課外授業と少女の声
一か月が経った。ハルモニアの身には、幸か不幸か何も起こらない。長いようで短い期間だった。周りのポケモンたちの関係もそれなりに掴めてきた。言わずもがな、ヤンチャムリールとチョボマキのシンは悪友同士で、主にヌメラのマイルをいじめている。シキジカのレイラがマイルを守っていて、ニャスパーの少女――――彼女は名前をクラリスと言った――――はみんなを遠巻きに見ている。クラリスは物静かで、家にいるときは本を読んでいるらしい。フリストは――――フリストだけが、まだ分からない。彼女は明るく、誰とでも近しく接しているように見えて、その実クラスメイトの中で一番本性が知れない。
さて、ハルモニアは今日も朝の七時に目を覚ました。
「うーん……」
いつものように学校に行かなければならない。さて、ご飯を食べなければ、と起き上がったハルモニアの目に飛び込んできたのは、旅支度をしているノーテルだった。
「おう、起きたかハルモニア」
「おはよう……ございます。あの、何ですか、それ」
起き抜けで頭が回らないハルモニアは尋ねる。
「あ、これか? すまねえが、実は昨日親戚の訃報が舞い込んできたんだ」
「そ、そうなんですか」
「ああ。これから葬式にいってくっから、一日か二日くらいオメェ一人で留守番してもらいてえんだ。オメェを連れて行こうかとも考えたけども、危険なダンジョンさ何個も通るし、学校もあるしで連れて行けそうにねえんだ。食料は、ほれ」ノーテルは部屋の隅の樽を指した。「あそこにあるから心配するでねえど。いいか?」
「あ……はい」
しばらくは一人か……。心細いとは思わないが、安心しきれそうではない。ただ、ついていくのも気が進まないのでハルモニアは一人で家に残ることにした。
「んならええど。んじゃ、元気に学校行った行った」
ノーテルに急かされるまま、ハルモニアは鞄を背負って家を出た。ハルモニアは通学路を歩きながら、あの日のことをずっと考え続けた。
――――あの日、あの景色を見たときに感じた……この世界には、たくさんのダンジョンや出会いや、冒険に溢れていて、……とても、楽しそうだ。
でも、なぜか分からない。自分はなぜこの世界を知らないのか。なぜ、私はあのときいきなり現れて湖のほとりに横たわっていたんだろう。なぜ人間からポケモンになったのだろう。何の使命があるんだろう。
……考えてもわからないことばっかりだ。
頭の中で思考を回すハルモニアに、誰かが声をかけた。
「ねえ、ハルモニア」
「……何」
振り向いて、そこにいたのはフリストだった。なんで朝からこいつに会うんだ。ここ一か月、学校に行くときは必ずコイツがついてくる。うっとうしい。前にモグリュー炭鉱に行ったときはご一緒してもらったけども、私はこいつに迎合したわけじゃない。
「ね、一緒に学校いこ?」
「……いいわよ」
深いため息をつきながら、ハルモニアはフリストを適当に扱った。
学校に行く道すがら、フリストはとても楽しそうだ。
ところで、学校にいる子供は少ないとはいえ、ハルモニアは登校しているポケモンを一匹として見ていない。自分が来るまでは彼女は一人で登校していたのだろうか、と思ったこともあったが、どうでもいいと割り切っていた。
さて、学校に着くとフリストは真っ先に正門前にいたミルホッグの教頭先生に挨拶をした。教頭は彼女を視認するや否や驚きを顔に出した。
「おはよう……って、問題児じゃないか。このところ遅刻が少ないようだが……まさか、何か悪戯でもするつもりじゃあないだろうな」
「違いますよ〜へへへ」
「……おはようございます」
笑いながら教室に入っていくフリストと、とりあえず形だけあいさつをしているハルモニアを、教頭は目で追った。
「なるほど、そういうことか……まぁ、つるんで一緒にバカをやらないならいいだろう」
遅刻もなくなるし、と、教頭は続いてやってくる生徒たちを待った。
