ポケットモンスターMS マインドストリート!
序章
ポケモンだけの世界に行ける機械
サトシは、ヤマブキシティ行きの電車に乗っていた。


さっきまでサトシがいたのは、フェラス地方のコノドシティというところだ。フェラス地方では最も大きい都市である。
コノドシティでは、フェラスリーグが行われていた。そこで、サトシは見事にリーグで優勝したのだ。
サトシはリーグを制覇した後に、フェラス地方で一緒に旅をした仲間たちと別れ、今に至る。


サトシは窓の外を見ていた。外では、真冬の始まりを告げる大雪が降っている。今まででリーグを制覇したのは初めてのことだった。



サトシはポケモンセンターのパソコンで、オーキド博士の研究所にフェラス地方で冒険を共にしたポケモンを転送した。
「サトシ、行っちゃうの?」
仲間が聞いてきた。
「ああ。ここのリーグも制覇したし、帰るか、次の地方に行かないと。」
サトシは答えた。

モニターに映っているオーキド博士が言った。
「サトシ、そろそろカントーに帰って来てはどうじゃ?たまには家でのんびり過ごさないかの?」
サトシは、もうカントーに帰ると決めていた。しかし、サトシは考えるフリをした。

「…そうですね。一旦帰ってきます。」
「おお!そう言ってくれると思ったぞい。ちょうどサトシにも見せたいものがあってのう!」
「見せたいもの?」
「まあ、これば分かるぞ。」



サトシは、その『見せたいもの』が何かを考えていた。
でも、分からなかった。

「なあ、ピカチュウ」
「ピカ?」
サトシは窓の外を見たまま、隣に座っているピカチュウに聞いた。
「お前は、フェルト地方での旅、楽しかったか?」
「ピカピカ!」
ピカチュウは、
『もちろん!』
とでもいうかのように返した。
「そうか…。」

サトシの声は、なぜかトーンが低く、落ち込んでいるような声だった。
「ピカピ…?」
ピカチュウがサトシを心配する。
「大丈夫だピカチュウ。」

「今ごろみんなどうしてるかな…。カスミとかデントとか。タケシはポケモンドクターになれたかな?
覚えてるかピカチュウ?」
サトシは今までの旅を反芻した。



「思い返せばいろんなことがあったよな…。」
「ピカピカチュー…。」
どうやらピカチュウも今までのことを思い出しているようだった。

アナウンスが鳴った。
『間もなく、ヤマブキシティ。ヤマブキシティ。
御降りの際はお忘れ物の無いようお願いします。』

「カントーに帰ってきたんだな…。行くぞ、ピカチュウ。」
「ピカ。」

ピカチュウがサトシの肩に乗ってきた。サトシは、立ち上がり、人ごみの中に紛れていった…。







朝がやってきた。東から太陽の光が差し込んでくる。
オニスズメは、それぞれの家の屋根に止まり、鳴き出した。オニスズメは、家の屋根に止まって鳴くことで、その家の人を目覚めさせる。

そして、ある家の屋根に一匹のオニスズメが止まった…。


サトシは、オニスズメの鳴き声で目を覚ました。
ピカチュウも一緒のベッドで寝ていたが、サトシと同様に起きたようだ。
「ピ…?」
「おはようピカチュウ…。」
サトシは起き上がった。

「んー、朝か…。久しぶりによく寝れたな…。」
「ピカァ!」

サトシとピカチュウが同時に伸びをした。

「サトシー?起きたの?」
サトシの母が一階から呼ぶ。
「起きたよー。」
サトシは返事をした。


サトシは食パンを口に入れながら言った。
「今日オーキド博士に呼ばれててさ」
「そうなの?」
「うん。見せたいものがあるって。」
「そう。気を付けていってらっしゃいね。」

