憧れは今
炭鉱を超え、南東に進むハルモニアとフリスト。森の中の道をしばらく行くと、広い川のそばに出た。水流は強くもなく弱くもない。形が整ってこそすれ大きい岩と、川の上に突き出た木の枝を伝って上流へ上がっていくダンジョンのようである。
水タイプのポケモンが多く出没するこのニョロボンリバーでは、電気タイプと草タイプの二人は快進撃を連発し、あっと言う間に出発地点を見下ろす高地まで来ていた。ごつごつとした岩を蹴ると、川を挟んで生えている巨木たちを結ぶ蔦の上に乗る。蔦は枝に幾重にも絡まり、自然の橋を作り出している。橋を渡って巨木に乗ると、また別の木の枝から先へと続く橋に乗る。前方にエレザードというポケモンが現れ、鎌鼬を放ってきた。空気の渦の刃を、雷パンチで粉砕し、電光石火でぶつかっていく。よろけたエレザードを草結びで、橋の上から川に突き落とす。フリストは後ろから来たらしいルクシオの相手をしていた。グラスミキサーを放つと、舞い散る葉が敵の視界を塞ぐ。そこからエナジーボールでルクシオをぶっ飛ばした! 二人はそのまま、川を登っていく。
このニョロボンリバーの岸に生えている木は、多くの不思議な種を落とす。
その不思議な種の中でもひと際多く取れるのが爆裂の種である。食べると口から火を噴き、目の前に爆発を起こすものである。ハルモニアとフリストはニョロボンのことも聞かされていたので、いざというときのためにその爆裂の種を拾っては鞄に放り込んでおいた。爆発の威力はハルモニアのエレキボールなんて比にならないほど強力だ。件の川の主と対峙したときにあって損はないだろう。
「ハルモニア、今爆裂の種何個ある?」
「ちょっと待ってて……えーっと、七個。ここのニョロボンは確か三兄弟って話だったわね。もう二個くらいあってもいいんじゃないかしら……あら、これって」
歩きながら鞄を閉めたハルモニアは、足元にラピスが転がっているのに気づいた。
「飛ばし返し、だったかしら、これって」
空色に輝く石。本には、攻撃してきた相手を吹き飛ばすと書いてあった。どういう理屈か分からないが、とにかく吹き飛ばすのだ。
無理矢理な理屈だなぁと思いつつ、まぁあって損はないだろうと思いリングルにはめ込もうとしたところでハスボーが飛び出してきた。ハルモニアは慌ててラピスを鞄にしまい応戦した。
「それにしてもすごい流れだよねぇ」
ハスボーを倒し、川に蹴落としたハルモニアにフリストが話しかけた。
「そうね。川の上流にしても結構強い流れだわ……結構大きいのかしら」
「落ちたら……助からないよね」「落ちないように進むしかないわ」
さて、ニョロボンリバーの川岸には巨木が生えているということだったが、この川の上流には更に大きな木が生えている。さっきまでのハルモニアたちは、岩や木の枝から落ちて川に流されないかと不安だったが、これらの木の枝は更に太く、ホエルオーほどの太さがあり、これなら彼女らにも不安はない。真下五メートルでは急流が轟と渦巻く。
「……だいぶ登ったわね」
ハルモニアは振り返ると、さっきまで辿っていた道を見下ろした。前述したように、出発地点は遥か下である。
「ねえハル、あそこ穏やか村じゃない?」
「そうね……ん」
言われて、彼女はフリストが指す方を見た……。と思いきや返事もうやむやに、あたりをきょろきょろと見渡し始めた。
「それにしてもオオホリさん、見ないね……もっと奥にいるのかな」
「でももうすぐ源泉地に着くはずよ。流石に姿くらいは見えてもいいはずだわ」
と言うハルモニアの声はなんだかおざなりだった。不思議に思ったフリストがハルモニアを見てみると、彼女は地面、というか枝の橋を弄っていた。弄ってどうするつもりなのかは、弄っているところがハルモニアの影になって見えないので分からない。