教室には、すでにリールとシンが、そして彼らに囲われるようにレイラがすでに来ていた。
「三人とも、おはよっ!」
フリストは席に自分の荷物を置いて、彼らの下へ駆け寄った。ハルモニアは鞄を置くと、教科書を取り出して読み始めた。勉強熱心というわけではなく、手持無沙汰であるだけだ。
「おはよーレイラ。あとリールとシン」
「相変わらずうざいなお前。つーか相変わらずどころか普段の二倍くらいうざいな」
ヘラヘラ笑いながら近寄ってくるフリストを、リールは邪険に振り払った。
「つーかうっとうしいなお前。もう夏なんだから、いるだけで暑っ苦しいのは勘弁してくれ」
とシン。種族柄手がないが、仮にあれば掌を空にむけてやれやれのポーズでもとりそうだ。
フリストはハルモニアのところに行った。
「えっへへー怒られちゃった」
「あんた本当にうっとうしいわね」
表情一つ変えないハルモニアであるが、近寄らないでほしいという感情だけをむき出しにしている。そこに、もう二人教室に入ってきた。
一人はマイル。もう一人はニャスパーの少女だ。丸い瞳が不気味さを醸し出していて、目を合わされたハルモニアは咄嗟に視線をそらした。
「あっ、マイルにクラリス! おはよっ」
「お、おはよう……」
「おはよう」
フリストに挨拶されても、ニャスパーは顔色一つ変えない。一か月前に会ったときも同じような感じだったので、心象悪かったのか、と思っていたが、クラリスはフリストにも無表情なのでそんなことはなかったのだろうと安心した。もっとも、フリストが誰からもよく思われていない可能性が示唆されているのでそこは安心できるところではない。
そこにマサムネ先生が入ってきた。彼は教壇の近くの木に下がっている鈴をカラコロと鳴らした。
「よし、全員揃っておるな。では今から授業を始めよう。一限目はバトルに置ける基本的な知識と戦術。二限目からは課外授業の実習だ」
――――実習?
そういえば、自分はこれからこの学校で何を学ぶのか全然聞かされていない、と思いつつ、ハルモニアは首を傾げた。
「ああ、ハルモニアさんは実習は初めてであったな。フリスト、実習の授業の内容をあとでハルモニアさんに説明しておいてくれるか?」
ハルモニアの様子に気付いたマサムネは、チョークを取りながらそう言ったが、指名されたフリストまでもがポカンとしていたため、改めて聞いた。
「おい、フリスト……まさかお主、実習の授業で何やったか覚えてないわけではなかろうな」
「ええっと……忘れました……ついでに、あの……教科書も」
マサムネはため息をつきながらチョークを黒板に当てた。
「はぁー……珍しく遅刻しておらんと思えば、何もかも忘れておったか。仕方あるまい、マイル。ハルモニアさんに実習の授業で何をやるか説明しておいてくれ。フリストはハルモニアさんから教科書を見せてもらいなさい」
「あの、すいません……僕も忘れました」
ゴン、とマサムネが黒板に頭をぶつける。
「さてはお主ら去年やったことを覚えておらんな!? ……仕方あるまい、この際なので今日からやる課外授業について改めて説明するとしよう。しっかり頭に入れておきなさい。特にそこのフリストはせめて右の耳から左の耳には通すように」
課外授業とは、言ってしまえばダンジョンをクリアする授業である。この学校の裏庭の森はダンジョンになっており、最奥部にはフラッグが準備されている。マサムネが渡す道具を駆使してフラッグを取ってくる授業である。
調査団に入るためにはもちろん、ちょっとしたダンジョンを通り抜けるのは一般のポケモンにとっても必要なステータスであり、その訓練ともなる授業である、ということだった。
という一通りの説明を終え、授業を続けて三十分。その課外授業の時間がやってきた。ハルモニアたちはマサムネに連れられて、教室のすぐそばの坂道を降り、学校裏の森の入り口に連れてこられた。
