踏み出し
学校
 ハルモニアとフリストは、村の近くまでレイラとマイルを送っていった。彼女らは村の別の広場の近くに家があるから、と途中で別れて、ハルモニアたちはそこから数分歩いて村に戻った。もう日も暮れていた。
「アンタのせいで散々だったわ。ノーテルさんからは家から出るなって言われてたのよ」
「へへ……ごめんって。明日謝りにいくから。ね? それにあの人、優しいから怒らないと思うよ?」
 ぷんぷんと苛立ちを見せるハルモニアに対し、フリストはヘラヘラ笑う。
「怒るか怒らないか、じゃないの。言いつけを守らない子なんて誰から見てもろくな子じゃないでしょう。あのね、私はしばらくあの人の家に厄介になるの。あまり迷惑はかけたくないからもうこれ以上ろくでもないことで私を振り回さないで」
 と言いながらハルモニアは広場をスタスタと歩いていく。
「ご、ごめんって。でもさ、友だちでいるのはいいでしょ? ね?」
 急いで後ろをついていくフリストをちらと見ると、またふんと鼻であしらう。前を見ながら歩いていると、ハスブレロというポケモンと目が合った。その瞬間に彼は近づいてきた。
――――な、何?
 一瞬戸惑ったハルモニアだが、用があるのは後ろのフリストらしい。
「おい、そこのお前、悪いな、ちょっとどいてくれ。……おいフリスト! テメエ俺の蓮池ン中で泳いで荒らしやがったな!?」
「えっ……あっ、ご、ごめんなさーい……」
 フリストは彼に睨み付けるを食らうなり、後ろを向いて逃げようとした。
「おいおいちょっと待てお前……」「フリストぉ!」
 ハスブレロが彼女のしっぽの葉っぱを掴もうとした瞬間、アバゴーラというポケモンが彼女を怒鳴りつけた。
「じ、じっちゃん!?」
「フリスト、お主家の掃除をサボって逃げ出したどころかワシの畑の木の実をつまみ食いしおったな!?」
「食ってないよ!?」
「食ったじゃろ!」「食ってない!」「食った!」「食ってない!」「正直に言え!」
「美味しかったよ!」
 ハルモニアは茫然としていた。じいちゃん、と言っていたが、フリストはこのアバゴーラの老人の孫娘、なのか? しかし卵グループ的に考えても血縁関係は見いだせないが……とはいっても、二世代も離れれば有り得るのだろうか。
 と考えていたが、そんな疑問は彼女に向かってくるポケモンたちの怒涛で吹き飛んだ。
「フリストてめぇ! うちの畑に睡眠の種投げ込みやがったな!?」
「おいフリスト! この前屋根の上から俺に水かけたのお前だろ!」
「フリスト、今朝登校してきた際に黒板消しを職員室の扉に挟んで教頭先生の頭の上に落としたそうだが話を聞かせてはくれまいか?」
 ここにいるポケモンは人間たちより小さいものばかりだが、それでもこれだけのポケモンたちが一斉に走ると、地響きが起こるようだ。フリストは適当な謝罪を残して逃げ出し、他のポケモンたちは彼女を追っていった。ドドドド、という音が聞こえなくなると、ハルモニアはしばらく彼女らの去っていった方を茫然と見つめた。
「……帰ろう」
 そこからノーテルの家が見えたが、窓に明かりがついていた。彼は帰ってきているようだ。勝手に家から出てしまったので、怒られるんだろう。怒られるかどうかじゃない、とは言ったが、怒られるか怒られないか、と言えば後者の方がいいのには変わりない。

「ったくー、家の外に出るなつったでねえか。なんでオラが帰ってくるまでじっとしてねんだオメェは」
 帰ってきて最初にハルモニアが見たノーテルは、怒るというより心配していたようだった。
「す、すみません……」
「初めての場所で不安な気持ちは分からんでもないけど、次はちゃんと言いつけ守ってくれだど」
 言いつけを破ったのは自分だ。仕方ない。ハルモニアは素直に頭を下げた。
「ま、外の世界を見たくなるってのは分からんでもねえな。不安以前に冒険したい気持ちもあるはずだし、そういう好奇心を持つのは悪いこっちゃないべ。ずっと家に閉じこもるよりマシだど」
「あ、は、はい」
