ出す草と超のエネルギーの嵐になぶられている。壮大な葉擦れが風音に混ざり、森を挙げての大喝采であるかのように、森の護り神の完全復活を祝福している。
正面顔の両脇を占める黒縁の青い両眼は、勝利を確信していた。
わざわざ、宿敵どもにとどめの一撃を加えるまでもない。
眼下のハイフェン・レストロイとジョージ・ロングロードは虫の息だ。
胸の隅々に、生まれてすぐに引き離された故郷の空気を吸い込んだ。
人間の血の臭いが混じる、草木のみずみずしい青い香り。
救われぬ者たちの“夢”が具現化されたおのが肉体に染み渡らせた。
「じゃ、ばいばーい」
とびきりの笑顔を振りまいた。
行き先は、過去。さあ、“時渡り”を始めよう。
ある古代では、不毛な戦争を扇動して終焉を生む最終兵器を発動させた。
ある時代では、破壊の遺伝子をもつ生物兵器に無差別殺戮をそそのかした。
ある土地では、陸と海の化身の原始回帰に手を貸し、隕石の落下を見届けた。
ある思想では、信仰の布教を妨げる白と黒の英雄王の片割れを始末した。
その次に超えた時間軸では、人類は滅亡していた。
栄華を極めた都市は樹海に飲みこまれ、遺跡と化していた。
環境の激変を生き延びたのは、かつて科学の力で征服されていた生物のみ。
意に反して球型の檻に拘束され、不当に使役されることも。
研究の実験台にされて残酷な仕打ちを受けることもない。
未来永劫、彼らは自由の身だ。
スワンナが隊列をなして、優雅に空を飛んでいく。
人間さえいなければ――という、悲痛な“願い”。
願いの集合体から“神”は生まれた。
願いを叶えてこその、“神”の命だ。
「あー……楽しかった!」
蔦に覆われた摩天楼の頂上に腰掛け、ハイリンクの森の護り神はぶらぶら足を揺らした。