憧れて
初めての依頼
 アドルフはもう目的の場所に向かうために地図を見ながら進んでいたが、そんな“ながら”行為を止めて、地図を仕舞っていた。それは当然目的の場所、“じめじめ岩場”に到達するからだ。もはや地図を見るまでもない。それぐらいにまで近づいていたのだ。そもそも“ながら”行為はやるものではない。
 近づくたびに周りの湿度が高くなっているのを感じた。彼の住むウォーラルタウンは水タイプが多く住む為、生活環境的に必然と湿度が高く水タイプとしても過ごしやすい気候であった。同時にガイルの様な炎タイプには最悪のダンジョンということも意味する。
 岩場、という言葉がつく通り周りは岩山のようになっておりパッと見では岩タイプが多そうでもある。だが、その岩の間を水が流れており非常に涼しい環境でもある。これは水タイプが住んでいるということを必然的に表していた。さしずめ、岩水地面のポケモンが住んでいると考えられる。

「今のところ快適な探検が出来そうだな」

 アドルフはそう呑気に呟く。彼の言う通りアドルフからすればやり易いことこの上ない。水タイプにとっての天国であり、恐らくは水タイプに弱い岩地面も出現し得るといえるからだ。だが、このような環境では呼び水や貯水など水タイプの技を吸収する特性を持つポケモンがいることも考える必要があるため、必ずしも快適ではない。
 それを踏まえてもやりやすい環境であるのに変わりないので快適という言葉を口にしたのである。結論から言えばアドルフには自信があるのだ。楽々とは言えないが、ポールと話して緊張がほぐれた感じがするからであろう。
今のアドルフに過度な緊張はない。ギルドでは冷静に対応していたが実際は内心ドキドキの連続である。今回は特に初仕事というのもあって、それが酷くアドルフを押し込んでいた。だが、ポールが泣きながら頼み込んできたのを見てやらねばという使命感を感じて今ここにいるのである。あの時の様に慢心はしないと心に誓って。

ここでバッグの中身を確認する。爆裂の種、睡眠の枝、縛り玉等の探検隊のみならず救助隊や調査団までもご用達のアイテム群を見て使いやすいように整理していく。厳密に言えばすぐに取り出せるようにという事である。いざというときにガサゴソとしていては話にならない。それでは大ダメージはおろか依頼失敗を招くことさえある。最悪の事態も考えられうるが、どのようになる前にマヌケなミスはなくしておきたいのだ。
そして、自分が使いやすいようにごそごそと置き換えながらいろいろなパターンを探る。もし、本当に呼び水や貯水のポケモンが来たらどうするか。アドルフでは精々電光石火で押し切るだけである。それならば、睡眠の枝や縛り玉などで動きを封じる他ない。岩地面は基本的にあわで対処可能であるため、深くは考えない。強いて言うなら距離を取ることである。それにより、あわという遠距離技を活かしやすくなるのだから尚の事深く考えることはない。

「さて、行くか」

 アドルフは一人、そう呟いてダンジョンの入口へ向かう。そこから先は不思議のダンジョンであり入る度に地形が変わるという迷惑ぶりである。ダンジョンに入りきれば基本的に別の世界である。それぐらい不思議な地形である。現在もそのメカニズムは解明に至っていない。
それ故に危険度も高く、初めて出現するダンジョンではまず腕利きの探検隊が派遣されるのだ。お宝を見つけるだけでなくダンジョン調査も行うこともある。もっとも最近は調査団の方がその役目を追うことが多い。
アドルフは何気なく足を歩ませてダンジョンの入口に身体を通す。身体全体が入り口を過ぎた途端、不思議な違和感がアドルフを襲う。不思議のダンジョンに入った証拠である。また、ここから先は摩訶不思議の冒険の始まりというゴングでもある。

ダンジョンに入ったアドルフは先ず、周りを見渡す。敵がいないかの確認もあるが、別の理由もある。キョロキョロと見渡すと、特に敵ポケモンが見られないがあるものは見つけられた。それを確認したアドルフは安心してそのものに近づいて拾う。
それはひんやりとして先がとがっており、投げつけるものである鉄のとげであった。今回は使えそうだと早速バッグの中にいれる。遠距離への攻撃手段として色々と優秀だからだ。技のタイプに関係なくダメージを与えられるというのは今のアドルフにとって心強いものである。
特に他のアイテムも見つからなかったので、敵に不意を突かれない程度にゆっくりと進んでいく。ダンジョンの通路で不用意に走ることはその道を歩む者にとって厳禁行為である。何故ならば走り続けていると前方の通路から来る敵の攻撃のいい的になりかねないのだ。故に早すぎず遅すぎず、石橋を叩いて渡る様に丁寧に攻略するのが定石であった。
ダンジョンの部屋から通路へアドルフは渡っていく。幅は基本的に2匹分という狭さなので挟まれでもしたら抜けられないことはなくとも、恐ろしいことこの上ないのだ。単純な2対1なんかではなくまだ伏兵もいたら鬱陶しいことこの上ない。