 おや、思ったよりはおおらかだ。実はそこまで悪く思っていないのだろうか。
「明日から、この村でも行きたいところがあったらどんどん行ってみるがいいべ」
 想像とはちょっとだけ、違った展開に話が進んで少し戸惑ったが、彼女にとって良くない話、ではない。
「んでも、明日からオメェは学校があるな。とりあえず、オメェはもう寝ときな」
「はい」
 四の五の言うことでもない。特にもうすることはない。どころか、今日だけで色んなことがあって疲れてしまった。ベッドに体を横たえる。
 横たえると、また色々考えるようになった。なんで自分はポケモンになったのか。ここはどこなのか。自分はどこにいたのか。記憶はどうしたのか。
――――だめよ、だめ。もう寝るの。
 無理に、湧き上がってくる考えを抑え込み、ハルモニアは寝付いた。


 少し、期待していた。実は今までのが夢で、起きたら元通りになっているんじゃないか。とか。
 もちろん、一切そんなことはなかった。起きたら目の前にあったのは寝る前に見たノーテルの家の天井だった。もちろん記憶は戻ってこない。慌てて体を起こすと、昨日会ったコノハナが朝ごはんを食べていた。
「ん、起きたか。ほれ、朝飯食いな」
 ノーテルがテーブルの向かい側を指す。そこには同じように盛られた食事が置いてあった。
「……あ、ありがとうございます」
「そんなに固くならんでもいいべ。まぁ、時期に慣れるべなぁ」
 自分がピカチュウサイズまで縮んだからか、リンゴやオレンの実がかなり大きく見える。そこまでお腹は減っていない、と思っていたが、よく考えれば昨日何も食べていないんだった……味わうほど心に余裕がない。コノハナが食べ終えるのとほとんど同じタイミングで全部食べ終えた。
「お、早いな。そんじゃ、早めに学校いくべ。先生にあいさつすっからな。準備はいいか?」
「あ、は、はい」
 準備って、何をすればいいんだ……? とりあえず、なんとかなるか。何も持ってないけど。と思ったところで、ノーテルから鞄を渡された。とりあえずはこれをからって、彼女は学校にいくことにした。
「今日はオラと一緒にいくけど、明日からは一人で学校にいくんだど。だからちゃんと道さ覚えないといかんど。いいか?」
 無言で頷くハルモニア。ニッと笑うノーテル。
 学校までの道は、思ったほど遠くはなかった。昨日渡った橋を渡り、広場を左に曲がり、カフェと商店の間の道を行く。まばらな家々から煙が上がっている。
 しばらく進むと、学校らしきものが見えてきた。校門にはカモネギ、というポケモンが立っていた。教師だろうか? そういえば見覚えがある。昨日フリストを追いかけていたポケモンのうちの一匹だ。
 ノーテルはカモネギに会釈すると、校門を潜り抜けた。すると、すぐそこに教室があった。壁も天井もない。青空教室。机と椅子と、気にぶら下がった黒板がある。その奥に、三つ建物があった。ノーテルはその三つのうち、真ん中にそびえる建物の中に入っていった。彼に続いて入っていくと、二人、ポケモンがいた。一人はミルホッグ。彩度の高い瞳をぎょろつかせ、ハルモニアを睨み付けている。もう一人はヒヤッキー。頭から水色の房がいくつも垂れている。しっぽから水タイプの技を出して攻撃するポケモンだ。貫禄からして、こっちが校長先生といったところか。ミルホッグの方はどうにも小物感が拭えない。
 ノーテルは横にずれるとハルモニアをヒヤッキーの目の前に立たせた。
「おはようございます校長センセ。こちら、昨日言いました新入生だべ。ほれ、お前もあいさつしな」
「お、おはようございます……えっと、よろしくお願いします」
 渋々、ではないが、いきなり言われて、しどろもどろに頭を下げた。早速校長先生の機嫌を損ねる真似は自分もしたくない。すぐに顔をあげると、ヒヤッキー、もとい校長はニコニコ笑っていた。
「ほっほ、元気そうなお子さんで何よりです。ハルモニア=ロイフォードさんですね。わたくしが、責任をもって預からせていただきます」
 げ、元気? 私が?