気を付けてと言っても、サトシの家とオーキド博士の家はあまり遠くないのだが。



「博士!」
サトシは研究所のドアをノックした。
「サトシか。入っとくれ。」
サトシはドアを開けて研究所に入った。

ちなみにオーキド博士の研究所は三階建てだ。一階は応接間など、二階は研究所、三階は博士の家だ。

「サトシには、応接間に来て欲しいんじゃ。」
「なんでですか?」
「ピカ?」
サトシはオーキド博士についていった。


「ここじゃ。」
オーキド博士はサトシのほうを向いて言った。

オーキド博士がドアを開けた。

「あれ?サトシ?」
「えっ!?」

応接間のイスに座っていたのは、

ハルカ
マサト
ヒカリ
アイリス
タケシ

の五人だった。みんな驚いている。

「サトシ!久しぶり!」
「キバ!」
キバゴがアイリスの髪の中から顔を出す。
「ハルカ!マサト!ヒカリ!アイリス!タケシ!」




タケシは、五人の中では一番最後に来た。

「タケシ!」
「ああ!ハルカ、マサト、ヒカリ…ん?」
タケシはアイリスに目をつけた。

「…へ?」
「キバ?」
「この子、アイリスって言うの…。」

ハルカが紹介する。

「タ、タケシ…」
マサトはすぐさま状況を把握してタケシを止めようとするが、遅かった。

「へっ?」
アイリスは突然のことで困惑した。
なにしろ、タケシがいきなり手をつかんできてこう言われたのだから。

「アイリスさん。私はタケシというものです。ここで会えたのも何かの運命。どうです、今夜私と…。」
「イタタタタ!」

マサトがタケシの耳を思いっきり引っ張った。
「そんなこと後ででいいでしょ?今はサトシを待つんだよ!」



その後、いろいろと話をして、サトシが来るのを待ったらしい。


―――これが、オーキド博士の言っていた『見せたいもの』なのだろうか?


「サトシ、見せたいものはこれではないんじゃよ。」
オーキド博士はウインクをした。
「えっ!?じゃあ、一体…。」

「まあ、あと三人来るじゃろうから待っとれ。」
「さ、三人?まだ来るんですか?」
「そうじゃ。そろそろ着くはずなんだが…。」

そのとき、玄関のほうからノックをする音が聞こえてきた。
「おう、来た来た、」

オーキド博士は玄関へ走っていった。



オーキド博士と共に現れたのは、

シトロン
ユリーカ
セレナ

の三人だった。


「では、みんな揃ったから、本題に移ろうかのう!」


サトシたちは、二階のある部屋の前に連れてこられた。
ある部屋の前のドアは鉄でできていて、かなり丈夫そうだった。しかも『一般立ち入り禁止』と大きくドアに貼ってあり、さらにパスワードロック、鍵、十桁のダイアルロックの三つがかかっている。

「え、博士…。こんなとこに俺たち入れてもいいんですか?」
「いいんじゃよ!むしろこの部屋に入れたかったんじゃ!…ん、あれ、何番だったかのう…。」


5分ほどしてオーキド博士がようやくすべてのロックを解除し、九人を部屋に入れた。

「待たせたのう、これじゃぁ!」
「これ…?えっ!?」

部屋には、巨大な機械があった。部屋の半分を埋め尽くしている。
メーターが二十個ほどあり、どれがなにを示しているかは全く分からない。
機械の中央にはパソコンのようなものが埋め込まれており、画面では高速で文字がスクロールしている。
機械からちょっと離れたところには、一人が乗れる台のようなものがある。

シトロンが叫ぶ。
「どういうものですかこれは?!」
目を輝かせて機械の様々なところを見ている。
「ちょっと待っとくれ…。今説明するから…。」

オーキド博士はシトロンを無理やりユリーカのところに戻した。

「では説明するぞい。この機会はの…。ポケモンの世界にいける機械なんじゃ!」
「ん…?」
全員が首を傾げた。
ヒカリが質問する。
「え、でもここもポケモンの世界ですよ?」
「いや、そういう意味じゃなくてのう、」
「じゃあなんです?」
「ポケモンだ・け・が・いる世界に行けるんじゃ!」

―――ポケモン、だけ…?