 そして、通路を進んでいくと前方に岩の塊がゴロゴロと転がる様に目の前を過ぎていった。チラッと見ただけで確信を持てないが、アドルフはそれをゴローンだと考える。イシツブテの進化形で、それよりも圧倒的に強いのは確かだがタイプは岩地面と水にとんでもない倍率の威力を叩きだされてしまうタイプでもある。それでもマグニチュードや自爆など恐るべき技は存在する。遠距離からのあわで何もさせずに処理するのが最適解だ。
 アドルフは相性がよくても注意すべき点を考えて行動パターンをまとめていく。草タイプに対して苦い思い出の多いアドルフは油断こそ最大の敵だと考えていた。その為か今の様な相手も注意すべき点を踏まえて対処するように心がけていた。これが初依頼でやることとは言えないだろう。そのようになっていくには多少は経験が要るのだ。

「っ!! “あわ”」

 アドルフが進路を進んでいるのに、そのゴローンは気づいたようでぎろりとアドルフを睨み付ける。アドルフはその瞬間に大きく息を吸っていた。そして、深呼吸のようにゆっくりとあわを吐き出す。速度は大したものではないが、一手早くアドルフはゴローンの先を行く。脳からの命令で動く通常の動きとは違って、脳にワンクッション置くことのない反射の如く素早く正確に行われる。
 ゴローンは何かをしようとしていたのか腕を振り上げていたのだが、あわが既にゴローンに辿り着いておりパチパチパチと破裂し敢え無く撃沈する。アドルフが先手を取ったことで何もさせることなくゴローンは倒れて、ダンジョンは静まり返る。最初に出会った敵が割と強い部類であるため、アドルフはホッとして先を急ぐ。
 通路を抜けてもまた部屋が出てきて、岩タイプや水タイプが襲ってくるだけである。数が纏まっているわけでもなく、一体一体へと対処できており、特に苦戦はない。強いて言うなら水タイプ相手にあわが効果なしだという事ぐらいだ。

そして、ダンジョン名の如くじめじめとしたダンジョンはアドルフが最初に予想した通りの展開で進められていた。今のところ違うのは呼び水や貯水と言った水技を無効化してくる敵の登場はない。相変わらず岩タイプや水タイプが来る程度だ。

「こいつは……、カブトか」

 その中でも珍しかったのはカブトというポケモンである。茶色い甲殻に覆われ虫タイプみたいな多足類のポケモン、タイプは岩と水と珍しい組み合わせである。電光石火は逆にこちらがダメージを受けそうで、あわは有効打ではなく地味に困る相手であった。
 それでもアドルフは焦ることなく、拾った鉄のとげを構える。技のタイプに関係なくダメージを蓄積させることが出来るこのアイテムをアドルフは気に入っていた。このような相手に技の力を節約も兼ねて攻撃できるという安心感は巨大ではないが矮小なものでもない。
 アドルフはゴローンと同様に先手を取ることに重点を置き、鉄の棘をなげる。あわよりも速度が早い分カブトからすれば困ることこの上ない弾幕である。怒りを露わにしながらも一直線にアドルフへと駆けていく。多少の鉄の棘など構うものかと言わんばかりに猛牛の如く押し寄せる。自我がハッキリとしないダンジョンのポケモンの行動はダンジョンのレベル次第でより単調になったり、複雑になったりする。このカブトは前者でアドルフに一発かますことを精々考えている程度だ。複雑になればアイテムを使ってきたりするのだからこれは大したものじゃない。
 そして、カブトは鉄の棘の薄い弾幕を潜り抜けてアドルフの目の前へと迫る。そうなると勝ち誇ったみたいにギィィィッと吠える。案外かわいい声だななどとアドルフは呑気に考える。特に焦ることはなかった。それどころかクスリと笑ってすらいる。

「ここまでお疲れさん。これでも喰らいな!」

 アドルフは近づいて来たカブトを嘲笑うように労うと、カリッと口の中で何かをかみ砕く。そして、口を大きく開けてラフレシアを倒した時と同様に高エネルギーがカブトめがけて飛びだす。お馴染の爆裂の種である。
 まんまと惹きつけられたカブトは爆発に飲まれる。勝ち誇っていたカブトはあっさりと吹き飛ばされてしまい、プスプスと灰のように焼きあがっていた。ピクピクと動いているがとても戦える状態ではない。アドルフは早々にその場を離れていく。