「はい! 静かにするように。ではこれから実習だ。二チームに分かれて森の奥にあるフラッグをとってくること。終わったチームから今日は解散だ」
続けて、マサムネは急かされるままにチーム分けを発表した。
「一チーム目、リール、シン、レイラ。二チーム目はフリスト、マイル、ハルモニア。クラリスはここに残ってテレパシーでコイツの指揮をとってもらう」
クラリスは待機か、よかった。一チーム目に彼女の名前が出なくて、ひょっとしたらコイツと一緒にいくんじゃないか、なんて危機感を抱いてしまったが、その心配はなさそうだ。
レイラは嫌そうな顔をしていて、反対にリールとシンは嬉しそうに「ラッキー」だなんて呟いていた。シンに限っては
「いや〜レイラちゃんよろしくな!」とまで言っている。
「……ちぇっ、学校の授業だし、我慢するしかないか」
嫌そうな顔で、しかもレイラはこれを堂々と彼らに言ってのけたが、二人の表情は変わらなかった。
「へへっ、よろしくね、マイル!」
「う、うん……?」
マイルは、いつも以上に元気なフリストにただただ困惑するのみだった。
チーム分けでざわついた生徒たちをマサムネが諫めた。
「こらこら、騒ぐでないぞ。聞きなさい。今回のコンセプトは、玉や枝といった道具を使いこなすことにある。なので、お主らが持っておる鞄は一旦没収して、この道具箱を代わりに渡す。この中身を使ってダンジョンをクリアすること。よいか」
マサムネはそう言って、リールとハルモニアに一つずつ、道具箱を持たせた。
「よいな? フラッグをとってくれば終了だ。それ以外に特にルールはないが、お主らで争い合うことは極力避けること。またレースではないので、無茶な行為も厳禁だ。それと、戻ってくる際にはちゃんと全員いるか確認すること……」
と、説明を始めたマサムネの話は、クラリス以外誰も聞いてはいなかった。
「……先生、すでにみんな出発しています」
「ーーーーで、は? え、マジで?」
ちゃんと話を聞かんか、と連れ戻そうと思ったマサムネだが、既にハルモニアたちは学校裏の森の奥に消えていた。
この世界に住んでいる生物の中で、最も謎に満ちているのが植物である。動かないが生きており、またポケモンたちに恵みを与える。四季折々、色とりどりの景色を描く。生きとし生ける者全てにとってなくてはならない者だが、未だに謎が多い。
ある木は“ニク”というたんぱく質を含んだ果実をつけ、それは肉食ポケモンの貴重な食料ともなる。またある木は――――
「縛りの枝、しのぎの枝、ガイドの枝――――ふーん、それなりにいいものを持たせてくれてるのね」
マサムネから受け取った道具箱の中身を一見するハルモニア。
またある木は、不思議な力を宿す。その枝を振ることで、不思議な力を飛ばすことが可能である。
「よっと」
彼女がワープの枝を振ると、目の前にいたムクバードが消え去った。文字通り、ワープによってダンジョン内のどこかに飛ばされたのだ。ハルモニアは、ムクバードの後ろにいたチゴラスに電気ショックを打った。チゴラスはそれを頭で受け止めると、頭突きを放った。ハルモニアは、チゴラスの頭突きを両手で抑え、猫騙しでひるませ、エレキボールで仕留めた。
「す、すごい……」
マイルは鮮やかな手捌きに魅入っていた。ハルモニアとしては、少し手が滑りそうになっていたり、技に力が入っていなかったりと危なげないところもあった。
「ねえマイル、いつもは私が迷惑かけてるけど、今回は気を付けるから、」とフリストが言った。「よろしくね」
「う、うん……」と返すマイルの声はぎこちない。
「迷惑……?」
一瞬、ハルモニアは今のフリストの発言を不思議がった。確かに素行はおかしいが、はっきりと迷惑、と言われるような行為をしているだろうか? と、今はそんなことを考えている場合ではない。目の前をコジョフーが通り過ぎていった。彼女らには気づいていないようだったが、万が一があるとまずいので、ハルモニアは後ろの二人に息を殺すよう呼びかけようとした。
