壱 始まり
「はぁ…なんで着物ってこんなに走りづらい訳…」
ここは大きな城下町、
咲夢。
国の主要都市として有名で、この町で決まったことは国中で決まる。なんて言われたりもしているくらいだ。
その町の、まぁまぁ裕福な家庭に生まれたキルリアの少女、
杏。彼女は今日、成人を迎える。といってもこの国、17歳を成人とする微妙と言われる文化を持っている。
先程、成人を迎える、と言ったが今日が誕生日なわけではない。ただ、今日が成人の儀だというだけの話だ。
「う〜…私も洋服着たいっ!!」
と、洋服を着る他のポケモン達を横目で見ながら町の中を走り抜ける杏は、
どんっと、まぁ当然と言わんばかりにぶつかる。
「いった…」
「すまない…怪我はなかったか?」
無様にもこけてしまった杏に手を差し延べたのは、右の手首に数珠をつけたクチート。そして注目すべき点は、そのクチート、色違いだった。
「あ…ごめんな、さい……っ!?」
クチートの手を取れば、意外にも結構な勢いで立ち上がらされる。どうやら、雄のようだ。
(すごい、綺麗な顔してるなぁ…)
そう杏が思ったのも当然、彼はそこらへんのクチートよりも数倍は綺麗なのだ。ずっと見惚れていた杏。
「大丈夫か」
彼女の思考が戻ってきたのは、声が聞こえてから数秒後の事だった。見れば、もう一匹ポケモンが増えている。
「!霧矢殿っ!」
そのポケモン―ジュプトルの姿を見るなり犬のように彼に近付くクチート。しかし当の霧矢殿、と呼ばれた彼は、
「
神斬…?何をしている」
と呆れ顔。神斬と呼ばれたクチートの方はといえば。
「人助けであるっ!!」
キラキラと顔を輝かせ言う。
「貴様、今日が何の日だか知ってて言っているのか?というか、俺も急がなければならないのだが…?」
数秒の沈黙。
のち、
(そうでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
杏が心中で叫ぶ。
「すいません!私、成人の儀で行かないとなので…!さようなら!!」
それはもう音速(まではいかないが)の速さで駆け抜けていった。
「神斬、貴様はいいのか?」
「うあああああああああ!!!!!」