 自分が元気なポケモンと言えるのか……自信はない。フリストたちの前では強そうなピカチュウを演じていたが、大人の前では素が出る――――。いや、どちらかというとフリストたちの前で出したのが素ではあるだろうけども。
「では、オラは仕事があるんでこれで」
 ノーテルはそう言って早々に帰っていった。
 怖くなさそうな校長でよかった……教頭の方も、そこまで嫌なポケモン、という感じでもないだろう。そう思っていたら、件の教頭に話しかけられた。
「あの……」
「はい」
「頼むから、学校で悪戯とか、そういうのはやめてくれよ。一人素行に問題のある子がいるけど、そういう子の真似をしないように。一人いるだけで大変なんだから」
「はい」
 大人の前だと、はいとしか言ってないな、と思いつつ、ハルモニアはその問題児には心当たりがあった。一人とは言うが実際二人だろう。ぶっちゃけ三人いるようなもんだ。そしてクラスメイトのうち問題児一人と、その他もう一人の合計二人とはいずれ喧嘩になるだろうから問題児は四人に増えるに違いない。
 彼女が教頭の心労を慮っていると、校長が彼を諫めた。
「まあまあ、教頭先生、いきなりそんなこと言わなくてもいいでしょう。大体この学校に問題児はいませんよ」
「いるじゃないですか、一人!」
「いえ、いません。教頭先生、うちの生徒を悪く言うんじゃありませんよ。さぁロイフォードさん、そろそろ授業が始まります。教室へいってらっしゃい」
「は、はい」
 少なくとも校長の方はいい先生だ。教頭は……どうだろう。ハルモニアが校長室を出ると、昨日聞いた声が校門に立っていたカモネギに挨拶をしているのが聞こえた。
『マサムネ先生、おはようございます』
『おう、おはよう!』
 教室には空いている席もあるが、これが全部なのだろう。マサムネ、という教師は教壇に立ち、ハルモニアにこちらに来るよう促した。ハルモニアは教室の目の前に校長と並んで立った。
「みなさん、おはようございます。今日は君たちの新しい仲間を紹介したいと思います」と校長。
 ハルモニアは教室中に目を走らせる。なるほど、ほとんど全員昨日会ったポケモンだ。リールとシンは一番後ろからキレのあるラブコールを送ってきている。コイツら、その席で大丈夫なんだろうか。一番前の席はハルモニアから向かって左二つが空いており、埋まった席に着いているのはマイルだ。その後ろにはシキジカのレイラ。隣にニャスパーの少女がいる。
 話の通りだと、フリストがいるはずだが、彼女はどこだ? 目で追おうとしてやめた。気にする必要なんてないじゃないか、とハルモニアは思った。なんで自分があんな奴に……。
「様子を見る限りですと、すでに知っている子もいるようですね。新しい仲間のお名前はハルモニアと言います。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」
 ここは頭を下げておくべきか、おかないべきか……後ろ二人の目線があると、頭を下げづらい。一応初めて見る顔もあるし悪い印象は与えたくないけど……とハルモニアが逡巡していると、いきなり横から何かぶつかってきた。
「!?」
 側頭部がジーンと痛む。起き上がると、まさに昨日のツタージャが起き上がって頭を振っていた。
「先生、ごめんなさい! 遅れました!」
「そんなことは見りゃわかる! 遅刻してばっかじゃないか君は!」
 と教頭。ちら、と見てみたが校長は怒ったような素振りは見せない。
「ご、ごめんなさい、ぶつかっちゃって……って、ハルモニア!?」
 こいつか。昨日は友情は芽生えた気がしたが、ハルモニアは心の中でその芽を摘み取った。コイツとは関わらないようにしようと思う彼女だった。