「そうだよねぇ……まぁ、もうちょい進んでみよう」
「ぼーん」
といって歩き出したフリストの歩みを、何者かの声が止めた。
「っ……!?」
ひょっとして、ニョロボンか!? と背筋を凍らせる。予想は的中し、川の中から件のポケモンが現れた。青い体、腹は白。その白い腹はグルグルと消化器官が渦巻いているのが見える。二人は彼女らから少し離れたところに着地し、一人はハルモニアのすぐそばに降り立ち、裏拳で彼女を吹っ飛ばした。
「ズッ!?」
すかさず小さな両手でその拳を受け止めるハルモニアだが、その威力の大きさには逆らえなかった。枝の太さなど関係なく足場のないところまで飛ばされた。瞬間、枝を掴もうとするモーションが見えたが、抵抗空しく川に落ちていく。
「ハルッ!?」
「ぼーん! テメェ、俺たちの縄張りに何しにきたんだ?」
と、ハルモニアを吹っ飛ばした個体が威圧的な声でハルモニアに近寄る。後ろ二人も、それに続く。
「あ……え……」
「俺が誰かわかってんだろうなぁ? この川のボスだぜ?」と後ろの二人のうち、フリストから見て右にいる個体が言った。「いやボスは実際俺なんだけどなぁ」と、今度は左にいる個体。「はぁ!? 何言ってんだよボスは俺だろ!?」と真ん中のニョロボン。そのまま三人は、ボスが自分だと言い合いを始めた。
「……ハルを拾って帰ろうかなぁ」
下の川はかなり強い流れだ。ハルモニアは今頃、運が良ければ下流の岩に引っかかっているか、運が悪ければ溺れているかのどちらかだろう。引き返す策を練ろうと後ろを向くと――――。
「にょろ」
「えっ……」
後ろに控えていたのは、ニョロモというポケモンだった。前後を完全に閉ざされたフリストの顔が青ざめる。
「とにかくッ!」真ん中のニョロボンが言った。「俺たちの縄張りを荒らしてただで帰れるだなんて思ってんじゃねえぞ?」
後ろのニョロモは敵ではない。ニョロボンも一体だけなら怖くない。しかし、この差は痛い。せめて、ハルモニアがいれば……。
「え、えっと……その、私たちポケモンを探しにきただけで……」
フリストは後ずさりもできないまま声を震わせる。
「知るかッ!」
真ん中と左のニョロボンがフリストに詰め寄る。右のニョロボンは――――。
ばち!
一瞬、火花が弾ける音が響き渡り、右のニョロボンが悶絶した。
「えっ!?」
左と真ん中だけでなく、フリスト、更にニョロモが目を丸くした。右のニョロボンが、足を踏み直して後ろを振り向いたその瞬間。
「オラオラオラオラッ!」
さらにまた、音がばちばちばちばちと弾ける。雷パンチ。拳に電撃を纏い、殴りつけているのだ。
それが誰かは、フリストには分かった。倒れたニョロボンの影から見えたのは、他でもない彼女だった。
「ハルッ!」
「て、テメェ!」
なぜだ、という疑問が誰の目にも浮かんだ。フリストには希望を伴って、ニョロボンたちには怒りと焦燥を持ち寄って。
だが、それは彼女のリングルに巻きつけられた蔦を見て解消された。
なるほど彼女は、さっき床を弄っていた際に、枝に巻き付いた蔦の中から特別長いものを一本リングルに巻き付けて命綱としていたのだ。
「アンタたちがくるっていうのは何となく、察せたの。だから一つ手を打たせてもらったわ」
と言うハルモニアのリングルには、地獄耳のラピスがはまっていた。三匹のポケモンがまっすぐこちらにやってくる。ダンジョンの野生化したポケモンと違って秩序があり、しかも存在が大きい。そこで彼女はニョロボンが迫ってきていることに気付いていたのだ。
「この野郎ォ!」と、右のニョロボンが怒りに任せて起き上がり、ハルモニアに爆裂パンチを食らわせようとした。が――――。