「えーーっ!?」
「そんなところがあるんですか?」
サトシが聞いた。
「もちろんじゃよ!わしも実際に行ってみたんじゃ。でもな…。」

「?どうしたんです?」
「いや…向こうの世界のポケモンは人間を嫌っておってのう…。
ワシが近づくと逃げたり、技をくらったりするんじゃ…。」

「原因は分かるの?」
とマサトが聞くが、
「それが分からんのじゃ。翻訳機を持って、互いに話をすることはできるんじゃが、教えてくれなくてのう…。」
と返されてしまった。

「ただ単に見たことない人間を警戒してるだけではないでしょうか?」
「それがそうでもないんじゃ。ポケモンたちの話をまとめてみると、人間のことを知ってるポケモンも多いんじゃ。」

「そこでじゃ。みんなには調査もあるが、ポケモンだけがいる世界に行ってもらいたいんじゃ。ワシ以外なら大丈夫なのか、地形など…。」
「もちろんです!喜んでいきますよ!いいよな?」
サトシは八人のほうを向いた。
全員がうなずいた。
「久しぶりにサトシに逢えたんだし、一緒に行かなきゃもったいないでしょ?」
もちろん、セレナも賛成する。

「決まりじゃの!あ、一つ言っておくことがある。」
「なんですか?」
「ポケモンの入っていない空のモンスターボールは置いて行ってくれんかのう?」

「え?」
「向こうの事情があるかもしれんからのう。」
「分かりました…。」

サトシたちは空のモンスターボールを置いた。

「まずはサトシとピカチュウからいってもらうぞい。その台にのるがよい。」
「これですね。」

サトシは台の上に乗った。

「準備できました!」
「ちょっと待っとれ。」
オーキド博士は機械のパソコンに向かうと、キーボードで何かを打ち出した。

しばらくすると、機械が音を立て始めた。メーターの針が目まぐるしく動き出す。
台もうごきだし、台から、オーロラのような線が出始め、サトシとピカチュウを包み込んだ。一応サトシとピカチュウは外からも見える。
しかし、サトシとピカチュウは別の光景を見ていた。
そこは、森のようなところだった。木々が生い茂り、木漏れ日が眩しく感じる。

「サトシくんが行く場所はいま見えている場所だぞい。いいかのう?」
「はい!」
「ピカピカ!」

機械がさらに大きい音をたてる。
「転送するぞい。
さん!にっ!いち!!」

ドガーン!

ものすごい爆発音とともに

『目の前が真っ白になった!』




「まさか、爆発…?」
「デネ…?」
目を閉じたままユリーカとデデンネが言った。
「ユリーカ。大丈夫だよ。」
シトロンは言った。
「ほんと…?」

ユリーカはゆっくり目を開けた。
視界は真っ白ではなく、オーキド博士の研究所が見えた。しかも、台にサトシとピカチュウは居ない。

「こんな大きな音がするとは思わなかったぞい…。」



サトシは、異空間を高速で飛んでいた。もちろん、ピカチュウも含めてだ。
「ああああああああ!ピカチュウ!」
「ピカ!?」

どんどんサトシとピカチュウが離れていく。
サトシとピカチュウはお互い離れるように高速で飛び続けていて、止まりそうな気配はない。

「ピカチュウ――!!」
ついにサトシの視界からピカチュウが消えた。
サトシは、そのまま高速で飛び続けていた。




オーキド博士は全員の転送を終えた。

オーキド博士がドアを開けようとした時だった。後ろから爆発したような音が聞こえた。
「なんじゃ!?」
台には、デデンネ、キバゴ、ピカチュウがいた。
デデンネ、キバゴ、ピカチュウは間違いなくサトシたちと一緒に転送したはずなのに…。

「どうしたのかね!?」
「ピカピカ…。」
「キバァ〜…。」
「デネデネ…。」
全員が、不安な顔をしている。

「転送中になにかが起こったんじゃ…。」
オーキド博士はパソコンに向かった。しかし…。

「エラーじゃと!?」
 

Yupiku ( 2017/07/19(水) 21:23 )