「あなた、大丈夫? 頭にこぶができてるじゃない」
 いきなり、後ろから話しかけられた。さっきフリストにぶつかられたのを見ていたらしい。声の主はタブンネ。
「湿布を貼ってあげるから、いらっしゃい」
 保健医、だろうか? とにもかくにも、ハルモニアは保健室に連れていかれてタブンネに湿布を貼ってもらい、授業に出ることになった。タブンネは、ピールと名乗った。学校の先生と街の医者を兼業しているということだった。
 ハルモニアが渡されたのは歴史の教科書だった。一限目の授業の科目だ。席は、一番前の、さっきの彼女から見て一番左だった。ちなみに、一番前の真ん中、つまり彼女の隣りはフリストだった。
「へへっ、よろしくね、ハルモニア」
「うるさい」
 ヘラヘラのフリスト、イライラのハルモニア。
「こらこら、私語をするんじゃない。さ、授業を始めるぞ。今日で人間が絶滅するところまでいくからな、よいか」
 人間が絶滅する。昨日フルーテから聞かされたことだが、やっぱりそれは彼女の心の痛い部分を突いた。
「大陸歴紀元ゼロ年だ。この年を境に暦が作り直されたのである。おい、マイル。人間を滅ぼした人物の名は覚えておるか?」
「えーっと……エルマーニャ=レアフェルデ」
「正解だ。エルマーニャは紀元前十六年に生まれ……」
 マサムネ先生の言葉遣いが気になったことと、エルマーニャという名前に聞き覚えがあることだけを考えていて、一限目の授業はあまり耳に入らず、休み時間。
 机の下に教科書をしまうハルモニアのところに、マイルとレイラがやってきた。
「あ……えっと、ハ、ハルモニアさん。昨日はありがとう」
「え」
「ハルモニアさんのおかげで助かったわ。私からもお礼を言わせて」
 とレイラにまで言われた。
「あ、いやそんな……私は別に大したことないし、それに……」
 後ろのクソガキ二人に目にもの見せたくてやっただけだし、フリストがいなかったら正直分からなかった。彼女は危ないところもあったが、技を使えるようになったのは彼女のおかげでもあるからだ。
「私だって活躍したんだよ! 褒めて褒めて!」
 とはいえ、こうしたり顔をされるとイラっとくる。レイラもマイルも苦笑しているではないか。
 その様子を、リールとシンが遠巻きから見ていた。ハルモニアが気に入らないのだ。フリストも気に入らなかったが、昨日の彼女の発言で、リールは内心、どうやって彼女を潰そうか、一限目もそれを考えていた。
「気に入らねえな、くっそ……高々恐怖の森くらいで調子に乗りやがって」
「なぁ、リール」そんな彼にチョボマキの相棒が耳打ちした「って思ったんだけどさ、どうよ?」
「ふーん、悪かねえな」

 学校は所謂半ドンらしい。太陽が黄道の真ん中に来たとき、丁度学校を終える鐘が鳴った。生徒たちは流れるように校門を抜けて、家に帰っていった。
 ハルモニアも、マサムネに会釈して学校を出た。この後はどうしようか。特にやることもない。ノーテルは行きたいところがあったらどんどん行ってみろ、と言っていたが、どこに行きたい、というのも彼女には正直ない。暇を持て余すのかなぁ、と通学路を歩いていると、
「ねえ、ハルモニア」
 後ろから声をかけられた。正直、仲良しにはなりたくないアイツの声。
「何」
 彼女は後ろを向かず、声だけで応答した。無視しなかっただけでも優しいと思う。
「昨日さ、広場回ったでしょ? 今日はあそことは別にキミと一緒にいきたいところがあるんだけど……」
「めんどくさいからパス」
 邪険に切り捨てたつもりだった。
「えぇ〜いこうよぉ」
 が、フリストは彼女のしっぽを引っ張って邪魔してくる。
「いかないから。邪魔しないでちょうだい」