「無駄無駄無駄無駄ァ!」
全て雷パンチで受け止められた。ハルモニアはとどめに、鞄から爆裂の種を取り出して一つかじる。彼女の口から炎が漏れ、ニョロボンを取り囲む。それは大ダメージを与える爆発を――――。
起こさなかった。
「なっ!?」
「へへへ、嬢ちゃんよぉ」
間一髪助かったニョロボンが、間合いを取る。
「知ってるぜ、爆裂の種ってやつだろ? 残念ながらそれは“湿り気”って特性を持つポケモンがいると引火しねえんだ」
「――――しまった」
「俺ら三人の特性は貯水でよぉ、時々ここを荒らしにくるやつにこの爆裂の種でやられてたんだ。
だからまぁ、対策って言うとなんだけどアイツを雇ったってわけだ」
とニョロボンがニョロモを指さす。
必殺の切り札を封じられたハルモニアは表情を歪ませる。だが、それは決して恐怖からくるものではなかった。彼女はニョロボン三兄弟の圧力には屈しない。封じられたのなら、縛るものを排除すればいいだけだ。
「フリスト、そいつをぶっ倒しといて、私ができるだけ時間を稼ぐから」
「ハル!? 無理だよ、三体相手に――――ッ」
「できないこたないわよッ!」
ハルモニアはニョロボンの冷凍パンチを飛び退ってかわす。もう一体のニョロボンはバブル光線を放ってきたので、エレキボールで相殺した。もう一体は――――。
「ふんっ、勝手に俺の相手を決められても困るんだよなぁ!」
もう一体は、フリストを相手取っていた。肝心なのは湿り気のニョロモであり、どちらにとってもバトルの要である。ニョロモも、ボスに守られるだけでなくバブル光線でフリストと戦っていた。フリストは大柄なニョロボンの体のあちこちを跳ねまわりグラスミキサーを飛ばす。ニョロボンはそれを全て弾き、地獄車でフリストを吹っ飛ばそうとしたが、かわされた。回転をやめ立ち上がったニョロボンの頭にフリストがちょこんと飛び乗ると、冷凍パンチとバブル光線が同時に飛んでくる。彼女は難なくそれをかわし、バブル光線に冷凍パンチが当たって、凍った泡が地面にどてっと落ちた。
「オラオラァ!」
ニョロボンの爆裂パンチとハルモニアの雷パンチがばきばきと音を立てて炸裂する。もう一体のニョロボンが、横から地獄車をかけるとハルモニアは飛び退る。直後に、電光石火で二体の股の下を潜り抜け、後ろから電気ショックで攻撃する。
「がっ!」
手ごたえはあるが、相手が倒れる様子がない。
ニョロボンは、足元に落ちた凍ったバブル光線を拾い上げた。そして、数秒それを見つめたのち、フリストに投げつける。同じタイミングでニョロモが水鉄砲を打った。
ばん、と二つの技が交錯する。当然、そこにフリストはいなかった。
「へっへー、そんな技が当たると思ったの?」
蔓の鞭で上にある枝にぶら下がっているフリスト。ニョロボンは彼女を見ると、そのまま視線を落とし、ニョロモに何やら合図を出した。
ニョロモはうなずくと、バブル光線をニョロボンに放った。ニョロボンはそこに一発、冷凍パンチ。それを何回も繰り返し、そこに巨大なバブル光線の足場が出現した。
「おら、来い」と、低い声で威圧するニョロボン。ニョロモが、ぶら下がるフリストにバブル光線を打つ。
「何だよ、それで要塞でも作ったつもりなの? 私からすればジャングルジムにしか見えないよッ」
と、フリストはそう言ってバブル光線の足場に降り立った。と思いきや、次の瞬間にはニョロモに肉薄した。ニョロモは彼女のグラスミキサーをかわして、ニョロボンの足元に駆け寄る。フリストは引き返すと、今度はニョロボンに突撃。ニョロモ相手に蔓の鞭を振るう。ぺシン、と心地の良い音が響くが、残念ながらニョロモはそれで倒れなかった。フリストはジャンプして、バブル光線の足場を駆け回りながらニョロボンに蔓の鞭やエナジーボールで攻撃を繰り返す。ニョロボンは手で彼女の技を弾く。何度かそのやり取りをすると、フリストはまたエナジーボールを打たんと、両手を構えた。
