攻略!岩石の化身!
「くそがっ! あんなのを相手にしていたらキリないぜ」
「だが、奴は岩地面タイプ。俺の水技が最も刺さる相手だ」
2匹はゴローニャのストーンエッジを躱しながらぼやく。思わぬ敵を前にスティービーは嫌気がさしていた。それでも、その目は真剣に目の前の敵を見据えている。どうやって突破するかを考えているのだ。
アドルフは岩塊を避けつつもバッグに手をつけて打開策を練り上げていく。彼自身が言うように正攻法でアドルフの水技主体でせめても勝機は十分ある。ましてやスティービーの格闘技主体でも構わないのだ。
しばらくしてアドルフはバッグをあさってもいい策が思いつかなかったのか、水の波動を投げ打つ。ゴローニャは水の塊が接近しているのを確認すると攻撃を中断し、バックステップする。完全にアドルフを警戒した動きだった。
「おいっ!! 完全にお前がマークされているぞ!!」
「スティービーには強力な岩技で牽制して近づけさせないし、かなり知略的だな。クソッタレ」
一連のやり取りを見て2匹はどうしたものかと頭を捻る。ゴローニャのストーンエッジは中々威力が高いのか避けた岩塊は地中に深く刺さり、洞窟中の岩は粉砕されていた。いくら半減されるとはいっても致命傷は避けられない。
アドルフの水技も攻撃を中断してまで避けることから慎重さも相当なものである。明らかに今までとは一線を画す存在であり、レベルも2匹より数段上なのが伺える。幸いなのはどちらもタイプ一致で弱点が突けることだ。
そして、ゴローニャは丸まってアドルフに狙いをつける。この体勢はとある技を使うときによくみられる構え。特定の体形のポケモンが行うものだ。体をボールのように転がし、勢いよくアドルフに迫る。
「げげっ!? これは俺一匹じゃ受けられねえな!」
「おいっ、アドルフっ! 直線じゃ勝ち目はないぞ!!」
アドルフはゴローニャが繰り出す“転がる”を見て全力で走り出す。しかし、相手は球体状な体を生かし転がっている。勢いよく動き出したためかアドルフが走るより転がるスピードの方が早かった。
それどころか転がるたびに威力・速度は加速度的に上昇する。真っ直ぐ逃げるだけでは却って状況を悪化させる。逃げるにしたって工夫がいる。
走りながらアドルフはゴローニャを観察する。スティービーの言う通りこのままではペシャンコだ。急カーブや岩から岩へとジャンプを繰り返すが、ゴローニャは壁にぶつかった反動を活かし方向変換してきた。ハッキリ言って厄介極まりない。
「……確かにこのままだったらな。だけど言い返せば軌道は単純で読みやすいってことさ。やつの前方を見なよ」
「やつの前方? ……なるほどなぁ。」
アドルフはそれでも焦らなかった。スティービーにしてやったりと言わんばかりの顔をかますぐらいには余裕綽々としていた。追われながらもとある場所を指し示す。
スティービーはアドルフが指さした地点を見つめる。そこには一粒の種が落ちていた。よく探検隊が使う一品がそこには転がっていたのだ。それが何かを理解したスティービーは納得し、技をいつでも放てるように構える。
そして、転がり続けるゴローニャは器用に避けて走行するのがかなわないためか種を踏みつける。堅い外郭で潰された種は即座に破裂し、その衝撃をゴローニャに浴びせる。
「……!?」
ゴローニャは突然の衝撃により転がりを中断せざるを得なかった。しかし、衝撃の強さはあの重い体を少し中に浮かすことが出来るくらいである。顔や手足を丸めたせいか、受け身をとることなど出来ずに轟音を立てて洞窟の地面に落下する。
それと同時にバシャッとひんやりとしたエネルギーがゴローニャに突撃する。体にぶつかり水がはじけ飛ぶ。染み渡り岩石に覆われた者にとって非常に厳しい一撃だった。
「“水の波動” お前が転がりを止めた時点でただの的だぜ。そして……、これで少しは大人しくなるか?」
「あばよ。この大岩男」
アドルフはゴローニャを見据え、技をぶち当てた後スティービーを見つめる。もうすでに彼は高速で彼に接近を始めていた。
地面に落下して手足が覚束ないゴローニャに接近を終えたスティービーは技を放てるように構える。すでにスティービーの射程距離に入っているのだ。
スティービーは掌底をぶち当て、自分の何倍もの体重を誇るゴローニャを吹っ飛ばす。勿論これだけでゴローニャは倒れたりはしない。とどめは別に存在している。