「この後用事でもあるの?」
 痛いところを突かれ、ハルモニアから抵抗する力が抜けた。
「……特にないけど、なんか文句あるかしら?」
「じゃあ暇じゃない? このあと。ね、一回でいいからさ。キミと行きたいの」
 そういえば。さっきは暇を持て余しそうだのと言っていたのにいざ誘われていかないのはどういう了見だろう。いやでも、彼女はフリストが嫌なのだ。
「いって後悔はしないと思う。保障するよ! ね、いこ?」
「しつこいわねアンタ……いいわよいくわよ。いけばいいんでしょ」
 口車に乗せられたわけじゃない。暇だからいくだけだ。もし一瞬でも行かなきゃよかった、という気持ちになった瞬間、こいつをぶちのめそう。
「やった! じゃあ案内するねっ」
 フリストはそう言って、最初に会ったときのようにハルモニアの手をとって歩き出した。
「ちょっと、なんで手をつなぐのよ」
「んん〜いいじゃんそれくらい。ひょっとして、ハルモニアって照れ屋さん?」
 少しムッときたが、こう言われて手を振り払うと負けになる気がした。
「……て、照れ屋とかじゃないけど、とりあえずやめて」
「しょーがないなぁ。ちゃんと着いてきてくれる?」
「待ちな」
「別に、逃げたりしないわよ」
 会話の途中に入ってきたリールを無視して、フリストたちは歩き出した。
「おい、待てつってんだろ」
 フリストは単純に気が付かず、ハルモニアは気づいていたが、彼らに付き合う気も起きないので放っておいた。ただでさえこの問題児一人に手を焼いているのだ。
「お、おい! 待てよ!」
 しかし、フリストが彼の言葉に反応して止まってしまった。関わりたくないのに、ハルモニアも渋々付き合ってやることにした。
「どうしたの、二人とも」
「フリスト、お前じゃない。俺たちが用があるのはお前だよ、ハルモニア」
 なんだ、コイツら。昨日よりもっと面倒くさそうだ。適当にあしらっておくか。
「は? 私は用なんてないんだけど」
「俺たちはあるんだよ。なあ。昨日は恐怖の森から帰ってきてたけどよ、それくらいでデカい態度とってんじゃねーぞ?」
「あら、腰が抜けて一歩も入れなかったゴミにつべこべ言われたくないわね」
 面倒くさい、とは思っても煽るのはやめられない。彼女は色々罵倒の言葉を思いついたが、とても一文でまとめきれなかった。
「て、てめぇ言わせておけばよぉ……! 世の中にゃ恐怖の森なんて目じゃねえダンジョンもたくさんあんだよクソ!」
「えっどこどこ!? 紹介して紹介して!」
 とたんに、フリストが目を輝かせながら乱入した。
「だからおめえじゃねえよ」とシン。
「調査団オタクは黙ってろ」
 昨日、フリストから色々話を聞かされた。彼女の将来の夢はその調査団に入ること、だそうだ。実際それだけの実力はあるんじゃないか? とハルモニアは思っている。昨日のダンジョンは彼女がいたからこそ、だ。ますます分からない。二人が用を持ちかけるべきはフリストじゃないのか?
「とりあえず、今からあるダンジョンに案内する。そのダンジョンをクリアすりゃ俺たちもお前のことを認めてやるが、どうだ?」
 普通にバトルしようとは言わないのね、と言いかけて彼女は言葉を飲んだ。実戦経験は皆無なのに、実力も分からない相手に挑むものではない、と、自分に言い聞かせた。だからといって相手の言うことに乗りたくはないのだが……。
「うん、いくいくーっ!」
「だからおめえじゃねえよ。ま、そんな行きたいなら二人でいきな」
 もう一人が行きたそうで仕方がない、というご様子である。なんで私が、と言いたいハルモニアだが、どうにも断れる雰囲気ではなくなってきていた。




鏡花水月 ( 2015/11/04(水) 20:11 )