ハルモニアは、電気ショックを打ったあと、冷凍パンチをひらりとかわして、通りざまに雷パンチを打ち返す。だが、それまではよかったのだが挟まれてしまったことに気付いた。片方を見て、もう片方を見る。そしてもう片方を見ると――――視界に、フリストが飛び込んできた。バブル光線の足場に乗って、エナジーボールを今にも打とうとしている。
だが、その足場は氷が溶けて今にも動き出しそうだ。そうなれば、バブル光線がゼロ距離でフリストに突き刺さることになる。相性が悪いとはいえ、ポケモンの技数発分である。ハルモニアは思わず声を上げた。後ろの敵に気付くこともなく。
「フリスト、危ない! 今すぐ離れなさ――――」
い、と言う前にニョロボンの冷凍パンチがハルモニアの背中にめりこんだ。叫び声一つあげる暇なく、小さい黄躯が地面に崩れ落ちる。フリストは、ハルモニアの忠告虚しく溶けたバブル光線を食らってしまった。
「いったぁ……」
体中から悲鳴があがる。気づけば、目の前にニョロボンがいた。
「ふん、今回は川に落とすだけで許してやらぁ。覚えておけよ、俺たちの縄張りに入ってきたらただじゃおかねぇからな」
と、爆裂パンチの構えである。川に落とすだけで許す、というのは自分らが殺しきれなかった場合、という条件付きのようだ。しかし、フリストは薄く笑って返した。
「別にいいけど、私が川に落ちたらキミもニョロモも川に落ちちゃうよ?」余裕の笑みを浮かべるフリスト。だが、ニョロボンも怯えたりはしなかった。
「ふん、さっきのピカチュウのガキみたいな芸当は見飽きたけどな。言っておくが俺はお前程度の体重なら余裕で支え切れるぞ」
「あちゃー、ばれちゃってたかぁ。仕方ないな、私は潔くお暇するよ」と、フリストは爆裂パンチを食らう前に痛む体を抑えて飛び降りた。何ら驚くニョロボンではない。そもそも、自分の足に蔓の鞭が引っかかっていなかったため、ハルモニアのようなロープトリックはまずないだろうと思っていた。
――――ん?
ここで、ニョロボンの頭に引っかかることがあった。ツタージャのガキはロープトリックを仕掛けたと明言した。だが、自分には何もされていない。どういうことだ?
は、とニョロボンは、ニョロモがいないことに気付く。
――――俺“は”お前程度の体重なら余裕で支えきれるぞ。
自分の台詞を思い返して、ニョロボンは目を剥いた。そもそも、彼女の目的は自分ではなくニョロモを戦闘から削除することであったはずだ。
丸見えの心臓が早鐘を打つニョロボンの前に、フリストが蔓の鞭で降り立つ。どこから調達したのか、オレンの実を齧っていた。
「おいお前ら! そのピカチュウのガキを排除しろ!」
ニョロボンは焦り、後ろの仲間に呼びかける。ハルモニアはふらふらと立ち上がり、やはり戦いの姿勢を崩さない。冷凍パンチは会心の一撃ではあったものの、とどめを刺すには至らなかった。ずっと倒れたふりをして、フリストに注目を向けていた彼女のリングルには、一つのラピスがはめ込まれていた。
だが、ダメージを負っていることに変わりはない。彼女の後ろにいたニョロボンが、彼女を弾き飛ばそうと拳を横に薙ぐ。ハルモニアは咄嗟に振り返り、リングルをはめた右腕を突き付けた。
ニョロボンが、右腕に触れた瞬間だった。
飛ばし返し。攻撃してきたポケモンを遠方に吹き飛ばすラピスである。