 その後も敵は見かけても早々に鉄の棘などのアイテムを駆使して攻略していく。まるで台本通りのガッチガッチな探検である。大きく冒険することや賭けに出るようなことはなく、堅実そのものである。アドルフはやんちゃでせっかちであるが、幼い頃の経験がある事でこのようなスタイルになっていた。だが、それでもアドルフという男の根本は変わることなど無い。
 冷静に対処していき、敵を真正面から突き抜けていく。これがアドルフにとって一種の快感を味あわせていた。それ故に昔はラフレシアの痺れ粉に痛い目に遭わされたことを彼は重々承知している。ただ無心に楽しむだけでなく、引き際を見極め、攻めるときは大胆になるということをこの探検隊としての初仕事から極めていく所存である。強力な武器や得意技があっても、経験や勘、知識などがそれを最大限に生かすのだ。ただ振るうだけでは、越えられない壁が現れるか小さな島の大将で終わるかの二択に終着しがちである。井の中の蛙、そんな諺通りに痛感することになるのだ。

 そしてそれは、敗北感というものに限りなく酷似している―――。

「うぉおっ!?」

 アドルフは急に前方から来る物が、顔面にベチョリと直撃する。通路に行こうとした瞬間の事である。いつも通りに手際よく敵の確認をする最中に襲われてしまったのだ。いきなりの事でアドルフは4歩分ぐらい後ろに飛ばされる。その威力にアドルフは警戒心が一気に高まり、その技が来たと思われる方向へ目を向けた。
 通路の先は暗くよく見えずにいた。それが奇襲の要因であるとアドルフは考えて目を凝らすが、ちょっとしてからそれに疑問を持つ。自分が見えないならなぜ相手はそう見えるのか、である。そういう種族だからか、このダンジョンを理解しきっているからか、色々と考えるがあまりしっくりと来ない。どうにもこうにも、相手の姿を見て見ないと推測すら成り立たない。
 特性やタイプにばかり気にしていたせいかこの手の敵にまんまと一杯食わされたのだ。相手はただ振るうだけの者ではない。本能と言った研ぎ澄まされた感性を持つ強敵である。いわばこのダンジョンの主と言ったところか、恵まれぬ対面なのは間違いない。アドルフの手は自然と道具箱に伸びていた。
相手が強敵であるほどアイテムの使い方は重要性を増す。かといって、頼りきりではボロが出やすい。道具を使うにも自分の実力が重要なファクターであるのは確かなのだ。いくら余裕があっても不意打ちで大打撃を食らった今、油断は即死に繋がることを意味する。
そしてアドルフは先ずあいさつ代わりに鉄の棘を投げつける。敵は通路にいる為ほぼ直線状に存在することになるため、探りを入れるには十分な手だと考えたからだ。相手のタイプが不明であるというのもあっての選択である。

「ギギギ……」

 鉄の棘に気づいて怒りを露わにした声がアドルフに響く。様子からして避けられてもおかしくなく、いよいよ腹を括るべきだと気を引き締める。まともな言葉を発することなくこちらを襲ったところを見ると知性はこのダンジョンではそれなりにあっても自我を保てていない証拠である。ダンジョンで眠っているような類の強力なポケモンと同じであろう。今回は珍しく起きていたようである。
 ダンジョンから見て岩、水、地面のどれかは必ず入っている。それとも水辺に住めるこれら以外のタイプかもしれない。あわを放てるようにアドルフはただじっと待つ。そして、重たい体を引きずる様に例のポケモンが通路側から姿を現す。