「……!?」
そのとどめがなんであるのかに気づいたゴローニャは驚愕の表情を見せる。理性を失っても危機というものへの察知能力は決して低くはなかった。むしろ高いほどだ。しかし今回はすでに手遅れだ。
「お前が落ちるところには既に俺が爆裂の種を蒔いていた。芸のない手段だけど、お前が踏みつぶしたらそこにある8個ほどの種は誘爆する!」
アドルフはそう言うと勝利を確信し、ダンジョンの出口すなわち鐘がある方向へと歩き出した。スティービーもそれに続いてアドルフを追う。
一方で吹っ飛ばされ着地先にある爆裂の種を踏んづけたゴローニャは爆発に巻き込まれる。凄まじい轟音とともに洞窟内は揺れる。
「―――――――っ!!??」
声にならない悲鳴が爆音に紛れダンジョン内を反響していた。まるでアドルフの勝利を称えるかのように―。
「さてと、強敵も倒したし鐘がそろそろ見えてくるな」
「お前案外やらしいな。逃げるふりをして罠を仕掛けるなんてよ」
ダンジョンを抜けた二匹は辺りを見渡しながら鐘を探す。今回の目的は所定の時間に収穫祭を告げる金を鳴らすことである。現在、お天道様は少し沈んでいる。もう少しで夕暮れ時である。
二匹は雑談を交わしながら先ほどの戦いを振り返る。最初こそ慌てていたが、二匹は見事勝利して見せた。既に戦闘スキルは一級品である。
「……、なぁ。鐘を鳴らすときに答えを聞く約束だったよな?」
アドルフはスティービーに対して尋ねる。それはダンジョンに入る前に交わした約束。一緒に探検隊のチームを組まないかという誘いである。
初めて会ったときは断られたが、戦ってもう一度誘った際には断らずに返事を保留したのである。答えると約束したときは収穫祭の時、つまり鐘を鳴らす今はその直前なのである。
「……俺はよぉ、初めて会って誘われたのに断っちまった。でもな、やっぱり気になっちまってよ。一日中考えたんだ。本当に良かったのか?ってな」
スティービーはアドルフから返答を求められて自分の胸中を打ち明け始めた。誘われたあの日から断ったことを後悔していたのか少しばかり考え込んだらしい。
今から一週間ほど前の話なので、それほど時が経ったわけではないがスティービーにとって長い一週間だった。
「そんな時師匠がウォーベックのジジイの手伝いの話を持って来てさ。それを聞いたときチャンスだって思ったんだ。あのダンジョンはレベルが高くないし、新米のお前に回ってくるかもしれなかったしな」
「そしたら案の定、俺に仕事が回ってきたわけだ。多分お前の師匠とウォーベックさんが仕組んだのだろうが……」
スティービーは彼の師匠が話を持ち込んできたことを明かす。その師匠は一緒にトレーニングしていた高齢のダゲキのことであるとアドルフは察した。
どうやらギルドの行事に干渉できるほどウォーベックとスティービーの師匠は根深いものがありそうだとアドルフは思い至る。故に彼の発言からは“仕組んだ”という表現となった。
「じゃあ、今見えてきた鐘を思いっきり鳴らしてくれ。俺と組む気ならな」
「景気づけか?面白いからいいけどよ」
そこでアドルフは返答を所定の時間に鐘を鳴らすように求めた。まだスティービーはOKとは一言も言ってないが、趣旨を理解しているのかやる気満々であった。
二匹は見えてきた鐘の方向へと走りだす。やがて鐘の手前に来るとスティービーは鳴らす準備を進める。アドルフは日が沈みかけているかを確認しタイミングを計る。
「よっしゃあ!盛大に鳴らすぜ!チームプロテインの結成祝いじゃあ!」
「え?ちょっ、おま」
答えの鐘を鳴らす直前、スティービーは何を考えていたのか即興で作ったかのようなチーム名を口にする。アドルフにとってそれは明確に彼の口からチーム結成を承諾してくれたということである。
しかし、問題は口にしたチーム名である。思わずアドルフは耳を疑った。聞き間違えがなければふざけた名前でしかないからだ。たまらずアドルフは静止を呼びかけるが……。
「どりゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!??」
スティービーは勢いよく鐘を叩きつけ壮大な音をかき鳴らす。それも……、鐘が“ぶっ壊れる”ほどの威力で。大きな叫びが悲痛な驚愕に変わりつつ、収穫祭を告げる鐘は鳴らされた。
しかし、鐘のほうは祭りの始まりではなく寿命の終わりを告げられたのであった……。