紫色のラピスが怪しく光ったかと思うと、ニョロボンが一体飛んでいき、川に落ちた。ニョロボンは水泳には自信があるポケモンだが何も準備しないまま泳げないのは変わらないようで、飛ばされた彼がこちらに向かって泳いでくる様子は見られなかった。
「これで二対二。それに爆裂の種を封じるニョロモちゃんもいなくなったわね」
と口の端を吊り上げるハルモニア。だが、焦燥を見せるかと思われたニョロボンは逆に笑いを浮かべた。
「へっ、クソガキよぉ、俺たちがニョロモが倒されたときの対策をしてねえとでも思ったか?」
「――――なんですって?」
「特性以外にも起爆を防ぐ方法はあるんだよッ!」
と、ニョロボンが指をぱちんと鳴らす。すると空を雲が覆い、雨が降り出した。
「雨乞い……」
「こうすりゃいいんだ。雨が降ってりゃ爆裂の種はただの種に早変わり。アイツが倒されたときの奥の手だがなぁ、これでおめえらに勝ち目はねえってことだ」
二人のニョロボンは笑って、片方はハルモニア。もう片方はフリストに向き直った。
「残念だったなぁ? 最初から道具なんかに頼ろうとしなけりゃもっとマシだったかもしれねえのによぉ」
「……そうかもしれないわね。でも、自分自身を活用しても結果は同じだったと思うわ。それに、知識があればここから逆転だってできる――――フリスト、そう思わない?」語るハルモニアから、すらすらと本音が出てくる。彼女は目を細めてフリストを見た。
「へへ、ハルならそう言うと思ってた」
「何だってーぇ? 知識がありゃ大丈夫だって? んなこと言うなら」
「アンタには何も言ってないわッ! さっさとくたばりなさいッ!」
ハルモニアはニョロボンの言葉を遮ると、爆裂の種を一つ齧った。
「ひゃはーッ! 何だこのガキ、学習してねぇぞ!?」
彼女と対峙するニョロボンが頓狂な笑い声をあげる。だが、次の瞬間彼の間近で爆発が起こり、彼はぶっ倒れて動かなくなった。
一人残されたニョロボンが恐怖からか硬直していた。ハルモニアは、体を流れ落ちる雨粒をものともせずに一歩歩み寄る。
「もう次会うことはないだろうからここで種明かしをしてあげる。私の腕に嵌めているこれ、ノーてんリングルっていってね……私は雨霰霧砂嵐の影響を一切受けずに行動できるのよ」
そう言って、ハルモニアはまた鞄に手を伸ばす。ニョロボンは、咄嗟に、必死に、バブル光線を打った。
「ッ……」
うまくかわせはしたが、よろけてしまったハルモニアに飛びかかり、決死の覚悟で爆裂パンチを撃とうとするニョロボン。フリストは、一瞬の出来事に呆けてずっと見ているばかりだった。
豪快且つ正確な動きをする拳が、ハルモニアを捉える――――!
そのとき!
ばち
ばちばちばち、とニョロボンの爆裂パンチは全て雷パンチによって弾かれた。
ハルモニアではない。彼女は何をしても間に合わないと思い、目をつぶっていた。
当然フリストでもない。彼女は雷パンチを覚えない。では誰だ? ここにきてハルモニアとフリストを助けてくれたのは。
「やれやれですねぇ。穏和村、ただの平和な一村かと思っていましたが結構血の気の多いポケモンもいますし」
聞き覚えのある声。フリストは、そこに探し尋ねていた当人を見た。
「て、テメェ……何もんだッ! ここはニョロボンリバー、俺の縄張りだッ――――」
「ああ、ニョロボンリバー? ということはここは穏和村じゃなくてダンジョンでしたか。くわばらくわばら、全く方向音痴も困りものですよっと、やれやれ」
半ば独り言に化した台詞を吐きながら、片手間でニョロボンを殴り倒す。
「とまぁこんな感じですよ」オオホリは、ハルモニアの方を向いた。「これが雷パンチ。使いこなせればかっこいいんですがねぇ、やれやれ」
ハルモニアの赤い頬に、最後の一滴が落ちる。雨乞いによる雨は止み、雲間から日脚が覗き始めた。