「カブトプス……、こんなにレベルの高い奴がこのダンジョンにいたんだな」

 アドルフは出てきたポケモンの種族を見て緊張が走る。大きな鎌をきらりと煌めかせ、カブトと同じく茶色い甲殻に覆われても2足歩行となっており、より戦闘向きなフォルムになっている。その分高さも大きくなっており、アドルフが完全に見上げる形となる。身長差は約1mといったところだ。
 しかも、こんな最低ランクの依頼で遭遇するような敵ではない。真正面でやって解消できるような相手でないことは確かだ。負ける気はしないが、辛いといったところである。アドルフはゴングを鳴らすかのようにあわを試しにカブトプスに放つ。
 カブトプスはアドルフのあわをみるやいなや勢いよく自慢のカマを振り下ろす。あわはカマの攻撃によりパァンと風船みたいに割れる。あわの液体が飛び散り、それがアドルフに無意味であるということを告げていた。カブトプスは大きく振るった鎌によって一瞬だけ動きが止まる。それほどの大振りにより、技なしであわは容易く破かれたのである。
 アドルフは自分の置かれた状況を理解し、それでも尚真正面から電光石火で駆けていく。一見愚策ともいえるこの行為だが、アドルフは何も考えていないわけではなかった。技の名前は電光石火であるが、全速力で走っているわけではない。ブレーキを考えての速度でキープしているのだ。
それに対して当然カブトプスはカマを大きく振るい、アドルフの首を刈り取ろうとする。知性があるとはいえ素晴らしいものではない、所詮は奥地に潜むような大ボスではないのだ。行動はいたって単純、相手を仕留めるためにすぐさま実行するだけだ。力いっぱい振るわれたカマは次の事など考えられていない。
そこでアドルフは低空飛行するかのように電光石火のままタックルする。カマをギリギリ掠めるようなデッドラインをさも当然のように潜り抜けたのだ。カブトプスは大振りしすぎたカマにより案の定一瞬の隙を生んでしまう。そのインターバルの間にアドルフはカブトプスの足にタックルをかましていた。約1mぐらいの身長差がこれらを可能にしていた。
カブトプスはどうしてもアドルフを見下ろすほかなくカマを斜め下に振り下ろすほかない。その為、分かりきったコースへ攻撃が来るのだから対処法は練り易い。見事カブトプスは足を崩されにわかにぐらつく。それを見たアドルフは手に力を込めて、バランスを崩したカブトプスの背中に狙いをつけた。
アドルフの手には水色の球形エネルギーが形成されていた。冷たくてあわよりも高密度なエネルギーの塊となっている。それを全力で投げつける。弾道は狙い通り背中に向かっていた。

「これでこけてやがれ。“水の波動”! よし……、あだっ!?」

 アドルフは技を放った後、こてっと転げる。無茶な動きをしたためか身体を打ち付けたが、高さはほぼ無いようなもので少し痛いぐらいだ。肝心のカブトプスは水の波動が無防備な背中に直撃して随分と痛そうにしていた。
 その様子を見たアドルフはホッとして立ち上がり、カブトプスが現れた通路を進んでいく。置いていかれたカブトプスはそれからしばらくして立ち上がっていたが、アドルフがとっくに去っていたために追うことは出来なかったのはまた別の話。キョロキョロと反対方向へ向かったようである。



 アドルフがカブトプスを突破した後、すぐに奥地へとたどり着く。そこは完全な行き止まりではあるが、天井に僅かな穴が開いているようで一段と明るかった。水は穏やかに流れ、癒しの音がアドルフの耳に届く。また、天井の岩からぽたぽたとしずくが水面に落ち水面が騒がしくなる。落ち着きのある良い空間だとアドルフはボソリと呟く。
 他にも何かないかと気になって辺りを見渡すと、一つこの光景に合わないものがころりと落ちていた。ふわりと暖かそうなスカーフである。それを見てアドルフはハッとして今回の目的を思い出す。
 急いでそのスカーフの元に走っていき、拾い上げる。念のために細かくチェックしてそれが目的のものであるかを確かめる。そして、一番に『ポール・ドクリル』という刺繍が成されたのが目に映った。

「これがポール君のスカーフか。ということは……、これで依頼達成か! よっしゃぁ!」

 アドルフは依頼が達成できたのだと確信するとガッツポーズして喜びをあらわにする。誰もいない為アドルフの喜びの声が縦横無尽に広がるだけだが、そんなことなどアドルフは気づきもしていない。初依頼達成の喜びにただ浸るだけなのであった。
 喜んだあとは、バックに丁重にしまって自分のバッジを取り出す。依頼が達成した今ここにとどまる意味はない為、帰るだけとなる。

「そういや、転送されるけどどうなるんだろうな……。まぁ、物は試しか! ポチッとな」

 アドルフはふと疑問に思ったことを口ずさむが、すぐさま切り替えて帰還の為に押すボタンを躊躇いなく押す。依頼達成と言う高揚感はアドルフを迷わせることはなかった。
 勿論、アドルフにとって思わぬ悲劇はすぐに起きることとなる。調子に乗った結果、アドルフはちょっとばかり後悔することとなる。

 ワープとは本来エスパータイプやそれに近いタイプのポケモンが使いこなせる代物であり、水タイプのアドルフにはまず自力では使えない。探検隊及び救助隊等のバッジにはとある問題がその点に存在した。つまり、慣れない技を使うようなこの行為、時には酔ってしまうポケモンが少なからず存在するのである。
 最近はその問題を解決しつつあるが、件数を0に出来てない上にアドルフは新米である。それはつまり――――――。


「うおぉえッ!」

 吐き気などを催す強烈な酔いを誘発させるのであった――――――。


■筆者メッセージ
お久しぶりですね
7つの水晶完結から気が付けばとっくの昔に一年を過ぎており、時の経過に驚かされるばかりです
今回はついに初依頼で、難なく達成しています
ここら辺はさらっとやるつもりですのであしからず
靴下 ( 2017/03/10(金) 23:37 )