その瞬間だった。
「見つけたぞー!」
フリストが、そのコジョフー向かって突撃しにいったのだ。
「なっ!? バカ!」
コジョフーがはっけいを振るう。フリストはそれを蔓の鞭で受け止めたが、押し切られて、はっけいを胸に受けた。
「っつぁ……」
立ち上がろうとしたフリストは、自分が麻痺状態に陥っていることに気付いた。はっけいの追加効果である。
麻痺したフリストに追い打ちをかけんとするコジョフーの顔を、ハルモニアは肉薄し、飛び、回し蹴った。ひるんだコジョフーを、ハルモニアは電気ショックでなぎ倒す。
「ふう……」
周囲を見まわし、敵ポケモンがいないことを確認すると、ハルモニアはフリストの頭に拳を下した。と言っても、そこまで強くない。こん、と当てる程度である。
「バカじゃないの?」
「だ、だってぇ……」
「だってじゃない。敵に何も考えずに堂々と向かっていくのはバカのやることでしょ? いつだって倒せるとは限らないんだから、もうちょっと考えて動いて。危険なところにわざわざ飛び込んでいく真似はやめて頂戴」
「はぁい……」
うなだれるフリスト。ハルモニアはじっと見ていたマイルを手招きした。
「さ、いくわよ。あなた少しペース遅いけど、大丈夫?」
「う、うーん……なんとか、頑張る……」
マイルはペースが遅く、少し息を切らしながら着いてきていた。ハルモニアは時々後ろを見つつ前に進んでいった。すると……。
「……あら?」
彼女が少し歩くと、開けた場所に出た。問題はそこではない。彼女の頭の中に、何かの音が響きだしたのだ。
「フリスト、マイル、ハルモニアさん、聞こえる?」
「――――だ、誰!?」
近くにいるポケモンはフリストとマイルのみ。そして、今聞こえたのはそのどちらの声でもない。エスパータイプのポケモンはテレパシーを使えるが、この近くには……。
そこまで考えて、気づいた。
「今の声って、……クラリス?」
「そうだよ」とフリスト。「クラリスは時々、テレパシーで私たちに意思を送ってくるの。
うん、聞こえてるよ、クラリス」
「問題ないみたいね。ハルモニアさん、私こんな風にたまにテレパシーで話しかけるから、聞き逃さないでね」
「え、ええ……」
いきなり指名され、ハルモニアは戸惑った。なぜ自分に……と思いつつ、彼女は、自分とクラリスが会って間もない上にほとんど会話もしてないからか、と自分の中で上手く結論づけた。
「ところで、他の三人はどうしてるの? 私たちより進んでる?」とフリスト。後半の質問の方に力が入っていた。
「うーん、あまり分からないけどそこそこ行ってるって感じだったかな。多分まだリールたちの方が先なんじゃないかしら」
「そっかー。ちょっとペース上げないとね。二人とも、早くいこう!」と、フリストはさっきより歩調を上げて進みだした。
「こ、これ以上ペースを上げるの? 少し、キツイかな……」
とマイルが返したが、フリストは聞く耳を持たなかった。ハルモニアはフリストとマイルの間を歩いていた。
「大丈夫? 無理そうだったら言ってちょうだいね。じゃあ……えっと、クラリス、さん。また何かあったら連絡してね」
「うん。じゃあ」
そこでクラリスからの連絡は途切れた。
森を歩き回り、出てくる野生のポケモンたちを倒すこと十分。
「そろそろゴールじゃないかなー! 二人とも早く早くー!」
先を行くフリスト。だいぶ遅れているマイル。ハルモニアはマイルの少し先を行っていた。
「ったく、バカじゃないの……チームメイトの容体くらい確認しなさいっての」
とハルモニアは悪態をつきながら、後ろのマイルを見つつ前に進んでいった。彼のペースに合わせるのも疲れてきた。どうせだから、もう置いて行って、戻るときに回収する、という手ではだめだろうか。……ん?
