01
かつてマサラタウンから二人の若者が旅に出た。その二人は互いに切磋琢磨し、やがてポケモントレーナーの最高峰、チャンピオンリーグで、一人はチャンピオン、もう一人はチャレンジャーとして、最高のバトルを演じた。
そのバトルは一人の少女の心に、魂に熱く刻まれた。
そう、これはその少女とポケモンの物語である。
1. 旅立ち
「オーキド博士!海もポケモンがほしい。あの二人のように旅がしたいの」
海はいつものようにオーキド博士にお願いする。
「いつも言っておるが、もうここにはポケモンはいないんじゃ。みんなあげてしまってのう」
「じゃあ、モンスターボール頂戴!草むらで捕まえてくるから」
「それもいつもいっておるが、一人で草むらに入るのは危険じゃ」
「いっつもそれじゃない。海は今すぐにでも旅がしたいの」
海はぷくーっとほお膨らます。オーキドは困ったと頭をかく。研究所の職員たちはそのいつもの光景をほほえましく見ていた。
ウィーン。
研究所の扉が開き誰かが入ってきた。それは、海が憧れている二人のうちの一人だった。
「じーさん。トキワのショップにジーさんあての荷物が届いてたぜ。ほんっと、マサラは不便だよな。ショップどころかポケセンすらねえんだからよ」
そう言って入ってきた若者はオーキドに小包を渡す。
「おお、グリーンすまんのう」
グリーン。オーキドの孫であり、かつてチャンピオンとしてレッドの前に立ちはだかり、私闘の果てに敗北し、現在、突然居なくなったトキワシティのジムリーダーの代わりにジムリーダーをしている。海のあこがれの人物だ。
「グリーン兄ちゃん。ちょうどよかった。オーキド博士を説得してよ。海は旅に出ても大丈夫だって」
「グリーン、海ちゃんを説得してくれ。一人で旅なんて危険じゃ」
双方から助け舟を出されたグリーンだが、当の本人は急な事態についていけていない。
「ポケモンもなしに草むらに入るのは危険だぜ。海ちゃん」
二人から事情を聴いたグリーンはそう答えた。
その答えにオーキドは胸をなでおろし、海は目に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうだ。
「だから、俺が海ちゃんにポケモンをあげよう」
その言葉にオーキドはぎょっとし、海はふぇっと驚いた。
「何を言い出すんだグリーン」
「何をって、海ちゃん一人だから危ないんだろ。ポケモンがいりゃあ安心だ。それにトキワまでなら俺もついていくから戦い方をレクチャーできる。文句ないだろじーさん」
グリーンはいたずらっぽく笑って見せた。
オーキドはぐぬぬっといった感じで、言いたいことはあるが言い返せないようだった。海はグリーンの夢のような申し出に目を輝かせた。
「それで海ちゃんそのポケモンなんだけど」
グリーンは腰に巻いているモンスターボールを投げた。
パッカーン。
中からフシギダネが出てきた。
「こいつ、俺のエースポケモンの娘なんだけど、海ちゃんになら任せられるよ」
そう言ってグリーンは、海にフシギダネのモンスターボールを渡した。
「ありがとうグリーン兄ちゃん」
海は満面の笑みだ。
「フシギダネ―!」
海はフシギダネに駆け寄り抱き着き、撫でまわす。フシギダネもそれに抵抗を示さず、受け入れる。
それを見たグリーンは満足そうに笑い、オーキドはやれやれとあきらめを見せた。
「そうだ、海ちゃんニックネームを決めたら?」
グリーンが提案する。
「それはいい考えじゃ」
オーキドもその考えに賛成する」
「ニックネーム?」
「そうニックネーム。そのポケモンだけのあだ名で呼んであげるのさ。そしたら愛着も沸くだろう」
「そうだね!考える」
「フシギダネなんじゃからフシギちゃんじゃろう」
「じーさん、海ちゃんにきめさせてやれよ」
グリーンがオーキドをたしなめる。
「決めた!」
海はフシギダネを見て目を輝かせながら言う。
「この子はドン。これから海のポケモン達の首領(ドン)になるからこの子はドン」
グリーンとオーキドはそのネーミングセンスに固まってしまったが、フシギダネだけは嬉しそうに鳴いた。