王者の風格
01
「まーたエースバーンの特集か。」
男はつまらなそうに吐き捨てると新聞を閉じ、テーブルの上に投げ捨てた。
ポケモンには隠れ特性と呼ばれる通常とは違った特性を持った個体が稀に見つかることがある。
そんな隠れ特性を持ったヒバニー、メッソン、サルノリが見つかったのはつい先日。元々育てやすさから初心者向けに渡されていたこの3匹の隠れ特性も非常に使いやすく、特にヒバニーは恐ろしいと言っていい力を秘めていた。
気付いたらリーグ戦の合間に開かれているランキングマッチはこのヒバニーが進化したエースバーンを使用するトレーナーで埋め尽くされてしまっている。
「オレが見たいのはもっとトレーナー達が試行錯誤を凝らして育てたいろんなポケモンのバトルなんだがなぁ。」
彼の言う通りで今のランキングバトルは主にエースバーンを主軸にしたチーム構成か、エースバーンの対応に重きを置いたチーム構成で二分化していた。そのためどのトレーナーの構成も似たようなものになってしまっている。
「なんか、もっと熱くなるようなバトルがみてぇなぁ・・・」
男は窓から見えるどんよりとした曇り空を眺めながらそう呟いた。

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そんな中、シュートシティのスタジアムは熱気に包まれていた。ランキングマッチ現1位のトレーナーとリーグチャンピオン・マサルのエキシビションマッチが行われていたのだ。
チャンピオンのエースバーンから放たれたダイバーンに崩れ落ちるチャレンジャーのエースバーンの姿は観客が息をのむ程のチャンピオンの風格をみせつけていた。
「なんでだよ・・・あんたのエースバーンは隠れ特性じゃないただのエースバーンなのに!なん「違うよ。」・・・!?」
口惜しげに吐き捨てようとするチャレンジャーの言葉をチャンピオンは遮った。
「ボクのエースバーンはボクと共に旅をして一緒にこのチャンピオンという座についた大切なパートナーだ。この子だけじゃない。今日ボクが連れてきた子達はみんなジムリーダー達と苦楽を共にしている大切なパートナー達さ。」
そう言いながら彼は手持ちのポケモン達を全員ボールから出す。
エースバーン、ジュラルドン、カジリガメ、ブリムオン、モルペコ、ゴリランダー。エースバーン以外は各シティのジムリーダーや彼のかつてのライバルのパートナー達だ。
「この子達はみんなパートナーと深い絆で結ばれ、パートナーの為なら限界以上の力だって捻り出してくれる。馬鹿にしないでくれるかな?君達のような浅い繋がりじゃないんだよ。」
笑みを浮かべながら覇気とも言えるオーラを背負い言うチャンピオンにチャレンジャーは小さく悲鳴を上げ、逃げるようにスタジアムを去っていった。

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「よぅ、オレ様のジュラルドンは役にたったか?チャンピオン。」
マサルが控室に帰るとキバナはそう明るく声をかけてきた。ソファには彼にパートナーを貸し出していた他の者達も腰掛けくつろいでいる。
「とっても。ありがとうございました。」
そう言いながらマサルはジュラルドンのモンスターボールを返す。
「当然。だってオレの大切なパートナーだからな♪」
揶揄うようにいうキバナにマサルは思わず苦笑いを浮かべる。
「マサル、気持ちはよくわかるけど打ち負かした相手にああいう言い方は良くないと思うぞ?」
「よかっちゃん!最近のトレーナーはちょっとポケモンへん愛が足りなすぎる!」
ホップが苦言を言おうとするがそこにマリィが割って入る。
「はいはい。まぁこれで彼らにはいい薬になったでしょ。特性やポケモンの元から持つ強さも勿論勝つ要素に必要かもしれないけど大切なのはそれだけじゃない。どんなポケモンだって大切に愛情を込めて育てればきっと答えてくれるってね。じゃ、私はこれから撮影があるから。」
そう言うとルリナは自分のモンスターボールを受け取り控室を去っていった。

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翌朝の新聞はどこも昨日のエキシビションマッチの記事で埋め尽くされていた。結果的にエースバーンを使っていた事に変わりはないがそれでも隠れ特性でなくても結果を示したチャンピオンへの賞賛で溢れている。
余談だが対戦後見せたチャンピオンの一面は「黒マサル」等と称され、新たなファンを生み出したらしい。

きょんきち ( 2020/06/17(水) 10:10 )