と思いつつ、ハルモニアが前を見る。すると、さっきまでこっちを向いて手を振っていたフリストはチゴラスと交戦していた。
頭突きをやり過ごし、グラスミキサーを打つ。すると、チゴラスがフリストの死角からドラゴンクローを振るおうとした。
――――危ないッ!
ハルモニアはすかさず、鞄から枝を取り出した。フリストは、今自分が攻撃されかけているのに気付いたところで、チゴラスはドラゴンクローを放つ一歩手前だ。睡眠の枝では効果発動から睡眠までの時間差で間に合わない。使うのは縛りの枝だ。
枝を振ると、謎の光がチゴラスに飛んで行った。ドラゴンクローが当たる寸前、チゴラスの動きは止まった。
「……危なかったぁ」
「フリスト、大丈夫? 怪我はしてない?」
と、思わずハルモニアは駆け寄った。
「うん、大丈夫。それよりこの先がゴールみたいだよ」
と、ハルモニアはドラゴンクローを食らおうとしていた腹をさすり、先を指さした。
「そ、そう?」
とハルモニアが指された方向を見てみる。光が漏れているところから、開けた場所なのだろうと予想した。
「もうあとちょっとなのね……とりあえずあの子を待ちましょう……あら?」
疲れからか一息ついたハルモニアが後ろを振り向く。すると、頑張って着いてきていたはずのマイルが見当たらない。
「どこに行ったのかしら」
ハルモニアが彼を探しに戻ろうとしたとき、またクラリスがテレパシーで話しかけてきた。
「三人とも、今どのあたり?」
「あ、クラリス? えっとねぇ、目の前に開けた場所が見えるんだ。多分目的地に近いと思うよ」
と、フリストはのんきに返した。
「へえ? リールたちはまだ手こずってるみたいだから、あなたたちがどこかで追い抜いて先に着いたみたいね。ところで、マイルの気配が――――」
「ホント!? じゃあ早く行かないとっ」
ハルモニア同様、マイルの心配をしたクラリスの声を差し置いて、彼女は目的地へ走りだした。
「ふ、フリスト!? ちょっと待ちなさい!」
驚いたハルモニアが止めようとしたのも聞かず、フリストは開けたところに躍り出るとそこに二本置いてあったフラッグのうち、1という文字が振ってある一本を取る。ハルモニアは、マイルを探しにいくかフリストを追いかけるかで迷ったが、仕方ない、とフリストを追いかけた。
その後、リールたちが来たが悔しそうな表情をしていたのは言うまでもない。
「クッソー……俺たちが先に行ってたってのによー……」
リールが足元の石を蹴っ飛ばす。フリストはその行為すらあざ笑うかのように旗を掲げた。そこで、周囲を見渡したシンが、マイルがいないことに気付いた。
「……ん? ところでマイルはどこ行ったんだよ」
「え? そういえばいないね」と、重要なところを指摘されてもまだフリストはポカンとしている。実のところ、彼女は学校裏の森は何度も入っているので、このダンジョンで迷って取り残されるという感覚が理解できないのだ。
「だから待ちなさいって言ったでしょう。どこかではぐれたのよ」ハルモニアはため息をつきながら言った。
「えっ……さっきまで着いてきてたよね!?」ここにきてフリストはようやく、事を理解したようで、周囲をきょろきょろと見回し始めた。
「ちょっと、マイルを置いてきたの!?」
とレイラがフリストに噛みついた。
「あーあ、このまま戻ったらマサムネ先生に怒られるぞ」
「俺、知ーらないっと。帰ろうぜ」
リールとシンはそう言って、さっさとその場を立ち去った。
「私、探してくる!」
レイラは血相を変えて来た道を戻りだした。ハルモニアはフリストの手を引いて彼女に着いていく。
「……私たちもいくわよ」
「う、うん……」